兄貴がイケメンすぎる件

みららぐ

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幼なじみが変わらなすぎる件

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「1時間の遅刻です」
「…ハイ。スミマセン」
「…」

とある日曜日。
あいにくの雨のなか、あたしは目の前の健にそう言った。
今日は、先週から約束をしていた“パンケーキを食べに行く日”。
普段は長蛇の列に並ばなきゃ食べられないパンケーキを、チケットを使って並ばずに食べられるっていう素敵すぎる日なのに。
それなのに、この男ってば。

待ち合わせの14時になっても全然来なくて、心配になって電話をかけてみても全く出ないし、仕方ないから雨のなかそいつの家までわざわざ出向いたら、なんとまだ眠気目の健がいて。
「ごめん寝てた」だって。
いや、今もう15時よ15時!

そしてあたしは今、健の部屋に上がらせて貰っている。
だってそいつ、全然出掛ける支度が整ってないんだもん。
だからあたしは目の前で支度を始める健に、不機嫌に言った。

「ほんと信じらんない。昨日何時に寝たわけ?」
「え……7時だっけかな」
「しちっ…朝の!?」
「ん、朝の」

健はあたしの言葉にそう頷くと、ふあ、と欠伸をする。
…何だか楽しみにしてたあたしがバカみたいじゃん。
そして健が目の前で着替えだすから、あたしはそんな健に背を向けて言った。

「あーあ、そんな時間までいったい何してたんだか」
「仕方ないじゃん、夕べ親両方いなかったんだって」
「…だから健にとってはやりたい放題だったわけだ?」
「…まぁすげー自由ではあったよね」

おかげでゲーム完クリ出来たし、と。
満足そうに言うけれど。
健アンタあたしのこと考えてないでしよ。

「…外、雨降ってて寒かったなー」
「…」
「周りみんな友達とかカップルばっかで、ぼっちなんてあたしだけだし。しかも健は来ないし電話にも出ないし」
「いや悪かったって」
「あ、パンケーキのアイスダブルにしてもらおうかな」
「…わかった、今日は何なりとお申し付け下さい」
「ほんと!?」

健はそう言うと、「でももう少し待ってて」と今度は部屋を後にしていく。
…もうそんな待てないからね。
あたしはそんな健の背中をちょっと膨れながら見つめたあと、仕方ないからその辺にある漫画を手に取ろうとした。

…した、けど。

「…?」

その時、漫画に手を伸ばした指の先。
あたしの指が、漫画ではなくたまたまそこにあった“別の何か”にあたって。
…ん、何これ?
わざわざ手にしなくていいのに、それを手にして目の前に持ってくると、あたしは思わず固まってしまう。
…まさか、こんなものが健の部屋から発掘されるなんて思ってもみなくて。

「…イヤリング…?」

その正体は、赤いハートのイヤリング。
しかも片方だけ。
何で、こんなものがここに…?
まさか、玲香ちゃんのものだってことは…。
あたしがそんなことを考えながらまじまじとそれを見つめていると、やがて支度を済ませたらしい健が部屋に戻ってきた。

「お待たせ。行こ、」
「んー…」
「…どした?」

一瞬、見なかったことにしようと思ってたけど。
それでも気になって、あたしはそのイヤリングを健に見せながら聞いてみる。

「…ねぇ、これ誰の?」
「!」
「え、まさか健の…?」

そしてあたしが冗談交じりでそう聞くと、それを聞いた健の顔色が明らかに変わって、だけど冷静を装っているようにあたしに言った。

「っ…なわけないだろ。そこ置いとけ」
「え、じゃあ誰のなの?」
「誰でもいいじゃん。っつか行くよ」

健はそう言うと、自分の財布とスマホを手に取って、部屋を出ようとする。
だけど、良くない。
健は普段、あたし以外の女の子を自分の部屋に入れないのをあたしは知ってる。
だとしたら、このイヤリングの持ち主はただ一人しかいない。

「…ねぇ、これ玲香ちゃんの?」
「!」

あたしがそう聞いたら、また健の顔色が変わったから。
そうなんだ、と確信したあたしは、思わず健に言った。

「っ…玲香ちゃんのこと部屋に入れたの?」

そしてあたしが健にそう問いかけると、健がやがて罰の悪そうに口を開いて言う。

「…部屋、見てみたいって言うから」
「!」
「まぁ…別にいいかと思って。相手は玲香だし」

…何それ。
その理由って、どういう意味…?
相手は玲香だからって、どういうこと…?
あたしは健のそんな言葉を聞くと、それでも意味がよくわからなくてモヤモヤしたまま。

…取られる。
このままじゃ、玲香ちゃんに健を取られてしまう。
いや、それでもあたしだってわかってる。
あの女の考えることだ。
イヤリングをこうやって置いて行ったのも、“わざと”の可能性が高い。
玲香ちゃんは昔からそう。
あたしの心の中をそうやってよく引っ掻き回しては楽しむ子だから。

すると、そんなことを考えてはうつ向くあたしに、健がやがて察知して言った。

「…“やだ”?」
「…、」
「ごめんって。わかった、それももうしないよ。世奈が嫌がるならしない。イヤリングもすぐ返すつもりだったし」
「…じゃあコレはあたしが返す」
「ん、お願い」

あたしは健のそんな返事を聞くと、少しホッとしてそのイヤリングを鞄の中に仕舞う。
…これは明日にでもあの女に返そう。
そしていろいろ問いただそう。
そう思って決めたあと、

「…ん、じゃあ行こ」
「…、」

そう言って、ようやく健の部屋を後にしようとすると…

「待って」
「!」

その腕を、ふいに健に掴まれて引き留められた。

「…なに?」
「…、」

何か忘れもの?
だけど、そう言って健を見ると…健はあたしの身に覚えのある、どこか懐かしい顔をしていて。
…健がこの顔をした時は。
何かもの欲しそうな、そんな顔をした時は…決まって。

「…世奈」
「…?」
「キス、しよ」

昔から、そう。
今日は凄く久しぶりだけど、健はそう言って昔からあたしによくキスをしたがる。

『世奈ちゃん、チューしよ?』

目の前の健が、あたしの後ろのドアを閉める。
もう片方の手は、あたしの首元。
引き寄せるように、ゆっくり顔を近づけた…。





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