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第6章……復讐の勇者編

133話……天使と悪魔

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 《酷いじゃないかガブリエル》
『ちっ……』

 ルシフェルを睨みつけていたガブリエルだがもう一度名前を呼ばれたことで盛大に舌打ちして顔を背けた。

 ルシフェルはヤレヤレといった感じで肩をすくめている。

「えっと……」

 突然のことすぎて何も言葉が出ない。
 リンに至ってはもはや現実逃避なのかなんなのか、無表情で立ち尽くしている。

『貴様のせいでマスターが困っておられる。どうしてくれる?』
 《それは申し訳無いね。攻略の報酬を渡すからそれで勘弁してくれないかい?》
『ちっ……本来それはこの部屋に辿り着いた者全てに渡すものだろうが……なにを偉そうに』
 《もしかしてガブリエルも欲しいのかい?》
『……マスターの力になれるのならば……』
 《いや無理でしょ、一応元天使とはいえこの力は悪魔の力、キミに与えることは出来ないよ?》
『ぐっ……貴様……』

 マスター?  あれ?  ガブリエルがウルトの中の人なの?
 なんか今にも殴り合いが始まりそうなんだけどこれどうしたらいいの?

 ぐぬぬと睨みつけるガブリエルとヘラヘラしているように見えるルシフェル、誰か助けて……

『申し訳ありませんマスター、取り乱しました』

 俺が困っているのに気付いたのかガブリエルがこちらに歩み寄ってきて深く頭を下げた。

「いや、別にいいんだけど……」

 ウルトと呼んでいいのか悩む。ガブリエルの方がいいのか?

「えと、なんて呼べばいいのかな?  ガブリエルの方がいい?」
『いえ、今まで通りウルトとお呼びくださいマスター』
「分かったよ」
 《へぇ、あの堅物がねぇ……》
『貴様はいい加減に!』
 《怖いなぁ、怒らないでよウルトくぅん》
『堕天使風情がマスターから頂いた私の名を呼ぶな!』
 《ウルトはダメ、ガブリエルもダメ、ならなんて呼べばいいのさ?》
『ぐぬぬ……』

 ずっとぐぬぬしてるな、これ話進まないぞ。

「それでルシフェルはなんでウルトを呼び出したんだ?」
 《え?  別に理由とか無いよ?  そこに居たから呼んだだけさ》
「えぇ……」

 なんだそれ……でも何となく分かってきた、ルシフェルは楽しければいいみたいなタイプだ。

 《さて……話も一段落着いたし本題に入ろうかな?》
『さっさとしなさいこのグズが』

 ウルエル口悪いな……いかん、名前が混じってしまった。

「本題?」
 《迷宮攻略の報酬さ、キミたちには報酬と攻略の証明をあげるよ》
「戦わなくていいのか?」
 《戦いたいなら戦うけど?  》

 どっちでもいいけど……

 《ふふ……本来迷宮はここに辿り着いた時点でクリア、最奥の悪魔と戦う必要なんて無いんだよ》
「じゃあ今までの迷宮で戦ってきたのは?」
『この堕天使が迷宮を書き換えた弊害ですね。書き換えられたせいで管理者は自我を失い役割を忘れました』
 《はは、そこは申し訳無いと思ってるよ》
「つまり……?」
 《本当なら攻略したチーム全員に報酬が渡されるハズだったんだよ。迷宮の難易度を僕が上げたせいで管理者の自我が失われてそれもめちゃくちゃになっちゃったみたいだけど……ごめんね?》

 いや謝られても……
 いや、本当なら傲慢、憤怒、色欲は全員貰えたはずだったのか……
 なら謝って済む話じゃないな!

『そうです。全てこの堕天使の責任です』
 《だから謝ってるじゃないか……これでも僕の書き換えた迷宮を攻略したキミたちを本当に賞賛しているんだよ?》
「なんかもうよくわかんないや、それで何くれるの?」

 またしても口論が始まりそうだったので先に割り込んでおく。

 《そうだね、ガブリエルと話してると進まないね!  報酬は選ばせてあげるよ。全てを見透かすスキル【傲慢なる者の瞳】と特殊職業【傲慢な魔法使い】どっちがいい?》
「どんな能力か聞けたりは?」
 《しないね》

 ふむ……

『【傲慢なる者の瞳】は監視系スキルです。使用すると上空か全てを見下ろす視点で見えるようになります。【傲慢な魔法使い】は魔法使い系統上位職になります。リン様の大魔道士と比べると魔防は下がりますが魔攻はこちらの方が上ですね』

 どんな能力か考えているとウルエルが詳細を教えてくれた。
 上空からの監視か……

「ウルエル、【傲慢なる者の瞳】は建物の中とかは見えるのか?」
『混ぜないで下さいマスター……ウルトで構いません。このスキルだけでは建物内は見えませんが……私の【万能感知】と組み合わせることで見えなくとも詳細はわかります』
「あ、ごめんごめん、つい……」
『気を付けてください。私はマスターから頂いたウルトという名前を気に入っておりますので』
「気に入ってたんだ……了解、気を付けるよ」

 話を戻して……あの言い方だと俺が【傲慢なる者の瞳】を選べばウルトの【万能感知】と併せて使えるってことか。

 《全く……なんで教えちゃうかな》
『今の私は天使というよりマスターの所有物ですので』

 ルシフェルの小言に対してウルトはそっぽを向いたまま答える。
 険悪だなぁ……

「クリード、あたしは【傲慢な魔法使い】にするけど……クリードはどうするの?」

 ようやくリンが現実に戻ってきたようだ。

「俺は【傲慢なる者の瞳】にしようと思う。職業貰って万が一ウルトとの繋がりが消えたりすると全部終わるから選べないよ」

 職業【トラック運転手】が【傲慢な魔法使い】に変更されてウルトとの繋がりが消えたりしたら目も当てられない。
 一番の目的でもある勇者討滅が困難になってしまうからだ。

「そうね、それにウルトの説明だと万が一勇者が逃げても捕捉出来そうだしね」
「そうそう、だから悩む必要も無いかな」
 《決まったみたいだね》

 俺とリンが話しているとルシフェルも話に入ってきた。

 《じゃあ報酬を渡そう。受け取ってくれ》

 ルシフェルの手が黄金に輝き2つの光の玉が現れた。
 その玉はそれぞれが俺とリンの胸に吸い込まれるように消えていく。

 左腕の腕輪に目をやると金の宝玉が新たに追加されていた。

「あ、あたしにも腕輪着いたわね」

 リンも左腕に違和感を感じたのか袖を捲って確認している。

 《これで傲慢の迷宮は攻略完了だ。おめでとう!》

 パチパチと拍手するルシフェル、隣では天使姿のウルトも手を打ち鳴らしている。
 ここは息ぴったりなんだ……

 《さぁ地上に戻るといい。僕の力を使ってキミたちの願いを叶えておいで》

 ルシフェルの隣には光り輝く魔法陣。
 あれに乗れば一瞬で地上に戻れるだろう。

『さっさと行きましょう。もうこんな場所に用はありません』
 《つれないなぁ……そうだ!  レオくんにはこれをあげるよ》

 ルシフェルは黒い穴を出現させてそこに手を突っ込む。
 引き抜くと手には白銀に輝く美しい鎧を持っていた。

「鎧?」
 《うん。僕が天使だった頃に着ていた鎧だ。今は悪魔だから僕には装備出来ないんだよね》

 鎧はルシフェルの手を離れふわふわと俺の元まで飛んできた。

 《【明けの明星】、全ての害意ある攻撃を反射する鎧だよ。この世界の人間に装備できる代物では無いけど異世界から来た勇者の資格を持つキミなら装備出来るはずさ……まぁそれでも人間であるレオくんには全ての力は扱えないだろうけど全ての攻撃を軽減くらいはしてくれると思うよ!》

 そんな大層な鎧を貰ってもいいのだろうか……

『マスター、貰っておきましょう。その鎧はそこの堕天使が持っていてもなんの意味もない鎧です』
「ウルト……分かったよ。ありがとう」

 鎧を抱えたまま直角に腰をおり頭を下げてお礼を述べる。

『では戻りましょう』

 ウルトは光の玉の姿に戻りトラックに溶けていく。これでいつも通りか……

『お乗り下さい』
「分かったよ……ルシフェル、本当にありがとう」
「もう会うことは無いだろうけど、楽しかったわ」
 《キミたちが何を成すかここから見守っているよ。願わくばほかの迷宮も攻略してあるべき姿に戻して欲しい》

 ルシフェルに別れの挨拶をしてウルトに乗り込む。
 最後の最後に何か言っていたが喋り終わる前にウルトが魔法陣に触れたので返事をすることが出来なかった。

 最後くらい聞いてやれよ……

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