異世界勇者のトラック無双。トラック運転手はトラックを得て最強へと至る(トラックが)

愛飢男

文字の大きさ
上 下
56 / 266
第2章……迷宮都市編

51話……クリードの悩み相談室(上)

しおりを挟む
 翌朝、誰に起こされることも無く気持ちよく目覚めることが出来た。
 風呂に浸かったからだろうか?  肉体的な疲れは元々ほとんど感じていなかったが精神的にすごく軽い気がする。
 これからはちょくちょく行ってみよう。

 今は……7時前か、朝食は大体いつも8時半から9時くらいだから少し早い。

「朝練しようかな」

 朝の支度を整えて部屋を出る。
 階段を降りて食堂へ目をやると数人の客が朝食を食べていた。
 知ってる顔は無い、冒険者かな?

 聞いた話によるとこの宿はシルバーランク中位からゴールドランク下位くらいの冒険者が定宿にしているらしい。

 別にほかのランクの冒険者が泊まってはいけないわけではないがこういうのは不思議と住み分けがされるものだ。
 暗黙の了解ってやつだね。

 そんなことを考えているうちに裏庭に到着。どうやら先客が居るようだ。

「ケイト?」

 先客はケイトだった。
 ウルトの【生命感知】なら個人も特定出来るが俺の【気配察知】では気配の大きさは分かっても個人までは分からないからな。

 ケイトは端の方で黙々と剣を振っている。
 かなり集中しているようだし声掛けるのは悪いな。

 俺もケイトの邪魔にならないよう端の方に陣取り剣を取り出して素振りをする。

 昨日と同じように一振ごとに修正点を探し修正するように確かめながら振る。

 しばらく集中して振っていると、俺の【気配察知】が近付いてくる気配を捉えた。
 とはいえ誰かが裏庭に足を踏み入れたのなら先に気付いたはず、それが無かったということは近付いてくる気配はケイトのものだろう。

 気配は俺から数歩離れた位置で停止、声を掛けてこないならキリのいい回数までやってから声掛けようか。

 黙ってこちらを見ているだけのようなので気にしないようにしながら残りの回数をこなした。

「ふぅ……おはようケイト」
「おはようクリードくん。綺麗な振りだったよ」

 振り返って声を掛けると挨拶とともにタオルを渡されたので礼を言って受け取り汗を拭う。

 石鹸の香り……浄化魔法だと匂いも消えるからなんだか新鮮な気分だ。

「たった数日でここまで綺麗に振れるようになるなんてクリードくんはすごいね」
「いや、ケイトの教え方が上手かったから……ってどうしたその顔!?」

 顔を拭いてケイトの顔を見るとすごく疲れたような顔をしていて目の下にもくっきりとクマが浮かんでいた。

「あっ……」

 ケイトはしまったとでも言うような表情を一瞬浮かべて俯いてしまった。

「どうしたんだ?  なにかあったのか?」
「いや……僕たちの問題だから……」

 心配して声を掛けるがケイトは自分の問題だと突っぱねてくる。
 だけどこれは……この表情はかなり危ない。

「俺が力を貸せることはあるか?」
「無いよ……これは僕が、僕たちが解決しないといけない問題なんだ」

「じゃあ……」
「ごめんね、本当は声を掛けるつもりは無かったんだけどついね……じゃあまた!」

 そう言って駆け出そうとするケイトの腕を反射的に掴んでしまった。

 いや、これでいい、昔こんな表情をしたやつの腕をその時は掴めなかったのだから……

「離してよ……」
「悪いけどそれは無理かな?  ケイトが話すまで離すつもりは無いよ」

 もう後悔は嫌だ。どっちを選んでも後悔するとしても俺は何かをして後悔したい。

「話しても……なんにもならないよ」
「それは話してみないと分からないだろ?  役に立つ立たないは置いといて話すだけでも楽になることって案外たくさんあるんだぜ?」

 俺が思っていることをそのまま、しかし敢えて口調は軽くして伝えるとケイトはこちらに向き直りポツポツと話始めた。

「状況から言うと、実は今パーティ解散の危機なんだ」
「解散?  なんで?」
「簡単に纏めると、色んな意味で僕にはついていけないってことみたい」

 ついていけない?  力量差のことか?

「元々僕たちは幼なじみでさ、一緒に村を出て冒険者になったんだ。それから6年、大変だったこともいっぱいあったけどまずはみんなでゴールドランクになろうって……それからリバーク迷宮の到達階層を更新、攻略しようって今まで頑張ってきたんだ……」

 けど……とケイトは続ける。

「でもこの前、僕たちが初めて出会った日だね。覚えてるかな?  あの日初めて僕たちは全滅の危機を迎えてたんだ……」
「もちろん」

 当然覚えている。5階層を探索してる時にオーガに囲まれたケイトを発見して助けたんだよな。

「嬉しかったよ。冒険者になってから助けることはあっても僕が助けられたことなんてほとんど無かったからね……それはいいや、それでその時ハンスがミナを庇って死にかけて……」

 サーシャが居なかったら危なかったな……

「今まで喧嘩したりもしたけどすぐ仲直り出来てたんだ。でもあの時からみんなよそよそしくなって……ハンスとミナはもう迷宮には潜れないって……ディムとクレイとロディももう5階層には行かないって……」

 ケイトの目からポロポロと涙が零れる。

「最初は僕が頼りないから……僕がみんなを守れないからいけないんだって思って……それできみたちのパーティに混ぜてもらって5階層よりもっと深く潜ってレベルを上げようとしてたんだ」

 あぁ、オーバーフローの時に話したいことがあるって言ってたのはそれか。

「でも、みんなそうじゃないって言うんだ!  僕が弱いから、頼りないからじゃなくて自分たちが僕の足を引っ張るからって言うんだよ!  僕はみんなと一緒が良かったんだ、僕がみんなを守ればいいって思ってたのに、みんなはそれが心苦しかったって……」

 だんだんと声が小さくなり嗚咽が漏れ始めた。

「ヒグッ……僕はみんなと別れたくないんだ……でも……でもきみたちと迷宮に潜った時も楽しかったんだ……あぁ、みんなの言う助け合える関係ってこういうことなんだって分かったんだ、でも……だから……どうしたらいいか分からなくなっちゃったんだよ!」

 手で顔を覆い本格的に泣き出してしまった。
 こんな時どうすれば……

「落ち着いて、泣いてもいいから深呼吸だよ」

 俺はそっとケイトを抱きしめて背中をさすってやる。

 まだ出会ったばかりで関係性の薄い女性にこれはどうかとも思うけどこれしか思いつかなかった……
 だって妹や今まで付き合ってきた恋人はこうして欲しいって言ってたんだもの……

 ケイトは俺のシャツを握りしめながら顔を胸にくっつけて小さく震えている。

 それを落ち着かせるよう優しい声で話しかけながら背中をポンポンと叩いてやる。

「僕は最低だよ……みんなと別れたくない気持ちときみたちと一緒に行きたい気持ち両方あるんだ」
「それのどこが最低なんだ?  そういう気持ちがあったって何もおかしくないさ」
「でも……」

 えぐえぐと俺の胸で泣いているケイトを慰めていると俺の【気配察知】に3つの気配が引っかかった。

 ケイトに気付かれないようにそちらへ視線をやると、物陰から顔だけ出してこちらを見ているサーシャ、ソフィア、アンナの姿が目に映った。

 やっべ……なにがとは言わないけどなんかやばい気がする……

 しばらく視線を行ったり来たりさせながらも背中を叩くては止めずに慰めているとケイトの震えが止まった。

「僕は……どうしたらいいのかな……」
「やりたいようにすればいいさ。しっかり話し合って続けるにしても別れるにしてもちゃんと納得出来るようにしないとな」
「うん……」

 ケイトは俺からそっと離れて俯いたまま手をモジモジとさせている。

「あの……!」

 何かを言おうと顔を上げたが、赤かった顔が一瞬で青くなっていく。

 あぁ……これはサーシャたちが覗いてることに気づいたな……

「あの……えっと……ごめん!  ちゃんとみんなで話し合うよ!」

 そのままケイトは顔を隠して走り去って行ってしまった。
 速いな……

「クリード様……」
「なに話してたんスかぁ?」

 サーシャは真剣な顔で、ソフィアはいつもの無表示、アンナはニヤニヤと笑みを浮かべてこちらに近付いてきた。

 さてどうしたもんかね……
しおりを挟む
感想 194

あなたにおすすめの小説

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

職業・遊び人となったら追放されたけれど、追放先で覚醒し無双しちゃいました!

よっしぃ
ファンタジー
この物語は、通常1つの職業を選定する所を、一つ目で遊び人を選定してしまい何とか別の職業を、と思い3つとも遊び人を選定してしまったデルクが、成長して無双する話。 10歳を過ぎると皆教会へ赴き、自身の職業を選定してもらうが、デルク・コーネインはここでまさかの遊び人になってしまう。最高3つの職業を選べるが、その分成長速度が遅くなるも、2つ目を選定。 ここでも前代未聞の遊び人。止められるも3度目の正直で挑むも結果は遊び人。 同年代の連中は皆良い職業を選定してもらい、どんどん成長していく。 皆に馬鹿にされ、蔑まれ、馬鹿にされ、それでも何とかレベル上げを行うデルク。 こんな中2年ほど経って、12歳になった頃、1歳年下の11歳の1人の少女セシル・ヴァウテルスと出会う。凄い職業を得たが、成長が遅すぎると見捨てられた彼女。そんな2人がダンジョンで出会い、脱出不可能といわれているダンジョン下層からの脱出を、2人で成長していく事で不可能を可能にしていく。 そんな中2人を馬鹿にし、死地に追い込んだ同年代の連中や年上の冒険者は、中層への攻略を急ぐあまり、成長速度の遅い上位職を得たデルクの幼馴染の2人をダンジョンの大穴に突き落とし排除してしまう。 しかし奇跡的にもデルクはこの2人の命を救う事ができ、セシルを含めた4人で辛うじてダンジョンを脱出。 その後自分達をこんな所に追い込んだ連中と対峙する事になるが、ダンジョン下層で成長した4人にかなう冒険者はおらず、自らの愚かな行為に自滅してしまう。 そして、成長した遊び人の職業、実は成長すればどんな職業へもジョブチェンジできる最高の職業でした! 更に未だかつて同じ職業を3つ引いた人物がいなかったために、その結果がどうなるかわかっていなかった事もあり、その結果がとんでもない事になる。 これはのちに伝説となる4人を中心とする成長物語。 ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

処理中です...