運命の出会いを経験してみた。

みららぐ

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史上最悪の彼氏①

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付き合って一年が経つ彼氏に、浮気された。
それを会社の同僚に相談したら、呆れたように笑われた。

「…またぁ?鏡子ってよく浮気されるよね」
「そんなこと言わないでよ」
「ってかまだ付き合ってたの?そんな男絶対別れた方がいいでしょ」

あたしはそんな同僚、エリナの言葉を聞くと、ため息交じりに「だって…」と呟く。
今は二人で仕事の昼休憩中。
チェーン店であるおもちゃ屋さんの接客業だから普段はほとんど従業員同士休憩は合わないんだけど、今日はゴールデンウィーク明けの平日だから、売場も暇だし久しぶりに一緒に食べることにした。
で、ついでに先週彼氏である広喜ひろきくんの浮気現場を目撃してショックを受けたことを、報告したんだけど…。

「いきなりバイトのシフトが入ったからデートドタキャンで、仕方ないって思ってたら街中で別の女とのイチャイチャ現場を目撃って、それでその時何か声かけたの?」
「かけるわけないじゃん。そんな勇気ない」
「っ、何で!頭にジュースぶっかけるくらいしなよ!」
「無理だよ!そんなことしたらもう広喜くんあたしのとこ来てくれなくなっちゃう、」

あたしはそう言うと、「それだけは避けたいし」と首を横に振る。
だけどそんなあたしの言葉に、不満げなエリナが言う。

「でもねぇ…あたしは鏡子が損してるようにしか見えないなぁ。
だってそもそも広喜くんって将来性なくない?そのバイトだっていっつも続かないって鏡子言ってるじゃん」
「あ…今の時代、正社員になるのは難しいらしくて」

まぁ、あたしはこの仕事、高卒で正社員なんだけど。

「じゃなくて。バイト先、1ヶ月続けばいい方なんでしょ?よく生活出来てるよね。広喜くんもしかして実家住み?」
「いや?広喜くんマンションで一人暮らしだよ。…まぁ、確かによくお金は借りに来るけど」
「うっそ!…ちなみに、いくら?」
「…、」

あたしはエリナのその問いかけに、一旦静かになってその額を数える。
そしてだいたい数えたあと、その金額を口にした。

「今までで……70万くらい?詐欺に遭ったーとか言って、借りに来る」
「ななっ…はぁ!?」

…そんなに大きな声を出さなくても。
だけど、エリナが驚くのは仕方ないか。
実際あたしだってその金額を口にしてて自分でも今ビックリしたから。
………いや、まぁ正直、それ以外にも“暗黙の貸金”があるわけだけど。
でもそれは敢えて言わない。
さすがにドン引きされる。
あたしがようやくお弁当を食べ終えると、向かいでエリナが言った。

「っ、ね、鏡子やっぱ合コンしよ!」
「…え?」
「ほら、夏木さん(会社の先輩)に協力してもらって、今度皆んなで合コンするの!まぁあたしは恋愛とかしないけど、鏡子は広喜くんよりも良い男がいっぱいいることを知った方がいい!」
「!」

夏木さんにはあたしから聞いてみるから!
エリナはそう言うと、食べ終えて空になったお弁当箱を片付ける。
でも…合コンかぁ。正直そういう場所は苦手なんだよねぇ。
確かにこれ以上広喜くんと付き合い続けても、自分が損をするだけなのは、否定できないけど。
あたしはそう思うと、エリナに言った。

「…でも、広喜くんはあたしの運命の人なんだよ。少なくともあたしはそう信じてる」
「またその話?それって、前に鏡子が言ってた夢の中で会った人でしょ?」
「うん。15歳の時に見た夢の中で会った、顔の見えない男の人。初対面なのに一緒にいてすっごく楽しくてね、優しいの。あたしはその人正体、広喜くんだと思ってるから」

…まぁ、コレといった根拠も何もないんだけどね。
その一言は言わなかったけれど、あたしの言葉に、エリナは「鏡子が幸せなら間違いないんだろうけど」と呟くように言った。
“幸せなら”
でも…確かに困ること、いっぱいあるけれど、今の状態を壊したくないから、幸せなんだって、思うことにしてる…。

*****

仕事帰りにスーパーに寄って、その後いつものアパートに帰宅した。
決して新しくはないけれど、駅近で家賃も安すぎず高すぎずだし、一人暮らしには十分すぎるくらいのアパート。
鍵を開けると、今朝は確かに閉めていったはずなのに、何故か逆に鍵がかかってしまった。

「…あれっ?」

もしかして、やらかしたかな?
そう思いながらため息交じりでドアを開けると、廊下の奥…リビングは電気が点いていて。
それに、足元に視線を落とすと、見慣れたスニーカーが視界に入ったから。
やらかして、ない……広喜くんだ!広喜くんが来てる!
約束はしていなかったけれど、まさかの広喜くんの存在に、あたしは上機嫌でリビングの奥に進んだ。

「広喜くんっ…!?」

ちなみに、広喜くんとこうやってマトモに会うのは、浮気現場を目撃した日から数えてみても今日が初めてだ。
次に会ったらあの浮気の真相を問いただそうと心に決めていたのに、急でも会えた嬉しさの方が勝ってしまって、今は聞けそうにない。
広喜くんはリビングでテレビを見ていたようで、あたしと目が合うと待ちくたびれたように言った。

「っ、やっと帰ってきた!鏡子、俺ハラ減ったから何か食わしてほしい」

広喜くんはそう言うと、早速リビングの入口に立つあたしに駆け寄る。
…きっと、夕飯を買うようなお金の余裕もないのかもしれない。
そういう時は、こうやって急に来るのも、実は珍しいことじゃない。

「ん、ちょっと待ってて。今から作るから」

あたしはそう言うと、リビングのソファーの上に通勤鞄を置いて、キッチンに入った。

…しかし、あたしが夕飯の支度を始めたその後ろで、広喜くんが静かにあたしの鞄に手を伸ばす。
取り出したのは、あたしの財布。
“暗黙の貸金”
広喜くんはあたしの目を盗んで、そこからお札を全て抜き取った……。






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