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最終話:兄貴がイケメンすぎる件
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「兄貴、あたしやっぱ健の家帰る!」
「は、おい…!?」
二階の休憩室を飛び出すと、あたしは兄貴にそう言った。
一方、あたしにそう言われた兄貴は、ちょっとびっくりした反応をするけれど…
「世奈、お前帰るって美桜ちゃん家ちゃうんかい!」
でも、その言葉を聞いている暇がないあたしは、寧ろ聞く耳持たずでカフェを出る。
いや今はもう後で怒られたっていい。
健のところに戻るなら、今しかないから。
あたしはそう思いながら、見慣れた健への家までの道をただひたすらに走った…。
…………
もしも、玄関のチャイムを鳴らして、出てくれなかったらどうしよう。
そう思いながら、健の家の前で、独り静かに息を整える。
ようやくたどり着いた、さっきは出て行ったはずのその家。
家の外から見た感じ、中は電気がついているから、多分健はいるんだろう。
あたしは小さく深呼吸をすると、やがて玄関のチャイムを鳴らした。
…鳴らしてから、ほんの数秒くらいしか経っていなかったと思う。
あたしが一歩引いて待っていると、中からわりと早くに健が顔を出した。
「っ、」
「!」
まさかこんなに早くに出てくれるなんて予想もしていなくて、あたしは少しびっくりしてしまう。
一方、ドアを開けてすぐにあたしと目が合った健は、少し目を見開いてあたしの名前を口にした。
「…世奈っ…」
…その名前を、あたしは今までに一体何回…いや、何百回?健に呼ばれただろうか。
って、そんなことを考えている場合じゃない。
あたしはやがて健に向かって口を開くけれど…その前に健に腕を引っ張られて、気が付けば倒れこむように健に抱きしめられていた。
「…!」
…ちょっと待って。健クンはいつのまにこんな大胆に女の子を抱きしめるようになったの。
健のいきなりの行動にあたしが思わず顔を赤くしていると、それに気づいていない健が言う。
「…ごめん。さっきの、アレ」
「…、」
「世奈が、早月の方が好きなら行きやすいようにって思ってああやって言ったけど、世奈が実際出てってからすげぇ後悔した。後悔しすぎて死ぬかと思った」
「…、」
「あんま続かないのがわかってるってのは嘘。そんなこと思ってない。寧ろ何が起こっても離したくない。俺は他の奴らとは違うから」
健はあたしの耳元でそう言うと、よりぎゅうっとあたしを抱きしめる。
そんな健の腕からは、健の気持ちがダイレクトに伝わってきて、ちょっと苦しいくらい。
でもどこか心地いいこの感覚に、あたしも健の背中に両腕を回しながら言った。
「ううん。あたしの方こそごめんね」
「…」
「そもそもあたしが、あんなお守り持ってたからいけないの。だってあれ、確かにカップル向けのお守りで早月くんとお揃いで買ったけど、でもあたしが願ってたのは、健との恋が上手くいきますようにってことだから。
…でも、ごめん。やっぱりアレ、あたしと健には効かないみたい。だからもう、持つのやめた」
「え、」
「あたし、知ってるよ。健は、昔から優しいこと。あんま続かないって言葉も、健の優しさなのは知ってる。だから、つい言いすぎちゃうところも、全部知ってるの。知ってて、全部大好きなの」
あたしはそこまで言うと、健から少しだけ体を離して…至近距離で健を見つめる。
そして、健の背中に回していた両腕を、ゆっくりと健の首元に回して…再び口を開いた。
「知ってて、それでも健を選んだのはあたしだよ。後悔なんて一つもしてないし、早月くんに振られたからとかでもない。これが、正真正銘。あたしの気持ち」
「…!」
あたしは、そう言うと。
少し背伸びをして、健に顔をゆっくりと近づける。
こういうのって実は、あんまり慣れない。
自分からキスをするのは。
だけど、唇が重なったままの、数秒間。
重ねたら逆に離したくなくて、少し長めのキスのあと…あたしはようやく健から離れた。
離れたら、何だか健の目をまっすぐに見れなくて、あたしは顔を真っ赤にして俯く。
だけど…
「…世奈」
「?」
名前を呼ばれて、顔を上げれば。
今度は、健からのキスが降ってきた。
健のキスは短かったけど、そこでようやく目を合わせたら、健の表情は嬉しそうな顔になっていて。
思わず安心したあたしは、健に思いきり抱きついた。
「っ、もう一緒!もしこれからも喧嘩したって、ずっと一緒ね!」
「うん、」
「あたし、健のこと離さないからね!」
「うん。いいよ、俺も離さないから」
…世奈のこと。
健はそう言うと、あたしの背中に両腕を回す。
そして…
「それに、“あの約束”も守らないって決めた。今決めた」
「?…約束?って何?」
「んー……まぁ世奈は知らなくていいよ」
「?」
健がふいにそんなことを言うから、少し気になったけど、健はあたしに教えるつもりはないみたいだ。
そういえばその“約束”って前にも言ってたよね。まぁいいけど。
「…じゃあ、家入ろ」
「うん!ってか健、まだお風呂入ってなかったんだね。体育着のまま」
「だって世奈が帰ってくるかもしれないし」
「そっか。…あ、じゃあ今から一緒に入ろ!」
「はぁ!?」
だってあたしももう一回入りたい気分だし。
だけど健はその気がないようで、というかそれは恥ずかしいらしく、あえなく却下された。
「…あたしの彼氏は恥ずかしがり屋さんの照れ屋さん~」
「うるせー。っつか世奈は平気なの?」
「あたしは平気だよ。だって相手が健だから」
信じてるから。
あたしはそう言うと、大好きな彼氏に向かって微笑んだ───…。
『兄貴がイケメンすぎる件』
─完─
「は、おい…!?」
二階の休憩室を飛び出すと、あたしは兄貴にそう言った。
一方、あたしにそう言われた兄貴は、ちょっとびっくりした反応をするけれど…
「世奈、お前帰るって美桜ちゃん家ちゃうんかい!」
でも、その言葉を聞いている暇がないあたしは、寧ろ聞く耳持たずでカフェを出る。
いや今はもう後で怒られたっていい。
健のところに戻るなら、今しかないから。
あたしはそう思いながら、見慣れた健への家までの道をただひたすらに走った…。
…………
もしも、玄関のチャイムを鳴らして、出てくれなかったらどうしよう。
そう思いながら、健の家の前で、独り静かに息を整える。
ようやくたどり着いた、さっきは出て行ったはずのその家。
家の外から見た感じ、中は電気がついているから、多分健はいるんだろう。
あたしは小さく深呼吸をすると、やがて玄関のチャイムを鳴らした。
…鳴らしてから、ほんの数秒くらいしか経っていなかったと思う。
あたしが一歩引いて待っていると、中からわりと早くに健が顔を出した。
「っ、」
「!」
まさかこんなに早くに出てくれるなんて予想もしていなくて、あたしは少しびっくりしてしまう。
一方、ドアを開けてすぐにあたしと目が合った健は、少し目を見開いてあたしの名前を口にした。
「…世奈っ…」
…その名前を、あたしは今までに一体何回…いや、何百回?健に呼ばれただろうか。
って、そんなことを考えている場合じゃない。
あたしはやがて健に向かって口を開くけれど…その前に健に腕を引っ張られて、気が付けば倒れこむように健に抱きしめられていた。
「…!」
…ちょっと待って。健クンはいつのまにこんな大胆に女の子を抱きしめるようになったの。
健のいきなりの行動にあたしが思わず顔を赤くしていると、それに気づいていない健が言う。
「…ごめん。さっきの、アレ」
「…、」
「世奈が、早月の方が好きなら行きやすいようにって思ってああやって言ったけど、世奈が実際出てってからすげぇ後悔した。後悔しすぎて死ぬかと思った」
「…、」
「あんま続かないのがわかってるってのは嘘。そんなこと思ってない。寧ろ何が起こっても離したくない。俺は他の奴らとは違うから」
健はあたしの耳元でそう言うと、よりぎゅうっとあたしを抱きしめる。
そんな健の腕からは、健の気持ちがダイレクトに伝わってきて、ちょっと苦しいくらい。
でもどこか心地いいこの感覚に、あたしも健の背中に両腕を回しながら言った。
「ううん。あたしの方こそごめんね」
「…」
「そもそもあたしが、あんなお守り持ってたからいけないの。だってあれ、確かにカップル向けのお守りで早月くんとお揃いで買ったけど、でもあたしが願ってたのは、健との恋が上手くいきますようにってことだから。
…でも、ごめん。やっぱりアレ、あたしと健には効かないみたい。だからもう、持つのやめた」
「え、」
「あたし、知ってるよ。健は、昔から優しいこと。あんま続かないって言葉も、健の優しさなのは知ってる。だから、つい言いすぎちゃうところも、全部知ってるの。知ってて、全部大好きなの」
あたしはそこまで言うと、健から少しだけ体を離して…至近距離で健を見つめる。
そして、健の背中に回していた両腕を、ゆっくりと健の首元に回して…再び口を開いた。
「知ってて、それでも健を選んだのはあたしだよ。後悔なんて一つもしてないし、早月くんに振られたからとかでもない。これが、正真正銘。あたしの気持ち」
「…!」
あたしは、そう言うと。
少し背伸びをして、健に顔をゆっくりと近づける。
こういうのって実は、あんまり慣れない。
自分からキスをするのは。
だけど、唇が重なったままの、数秒間。
重ねたら逆に離したくなくて、少し長めのキスのあと…あたしはようやく健から離れた。
離れたら、何だか健の目をまっすぐに見れなくて、あたしは顔を真っ赤にして俯く。
だけど…
「…世奈」
「?」
名前を呼ばれて、顔を上げれば。
今度は、健からのキスが降ってきた。
健のキスは短かったけど、そこでようやく目を合わせたら、健の表情は嬉しそうな顔になっていて。
思わず安心したあたしは、健に思いきり抱きついた。
「っ、もう一緒!もしこれからも喧嘩したって、ずっと一緒ね!」
「うん、」
「あたし、健のこと離さないからね!」
「うん。いいよ、俺も離さないから」
…世奈のこと。
健はそう言うと、あたしの背中に両腕を回す。
そして…
「それに、“あの約束”も守らないって決めた。今決めた」
「?…約束?って何?」
「んー……まぁ世奈は知らなくていいよ」
「?」
健がふいにそんなことを言うから、少し気になったけど、健はあたしに教えるつもりはないみたいだ。
そういえばその“約束”って前にも言ってたよね。まぁいいけど。
「…じゃあ、家入ろ」
「うん!ってか健、まだお風呂入ってなかったんだね。体育着のまま」
「だって世奈が帰ってくるかもしれないし」
「そっか。…あ、じゃあ今から一緒に入ろ!」
「はぁ!?」
だってあたしももう一回入りたい気分だし。
だけど健はその気がないようで、というかそれは恥ずかしいらしく、あえなく却下された。
「…あたしの彼氏は恥ずかしがり屋さんの照れ屋さん~」
「うるせー。っつか世奈は平気なの?」
「あたしは平気だよ。だって相手が健だから」
信じてるから。
あたしはそう言うと、大好きな彼氏に向かって微笑んだ───…。
『兄貴がイケメンすぎる件』
─完─
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