転生して間もなく乙女ゲーで言うところの悪役令嬢を拾いました。不憫に思い手を差し伸べたらいつの間にか尻に敷かれていました。誰か助けて……

愛飢男

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戦うとみぃ

69話。仮眠

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 アイリスと恋人関係になったからと言って、俺たちのやることに変わりは無い。

 正式にお付き合いをすることとなった翌日には神託が下り、エフリから少し離れた国、サドアへと向けて出発した。

 馬車では間に合わないということなので、今日も俺の【クリエイトオフロード車】での移動である。

 今回の移動をしている間に色々と試し、アイリスとティファリーゼを運転席と助手席に交互に座らせ、俺が後部座席から車を操れば二人とも車酔いをしないことが分かったのでこれからはこうやって移動しようと思う。

 エフリからサドアに向かう途中にあるショトウで一泊した後、サドアに到着した俺たちは門番の兵士の案内でサドア王に謁見、対悪魔戦での協力を取り付けて騎士級の悪魔を討伐した。

 翌日には今度はショトウで騎士級が、さらに翌日にはセドカンで騎士級、そしてその翌日にはセターンでも騎士級の悪魔が出現、落ち着く暇も無く小国家郡を走り回る羽目になってしまった。

 アイリスとイチャイチャする暇も無い。

「ふぅ……サドア、ショトウ、セドカン、セターンと連続したけど、これで一段落かしらね?」
「今のところ神託アプリにはなんの連絡も入ってないと思うけど……」

 セターンでの戦闘を終え、スマホを取り出し画面を開く。

【新着通知一件】

「残念、戦闘中に神託が下ったみたい」
「戦闘なんて数秒じゃない……」

 騎士級の悪魔はそれなりに狩ってきたから手馴れたものだ。

 アイリスの【ホーリーブレイク】や俺の【クリエイトトラック】で出現と同時にワンパンだからなぁ……

「それで、次は何処ですの?」
「ちょっと待ってね。次は……ファトスだね」

 出現地点はファトスの街の中、時間は明日の17時過ぎ。

 今の時間は午前9時なので、車で迎えば余裕を持って到着出来る。

「ファトスですのね。ティリアに会う時間くらいあればいいのですが」
「そうだね……」

 神託を見ながら返事をしていたが、神託の文章がいつもと違うことに気が付いてしまった。

【速報、小国家郡ファトスにて悪魔出現の兆しあり。明日17時20分、男爵級】

「アイリス、ティファリーゼ、ファトスに現れる悪魔は男爵級だって」

 先程までティリアに会えるかなと楽しみにしていたアイリスの表情が引き締まる。

「男爵級……ついに、ですわね」
「騎士級と比べてかなり強いって聞いたことがあるけど……伯爵級も倒したトミーくんが居れば大丈夫よね?」

 ティファリーゼは若干不安そうだ。
 誰にだって初めてはある。騎士級以外をまだ見たことの無いティファリーゼが不安を覚えるのは仕方の無いことだろう。
 こうやって不安に陥った若者を導くのもおじさんの務め、しっかり導いて……ってこいつ俺の5倍生きてるBBAだったわ。

「トミーが居れば大丈夫ですわ。伯爵級だって倒したんですもの、トミーなら男爵級くらい余裕なはずですわ!」
「余裕かどうかはやってみないとわからないけどね」

 対してアイリスは欠片も不安にも思っていない。
 俺がいるから大丈夫と全幅の信頼を寄せてくれているのがなんとも嬉しい。
 これは負ける訳にはいかないよね。

 セターンでの悪魔討伐戦で協力してくれたセターンの騎士団長に挨拶をして、すぐにファトスへと向けて車を走らせる。

「街の中で男爵級と戦うのね……」
「ファトス王には申し訳ありませんが、さすがに被害が出てしまうかもしれませんわね」
「被害は最小限に抑える努力はするけどね。アイリスの【ホーリーブレイク】てワンキルは出来ないかな?」
「やってみますわ。失敗したときはお願いしますわ」
「了解」

 何事もやってみなけりゃわからない。
 絶対に不可能だと分かり切っていること以外はとりあえずやってみてから考えればいい。

 簡単に方針を定め、移動しながら軽く食事を摂る。
 どうしても揺れるので、多少零してしまうが到着すれば消す車だ、問題無い。

「日が落ちて来たわね」
「なんの問題もないよ。それより二人は寝てていいよ」

 車の操作をしなければならないので俺は起きていなければならないが、二人は寝ていても問題無い。

 むしろ明日も悪魔との戦闘があるので、少しでも体を休めてもらいたい。

「トミーはどうしますの?」
「俺は操作しないといけないから。到着したら寝るよ」

 ファトスまで行けと命令を込めた魔力を送り込めば自動でファトスまで向かってはくれるのだが、それをすると最短ルートを直進しようとするからね……

 何かあった時に俺が寝ていると対応出来ないので、起きて操作をする必要があるのだ。

 居眠り運転で事故とか運転手として決してあってはならない。

「そう、じゃあお言葉に甘えて少し寝ておこうかしら」
「どうやって寝ますの?」
「どうやってって……座ったままでも寝れるでしょ?」
「試したことがありませんわ……」

 アイリスのまさかの発言に、ティファリーゼは驚いたような反応を見せる。

 そういえば車での移動中にアイリスって寝落ちしたことないな……
 ティファリーゼはよくヨダレ垂らして寝てるのに。

「アイリスちゃん、冒険者たるもの、どんな状況でも寝れる時に寝ておかないと大変なことになるわよ?」
「でも座って寝るなんて……」

 なんか困ってる雰囲気だけど、アイリスさん、貴方ちょっと前まで俺と一緒に洞窟暮らししてたじゃないですか。
 洞窟暮らしするのと座って寝るのとなら洞窟暮らしの方が大変だと思います。

「どうしても無理?」
「いえ、多分大丈――」
「なら後ろに行ってトミーくんに膝枕してもらったら?」

 大丈夫と言いかけたアイリスの言葉を遮り、ティファリーゼはいつも通り爆弾を放り投げてくる。

 その爆弾を受け取ったアイリスは首がもげるのではないかという勢いで振り返り俺を見つめてくる。
 さすがにちょっと怖い。

「ティファ……それはさすがにはしたないと……」
「付き合ってるんでしょ? なら当たり前よ」
「そうなんですの?」
「もちろんよ」

 間違ったことは言ってない。
 ティファリーゼは何一つ間違ったことは言っていない。

 恋人が膝枕するのは当たり前だよね。

 俺は前が見やすいよう真ん中に座っていた位置をそっと端にずらした。

「本当に? はしたなくありませんのね?」
「はしたなくないはしたなくない」

 膝枕自体ははしたない行為ではないと思うよ。
 ただ、膝枕で横になったアイリスの頭の少し上の方がはしたない状態になるだけだよ。

「では……トミー、お願いしても?」
「いいよ」

 素早い動きで後部座席にやってきたアイリスは、俺の膝に頭を乗せて眠りについた。

 ティファリーゼ、たまにはいい仕事するじゃん。
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