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お見舞いが危なすぎる件①
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翌日の昼休み。
友達と雑談をしていたら、珍しく早月が俺の教室にやってきた。
「相沢さーん。いるー?」
女子生徒の嬉しそうな声とともにそいつに呼ばれて、俺はめんどくさく思いながらも振り向く。
目が合ったら手招きをされたから仕方なくそいつの近くまで行くと、早月は「ちょっと話があるんだけど」と俺に言った。
「…珍しいな。っつか何、話って」
そんな早月に俺がそう聞くと、相変わらず女子生徒達に囲まれたままの早月が言う。
「世奈ちゃんが今日風邪で学校休んでるの」
「…そう、なんだ」
え、マジでか。
それを知らなかった俺は、ちょっとびっくりして…だけど平然を装う。
確かに昨日全身びしょ濡れのままなかなか帰らせなかったのは俺だし、帰ってからだって勇斗くんに誤魔化すのも大変だったわけだけど。
俺がそんなことを思っていると、やがて早月が言った。
「で、一つ君にお願いがあるんだよね」
「お願い?…嫌な予感しかしないんだけど」
「やだな、そんなに身構えなくたって簡単な話だよ。まぁちょっと不服だけど、何だかんだで君にしか頼めないし」
「…?」
早月はそう言うと、一応は側で聞いている女子達のことを気にしているのか。
少し声をひそめて、言葉を続けた。
「…世奈ちゃんのお見舞いに行きたいんだけど」
「…は、」
「世奈ちゃんがいる家まで案内してほしい。
もちろん、今日くらいは部活も休んで。ね?」
「!」
早月はそう言うと、「簡単でしょ?」と悪気のない笑顔を浮かべる。
だけど一方、そんなことを言われた俺は一瞬思考回路が停止した。
いや、部活は別に1日くらい休んでも平気だ。
けど…好きな女の家にライバルが上がり込もうとしている。
や、っつか、そんなことじゃなくて。
「っ…お前ちょっとこっち来い!」
「え、うわっ…!」
俺は早月がいきなりとんでもないことを言いだすから、これ以上はこの場で同じ話を続けられなくて。
俺はそう言うと、そいつの腕を掴んで教室を後にした。
…………
その後、そのままそいつを連れてやって来た場所は、同じ階にある誰も使っていない空き教室だった。
俺は早月を囲んでいた女子生徒達を追い払うと、やがてそいつと二人だけになる。
すると、様子が変わった俺に、早月が疑問を浮かべて言った。
「どうしたの、いきなり。僕、男と二人きりになる趣味とかないんだけど」
「バカじゃね、俺だってねぇよ」
「じゃあ何」
こっちは世奈ちゃんの家を教えてくれるだけでいいんだよ。
…早月はそう言うけど。
それって多分、世奈からしたらとんでもない話だと思う。
コイツは何も知らないけど、世奈は義理の兄貴である勇斗くんが原因で今まで失恋し続けてきたわけで。
もしかしたら早月だって、他の奴らと同じかもしれないのに。
…家に行くってことは、勇斗くんと会ってしまう確率は、かなり高いと思う。
っつか案内なんかしたら俺が世奈に怒られるだろ。
俺はそう思うと、早月に言った。
「…な、何だ。その…お見舞いに行きたいっていう気持ちだけでじゅうぶんだろ」
しかし俺がそう言うと、早月が言う。
「そんなことない。だってそもそも世奈ちゃんは、僕の不注意で全身濡れて、こうやって風邪まで引いてるんだから。
それなのにお見舞いにも行かないなんて非常識すぎる。それに、お家の人にもちゃんと謝っておきたいし」
早月はそう言いながら、真剣な表情を浮かべるけど。
…いや、俺も早月のその気持ちはわからなくもない。
けどなぁ…お家の人にって、それはもっとマズイだろ。
や、ほんとに、その気持ちだけはわかるんだけどな。
「…平気だよ。俺が謝っておいたから、昨日」
「それじゃ意味ない!原因は僕なんだから!」
「っ…あ、せ、世奈もあんまり風邪引いて寝込んでる姿見せたくないと思う。もし熱だしてるんなら」
「それは平気。弱ってる世奈ちゃんも絶対かわいい!」
…まぁ、それもそうだろうけど。
じゃなくて!
俺はなかなか聞かない早月に、ちょっと苛立ちながら言った。
「…お前さ、実は見舞いとか口実で、ほんとは世奈の家の場所知って、部屋に上がりたいだけだろ」
「人聞きの悪いこと言うね。…まぁそりゃあトーゼン下心はあるけど」
「やっぱりな。だったらお前は弱って寝てる世奈に何するかわからないから連れて行けないな。っつーことで今回は諦めて」
俺はそう言うと、早月から目を背けて、さりげなく制服のポケットからスマホを取り出す。
開いた画面は、ラインのトーク画面。
俺が静かに勇斗くんに文字を打っていると、その間に早月が言った。
「っ、だったら相沢さんも一緒でいいから!」
「!…は?」
「そんなに心配なら、相沢さんも一緒に世奈ちゃんの部屋に入ってくれてもいい!それならOKでしょ、」
早月はそう言うと、俺の前に回り込んで、再度「お願い」と珍しく頭を下げてくる。
そんな早月から静かにまたスマホの画面に目を遣ると、視界に入ってきたのは勇斗くんからの返事。
…今日、勇斗くんは通常勤務らしい。
ってことは18時までか。
タイムリミットはそれまでだな。
世奈がどういう顔をするのか、それだけが心配だけど。
「っ……わかったよ、」
やがて俺は早月の押しに負けると、渋々そう言って返事をした。
……だけど実際は、早月と勇斗くんが出会してしまえばいいなんて思っている…自分もいる。
世奈が嫌がるのを知ってて行動に移す俺は、多分悪魔だな。
だけどそんなことを全く知る由もない早月は、世奈の家に行けるという現実に、ただただ浮かれている様子だった…。
友達と雑談をしていたら、珍しく早月が俺の教室にやってきた。
「相沢さーん。いるー?」
女子生徒の嬉しそうな声とともにそいつに呼ばれて、俺はめんどくさく思いながらも振り向く。
目が合ったら手招きをされたから仕方なくそいつの近くまで行くと、早月は「ちょっと話があるんだけど」と俺に言った。
「…珍しいな。っつか何、話って」
そんな早月に俺がそう聞くと、相変わらず女子生徒達に囲まれたままの早月が言う。
「世奈ちゃんが今日風邪で学校休んでるの」
「…そう、なんだ」
え、マジでか。
それを知らなかった俺は、ちょっとびっくりして…だけど平然を装う。
確かに昨日全身びしょ濡れのままなかなか帰らせなかったのは俺だし、帰ってからだって勇斗くんに誤魔化すのも大変だったわけだけど。
俺がそんなことを思っていると、やがて早月が言った。
「で、一つ君にお願いがあるんだよね」
「お願い?…嫌な予感しかしないんだけど」
「やだな、そんなに身構えなくたって簡単な話だよ。まぁちょっと不服だけど、何だかんだで君にしか頼めないし」
「…?」
早月はそう言うと、一応は側で聞いている女子達のことを気にしているのか。
少し声をひそめて、言葉を続けた。
「…世奈ちゃんのお見舞いに行きたいんだけど」
「…は、」
「世奈ちゃんがいる家まで案内してほしい。
もちろん、今日くらいは部活も休んで。ね?」
「!」
早月はそう言うと、「簡単でしょ?」と悪気のない笑顔を浮かべる。
だけど一方、そんなことを言われた俺は一瞬思考回路が停止した。
いや、部活は別に1日くらい休んでも平気だ。
けど…好きな女の家にライバルが上がり込もうとしている。
や、っつか、そんなことじゃなくて。
「っ…お前ちょっとこっち来い!」
「え、うわっ…!」
俺は早月がいきなりとんでもないことを言いだすから、これ以上はこの場で同じ話を続けられなくて。
俺はそう言うと、そいつの腕を掴んで教室を後にした。
…………
その後、そのままそいつを連れてやって来た場所は、同じ階にある誰も使っていない空き教室だった。
俺は早月を囲んでいた女子生徒達を追い払うと、やがてそいつと二人だけになる。
すると、様子が変わった俺に、早月が疑問を浮かべて言った。
「どうしたの、いきなり。僕、男と二人きりになる趣味とかないんだけど」
「バカじゃね、俺だってねぇよ」
「じゃあ何」
こっちは世奈ちゃんの家を教えてくれるだけでいいんだよ。
…早月はそう言うけど。
それって多分、世奈からしたらとんでもない話だと思う。
コイツは何も知らないけど、世奈は義理の兄貴である勇斗くんが原因で今まで失恋し続けてきたわけで。
もしかしたら早月だって、他の奴らと同じかもしれないのに。
…家に行くってことは、勇斗くんと会ってしまう確率は、かなり高いと思う。
っつか案内なんかしたら俺が世奈に怒られるだろ。
俺はそう思うと、早月に言った。
「…な、何だ。その…お見舞いに行きたいっていう気持ちだけでじゅうぶんだろ」
しかし俺がそう言うと、早月が言う。
「そんなことない。だってそもそも世奈ちゃんは、僕の不注意で全身濡れて、こうやって風邪まで引いてるんだから。
それなのにお見舞いにも行かないなんて非常識すぎる。それに、お家の人にもちゃんと謝っておきたいし」
早月はそう言いながら、真剣な表情を浮かべるけど。
…いや、俺も早月のその気持ちはわからなくもない。
けどなぁ…お家の人にって、それはもっとマズイだろ。
や、ほんとに、その気持ちだけはわかるんだけどな。
「…平気だよ。俺が謝っておいたから、昨日」
「それじゃ意味ない!原因は僕なんだから!」
「っ…あ、せ、世奈もあんまり風邪引いて寝込んでる姿見せたくないと思う。もし熱だしてるんなら」
「それは平気。弱ってる世奈ちゃんも絶対かわいい!」
…まぁ、それもそうだろうけど。
じゃなくて!
俺はなかなか聞かない早月に、ちょっと苛立ちながら言った。
「…お前さ、実は見舞いとか口実で、ほんとは世奈の家の場所知って、部屋に上がりたいだけだろ」
「人聞きの悪いこと言うね。…まぁそりゃあトーゼン下心はあるけど」
「やっぱりな。だったらお前は弱って寝てる世奈に何するかわからないから連れて行けないな。っつーことで今回は諦めて」
俺はそう言うと、早月から目を背けて、さりげなく制服のポケットからスマホを取り出す。
開いた画面は、ラインのトーク画面。
俺が静かに勇斗くんに文字を打っていると、その間に早月が言った。
「っ、だったら相沢さんも一緒でいいから!」
「!…は?」
「そんなに心配なら、相沢さんも一緒に世奈ちゃんの部屋に入ってくれてもいい!それならOKでしょ、」
早月はそう言うと、俺の前に回り込んで、再度「お願い」と珍しく頭を下げてくる。
そんな早月から静かにまたスマホの画面に目を遣ると、視界に入ってきたのは勇斗くんからの返事。
…今日、勇斗くんは通常勤務らしい。
ってことは18時までか。
タイムリミットはそれまでだな。
世奈がどういう顔をするのか、それだけが心配だけど。
「っ……わかったよ、」
やがて俺は早月の押しに負けると、渋々そう言って返事をした。
……だけど実際は、早月と勇斗くんが出会してしまえばいいなんて思っている…自分もいる。
世奈が嫌がるのを知ってて行動に移す俺は、多分悪魔だな。
だけどそんなことを全く知る由もない早月は、世奈の家に行けるという現実に、ただただ浮かれている様子だった…。
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