転生して間もなく乙女ゲーで言うところの悪役令嬢を拾いました。不憫に思い手を差し伸べたらいつの間にか尻に敷かれていました。誰か助けて……

愛飢男

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とみぃの日常

75話。買い物デート

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「アイリス、早く行こう?」
「え、ええ。そうですわね」

 家の外に出たはいいが、アイリスがピクリとも動こうとしない。
 声をかけてみれば返事はするのだが、どうしたのだろう?

「アイリス?」
「トミー、これはデートなのですわよね?」
「ですです」

 恋人同士の男女が二人で出掛けるならそれはデートだろう。
 カテゴリ的には買い物デートかな?

「でしたら……その……手を……」

 手?
 もしかして、手を繋ぎたいのかな?

「これでいい?」

 隣に立ち、左手を伸ばしてアイリスの右手を掴む。
 驚いたのか、ギュッと握ってくるのがこれまた可愛い。

「ち、違いますわ!」
「ありゃ、それは失礼」

 違ったか。だったらなんだろう?

「『タロウ・ヤマダの冒険記』には恋人同士が手を繋ぐのはこうするのだと書いていましたの」

 アイリスは一度俺の手を離し、改めて指を絡めるように繋ぎ直す。
 所謂恋人繋ぎである。

「こ、こうですわ!」
「なるほど、これがしたかったのね」
「したかったわけでは……こうするものだと書いてあったんですの……」
「そうだね。こうするべきだよね。アイリスは何も間違っていないよ」

 俺としても異存は無い。むしろ山田太郎くんグッジョブ。
 願わくば一度会ってみたかったよ。
 あと『タロウ・ヤマダの冒険記』全部読んだよ。
 下手なラノベより全然おもしろかったよ。

 まぁ山田太郎は置いておいて、しっかりと手を繋いだ俺たちはとりあえず目的の物資調達のために市場へと足を向ける。

 互いに緊張しているのか、ぎこちない会話をしながら歩くこと20分、市場に到着したので目に付くものを適当に買い漁りカバンに詰めていく。

 食料品も大事だが、一番必要とされているのは塩なので、売っている店を見つけるとその度に壺ごと購入する。

「ボッター商会に頼めばいいんじゃありませんの?」
「頼むって……アイリスとティファリーゼが俺が個人でやるならって言ってたから……」
「ですのでボッター商会に物資を集めてもらって一括でトミーが購入すれば問題ありませんわ」
「その手があったか……」

 そうだよ、手間賃と手数料込みでボッター商会から購入すればいいだけの話だった。

 そうすればスポンサー云々は関係なくて、ただの客と商会の関係で買い物出来たじゃん。

「でも……そのおかげで買い物デートが出来ていますから、文句はありませんわ」

 失敗したと頭を抱えそうになるが、アイリスが問題無いと言うのなら世界の全ては問題ない。

 アイリスが喜んでくれるのなら俺は進んで失敗してもいい。

「それで、次はなにを買いますの?」
「衣類を考えていたんだけど……そうだね、あとはボッター氏に相談するよ。だから……」

 一瞬頭を悩ませる。
 あの集落への支援物資の調達をボッター氏に任せるのなら、俺の予定は無くなってしまう。

 予定が無くなったのなら、アイリスのために時間を使えばいい。
 しかしデートと言っても、俺はこの街には詳しくない。
 それはアイリスも同じだろう。

 こういう時に頼りになるのがエリオットとの会話なのだが、エリオットもクリストも女性にはモテないらしく、デートスポットなどは全く教えて貰えていない。

 彼らが教えてくれるのは美味い飯屋、それなりの装備が揃う装備品店、安い飲み屋、高いけど綺麗なお姉さんにお酌してもらえるお店、セクシーなお姉さんが手を振ってくれるお店くらいのものだ。ほんと役に立たねぇな……

 それならば日本での記憶に頼る他ない。

 これでも日本で40年弱生きてきたのだ、それなりの人生経験は積んでいるし、その中には女性と付き合った経験も無くはない。多くもないけど。

 将来を誓い合った男女がデートで行くところと言えば……

 ラブほ……いかん。それはいかん。
 それはティファリーゼからいい連れ込み宿を聞いてから……って違う!

 エリオットたちに引っ張られ過ぎている、ここは一度建て直して……

「……指輪」
「え?」
「指輪を選びに行こう」

 将来を誓い合う、言うなればそれは婚約だろう。
 婚約ならば婚約指輪が必要だ。

「ゆびわ……」

 アイリスは「ゆびわ」とぶつぶつ呟くだけのゆびわbotと化してしまった。

「いらないかな?」
「ほ、欲しいですわ!」

 いらないのなら別のものをと考えていたが、どうやら欲しいらしい。
 アイリスが欲しいというのなら全財産叩いてもかまわない。
 必要とあらば大森林の魔物を全て駆逐してでも金を稼ぐ所存である。

「じゃあお店探そうか。アイリスはいいお店知ってたりする?」
「知りませんわ。でも、ボッター商会に行けば間違いないと思いますわ」
「それもそうか」

 ついでに支援物資集めも依頼しておこう。
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