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戦うとみぃ

71話。男爵級

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 なんとも言えない雰囲気の中、軽く夕食を摂り出現地点へと向かう。

 中央広場にはすでに多くの兵士や冒険者が完全武装で集まっており、一般人が近寄らないよう厳戒態勢を敷いていた。

「ご苦労さま」
「これはデーモンバスターズの皆様、周囲の封鎖は完了しております。存分に戦ってください」
「ありがとう。極力被害が出ないように気をつけるよ」
「いえ、お気になさらず。周囲に気を遣って使徒様方が怪我をしてしまう方が大変でございます」
「それはわかってるよ」

 俺が怪我するのはいいけど、アイリスが怪我するのはダメだから。

 まぁ、今日に限ってはそんか心配は皆無である。
 なぜなら、俺が絶好調だから。男爵級程度、ワンパンで塵に変えてやんよ。

「それではご武運を」
「ありがとう」

 時刻は17時15分、間もなく悪魔の出現時間となる。

「本当にトミーがやりますの?」
「絶好調だから」
「わたくしも同じですわよ?」

 とりあえずアイリスの【ホーリーブレイク】を当ててからあとは流れで……といういつも通りの戦い方をするつもりだったのだが、あまりに絶好調過ぎるのでアイリスにお願いして役割を変わってもらったのだ。

「アイリスのかっこいいところはよく見てるから。たまには俺にもかっこつけさせてよ」
「……そんなこと言われたら断れませんわ」

 期待するような眼差しを俺に向け、アイリスは一歩さがる。
 どうやら納得してもらえたようだ。

「トミーくん、アイリスちゃん、あと……2分よ」

 懐中時計を手に持ち、時間を確認しているティファリーゼからあと2分コールが入る。

 俺は出現と同時に一撃ぶちかますため、アイリスは周辺被害を抑えるために【物質創造】で壁を創りだすために魔力を高めていく。

 ビシリと空間にヒビが入る。
 心做しかいつもより大きいような気がする。

 それを見て、高めた魔力を使用して身体能力強化の魔法を使用、さらに最近ようやく使えるようになってきた聖属性に変換した魔力を全身に纏わせる。

「壁を創りますわ!」

 背後からアイリスの声が聞こえたと同時、鈍色の壁が現れヒビを中心に半径10メートルの範囲を囲う。

 壁と自身の強化が完了、徐々に大きくなるヒビを睨みつけていると、空間が割れると同時に青く光る影が飛び出してきて、斧のような形状をした腕を振り降ろしてきた。

「え、めんど……」

 現界すると同時に咆哮をあげて隙だらけになるんじゃないの?
 なんで無言で襲いかかってくるんだよ。びっくりするじゃないか。

 こんな時ほど慌てず騒がず、振り降ろされる斧の腹に手を添えて力の流れを歪ませる。
 聖竜さんの攻撃を受け流していたのだ、この程度の攻撃を流せなくてどうするよ。

 攻撃を受け流された青い悪魔は体勢を崩し、斧は地面に突き刺さる。

「【秘技、聖拳突き。濃縮8倍】」

 キーワードを唱えると、全身をくまなく覆っていた聖属性の魔力が右拳へと収束する。

 拳を引いて腰を落とし、全身を連動させて拳を振り抜く。

 38歳、拳で! あ、違う。一年以上経ってるから39歳だわ。

 俺の振るった拳は悪魔の胸を捉え、粉砕する。

 後に残ったのは胸部を完全に失ってバラバラに砕け散った悪魔であった残骸だけ。
 それもすぐに黒いモヤへと変じて消えていく。

「ちょ……やりすぎですわ!」

 宣言通りに一撃で男爵級の悪魔を粉砕出来たことに満足していると、後ろからアイリスの叫ぶ声が聞こえてきた。

 やりすぎ?

 もしやと思い前方に目をやると、アイリスの創り出した鋼鉄の壁に大穴が開いていた。

 どうやら拳圧と魔力圧で悪魔だけでなく、その後ろの鋼鉄の壁まで破壊してしまったようだ。

「やっべ……」

 アイリスに壁を消してもらい、開けた視界で慌てて周囲️確認。

 壁の奥にあった建物に傷はなく、その周辺では兵士や冒険者が数人尻もちをついていた。

 教会関係者と思われる一団が怪我人が居ないかと聞いて回っているようだ。

 その中に一人小さな女の子の姿が見える。
 ティリアかな?

「おお……使徒様、終わったのですか?」

 ティリアと思わしき少女を眺めていると、ファトス国の騎士団長が声をかけてきた。

 名前は……えっと……忘れた。

「終わりましたけど……怪我人出ちゃいました?」
「いえ、あの者らは急に壁が破れた驚いて尻もちをついただけですので……」

 良かった、壁を貫通してフレンドリーファイアかましたのかと思って少し焦った。

「あれは使徒様の攻撃でしょうか?」
「ええと……勢い余ってと言いますか……」

 まさか鋼鉄の壁が直接殴った訳でもないのに壊れるとか想像もしてなかった。

 そもそも鋼鉄の壁を殴って壊せる時点で人間辞めてる気がするし。

「使徒様の攻撃で良かったとも言えます。あれがもし悪魔が壁を破って出て来た場合、何も出来ずに殺されていたでしょうから」
「まぁそうですね」

 悪魔の目の前で尻もちついてるとか、殺してくださいって言っているようなものだ。

「なんにせよ……ありがとうございました。使徒様たちのおかげでファトスは救われました」

 騎士団長が頭を下げると、周りに居た兵士や冒険者も倣って頭を下げる。
 こんな大勢にお礼を言われるなんてこそばゆいってもんじゃない、もっと軽い雰囲気でいいんだよ?

「いえ、そんな……」

 それから俺たちは城へと案内され、大変な歓待を受けた。

 美味しいご飯と美味しいお酒は嬉しかったけど、綺麗な女性を俺につけようとするのだけはやめて欲しかった。

 アイリスがものすごい目でこちらを睨んでいるんだもの。
 せっかくの食事の味が途中から全く分からなくなってしまった。
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