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幼なじみが冷たすぎる件②
しおりを挟むその後。
しばらくするとパフェを食べ終わり、時計の針が19時をさしてあたしと健はカフェを出た。
兄貴は、店の前に出てあたし達を見送ってくれている。
「ほな健、世奈頼むで」
「うん」
「あ、ちゃんとドアの前まで一緒に行ったれよ。何があるかわからんからな」
「わかってる、」
兄貴の言葉に健がそう頷いて、あたしは兄貴に手を振った。
「兄貴、ばいばーい!」
「おお、喧嘩せんと仲良く帰るんやで」
「はぁーい!」
本当なら今頃一人か兄貴と一緒なはずが、今はまさかの健と二人きり…。
こうやって二人だけで歩くの、ほんと何年ぶりだろ…。
だけどもちろん、昔みたいに楽しく雑談をしながら帰るわけもなく、気がつけば隣同士にも並ばずに、あたし達は離れて歩いていた。
あたしが健の前を歩き、その後ろを健が少し距離を置いて歩いている。
そしてしばらく歩いていると、マンションのすぐ近くまで着いて、あたしはふいに健に呼ばれた。
「世奈」
その声に、なに、と振り返る。
名前を呼ばれたのは、いつぶり?
少し懐かしさを感じていたら、健があたしに何かを言いかけた。
「あのさ、俺…」
…でも。
「あ、世奈ちゃん!!」
その声は、ある人物によってすぐに遮られた。
…物凄く聞き覚えのある声。
その声に嫌な予感を感じながらも振り向くと、そこには今日初めて会ったばかりの早月くんがいた。
早月くんは買い物にでも行っていたのか、片手に小さな買い物袋を持っている。
…ってか、私服。可愛いな。
パーカーにジャージのズボンだけど、パーカーには可愛らしいキャラクターが描かれてある。
「…さ、早月くん」
あたしがそう呟いて立ち止まると、早月くんは「翔太って呼んでくれても構わないよ」と言う。
いや絶対呼ばないし!
そう言いかけたけど、ふいにあたしの視線が早月くんの持っている買い物袋に行って、何気なく聞いてみた。
「…ねぇ」
「?」
「もしかしてそれ、晩ごはん?」
あたしがそう聞くと、早月くんは「そうだよ」と顔色1つ変えずに頷いた。
どうやら早月くんはコンビニに晩ごはんを買いに行って、今はその帰りらしい。
親の人がいないのかな?
そう疑問に思ったけど、「別にそんなことはいいか」と敢えて聞かなかった。
「…じゃ、また明日ね」
しかしそう言ってその場を後にしようとしたら、それをまた早月くんに留められた。
「あ、待って世奈ちゃん!」
「…なに?」
その声にまた振り向くと、早月くんが健を見てあたしに聞いてきた。
「もしかして、彼氏!?」
「!?」
そう言って本当に不安そうな顔をするから、それだけは勘弁してほしいあたしは、それを勢いよく否定する。
「ち、違う違う違う違う!そんなわけないじゃん!何おかしなこと言ってんの」
健が彼氏とか、マジやめて。
健だってあたしなんか嫌いだし、あたしだって健のことなんか大嫌いなんだから。
あたしがそう言うと、早月くんは安心したような表情を浮かべた。
「…なんだ、良かった」
「……」
その間、健が寂しげな顔をしてうつ向いていたけど、あたしはそれに気づかない。
しかもその間に、早月くんが言葉を続ける。
「てかさ、こんなとこで出会うってことは、世奈ちゃん家この辺なの?」
「え?うー…うん、まあ…」
「あ、ほんと?僕もこの辺なんだよ!一人暮らしで寂しいから、良かったら世奈ちゃんいつでも遊びに来て」
…やっぱ一人暮らし、なんだ。
あたしはその言葉を聞くと、自分と似たような早月くんの家庭に気をとられて、つい家に遊びに行くのをOKしてしまう。
…ま、まあ、いいか。すぐ忘れるかもしれないし。
「じゃあね、世奈ちゃん。また明日」
「うん、ばいばい」
そしてその後早月くんと別れると、あたしはまた健と二人きりになる。
するとその時、ふいに健があたしに聞いてきた。
「何、アイツ」
「え、」
「“早月翔太”。1年ん時同じクラスだったから知ってる。
なに、今度はアイツが次の彼氏の候補なわけ?」
健はあたしにそう聞くと、ジロリ、とあたしを見遣る。
…なんだ?なんか、ちょっと怖い。
もしかして、怒ってる?何で?
「ち、違うよ!違う違う!だってあたし早月くんみたいなタイプ苦手だし!」
そう思いながら慌ててそれを否定するけど、健の顔色は何1つ変わらない。
「…ほんとかな」
「ほんとだよ!ってか、健にそんなこと関係ないでしょ!
あたしが誰と付き合おうが、そんなのあたしの勝手じゃん!」
そう言ってムキになり、あたしは思わず強めの態度で健を見た。
全然関係ないクセに、勝手なこと言わないでよね!
すると、そんなことを言ってしまった可愛くないあたしに、更に怒った様子の健が言う。
「あぁ関係ないよ。そんなの知りたくもないし。
っつかさ、付き合ってもないのに普通そんな軽々しく男の家行く?
やっぱあのウワサ本当なんじゃん」
「ウワサ…?」
「“工藤世奈は誰とでもヤラせてくれる”っていうウワサ」
その健のまさかの言葉に、あたしは一瞬にして言葉を失ってしまう。
…え、何そのウワサ。あたし初耳なんだけど。
そう思って否定しようと口を開いたら、それを遮るように健が言った。
「じゃー何?俺ともヤラせてくれんの?」
「は…」
「さっきみたいにああやって家行くこと簡単にOKするんだもんな。お前ビッチだから」
「!!」
健がそう言うのを聞くと、不機嫌そうな健とその時真っ直ぐに目が合う。
…一方、そんなことを幼なじみに言われたあたしは、いくらそいつがずっと冷たかったとはいえ、凄くショックで。
ムカついた、というよりも。
思わず泣けてきて、健に言った。
「…~っ、」
「…!!」
「も、最っ低!大っ嫌い!!」
あたしはそう言うと、走ってその場を後にした。
最悪!
もう一生顔見たくないあんな奴。
無理矢理にでも一人で帰っとくんだった、
そう思いながら、あたしは走ってマンションに入る。
あたしと兄貴の部屋は6階。
エレベーターのボタンを連打して、「早くしてよ」と急かしていたら、
その時ふいに、また大嫌いな声が聞こえた。
「っ…世奈!」
「!!」
慌ててそこを見ると、そこにいたのは走ってあたしを追いかけてきたらしい健だった。
だけどもう口も聞きたくないあたしは、健を無視して階段を使おうとする。
でも、その手をすぐに掴まれた。
「待てよ!」
「っ…離して、バカ!あんたなんかとそういうっ…こと絶対しないんだから!」
「違うって!落ち着け、」
「違うことないでしょ!ヤラせてくれんのとか言っておいて!」
半ば興奮気味にそう言いながら、あたしは階段の下で健の手を振り払おうとする。
しかし…
「っ、マジでそんな簡単に手出すわけないだろ!」
「!」
次の瞬間、健に両肩を掴まれ、強引に方向転換させられてはっきりとそう言われた。
健がいきなり大きな声を出すから、思わずあたしはびっくりして言葉を失う。
するとそんなあたしに、健が言葉を続けて言った。
「そもそもっ…世奈が相手だったら、そういうことはもっと大事にするに決まってんじゃん!
俺が言いたいのは、世奈が簡単に男の家に行こうとすることだろ!」
「…だ、大事って…。
っ…だから、あんたには関係ないでしょ!離しっ、」
「関係なくない俺は世奈が好きなんだよ!!」
「!!」
離してよ、と言おうとしたら。
掴まれている肩に更にぐっと力を入れられて、言葉を遮られる。
健のその言葉にびっくりするあたしの目を、健は今まで見たことないくらいの真剣な表情で見つめていて。
「好きなんだよ」…その言葉を聞いた瞬間。
一瞬、時間が止まったような感覚に襲われてわからなかったけど、やがてその言葉の意味を理解すると…
「……じょ、冗談やめてよ」
「…」
なんだか自分の顔が熱くなっていく気がして、この雰囲気を誤魔化そうとそんな言葉を呟く。
だけど、一方の健はそんなあたしの言葉に何も言わない。
そんな健に、あたしはまた…
「…健は、あたしのことなんか嫌、」
嫌いじゃん。
そう言おうとしたら、その言葉を遮るように…あたしは健に抱き寄せられた。
「…!」
「…好きだよ、世奈。冗談なんかじゃない」
「…」
「ずっと好きだった…」
あたしはそんな健の告白を耳元で聞きながら、ただ健に身を委ねることしか出来なかった…。
…………
「じゃあ、また明日」
あれからやっと健から離れて、あたし達はマンションの部屋のドアまでやって来た。
健は兄貴に言われた通り、そう言ってあたしをドアの前まで送ってくれている。
…なんか、さっき抱きしめられたせいか凄く変な感じ。
まともに健のことが見れないじゃん。
どうしてくれるの。
そう思いながらも、あたしも健に「ばいばい」と手を振った。
健と別れたあと、あたしは部屋の中に入った。
そして玄関に入るなりその場にしゃがみこむと、思い浮かべるのはさっき健に抱きしめられた時のこと。
あたしをからかってるとか、そんな雰囲気じゃなかった。
健に抱きしめられた感触がまだ身体に残るなか、あたしは自分の頭をグーで何度か軽く殴る。
「早く忘れろ。早く忘れろっ…」
そしてそれだけを繰り返し唱えてみたけど、健からの告白が頭に染みついて、しばらく離れることはなかった…。
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