兄貴がイケメンすぎる件

みららぐ

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京都旅行がタノシスギル件−繋−

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「……健」
「んー?」
「あの…話が、あるんだけど」
「…?」

あたしがそう言うと、健が不思議そうにあたしの方を見遣る。
言うなら今しかない。
あたしはそう思うと、ゆっくりと口を開いて言った。

「あ…あたしね、やっぱり早月くんと…」
「……え」

しかし、あたしが伝えようとしたその瞬間…

「っ、ちょっと待った!」
「!…え、」

健にその言葉を何故か遮られた。
遮られてあたしが真っ直ぐに健と目を合わせると、そこにはついさっきまでとは打って変わって全く余裕のなさそうな表情をした健がいて。
そいつが、見つけた野良猫の頭に手を遣ったまま、言った。

「…それ、今言わなきゃいけないこと?」
「……だって、」
「わり。俺今それ聞きたくねぇわ」

健はそう言うと、「やっぱ旅館戻ろ」と一足先に歩き出す。
そんな健に、あたしは言うべきかどうか少し悩んでしまって…。
それでもそんな健を追いかけてまた言おうとしたら、その時いきなり目の前を見たことのない酔っ払いのおじさんに遮られた。

「あれっ、なに、お姉ちゃん独り?」
「!」
「もしかしてお友達とはぐれちゃったの?だったらおじさんにちょっと付き合ってよ~」
「えっ、や、あのっ…」

って、もう何でこんな時に!
しかもあたしはそのおじさんに腕を掴まれて、健のところに行くのを邪魔されてしまう。
急いで健の方を見ると、健はあたしに気づかずにどんどん先を行ってしまって…。

「い、今急いでるんで!」
「そんな冷たいこと言わないで~」
「離して下さい!」

あたしははっきりそう言うけれど、なかなかしつこいおじさんはあたしの腕を離してくれない。
そうこうしているうちに、おじさんにどこかに連れて行かれそうになるから…。
っていうか何で皆助けてくれないの!
それでもあたしは、少し離れてしまった健を呼んだ。

「っ、健!待って、助けて!健っ…!」

すぐに聞こえてくれるといいな。
でも、周りの音とかにかき消されたりしないかな。

「健!やだっ…お願い!助けて!」

……って…あれ?
何か今の状況と、似たようなことが、前にもあったような…。

「健、お願い待って!健っ…!!」

…あ。…確か、あの時は…科学準備室で男子生徒達に襲われて、あたしの声は健には聞こえていなくて。
代わりに早月くんが…科学準備室まで助けに来てくれて…。
しかし、そんなことを思いながら、おじさんに連れて行かれそうになっていると…。

「っ、おじさんコイツに何してんの!」
「!」

その時。
少し離れて行ってしまったはずの健が、いつのまにか目の前に戻ってきていて、そう言って間に入ってくれた。
…助けに来てくれた。
健の再登場にあたしが安堵していると、おじさんは「何だ、男いるのかよ」とあたしの腕をすんなり離し、その場を後にする。
健はそんなおじさんの背中を見ながらため息を吐くと、あたしの方を振り向いて、少し慌てた様子で言った。

「…っあ、世奈大丈夫!?」
「…」
「怪我っ…っつか、どっか触られたりしてない!?」

健のその必死な問いかけに、あたしは黙って首を横に振る。
そんなあたしに健は少し安心すると、やがて申し訳なさそうにあたしに言った。

「…ごめん。俺が自分勝手に戻ろうとしたから」
「…」
「でも、無事で良かっ、」

だけど、そんな健の言葉はほとんど耳に入って来なくて。
あの科学準備室でのことをさっきので思い出してしまったあたしは、健の言葉を遮るように、目の前の健に抱きついた。

「…!」

そして、抱きついたまま、呟くようにそいつに言った。

「…ありがと」
「…うん。あ、や、でも元はと言えば俺が悪いんだけど」
「何かヤダ…」
「ん?」
「こないだの、科学準備室で襲われた時のこと、思い出しちゃった。いっぱい健を呼んだ時の」
「…」
「…ごめんちょっとしばらくこのままがいい」

あたしはそう言うと、健の肩に顔を埋めながら、背中に両腕を回してぎゅうっと抱きしめる。
すると、そんなあたしの頭の上に、健が優しく手を乗せて言った。

「…頼ってくれるのは嬉しいけど、世奈チャン」
「…」
「周りにいる観光客の皆サンがめっちゃ見てるんだけど、俺らのこと」
「ウン」
「いや、ウンじゃなくて。俺結構恥ずかしい」

…だけど、それでも自分の中でさっきの出来事が思った以上に衝撃的だったらしくて。
あたし、まだ傷、癒えてないんだ…。
そう思いながら、あたしはしばらく健に抱きついたまま離れられずにいた…。

…………

「…ちょっとは落ち着いた?」
「うん、」

それからやがて旅館に戻ってくると、部屋の近くにある休憩所のようなスペースに健に連れて来られた。
そこにはソファーやテーブルもあって、それに自販機もいくつかあるし、今はあたし達以外に宿泊客がいなくてちょうどいい。
あたしが健の言葉に頷くと、健は少し安堵したように言った。

「…そっか。じゃあしばらくしたら部屋戻れよ。そろそろ早月も風呂上がってるだろ」
「…」

そう言うと、ふあ、と欠伸を一つしてソファーの背もたれに背中を預ける。
だけどその時、ふいに健のスマホに着信がかかってきた。
多分…いや絶対玲香ちゃんだ。
健はあたしを少し気にするけれど、やがてすぐにその着信に出た。

「…もしもし」
「…」
「…あ、ゴメン。今?…旅館にはいるよ。自販機んトコ」
「…」
「…や、すぐ戻るし。…え、ジュース?…いいよ、何がいい?」
「…」
「…レモンティーね。ハイ。…あ、あと、」

…でも、そう言って玲香ちゃんと話していると…

「…!」

その時、思わずウトウトしていて寝てしまったあたしの頭が、健の肩に寄り掛かった。
そんなあたしに、健が気がつくと…

「…世奈?」

一旦玲香ちゃんとの電話から離れて、あたしを呼ぶけれど…もちろんあたしは返事をしない。

「……あ、玲香?じゃあそろそろ戻るから。じゃあな」

そして健は着信を切ると、もう一度あたしの名前を呼んだ。

「世奈。世奈って。おい起きろよ」
「…」
「……マジか。熟睡してんじゃん」

健はそんなあたしにそう呟くと、もう一度あたしを起こそうとするけれど…昔から一度寝たらなかなか起きないあたしが、そんな簡単に起きるわけもなくて。
それを知っている健は、やがてあたしを起こすのをやめて、静かにあたしの寝顔を見つめる。
そして、見つめながら、さっきのことを思い出していた。

『……健』
『んー?』
『あの…話が、あるんだけど』
『…?』
『あ…あたしね、やっぱり早月くんと…』
『……え』

「……“付き合うことになった”?」
「…」

本当は、早月アイツが待ってる部屋に世奈を帰したくない。
今夜じゃなくても、いずれはアイツに抱かれて、世奈の全部を奪われてしまうなら……。

「…だめ。俺以外誰にも触らせんな」

健は呟くようにそう言うと、右手であたしの顎をくい、と上げて…そのままキスをした。

「…ん、」






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