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誠実な男は危険な男①
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「はい。水飲む?」
「あ。ありがとうございますっ」
柳瀬さんが住むマンションに到着して、めちゃくちゃ座り心地がいいソファーに座らせてもらう。
用意がいい柳瀬さんはあたしがそうしている間に、コップに水をいれてくれていたようで、あたしにそれを差し出した。
「…お風呂も沸かしたげよっか?入りたいでしょ」
「そうですねぇ」
「洗面室に洗濯機あるから、好きに使っていいよ。乾燥機付きだし、少しの量だったら多分すぐ終わると思う」
急だからどーせ着替えとか持ってないでしょ。
柳瀬さんはあたしが座るソファーの隣でそう言ってくれるけど、まだまだ酔いが覚めていないあたしは、その言葉に上機嫌で「はぁい」と返事をする。
通勤はいつもスーツだから、これは洗えないけど。
「…下のコンビニで何か買って来ようかな。何か要る?」
「……」
「…五十嵐さん?」
…柳瀬さんの言葉があまり耳に入ってこない。
黙り込むあたしに柳瀬さんが顔を覗き込んでくるけど、あたしはこの部屋にある時計を見遣って言った。
「……21時過ぎ」
「!」
そして柳瀬さんの方に視線を移すと、言葉を続ける。
「さっきも自分のスマホ見て思いましたけど、時間が狂ってますよ」
「…あっ、それはホラ、」
「この部屋の時計が!」
「へ、」
「それに、あたしのスマホの時計も!」
だって居酒屋で、柳瀬さんが0時回ってるって言ったから~。
あたしは自身のスマホを柳瀬さんに渡すと、言った。
「狂った時間、どうやったら直るんですか?」
「…」
そう言って、あわよくば直してもらおうと。
あたしはそう言うけれど、柳瀬さんはあたしからふっと目を逸らすと、スマホを受け取らずにソファーから立ち上がった。
「…さあ?設定とかで直すんじゃない?」
「ええー」
「それより、俺コンビニ行くけど、五十嵐さん何か要る?」
「…、」
その問いかけに、回らない頭で必死に考える。
だけどこれといったものが思いつかなくて、本当はいっぱいあるのに、あたしはその辺にあるクッションを抱えて言った。
「…テキトーにお願いします」
「テキトーて」
「何ならまだもう少し飲みたいです」
「…」
だって、明日はお店は定休日だし、あたしも柳瀬さんも休みだから。
それにさっきの居酒屋じゃ柳瀬さんほとんど飲まなかったんだもん。一緒にいっぱい飲みたい。
だけどあたしがお酒をお願いすると、柳瀬さんがちょっと笑って言った。
「お酒はだーめ」
「いやー」
「これ以上飲んだら体に毒でしょ。…じゃあお酒以外に必要そうなもの買ってくるから」
「ありがとうございますっ」
「バスタオルは洗面室にあるし、シャンプーとかもテキトーに使っていいから、五十嵐さんはお風呂でも入っててよ」
そう言って、柳瀬さんは「じゃあね」とリビングを後にする。
言葉通りお風呂を沸かしてから出て行ったから、あたしはお風呂が沸くまでソファーの上に寝転がった。
…あ、なんか寝ちゃいそう。
…………
「いらっしゃいませー」
部屋を出たあと、マンションの下にあるコンビニに入る。
入口付近に置いてあるカゴをとると、とりあえず必要そうな日用品コーナーの前に立った。
女のコだから、多分、クレンジングとかのスキンケアは必須だよな。でもあの泥酔してる感じだったらそういうのするかな?
…ちょっと考えた末、テキトーにクレンジングシートをカゴにいれて、それと化粧水とかのお泊りセットも同時に入れる。
だけど。
選んでいる最中に、またふいに頭に過ぎる。
さっき、リビングで五十嵐さんに言われた言葉が。
“時間が狂ってますよ”
「~っ、」
…まさか五十嵐さんが、自分のスマホの時計よりも、俺が居酒屋で何気なく言った言葉の方を信じてくれるなんて思ってもみなくて。
純粋に可愛すぎて、さっきは本当に危なかった。
これ俺一晩耐えられるかなー。
別に、今日は五十嵐さんを襲いたいとか、そういうつもりで自分家に入れたわけじゃないんだけど。
ただ本当に、初回である今回は、何があっても紳士的に振る舞って、朝まで指一本触れない男でいたい。
だってそうした方が、五十嵐さんから見て俺の信頼度が増すだろ?なんて。
五十嵐さんの彼氏があんな様子だと、尚更。
…だけど。
「!」
歯ブラシを手に取って、他にないか見ていると、その時にたまたま視界に入ったのは、“性行為用のゴム”。
…あれ?そういえば俺ここに越してきて、ゴムどこにしまったっけ。
考えても思い出せなくて、思わず、手を伸ばした。
でも…いや、今日はマジで襲いはしない。
襲ったら、誠実な男に見せたいと思っている俺の計画が台無しだし。
俺はゴムの前をそのまま通り過ぎると、次は飲み物のコーナーに立って、500mlの烏龍茶のペットボトルもカゴの中に入れた。
そして、最後に手を伸ばしたのは…クセの少ない焼酎。
…やっぱりもうちょっと楽しませてもらおうかな。
時間はまだまだたっぷりあるから。
俺はそう思って独りほくそ笑むと、やがてレジに向かった。
その途中で。
「…、」
やっぱり、とゴムの購入も決めて。
「あ。ありがとうございますっ」
柳瀬さんが住むマンションに到着して、めちゃくちゃ座り心地がいいソファーに座らせてもらう。
用意がいい柳瀬さんはあたしがそうしている間に、コップに水をいれてくれていたようで、あたしにそれを差し出した。
「…お風呂も沸かしたげよっか?入りたいでしょ」
「そうですねぇ」
「洗面室に洗濯機あるから、好きに使っていいよ。乾燥機付きだし、少しの量だったら多分すぐ終わると思う」
急だからどーせ着替えとか持ってないでしょ。
柳瀬さんはあたしが座るソファーの隣でそう言ってくれるけど、まだまだ酔いが覚めていないあたしは、その言葉に上機嫌で「はぁい」と返事をする。
通勤はいつもスーツだから、これは洗えないけど。
「…下のコンビニで何か買って来ようかな。何か要る?」
「……」
「…五十嵐さん?」
…柳瀬さんの言葉があまり耳に入ってこない。
黙り込むあたしに柳瀬さんが顔を覗き込んでくるけど、あたしはこの部屋にある時計を見遣って言った。
「……21時過ぎ」
「!」
そして柳瀬さんの方に視線を移すと、言葉を続ける。
「さっきも自分のスマホ見て思いましたけど、時間が狂ってますよ」
「…あっ、それはホラ、」
「この部屋の時計が!」
「へ、」
「それに、あたしのスマホの時計も!」
だって居酒屋で、柳瀬さんが0時回ってるって言ったから~。
あたしは自身のスマホを柳瀬さんに渡すと、言った。
「狂った時間、どうやったら直るんですか?」
「…」
そう言って、あわよくば直してもらおうと。
あたしはそう言うけれど、柳瀬さんはあたしからふっと目を逸らすと、スマホを受け取らずにソファーから立ち上がった。
「…さあ?設定とかで直すんじゃない?」
「ええー」
「それより、俺コンビニ行くけど、五十嵐さん何か要る?」
「…、」
その問いかけに、回らない頭で必死に考える。
だけどこれといったものが思いつかなくて、本当はいっぱいあるのに、あたしはその辺にあるクッションを抱えて言った。
「…テキトーにお願いします」
「テキトーて」
「何ならまだもう少し飲みたいです」
「…」
だって、明日はお店は定休日だし、あたしも柳瀬さんも休みだから。
それにさっきの居酒屋じゃ柳瀬さんほとんど飲まなかったんだもん。一緒にいっぱい飲みたい。
だけどあたしがお酒をお願いすると、柳瀬さんがちょっと笑って言った。
「お酒はだーめ」
「いやー」
「これ以上飲んだら体に毒でしょ。…じゃあお酒以外に必要そうなもの買ってくるから」
「ありがとうございますっ」
「バスタオルは洗面室にあるし、シャンプーとかもテキトーに使っていいから、五十嵐さんはお風呂でも入っててよ」
そう言って、柳瀬さんは「じゃあね」とリビングを後にする。
言葉通りお風呂を沸かしてから出て行ったから、あたしはお風呂が沸くまでソファーの上に寝転がった。
…あ、なんか寝ちゃいそう。
…………
「いらっしゃいませー」
部屋を出たあと、マンションの下にあるコンビニに入る。
入口付近に置いてあるカゴをとると、とりあえず必要そうな日用品コーナーの前に立った。
女のコだから、多分、クレンジングとかのスキンケアは必須だよな。でもあの泥酔してる感じだったらそういうのするかな?
…ちょっと考えた末、テキトーにクレンジングシートをカゴにいれて、それと化粧水とかのお泊りセットも同時に入れる。
だけど。
選んでいる最中に、またふいに頭に過ぎる。
さっき、リビングで五十嵐さんに言われた言葉が。
“時間が狂ってますよ”
「~っ、」
…まさか五十嵐さんが、自分のスマホの時計よりも、俺が居酒屋で何気なく言った言葉の方を信じてくれるなんて思ってもみなくて。
純粋に可愛すぎて、さっきは本当に危なかった。
これ俺一晩耐えられるかなー。
別に、今日は五十嵐さんを襲いたいとか、そういうつもりで自分家に入れたわけじゃないんだけど。
ただ本当に、初回である今回は、何があっても紳士的に振る舞って、朝まで指一本触れない男でいたい。
だってそうした方が、五十嵐さんから見て俺の信頼度が増すだろ?なんて。
五十嵐さんの彼氏があんな様子だと、尚更。
…だけど。
「!」
歯ブラシを手に取って、他にないか見ていると、その時にたまたま視界に入ったのは、“性行為用のゴム”。
…あれ?そういえば俺ここに越してきて、ゴムどこにしまったっけ。
考えても思い出せなくて、思わず、手を伸ばした。
でも…いや、今日はマジで襲いはしない。
襲ったら、誠実な男に見せたいと思っている俺の計画が台無しだし。
俺はゴムの前をそのまま通り過ぎると、次は飲み物のコーナーに立って、500mlの烏龍茶のペットボトルもカゴの中に入れた。
そして、最後に手を伸ばしたのは…クセの少ない焼酎。
…やっぱりもうちょっと楽しませてもらおうかな。
時間はまだまだたっぷりあるから。
俺はそう思って独りほくそ笑むと、やがてレジに向かった。
その途中で。
「…、」
やっぱり、とゴムの購入も決めて。
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