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また、失恋した件
しおりを挟む「兄貴!!」
静かなカフェの中に、大きなあたしの声が響き渡る。
夕方のこのカフェ「Green」には、今は女性客が数人しかいなくて。
このカフェの店長である、あたしの兄貴にここに入ってくるなりそう呼べば、
兄貴は何やらお客さんと楽しげに話していたけど、すぐに顔を上げて「おぉ、世奈」とあたしの名前を口にした。
そんな兄貴の名前は工藤勇斗、24歳。
あたし、工藤世奈の義理の兄貴で、バリバリの関西出身だ。
あたしは兄貴と目が合うと、顔を歪ませて言った。
「またフラれた…!」
「は…」
そう、あたしはついさっき失恋をしてしまったのである。
しかもまたその理由が、あたしの兄貴がイケメンすぎるからだって。
信じられない、あのヘタレ男!
「…ま、とりあえず落ち着けや。な?」
兄貴は優しい口調でそう言うと、あたしをカウンターの席へと案内する。
そしてすぐにオレンジジュースを用意すると、今にも泣きそうなあたしに兄貴が言った。
「突然やったな」
「…」
「…あー…と、ちなみに、何でフラれたん?」
兄貴はあたしにそう問いかけながら、あたしの隣の椅子に腰を下ろす。
あたしはその問いに、オレンジジュースを飲んだ後はっきり言った。
「兄貴のせいだからね!」
「!」
「兄貴がイケメンすぎんのがいけないんじゃん!」
あたしが怒ったような口調でそう言うと、兄貴はまるで「またか…」とでも言うように頭を抱えた。
実はあたしの兄貴、見た目も中身も全てパーフェクトで、イケメン以上に更にイケメンなのだ。
例えるなら誰だ?
…いや、わからない。
とにかくそこらへんの芸能人よりも、超カッコイイ。
兄貴は、身長178㎝でスラッとしたモデル体系であり、そのくせ程よく筋肉もついてるからまさに女性達の「理想像」だと思う。
そして真っ黒で染めていない綺麗なサラサラヘアの髪に、キリッとした眉、切れ長の目に鼻もスッとしてて高くて…
もう、とにかく何だろう。
兄貴は完璧すぎるのだ。
しかもそれだけじゃなくて優しいし、料理とかの家事だって全てこなす。
…だから、あたしはフラれたのだ。
全てがイケメンすぎる兄貴のせいで。
最初は元彼達のそんな気持ちがよくわからなかったけど、どうやらみんなは兄貴を見ると自分に自信をなくしてあたしを突き放してしまうらしい。
別にあたしの兄貴なんだから、何の問題もなくない?って元彼に聞いたことがあったけど、「そういう問題じゃないよ」って言われた。
…うん。女のあたしにはさっぱりわからん。
あたしがヤケ飲み状態でオレンジジュースを飲んでいると、しばらく黙っていた兄貴がまた口を開いて言う。
「…ほな、次の相手はアイツにしたらどうや」
「アイツって?」
兄貴の言葉に、?を浮かべるあたしに兄貴が悪戯顔で言った。
「決まってるやん!相沢健!」
「!!」
そんな兄貴のとんでもないアドバイスに、あたしは思わず口に含んでいたオレンジジュースを吹き出しそうになる。
「!?っ…バッカじゃないの!?アイツなんて絶対あり得ないし恋愛対象外だってば!!」
あたしはそう言うと、兄貴の肩をバシン、と叩いた。
相沢健とは、あたしと同い年の幼なじみだ。
昔からサッカーが大好きなサッカー馬鹿で、同じ学校に通っている今でもサッカー部に所属している。
それにサッカーが得意だし上手だから、女子によくモテているみたいで。
あんまり言いたくないけど…多分、イケメンなんだと思う。
「何でそんなにアイツを拒否んねん」
あたしがあまりにも拒否をするもんだから、兄貴がカウンターに肘をついてあたしにそう問いかけてきた。
「…だって、」
「アイツ、めっちゃええ奴やで?優しいし、人の痛みがわかるし、それに何よりな…」
兄貴が何かを言いかけたけど、あたしはアイツの話は聞きたくなくて無理矢理その場を終わらせた。
「兄貴、もういいよアイツの話は」
「…そか」
あたしは、アイツ、健のことが昔から大嫌いだ。
幼稚園の頃は凄く優しくて、いつもあたしを助けてくれてたヒーローだったのに今は全然違う。
今は、優しさのかけらもない。
小学校にあがった頃からだったかな?
あたしが話しかけても無視しだして、返事をしてくれたかと思えば「うっせー」「黙れ」「あっち行け、ブス」とかそればっか。
あまりにもそんな冷たい態度ばかりとられるから、あたしはもうアイツのことが大嫌いになった。
だから、いくらアイツがイケメンすぎる兄貴の存在を知っていても、あたしはアイツとそんな甘い関係になるなんてまっぴらごめんだ。
考えただけで吐き気がする。
「はい、兄貴ごちそうさま」
「ん、」
あたしがそう考えながら空になったコップを兄貴に渡すと、兄貴はそれを受け取って店の裏に入って行った。
…あぁ、元彼の愚痴を兄貴に聞いてもらいにここに来たはずが、いつのまにかアイツの話になってしまった。
ってか、兄貴がいきなりアイツの名前なんて出すからいけないんだ。
そう思って椅子から立ち上がると、あたしは裏にいる兄貴に声をかけた。
「兄貴ー、あたし先帰ってるね」
何より、今は18時半をとっくに過ぎている。
早く帰らないと19時から始まる大好きなテレビ番組に間に合わないじゃん。
だから出来るだけ直ぐに帰りたかったのに、兄貴がさっきあたしが飲んでいたコップを洗いながら言った。
「え、嘘やん!?ちょー待って!これ洗ったらすぐあがるわ!」
「…」
……そしてそれから数分後。
店を他の店員に任せて、あたしは兄貴と一緒にカフェを出た。
あたしと兄貴は、マンションで二人暮らしをしている。
前はよくカップルが同棲してるだの新婚さんだのいろいろ言われたけど、なんとかちゃんと説明して今はそれも言われなくなった。
本当は、あたしのお父さんと兄貴のお母さんも一緒に暮らすはずだったんだけど、
あたしが高校にあがってすぐに、九州の方にお父さんの仕事の都合のため二人でそこに行ってしまっているのだ。
…気持ち、ちょっとだけ寂しいけど。
しばらく兄貴と二人で静かなところを歩いていたら、ふいに兄貴が言った。
「世奈」
「…うん?」
「失恋は、確かに悲しいし寂しいかもしれんけどさ、」
「…」
「でも、それをキッカケに次めっちゃええ奴に出会えたら、それって最高やん」
「!」
「せやから、今は耐えとけ。今のそれも何かの通過点や」
兄貴はあたしにそう言って励ますと、優しい笑顔でニッコリ笑う。
…あぁ、やっぱり兄貴はイケメンです。
細胞からしてもう、他の人とはつくりが違う気がします。
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