4 / 4
轟けと 友に捧げる 世界の鍵
しおりを挟む今まで何年の間、この洞窟に住み着いて、いや突き刺さっていたのだろうか。
立地が洞窟故にろくに光が入ってこない。体内時計も全て感覚に任せる必要があるため正確な日数なんてわからないが、おおよそ数年が経過していた。
『………最悪だ。僕の妄想力が失われていく………!』
「ゴーゴー」
『相棒はこの倍以上の年月を過ごしていたのか………。すまない。僕は軟弱者のようだ』
暇つぶしを唯に越えた時間を何もない洞窟で手足もなく過ごすには精神──主に欲に対する損傷が大きかった。
つまるところ、女に飢えてました。
『はぁ~。女の子との出会いはないし、つまらない生活。せっかくの異世界だからこう、魔法とかないのかねぇ』
外の世界を見ていない故に実感は──自分の身体の状態と目の前の相棒の存在でしか味わえない。
ファンタジーとはいわば剣と魔法ありきの世界なのだ。自分、剣になりましたけど魔法使いたいっす………!
僕とていつ時も女のことしか考えていないわけではない。精神的には二十歳を過ぎているがまだまだ意志は思春期真っ盛り。故にかっこいいことに興味はある。
一人、昔読んだ魔法使いが主人公の絵本を思い出していると相棒が首を傾けた。
『?どうした?』
と声をかけた僕の声が相棒に伝わった途端にポンッと平手の上に拳を当てて気づいたような姿勢を見せた。
「ゴー」
『へー、魔法ってあるんだぁ~。───────もうちょい早く言ってくれよ!』
聞かれなかったから、と頭をかく仕草をする相棒を下から睨みつけるが、すぐに話を聞く体勢をとった。
「ゴ、ゴゴゴゴ」
『ふむふむ。魔法は大気中にある魔力によって発動できるのか。え?じゃあこの世界の住民ってみんな強いの?』
それぞれの地域で気温差や湿度の差があるように、おそらく魔力にも場所によって密度が違うだろう。
しかし、魔力が多い場所に行けば誰もが強力な魔法を使用できるのでは?という僕の推測に相棒は首を横に振る。
「ゴー」
『成程。魔力を制御することで魔法を使えるか否か。そして強力か否かを決めるのか。つまりポテンシャルの高さが重要なのな』
「ゴ!」
『え?属性もあるの?』
すると相棒は大きな指を広げて五本の指を見せてきた。
「ゴーゴーゴーゴー……ゴ」
『火、水、風、光、闇の五属性があるのか。人はそのどれかひとつを操れる、と。でも特殊魔法もあるのか』
紹介された五つの属性はゲームをしていた僕ならなんとかその効果も頷けた。さしずめ、火は風に強く、風は水に強く、水は火に強い。そして光と闇は互いに弱点であるのだろう。
しかし、特殊魔法とは何ぞ?
『名前の通り特殊なのか?』
「ゴー。ゴゴー」
『特殊魔法は個人魔法とも言われるもので属性がない変則的な魔法なのか。例えば?』
「ゴーゴー」
『へー。相棒も特殊魔法によって造られるゴーレムの一種なんだ』
待てよ。相棒は僕本体である剣、つまり世界の制御を担う鍵の門番を担当していたのだ。必然的に、この世界を創り出した神が相棒を造ったことになり、神は魔法を使うという認識となるのか。
僕が出会った、いや出会いたくもなかったが知り合ってしまったおっさんは錬金術の要素とは裏腹に、無から物質を創り出したが、あれは魔法といえるのだろうか?
閑話休題
兎に角、魔法という存在の肯定により時間は有効化することが出来る。
『さっきの話だと、人じゃなくても魔法、って言うより魔力は操作できるんでしょ?』
「ゴ」
『じゃあ僕にも可能って事だよね。知ってればだけど早速方法をお教えッ!?』
相棒に頼み事をしようとした、その刹那だった。
耳はないが人間の頃より遥かに強化された聴覚により、初めて外部からの音が聞こえた。それも何かが壊れるような爆発音だ。それが唯一外に繋がる道だと以前、相棒から聞いた真っ黒な空洞からボヤけて聞こえられた。
『相棒、今のは………』
「ゴー」
僕が尋ねる前に相棒は胡座の状態から起き上がり顔を音の方向へと向けた。そして、
「ゴー。ゴーゴー」
『………わかった。一応、気をつけて』
もしかしたら選ばれた者がやって来たのかもしれない。
そう言って相棒は遠い道のりのある電灯がないトンネルの奥へ消えていった。
選ばれた者、それはつまり僕の所有者ということだ。
本来ならばどんな美少女が来るのかと妄想に耽るのだが、いかせん気分ではない。寧ろもどかしくて仕方がなかった。
『相棒、どうか無事に………』
時計をずっと眺めているわけでもないのに、一秒一秒が長く感じられた。
久しぶりに静寂が訪れる洞窟。
幾度も同じ願いをリピートさせていたが、遂に心のどよめきをハッキリとさせた。
コツコツと。
多数の足音が重なるのが響き渡った。
足音が聞こえる。相棒は出さない音に烈しい憎悪が渦巻いていく。
やがて足音が鮮明に聞こえてくると、異世界だというのに理解できる言語でこんな話し声を拾った。
「もうすぐ最奥だよな」
「じゃなきゃ撤退だよー。魔道具は全部使い切っちゃったしさぁ」
「特に最後のゴーレム!いくら低レベルなモンスターの生息地だからって耐久ウザすぎでしょ!おかげで爆発の魔道具は全てなくなるし。ホント邪魔」
「………………」
聞こえた声は三人。しかし、足音の数では四人のはずだから会話に参加していない者もいるのだろう。
───カチャリ
何時もの如く、途絶えさせた本来の欲を自制心の鎖で結びつけたことにより現状を把握する。
望楼の位置に自身がいるため、やって来た者、いや侵入者が灯す火を歪めつつ、静かに、
くつくつと笑みを浮かべる。
「なぁ姫様。本当に此処に神託にでた”世界を救う剣”なんてあるのか?」
「…………おそらく」
「ちッ………そんなに素っ気なくしていいのか?勇者へ借りた音を返すための身体なのにその態度はよぉ?」
「………………」
「次は黙りか。いい加減立場ってものを───」
くつくつと。
現れた人間共に失念を送った。
最初に姿を見せたのは先行する灯火を持つフードを被りローブを着た少女だった。ローブがぶかぶかな故に顔立ちや体格は不明だが、素性がお姫様だと察した。
そして、先程の少女に続いて現れたのが自身を勇者と名乗った野郎だった。傷一つない鎧に身を預け、金髪の整った顔立ちをした──と別の人間ならば答えるだろうが、僕が見た限りではゲス顔を前の少女に向けており、今にも少女を後から拘束しようとしていた。しかし、
「見てコーバ様!あの剣!」
「おい、今俺は────ほう」
さらにその後にいた褐色肌の露出が多い少女の萎んだリュックを背負った少女の声に反応し、イラついたのはほんの僅かで、此方に目を向けて隠せない欲望を顕にしてきた。
「何あの剣………。色が黒だから黒鉄を使っていると思ったけどそんなんじゃない。増築されてる魔力量が尋常じゃないなんて………!」
もう一人の大剣を背負った少女の解説は立ち止まって行われた。
それほど僕の依代の存在は凄まじいの一言でしか表現出来ないほど漠然としており、想像を超えていたのだ。
緊張感が走る中、一人だけ、そんなもの意味をなくしてズカズカと地を踏み入れてくる。
「これが神が用意した俺の剣……!」
只でさえ、僕の、いや僕と相棒の領域になんの信念もなく入り込んできたのだ。
それに、神が用意した俺の剣、だって?
『近づくな』
僕が死んだ日の時のように自然と出てきた言葉だった。
なんの影響も与えなかった言葉だが、突如として辺りの岩や石が人間の進行をこれ以上許さないかのように空中へと上昇し、渦巻きを描くようにして運動していく。
「な、何なんだ今のは!?」
後一歩のところで巨大な岩に轢かれていた男は尻餅をつく。
僕が望楼の位置にいたのは此処が階段の上の方に位置するからだ。階段を登っていた男が尻餅をつけば、必然的に転げ落ちる。
酷い音をたてて尚、傷のない鎧を纏った男はあたふたと周りを見渡して声の主を探していた。褐色肌の少女たちも同様に人の気配を探っている。一人だけ、平然とこちらを見ていたが。
「くっそ!誰の魔法だ!正体を現せ!」
「コーバ様!此処に魔法使った人はいないよ!」
男の叫びと捉えられる問に、何かしらの板を背負ったリュックから取り出した少女が返した。おそらく魔力を感知する機械、いや魔道具とかいうものなのだろうか。
悩む暇なく騒ぎたてる男がいるため自問できない。仕方ない。
『黙れ。失せろ』
くつくつと。
煮えたぎった鍋のように爆発した覇気の孕んだ言葉に、稲妻という物理的な現象が追加された。
「ひいッ!?」
情けない声を漏らす男を無視して僕は続けた。
『貴様。何故我々の領域にその醜い足を踏みいれた』
「お、俺は………」
男が顔を下に向けると、足が震えていることにやっと気づいたようだ。
言葉を詰まらせたのは最初だけ。後は現状より最悪だった。
「お、俺は勇者だ!その剣の主になる男だ!」
『巫山戯るな。誰がお前のような輩に渡そうか』
「なっ………!?巫山戯ているのはそっちだろ!俺は神託で世界を救うとーーー」
くつくつと。
『では、先ずは自分を救って見せろ。エセ勇者』
がら空きの胸元に紙飛行機を飛ばすように雷の槍をそこを的にして投げつけた。
真っ直ぐ突き進んだ雷だったが、
「な……!?ドラゴンの鱗でできた鎧が!?」
殺すか殺せないかの出力で放った雷は鎧に傷をつけるだけで終わった。
これでハッキリする。
『貴様のような道具に頼る奴にはエセ勇者が妥当だ。故に僕の所有者は貴様じゃない
その面見せんな』
何もできない男は姿を消した。
勿論、殺してはいない。せめてもの慈悲なのだが野郎には必要なかったかもしれない。
早く自分がすべきことを。そう思った時だった。
「「い、いやああああああああああああああああああああああああああ!!」」
男に随分と忠実な少女二人は野郎が死んだのだと思ったのだろうか。全力で逃げ出した。
男と二人の立場を逆にしていたらきっと野郎も同じように逃げ出していただろうと考えていると、ふと視線を感じた。
「…………………」
ローブを着た少女が、何も言わずに片膝をついて頭を下げた。え?どうした急に?
「………………………」
何を思ったのか、神のおっさんじゃない僕には分からなかった。数十秒ほど膝まづいて、彼女は元の道へと戻って行った。
未だに収まりきれていない闇と同じ空間で空虚に感じながらもその姿が完全に見えなくなるまで見送り続けた。
0
お気に入りに追加
8
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
異世界転移で無双したいっ!
朝食ダンゴ
ファンタジー
交通事故で命を落とした高校生・伊勢海人は、気が付くと一面が灰色の世界に立っていた。
目の前には絶世の美少女の女神。
異世界転生のテンプレ展開を喜ぶカイトであったが、転生時の特典・チートについて尋ねるカイトに対して、女神は「そんなものはない」と冷たく言い放つのだった。
気が付くと、人間と兵士と魔獣が入り乱れ、矢と魔法が飛び交う戦場のど真ん中にいた。
呆然と立ち尽くすカイトだったが、ひどい息苦しさを覚えてその場に倒れこんでしまう。
チート能力が無いのみならず、異世界の魔力の根源である「マナ」への耐性が全く持たないことから、空気すらカイトにとっては猛毒だったのだ。
かろうじて人間軍に助けられ、「マナ」を中和してくれる「耐魔のタリスマン」を渡されるカイトであったが、その素性の怪しさから投獄されてしまう。
当初は楽観的なカイトであったが、現実を知るにつれて徐々に絶望に染まっていくのだった。
果たしてカイトはこの世界を生き延び、そして何かを成し遂げることができるのだろうか。
異世界チート無双へのアンチテーゼ。
異世界に甘えるな。
自己を変革せよ。
チートなし。テンプレなし。
異世界転移の常識を覆す問題作。
――この世界で生きる意味を、手に入れることができるか。
※この作品は「ノベルアップ+」で先行配信しています。
※あらすじは「かぴばーれ!」さまのレビューから拝借いたしました。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話
菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。
そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。
超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。
極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。
生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!?
これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
裏アカ男子
やまいし
ファンタジー
ここは男女の貞操観念が逆転、そして人類すべてが美形になった世界。
転生した主人公にとってこの世界の女性は誰でも美少女、そして女性は元の世界の男性のように性欲が強いと気付く。
そこで彼は都合の良い(体の)関係を求めて裏アカを使用することにした。
―—これはそんな彼祐樹が好き勝手に生きる物語。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
加護とスキルでチートな異世界生活
どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!?
目を覚ますと真っ白い世界にいた!
そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する!
そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる
初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです
ノベルバ様にも公開しております。
※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる