運命の出会いを経験してみた。

みららぐ

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危険なヒーロー③

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「…ね、水飲みたい」
「え、」

柳瀬さんを寝室に連れて行くと、ベッドに横になるなり柳瀬さんがそう言った。
聞けば、冷蔵庫にペットボトルの水があるからと。
あたしは柳瀬さんにちょっと待っててもらうと、キッチンの冷蔵庫に向かった。

「…わ」

この前来たときはここまで見てなかったけど、柳瀬さんの冷蔵庫は独り暮らしのわりに結構大きい。
冷蔵庫を開けると500mlサイズの水が入ったペットボトルがいっぱいあって、
あたしはそこから適当に一本選ぶと、また寝室に戻った。

「はい」
「ん、ありがと」
「ってか飲めますか?だいぶ崩れちゃってますね」
「んん~…」
「普段の柳瀬さんから想像つかない姿ですよ今」

あたしは泥酔中の柳瀬さんにそう言うと、ちょっと可笑しくてクスリと笑う。
だって、普段の柳瀬さんは、仕事中は何が起きても直ぐに的確に部下に指示を出して、お客さんからの評価も高い。
すごくしっかりしてる印象、なのに。
……でも、この人と…キス、したんだな。
あたしはふいにそんなことを思い出すと、何だか恥ずかしくなって柳瀬さんから目を逸らした。

「っ、じゃ、じゃああたし、もう帰りますね」
「え…もう?」
「最終バスやばいんで。じゃあ、」

お疲れ様です。そう言って出ようとしたら、

「…最終バスの時間、最近変わったの」
「…え!?」

ふいに柳瀬さんが、呟くようにあたしに言った。

「っつか、何かバス会社の都合?みたいで、いつもは23時半なのが、30分早いって」
「え、嘘っ…!」
「…」

柳瀬さんの突然の情報に、あたしは思わず目を丸くして自身のスマホを見る。
今の時刻は、その変更後の時間をとっくに過ぎていた。
いつもの時間だったら、急げばまだ間に合うのに。
でもあたしがそう思っていると、柳瀬さんが言う。

「…でもいんじゃない?どのみち俺は心配だな。こんな時間に外、独りで歩かせるなんてさ」

柳瀬さんはそう言うと、さっきまで寝転がっていた体を起こして、さっきあたしが冷蔵庫から持ってきた水を飲む。
そんな柳瀬さんに、何だかまた違和感を覚えるあたし。
…あれ?柳瀬さん、泥酔しているはずでは…?
だけど、

「すぐそこにコンビニあるからまた何か買ってさ、泊まっていけば?」
「や、あの…柳瀬さん」
「もうここまで来たんだから逃がさないよ、俺」
「!」

そう言われて、柳瀬さんがあたしに近づいてきて、そのまま寝室のドアを閉められる。
ま、まさか…!
その時にやっと気が付いた。
どうりでキスした時も、全然お酒臭くなかったわけだ!
でも、気が付いた時には時既に遅し。
騙された。柳瀬さんはたまに、紳士じゃない時がある。

「っ、あのビール、ノンアルコールだったんですね!?」
「今気が付いた?目の前で頼んでたのに」
「~っ、酷いです!いっぱいいろんなこと聞けて、守りたいとか…嬉しかったのに」
「…」

あたしはそう言うと、ちょっとショックで落ち込んでしまう。
だけどそんなあたしの様子に、柳瀬さんが言った。

「酔っぱらってる勢いで、言ってほしかった?」
「…え、」
「俺は本気で鏡子ちゃんが大事だから、酔っぱらった状態で言いたくなかった。あれ俺本気で言ってたんだよ。
それに、実はシラフだったって聞いて安心しない?…キス、したわけだし」
「!」

柳瀬さんがそう言うのを聞いて、あたしは「確かにそうかも…」と考える。
確かに酔っぱらってたらあの言葉も信用…できないこともあるんだ。
キスだって、つい勢いでやったって可能性もあったわけで…。
だけど、改めてあのキスが真剣だったって聞くと、またあたしは思わず顔を赤くする。
そして、

「…もう一回する?」

なんて、また甘く囁くから、ここで流されちゃったら、もう本当に帰れない。
でももうどのみち帰れないんだ。あ、いやそうじゃなくて。
あたしがそう思ってどう返事をしたらいいか迷っていると、柳瀬さんはそんなあたしに気づいているのかいないのか、そのままふわ、とあたしを抱きしめてきた。

「…!」
「ごめんね、ちょっと意地悪しすぎた」
「…ほんとですよ。柳瀬さん意外と紳士じゃないです」
「ん、俺鏡子ちゃんが思うほど紳士じゃない」
「…、」
「どうしてもまた、一晩いっしょにいたかったから、この方法しか思いつかなくて」

柳瀬さんが耳元でそう言ってくれるから、もうドキドキがおさまらない。
あたしは広喜くんと別れたばかりで、それを考えてくれてるのか、すぐに「付き合って」とも言ってこないし。
でも離れていったりもしなくて、今までにない心地よさ。
気を抜くと、甘えちゃいそう。
みんなに同じこと言ってたらどうしようって、未だに不安はあるのに。

「…今夜も、一緒にいて?っつか、もう拒否権とかないけど」
「…」
「…鏡子ちゃん?」

あたしが返事をしないでいると、そんなあたしに不安を抱いたのか、柳瀬さんがあたしの顔を覗き込んでくる。
でも本当にこんなオイシイ話、あるんだろうか。
そうじゃなくてもこの前この寝室であたしは柳瀬さんの目の前で嘔吐しちゃってるのに。
あたしはそう思うと、呟くように柳瀬さんに言う。

「…自分の寝室で、嘔吐したコをよくまた泊める気になりますね。柳瀬さんて天使なんですか」
「え?でも俺本当に気にしてないんだってば、」
「柳瀬さんは気にしなくてもあたしはめちゃめちゃ気にしてます。あの出来事で女終わってるんですからあたし」
「……」

そう言うと、あたしはやがて「ちょっとコンビニ行ってきます」と、部屋を出ようとする。
どのみちここに泊まらせてもらうしかないみたいだし。
だけどあたしがそう言うと、柳瀬さんが言った。

「そんなことないと思うけどなぁ。っつか吐くまで飲ませたの俺だし」 
「まぁ…それはそうなんですけど」
「…綺麗な体だったから、全然女終わってないって。っつか、むしろあのあと我慢するの大変だったんだよ、俺」
「…、」

そう言うと、「心配だから俺もコンビニ付き添うよ」と一緒に出かける用意をする柳瀬さん。
一方、その柳瀬さんの言葉に一旦思考が停止するあたし。
『綺麗な体だった』というその一言が、気になって。

「め、めちゃめちゃ…めちゃめちゃ見てるじゃないですか!」
「え、でも手出してないのすげー紳士じゃない?それは褒めてほしい。普通の男なら絶対手出してるよ」
「…なんか、柳瀬さんといると自分の身が危険な気がしてきました」

あたしが半ば冗談でそう言うと、それを聞いた柳瀬さんが、ふいにあたしに顔を近づけて…

「んっ…!?」

再び唇を奪われたかと思えば、触れるだけのキスをして、そのあとあたしに言った。

「…そうだね」
「っ、…」
「いつオオカミになるかわかんないから、鏡子ちゃん気を付けててね」
「!!」

そう言って柳瀬さんは妖しく笑うけど、その表情にさえドキドキしてしまうあたしは、もうどうかしているのかもしれない…。










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