上 下
144 / 266
第6章……復讐の勇者編

135話……不死者の軍勢

しおりを挟む
「ふぅ……」

 リンたちと別れて数時間、俺は【気配察知(極)】を駆使して監視と周辺の魔物の殲滅を行っていた。

 その過程でいい感じに身を隠せる岩場を発見、リンたちが戻ってくるまでの臨時の拠点とした。

 ここからなら魔王城は俺の【気配察知(極)】の範囲ギリギリに捉えられるので何者かが城から出てきたら分かるだろう。
 その時には【傲慢なる者の瞳】を使って誰が出てきたか確認すればいい。

 俺ではウルトのように城の内部の気配まで察知は出来ない。
 もっと近付けば何となく分かるだろうがここからでは不可能だ。

 だが外に出てくれば分かる。それさえ分かれば見ることが出来る。
 本当にルシフェルはいいスキルをくれたものだ。

 日も落ちて暗くなってきたので臨時拠点に戻り食事を摂る。
 久しぶりに1人で食べる食事は味気なかった。

 少しだけでも寝ておこう……

 正直今でも1人で寝るのは怖い。しかし今隣にリンは居ない。

 座ったまま【気配察知(極)】を切らさないように気を付けながら目を閉じる。

 ウトウトしては覚醒を数度繰り返す。
 完全に寝入ってしまうと悪夢を見るだろうし何よりスキルを維持できない。
 なのでこれくらいが丁度いいだろう。

 何度目かの覚醒を迎えた時、【気配察知(極)】に何かが引っかかった。

 寝る前にこの周辺の魔物は殲滅したから新手だろう。

「ん?  なんか気配がデカいというかなんというか……」

 普通の魔物では無さそうだ。
 すぐに【傲慢なる者の瞳】を発動して気配の元を確認してみるが真っ暗で何も見えない……

 時刻は深夜、薄らと曇っているため月明かりは届かない。

 転移魔法で強襲しようにも出現位置がハッキリと見えないと使えないし……
 もう少し近付いてきたらアイツの頭上に光魔法で光源を作ろう。
 正面から戦うにしても強襲するにしても視界確保は必須だ。

 集中して気配を読みあと数歩近付いたら魔法を使おうと身構えていると敵はそこで立ち止まってしまった。

 岩陰からじっと見ていると奴は両手を広げて口を開いた。

「ニンゲンよ、その血肉を魔王様に捧げよ!」

 瞬間、気配が増えた。

 2、4、8、16、32……

「くそっ」

 どんどんと増えていく気配に慌てて岩陰から飛び出して空に向けて光源の魔法を放ち視界を確保する。

 目の前には大量のスケルトン、その数は優に100を超えている。
 この現象を引き起こした術者はスケルトンの壁に遮られていて姿を確認出来ない。

【傲慢なる者の瞳】で確認しようかとも考えたがそんなことをしている間にもスケルトンは増えていくだろう。
 それなら確認するより全部吹き飛ばした方が早い。

 剣に光属性の魔力を込めて【天翔閃】を放つ。
 大きな光の斬撃は数十匹のスケルトンを折り、砕き、消滅させていく。

「ん?」

 スケルトンたちを吹き飛ばしこれで術者に視線が通ると思ったが、スケルトンの壁の向こうには大きな盾を構えた骨が更なる壁を形成していた。

 その後ろからは剣を持った骨や犬や狼くらいの四足の骨が現れこちらに向かってくる。

 さらにその後方からは火球や雷撃、氷塊などの魔法攻撃まで飛んできた。

 その魔法は味方であろう剣持ちの骨や四足の骨も巻き込みながら向かってくる。

「めんどくせぇ!」

 回り込むように移動して魔法を回避、再び【天翔閃】を放って近寄ってくる骨どもを粉砕する。

「お返し!」

 剣を右手に持ち左手に炎と風の魔力を集め【合成魔法】と【魔法威力上昇(極)】を発動、無理やり球状に成型して盾持ちスケルトンの背後を狙って放つ。

 風を宿した火球は盾持ちスケルトンの背後に着弾、轟音を響かせて大爆発を引き起こした。

 着弾地点付近を狙って三度【天翔閃】を放ち走る。
 剣を振り上げ襲いかかってくる骨をすれ違いざまに斬り捨てて砂煙の中に飛び込んだ。

 風魔法を発動して砂煙ごと近くのアンデッドを吹き飛ばして前を向くと、豪奢なローブを着用している骨が居た。

 両脇には2メートルはありそうな巨躯に古ぼけた長剣と大盾を持つアンデッドの騎士、後方にはボロボロのローブを纏った骨の魔法使いを4匹侍らせている。

「デスナイトか……」
「ほぅ……ニンゲン、デスナイトを知っているのか」

 俺の呟きに答えたのは豪奢なローブを着たアンデッド。どう見てもコイツが術者だろう。

「もしや貴様がガイアスを倒したニンゲンか?」
「ガイアス?」

 なんか聞いたことあるような無いような……誰?

「惚けるな、ニンゲンの都市を攻めていた獣人のことだ」

 獣人……ケモ耳……猫耳美少女……ああ!

「あの名無しのヘタレ人狼さんのこと?  あれ?  ヘタレの名無しだっけか……」

 どっちだったかな……
 ガイアスとか言われてもわからんよ、ちゃんと名前で言ってくれないと。

「ふん、ガイアスを倒していい気になっておるのかも知らんが所詮ガイアスは四天将でも最弱!  デスナイトにも勝てぬ弱者が四天将を名乗っていたことも腹立たしいわ」

 おお、クク……奴は四天王最弱!  をリアルに聞くことが出来るとは……

「ということはアンタも四天将の1人ってことで間違いないのか?」
「そうだ!  我こそは四天将が一角【不死王】アノニマスである!」

 バーン!  と効果音のつきそうな名乗りだけど……アノニマス?
 アノニマスって匿名とかそんな意味だったような……
 つまりこいつもヘタレの名無しアンデッドね。

「行けデスナイト!  思い上がったニンゲンを叩き潰せ!」

 アノニマスの号令で2匹のデスナイトが一歩踏み出してくる。

 なんか調子に乗ってるみたいだし、サクッと終わらせようか……

【魔力撃(極)】を使い剣に光属性の魔力を注入、【瞬間加速】を使ってデスナイトに向かって加速。

 以前教国の迷宮で戦ったことのある相手だ、デスナイトの反応速度を僅かに上回る速度で跳躍、顔面を刺し貫く。

 頭部を粉砕され倒れるデスナイトの肩を蹴りさらに高く翔ぶ。
 空中で再度【魔力撃(極)】を使用して剣に魔力を流し込みアノニマスの背後に控える魔法使い風アンデッドに向け【天翔閃】を放ち粉砕。

 姿勢を立て直して【天駆(上)】【瞬間加速】を同時発動、何も無いはずの空間を蹴りつけ加速、その勢いでもう1匹のデスナイトの太い首を両断する。

「な……!」

 アノニマスは何かを言おうと口を開いたが遅い。

 光属性の魔力を込めた剣を振り上げそのままアノニマスの頭に振り下ろす。

 一刀両断、そのままアノニマスは声を発することも無く灰となり風に流され消えていった。

 《【闇視】を獲得》

「うし!」

 周りを見るとまだ沢山残っていたスケルトンたちも術者が倒れたからだろう、全てのスケルトンも倒れ灰に変わっていくのが見えた。

 それを見届けてから【気配察知(極)】を駆使して周囲に魔物の気配がないか調べる。

「大丈夫そうだな……魔王城の方も動きはないか」

 割と派手に戦ってしまったので気付かれたかもしれないと思ったが誰かが出てくる気配は無い。

 夜が明けるまでしっかりと監視を続けた。
しおりを挟む
感想 194

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

処理中です...