兄貴がイケメンすぎる件

みららぐ

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幼なじみが奪われる!?件

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午前中の短い休み時間。
ほんの10分くらいの時間を使って、あたしは2年1組のクラスまで来ていた。
…その理由は。

「…、」

健と、あの転校生“玲香ちゃん”の様子を見るため。
健がいるクラスは1組。
そのクラスに、玲香ちゃんが転校してきたのだ。
あたしがこんなことをするからこの前の部活後みたいに健に怒られるんだけど、それでもやっぱり心配だから。
…それくらい、玲香ちゃんはあっという間に健を自分のものにしてしまう。
それでも堂々と教室に入ることは出来ず、気づかれないように柱の陰から中の様子を見て二人を探していたら、その時ふいに後ろから誰かに声をかけられた。

「あれっ?工藤じゃん!どした?」
「えっ」

その大きな声に思わずビックリしてあたしが振り向くと、そこにいたのは普段から健と仲の良い垣地かきちくん。
彼はあたしや健とは中学からの付き合いで、何気にあたしの兄貴の存在も知っていたりする。
あたしが垣地くんの大きな声に慌てていると、それに気付いていない垣地くんが、あたしに言葉を続けて聞いてきた。

「あっ、もしかして健?待ってな、今呼んできてやるから」
「えっ?あっ、ちが…!」
「おい健!お前のヨメ来てんぞ!」
「!!」

そして垣地くんは遠慮もなく大きな声で健を呼ぶと、あたしを指してとんでもないことを言い出す。
い、いやヨメじゃないし!
だけどそう思った頃には、時既に遅し。
教室の中で他の友達と一緒にいたらしい健が、垣地くんの声に反応した。
……あ。
玲香ちゃんとは一緒じゃないんだ。

「…ヨメ?っつかお前声がデケェよ」
「でかくなけりゃ伝わんねぇしヨメはヨメだろ。朝から見せつけてくれるねぇ」

あたしは健と垣地くんのそんな会話を耳にしながら、なんとなく健とは顔を合わせづらくて柱の陰に姿を隠す。
…だけどそれは、教室から出てきた健にすぐに見つかってしまって。

「…何だ、ヨメって世奈かよ」
「!」
「どした?」

何故か、「何だ」なんて言われてしまった。
あたしはそいつの言葉を聞くと、なんとなく、目を合わせずにそいつに言う。

「な、何だって失礼でしょ。っていうかヨメじゃないし」
「あ、ごめん。だって誰かと思って。で、どしたの?世奈が俺んとこ来るの珍しいな」

健はそう言うと、柱に右手をついてあたしの言葉を待つ。
…何か、壁ドンされてる気分だな。
あたしはそう思いながらも、健に言った。

「…玲香ちゃん、転校してきたの、ビックリしたから」
「あー。玲香ね。アイツなら今職員室行って、教科書受け取ってるよ。逢いたいならまた後にしとけば?」
「!?」

何気なく、思っていた言葉を口にしてみたら。
次の瞬間に健が玲香ちゃんをいきなり呼び捨てで呼ぶから、あたしは思わずビックリして健の方を見遣る。
そしてそいつとやっとまともに目が合うと、言った。

「れいっ…!?呼び捨て!?」
「いや、玲香がそう呼んでほしいって言うから」
「……そ、そっか。仲、良かったもんね」
「うん」
「…、」

あたしはそんな健の言葉を聞くと、わかりやすく動揺してしまう。
“あの頃”に嫌だと感じたものが、またふつふつとあたしの中に沸いて出てくる。
…間違いない。
玲香ちゃんはあの頃と同じ。
まだ、健のことが好きなんだ。
あたしがそう思っていると、ふいに健が口を開いて言った。

「…そう言えば、今日早月どうしてる?」
「え、早月くん?…どうしたのいきなり」
「いいから、どうしてる?」
「…今日は早月くん学校休んでるよ。風邪引いたんだって」
「えっ!?」

あたしがそう言うと、一方そんなことを耳にした健は、そんなに驚くほどのことでもないのに、何故か目を丸くする。
…もしかして、早月くんが風邪とか引かない人だと思ってる?
あたしがそう思って、

「…早月くんだって風邪の一つや二つ、引くでしょ」

そう言って口を尖らせると、健は何故か不敵な笑みを浮かべて呟いた。

「風邪、ねぇ」
「?」

そう呟いて、ニマニマと。
何を考えているのかわからないけど……いやなんとなく知りたくない気もする。
そんな健にあたしが「どうしたの?」と問いかけようとしたら、その前に健があたしに意外な言葉を口にした。

「世奈、早月の見舞い行かねぇの?」
「行かないかな。…家どこか知らないし」
「え、そんなん本人に聞いて行きゃあいいじゃん。世奈が休んだときは早月来たんだろ?」
「!」

そう言うと、「行ったら早月喜ぶぞ」なんて天地がひっくり返ったのかと思うくらいの言葉を口にするから。
…え。確かにそりゃあこの前は、部活が終わったあとにあれだけ健とモメたけど。
だからって…いや、健今日どうしたの?
あたしがそう思って目を丸くしていると、そんなあたしに健が言った。

「……まぁ、要は“ごめんな”ってことだよ」
「え、」
「この前、練習試合の後の…あれ、悪かった。ごめん。早月と世奈がだんだん近くなっていって、ずっと焦ってばっかだったからさ。
だから、世奈の気持ち何も考えないで……マジでごめん。それに、告白もすぐ断ってたし実際」
「…そうなの?」
「うん。俺が世奈以外の子からの告白、保留にするわけないじゃん。…いつ来るかわからないチャンス逃したくないし」

健はそう言うと、ビックリしたまま健を見つめるあたしの頭を優しく撫でる。
…チャンス、
そんな健の言葉に少しドキドキさせられながらも、あたしも慌てて健に口を開いて言った。

「…あっ、でも、あたしの方こそごめんね!健の気持ち、あたしも考えないで好きなこと言って我儘ばっかりで…それに…」
「…?」
「…頬っぺた、痛かったでしょ?」
「!」

そう言うと、あたしは健の頬に右手を伸ばす。
何気なく触れた、つもりだったのに。
触れた瞬間、その手に健の手が重なってきて、健が言った。

「…そだね。今でも実際痛い」
「え、ほんと!?そんなにっ、」
「まぁ、“ある意味”だけどな」
「?」
「気にすんなよ。あの状況は叩かれても仕方ないってわかってるから」

健はそう言うと、あたしの手を離す。
そんな健に、あたしもそいつの頬から手を離して。
…あ。っていうかそろそろ次の授業始まっちゃう。
そう思って時計を見ていたら、そんなあたしにまた健が言った。

「…あ、戻る前に一個聞いていい?」
「うん?」
「お前が俺にくれたあのコーンポタージュ、あれ何だったの」
「え、」

健がそう聞いてきた瞬間、あたしは例の自販機のボタンを押し間違えてしまった記憶が蘇ってしまう。
…こっちはちゃんとスポーツドリンクを買おうとしたんだよ。
だけど押し間違えた事実は伝えずに、あたしは健に言った。

「…練習試合、お疲れさまっていうあたしなりの健へのご褒美?」
「え…」
「あ、ほら…すごく白熱した試合だったじゃん?最初は点取られまくってたのに、健のおかげで逆転して勝ったの見て感動したから。
その日は健、スポーツドリンクばっか貰ってたでしょ?だから、敢えてコーンポタージュなんかもアリかなぁ、なんて」

あたしはそう言うと、健に誤魔化すように笑顔を浮かべる。
…お願いだからバレないで。
コーンポタージュとスポーツドリンクを間違えたなんて恥ずかしすぎる。一生の恥。
しかし、あたしがそう思っていると…

「…!?」

ふいに、健に腕を引っ張られて。
気がつけばあたしは、生徒がたくさんいるこの廊下で、健に抱きしめられていた。

「け、健!?」

どうしたの!?
いくらなんでもここでコレは恥ずかしい…!
だけどあたしがそう言おうとしたら、健があたしの耳元で囁いた。

「…ありがと」
「!」
「ありがと、世奈。あり得ないくらい嬉しい、」

…そして、そんなあたし達の様子を…

「……」

玲香ちゃんもまた、柱の陰から嬉しそうに見つめていた…。







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