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轟けと 友に捧げる 世界の鍵

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 今まで何年の間、この洞窟に住み着いて、いや突き刺さっていたのだろうか。
 立地が洞窟故にろくに光が入ってこない。体内時計も全て感覚に任せる必要があるため正確な日数なんてわからないが、おおよそ数年が経過していた。


『………最悪だ。僕の妄想力が失われていく………!』
「ゴーゴー」
『相棒はこの倍以上の年月を過ごしていたのか………。すまない。僕は軟弱者のようだ』


 暇つぶしを唯に越えた時間を何もない洞窟で手足もなく過ごすには精神──主に欲に対する損傷が大きかった。
 
 つまるところ、女に飢えてました。


『はぁ~。女の子との出会いはないし、つまらない生活。せっかくの異世界だからこう、魔法とかないのかねぇ』


 外の世界を見ていない故に実感は──自分の身体の状態と目の前の相棒の存在でしか味わえない。
 ファンタジーとはいわば剣と魔法ありきの世界なのだ。自分、剣になりましたけど魔法使いたいっす………!

 僕とていつ時も女のことしか考えていないわけではない。精神的には二十歳を過ぎているがまだまだ意志は思春期真っ盛り。故にかっこいいことに興味はある。
 一人、昔読んだ魔法使いが主人公の絵本を思い出していると相棒が首を傾けた。


『?どうした?』


 と声をかけた僕の声が相棒に伝わった途端にポンッと平手の上に拳を当てて気づいたような姿勢を見せた。


「ゴー」
『へー、魔法ってあるんだぁ~。───────もうちょい早く言ってくれよ!』


 聞かれなかったから、と頭をかく仕草をする相棒を下から睨みつけるが、すぐに話を聞く体勢をとった。


「ゴ、ゴゴゴゴ」
『ふむふむ。魔法は大気中にある魔力によって発動できるのか。え?じゃあこの世界の住民ってみんな強いの?』


 それぞれの地域で気温差や湿度の差があるように、おそらく魔力にも場所によって密度が違うだろう。
 しかし、魔力が多い場所に行けば誰もが強力な魔法を使用できるのでは?という僕の推測に相棒は首を横に振る。


「ゴー」
『成程。魔力を制御することで魔法を使えるか否か。そして強力か否かを決めるのか。つまりポテンシャルの高さが重要なのな』
「ゴ!」
『え?属性もあるの?』


 すると相棒は大きな指を広げて五本の指を見せてきた。


「ゴーゴーゴーゴー……ゴ」
『火、水、風、光、闇の五属性があるのか。人はそのどれかひとつを操れる、と。でも特殊魔法もあるのか』


 紹介された五つの属性はゲームをしていた僕ならなんとかその効果も頷けた。さしずめ、火は風に強く、風は水に強く、水は火に強い。そして光と闇は互いに弱点であるのだろう。
 しかし、特殊魔法とは何ぞ?


『名前の通り特殊なのか?』
「ゴー。ゴゴー」
『特殊魔法は個人魔法とも言われるもので属性がない変則的な魔法なのか。例えば?』
「ゴーゴー」
『へー。相棒も特殊魔法によって造られるゴーレムの一種なんだ』


 待てよ。相棒は僕本体である剣、つまり世界の制御を担う鍵の門番を担当していたのだ。必然的に、この世界を創り出した神が相棒を造ったことになり、神は魔法を使うという認識となるのか。
 僕が出会った、いや出会いたくもなかったが知り合ってしまったおっさんは錬金術の要素とは裏腹に、無から物質を創り出したが、あれは魔法といえるのだろうか?

 閑話休題

 兎に角、魔法という存在の肯定により時間は有効化することが出来る。


『さっきの話だと、人じゃなくても魔法、って言うより魔力は操作できるんでしょ?』
「ゴ」
『じゃあ僕にも可能って事だよね。知ってればだけど早速方法をお教えッ!?』


 相棒に頼み事をしようとした、その刹那だった。
 耳はないが人間の頃より遥かに強化された聴覚により、初めて外部からの音が聞こえた。それも何かが壊れるような爆発音だ。それが唯一外に繋がる道だと以前、相棒から聞いた真っ黒な空洞からボヤけて聞こえられた。


『相棒、今のは………』
「ゴー」


 僕が尋ねる前に相棒は胡座の状態から起き上がり顔を音の方向へと向けた。そして、


「ゴー。ゴーゴー」
『………わかった。一応、気をつけて』


 もしかしたら選ばれた者がやって来たのかもしれない。

 そう言って相棒は遠い道のりのある電灯がないトンネルの奥へ消えていった。

 
 選ばれた者、それはつまり僕の所有者ということだ。
 本来ならばどんな美少女が来るのかと妄想に耽るのだが、いかせん気分ではない。寧ろもどかしくて仕方がなかった。


『相棒、どうか無事に………』


 時計をずっと眺めているわけでもないのに、一秒一秒が長く感じられた。
 久しぶりに静寂が訪れる洞窟。
 幾度も同じ願いをリピートさせていたが、遂に心のどよめきをハッキリとさせた。


 コツコツと。
 多数の足音が重なるのが響き渡った。

 足音が聞こえる。相棒は出さない音に烈しい憎悪が渦巻いていく。

 やがて足音が鮮明に聞こえてくると、異世界だというのに理解できる言語でこんな話し声を拾った。


「もうすぐ最奥だよな」
「じゃなきゃ撤退だよー。魔道具は全部使い切っちゃったしさぁ」
「特に最後のゴーレム!いくら低レベルなモンスターの生息地だからって耐久ウザすぎでしょ!おかげで爆発の魔道具は全てなくなるし。ホント邪魔」
「………………」


 聞こえた声は三人。しかし、足音の数では四人のはずだから会話に参加していない者もいるのだろう。

───カチャリ

 何時もの如く、本来の欲を自制心の鎖で結びつけたことにより現状を把握する。

 望楼の位置に自身がいるため、やって来た者、いや侵入者が灯す火を歪めつつ、静かに、

 くつくつと笑みを浮かべる。


「なぁ姫様。本当に此処に神託にでた”世界を救う剣”なんてあるのか?」
「…………おそらく」
「ちッ………そんなに素っ気なくしていいのか?勇者へ借りた音を返すための身体なのにその態度はよぉ?」
「………………」
「次は黙りか。いい加減立場ってものを───」
 

 くつくつと。
 現れたに失念を送った。

 最初に姿を見せたのは先行する灯火を持つフードを被りローブを着た少女だった。ローブがぶかぶかな故に顔立ちや体格は不明だが、素性がお姫様だと察した。
 そして、先程の少女に続いて現れたのが自身を勇者と名乗った野郎だった。傷一つない鎧に身を預け、金髪の整った顔立ちをした──と別の人間ならば答えるだろうが、僕が見た限りではゲス顔を前の少女に向けており、今にも少女を後から拘束しようとしていた。しかし、


「見てコーバ様!あの剣!」
「おい、今俺は────ほう」


 さらにその後にいた褐色肌の露出が多い少女の萎んだリュックを背負った少女の声に反応し、イラついたのはほんの僅かで、此方に目を向けて隠せない欲望を顕にしてきた。


「何あの剣………。色が黒だから黒鉄を使っていると思ったけどそんなんじゃない。増築されてる魔力量が尋常じゃないなんて………!」


 もう一人の大剣を背負った少女の解説は立ち止まって行われた。

 それほど僕の依代の存在は凄まじいの一言でしか表現出来ないほど漠然としており、想像を超えていたのだ。
 緊張感が走る中、一人だけ、そんなもの意味をなくしてズカズカと地を踏み入れてくる。


「これが神が用意した俺の剣……!」


 只でさえ、僕の、いや僕と相棒の領域になんの信念もなく入り込んできたのだ。
 それに、神が用意した俺の剣、だって?












『近づくな』


 僕が死んだ日の時のように自然と出てきた言葉だった。
 なんの影響も与えなかった言葉だが、突如として辺りの岩や石が人間の進行をこれ以上許さないかのように空中へと上昇し、渦巻きを描くようにして運動していく。


「な、何なんだ今のは!?」


 後一歩のところで巨大な岩に轢かれていた男は尻餅をつく。
 僕が望楼の位置にいたのは此処が階段の上の方に位置するからだ。階段を登っていた男が尻餅をつけば、必然的に転げ落ちる。
 酷い音をたてて尚、傷のない鎧を纏った男はあたふたと周りを見渡して声の主を探していた。褐色肌の少女たちも同様に人の気配を探っている。一人だけ、平然とこちらを見ていたが。


「くっそ!誰の魔法だ!正体を現せ!」
「コーバ様!此処に魔法使った人はいないよ!」


 男の叫びと捉えられる問に、何かしらの板を背負ったリュックから取り出した少女が返した。おそらく魔力を感知する機械、いや魔道具とかいうものなのだろうか。
 
 悩む暇なく騒ぎたてる男がいるため自問できない。仕方ない。


『黙れ。失せろ』


 くつくつと。
 煮えたぎった鍋のように爆発した覇気の孕んだ言葉に、稲妻という物理的な現象が追加された。


「ひいッ!?」


 情けない声を漏らす男を無視して僕は続けた。


『貴様。何故我々の領域にその醜い足を踏みいれた』
「お、俺は………」


 男が顔を下に向けると、足が震えていることにやっと気づいたようだ。
 言葉を詰まらせたのは最初だけ。後は現状より最悪だった。


「お、俺は勇者だ!その剣の主になる男だ!」
『巫山戯るな。誰がお前のような輩に渡そうか』
「なっ………!?巫山戯ているのはそっちだろ!俺は神託で世界を救うとーーー」


くつくつと。


『では、先ずは自分を救って見せろ。エセ勇者』


 がら空きの胸元に紙飛行機を飛ばすように雷の槍をそこを的にして投げつけた。

 真っ直ぐ突き進んだ雷だったが、


「な……!?ドラゴンの鱗でできた鎧が!?」


 殺すか殺せないかの出力で放った雷は鎧に傷をつけるだけで終わった。
 これでハッキリする。


『貴様のような道具に頼る奴にはエセ勇者が妥当だ。故に僕の所有者は貴様じゃない





その面見せんな』


 何もできない男は姿を消した。
 勿論、殺してはいない。せめてもの慈悲なのだが野郎には必要なかったかもしれない。
 早く自分がすべきことを。そう思った時だった。


「「い、いやああああああああああああああああああああああああああ!!」」


 男に随分と忠実な少女二人は野郎が死んだのだと思ったのだろうか。全力で逃げ出した。
 男と二人の立場を逆にしていたらきっと野郎も同じように逃げ出していただろうと考えていると、ふと視線を感じた。


「…………………」


 ローブを着た少女が、何も言わずに片膝をついて頭を下げた。え?どうした急に?


「………………………」


 何を思ったのか、神のおっさんじゃない僕には分からなかった。数十秒ほど膝まづいて、彼女は元の道へと戻って行った。
 未だに収まりきれていない闇と同じ空間で空虚に感じながらもその姿が完全に見えなくなるまで見送り続けた。
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