転生して間もなく乙女ゲーで言うところの悪役令嬢を拾いました。不憫に思い手を差し伸べたらいつの間にか尻に敷かれていました。誰か助けて……

愛飢男

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戦うとみぃ

70話。夢心地

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 このままの速度で向かうと真夜中に到着することに気が付いたので速度を半分ほどに落としてのんびり街道を進んでいく。

 時折落ちそうになるアイリスの頭を定位置に戻したりトイレ休憩を挟んだりしながら十数時間、開門直前にファトスへと到着した。

「寝てる間に着いたわ、相変わらず便利ね」
「もう馬車なんて乗れませんわ」

 一度文明の利器を体験してしまえばもう元には戻れない。
 順調にアイリスは俺が居なくては生きていけない体になりつつあるな。

 前回の襲撃で破壊された門がまだ直っていないようで、本来門のあるべき場所を数人の兵士が通せんぼしている。

 緊急事態につき、車に乗ったまま兵士の目の前まで移動して横付けする。
 窓を開け、ファトス王から貰っている通行許可証と冒険者証を兵士の前に突きつけた。

 余った農作物を売りに来た農民や、商品を運んでいる商人に驚かれたが今は無視する。順番飛ばしてごめんね。

「これは……」
「緊急事態につき車内から失礼。大至急ファトス王に謁見したい。通してもらえるだろうか?」
「使徒様……どうぞお通りください!」

 兵士たちが慌てて道を開けてくれたので車を降りずそのまま進め、中央広場の前で一旦停車した。

 ここは俺が伯爵級の悪魔と戦った場所で、直後は瓦礫や建物の残骸で酷いことになっていたが、今はでは瓦礫の撤去も行われて復興の兆しが見え始めている。

「ここはトミーが伯爵級と戦った場所ですわね」
「へぇ、ここが」

 アイリスは感慨深そうに、ティファリーゼは興味深そうに中央広場を眺めている。

「せっかく片付いてきてるのに、またここで戦うことになるとはねぇ」

 中央広場に悪魔が現れることは既に伝えてある。
 思い出したのか、アイリスとティファリーゼの表情が引き締められた。

「極力、被害は出ないよう気をつけますわ」
「まぁいつも通りだね」

 街の外で戦うのであれば気にしないが、街の中で戦う時には毎度俺の【物質創造】を用いた壁で囲ってアイリスが一刀両断という作業になりつつあった。

 壁で囲わないと剣圧で街に被害が出てしまうからね。
 そのおかげで俺とアイリスの悪魔討伐数はアイリスの方が多い。

「じゃあお城に行きましょう」
「そうだね」
「トミーはダメですわよ」

 ダメなの?

「トミーくん、貴方寝てないでしょ? トミーくんが一日二日寝なくても大丈夫なのは知ってるけど、寝れる時にはしっかり寝ておきなさい」
「でも城に行くんでしょ?」
「それはあたしとアイリスちゃんで行ってくるから。ほら、そこの宿で寝てなさい」

 見通しの良い中央広場から見える宿に放り込まれ、アイリスとティファリーゼは城へと向かって行ってしまった。

 とりあえず一泊一人部屋を取り、部屋に入って横になることにした。



 ◇◆



「トミー、そろそろ起きてくださいまし」
「ん……」

 体を揺すられる感覚で目が覚めた。
 目を開けると、アイリスの顔がドアップで映りこんだ。

 これは夢だろうか? 美しい……

「まるで女神のようだ……」
「はい? 何を言って……」

 こんな美しい顔が目の前にあったらやることはひとつだよね?

 寝起きでまだ意識がはっきりとしていないせいか、無意識のうちにアイリスの唇にキスをしてしまった。

 忠誠のちゅーせいよ。ナンチャッテ。

「ちょ……トミー!?」

 アイリスは俺にキスをされた唇を両手で押えながらバックステップ、壁際まで下がってしまった。

「……何事!??」

 アイリスの叫び声で急速に意識が覚醒する。

 アイリスが叫ぶということは、かなりのピンチである可能性が高い。
 発見と同時に【クリエイトトラック】をぶちかませるよう全身に魔力を滾らせて立ち上がる。

「敵はどこ!?」
「そこですわ!」

 アイリスの指差す方向に体を向けるが、そこには壁しかない。

 まさか姿を消す系の敵……?

 なんの気配も感じられないので、もう一度アイリスの方を見ると、アイリスは相変わらず指を差し続けている。

 その指の向いている先を改めて確認すると……

「俺?」
「そうですわ。トミー、自分が何をしたのか覚えていませんの?」

 まさかの俺……俺がアイリスの敵になるわけがないじゃない……

 しかし……俺、なにかしたの?

「俺……なにしたの?」
「本当に覚えていませんの!?」
「なんだか幸せな夢は見た気がする」

 内容までは思い出せないけど。

「本当に……覚えていませんの?」
「何度聞かれましても……」

 俺、ホント何やらかしたの?

 怒ってるのか悲しんでるかわからない表情を浮かべているアイリスを見て、ものすごく不安になってきた。

「トミー……」
「はいっ!」
「例え覚えていなくても……わたくしがやり返すことに文句はありまして?」
「ございません!」

 ホントなにしたんだ……
 この感じ、ぶん殴られても文句はいえないな。

 いや、もし俺が無意識にでもアイリスをら怖がらせたり、嫌な思いをさせてしまったのであれば甘んじて受け入れるべきだ。
 なんならこれはご褒美だ。

「言いましたわね? 覚悟はよろしくて?」
「バッチコイです」
「では……目を閉じてくださいまし」

 思い切り殴られる瞬間を見ていたら思わず避けちゃいそうだから目を閉じておくのは正解だと思う。
 思い切りやっちゃって!

「ちゃんと閉じていますわね?」

 顔の前でぶんぶんと手を振られている気配がする。
 そんなに心配しなくても、アイリスが閉じろというならちゃんと閉じるよ。

 息するなって言われたら死ぬ寸前まで止める自信もあるよ。

「では……」

 来る。
 何が起こっても大丈夫なように覚悟を決め、せめて吹き飛ばされないように足に力を入れて立っていると……

「……んむっ」

 唇に、柔らかい感触。

 あまりに予想外すぎて思わず目を開けると、目の前には目を閉じたアイリスの顔があった。

 え、なにこれ……ちょっと待って? 鼻血出ちゃう。

 驚愕に固まっていると、アイリスが離れ、顔を真っ赤に染めながら俺を睨みつけてきた。

「これで……おあいこですわ」
「はい……おあいこです……」

 何が何だかさっぱりわからない。
 もしかして俺、寝惚けてキスしちゃったの?

 ……寝惚けてファーストキスとか、そりゃ怒ってもしょうがない。
 全面的に俺が悪い。

「食事の用意が出来ていますわ。食べたら行きますわよ!」
「……はい」

 ただ……今なら王級の悪魔が出てきてもワンパンで消滅させられる気がするよ。
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