転生して間もなく乙女ゲーで言うところの悪役令嬢を拾いました。不憫に思い手を差し伸べたらいつの間にか尻に敷かれていました。誰か助けて……

愛飢男

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戦うとみぃ

64話。森の中の集落

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 数時間の仮眠を取り、珍しくティファリーゼに起こされ夕食を摂る。

 ティファリーゼがいつもの三倍くらいニヤニヤしている中での食事はかなり恥ずかしかった。

「そうだトミーくん、あたしと部屋替わる?」
「替わらないよ。何言ってるの」
「そそそそそうですわ!」

 そんな感じでティファリーゼ絶好調な食事の途中、ラトイ王の使いという若いイケメンが来てアイリスを夕食に誘うという俺からしたら無期懲役級の罪を犯したが、アイリスが使者の顔すらまともに見ずに断りを入れたので執行猶予処分ということにしておいた。
 次来たら「俺の新しい必殺技の実験台の刑」に処そうと思う。

 アイリスの放った「ホーリーブレイク」を参考にして、聖属性の魔法を放った後、その魔法を巻き込みながら放つ「奥義、真聖拳突き」を会得したいと思うのだ。
 大丈夫、聖属性は人間にはダメージ入らないから死にはしない。俺に殴られるだけだから。

 まぁ前提条件の聖属性魔法が未だ使えていないので、使えるようにならないと話にならないんだけどね。

「じゃあおやすみ二人とも」
「おやすみトミーくん」
「おやすみなさいトミー。あの……」

 食事を終え、二階に上がり部屋の前で就寝の挨拶。
 部屋に入ろうとすると、アイリスに引き止められた。

 もしかして一緒に寝たいのであろうか?
 それはいけない。さすがに我慢できない。

「どうしたの?」
「おやすみのハグを……所望致しますわ」

 え、なにこれ? 夢?
 なんでこんなご褒美ルートに入ってるの?
 悪魔討伐する俺に対しての女神様からのご褒美なの?

「ダメ……ですの?」
「ダメ……じゃない……です」

 エマージェンシー! エマージェンシー! 俺の中で俺の知らない何かが踊り狂っております!

 踊り狂っているなにかに導かれるように、まるでそうすることが自然であるかのように俺の体はアイリスを抱きしめた。
 アイリスも俺の背中に腕を回してしっかりと抱きついてくる。

 柔らかいしなんだかいい匂いがする。
 全世界に向けてこれが俺のアイリスなんだと自慢して回りたい気分になってくる。

「部屋の中でやればいいのに……けどあたし的にはありよりのあり」
「「あっ……」」

 そういえばそうじゃん。ここ廊下じゃん。

「いやぁぁ……」

 アイリスは真っ赤に染まった顔を隠すように両手で覆い、その場にしゃがみこんでしまった。

 しゃがみこむ際に半回転して横向きになってくれて助かった。
 そのまままっすぐしゃがまれると、臨戦態勢となった俺が目の前に晒されることになっていた。危ない危ない。

「まさか……ティファの前で……」

 え? ティファリーゼの存在を忘れていたの?
 てっきり隠れてハグしてもどうせ覗かれるからって開き直って目の前で要求してきたのかと思ってたよ。

「ほら、こんなところでしゃがみこんでたら邪魔になるわよ」
「うぅ……」
「じゃあトミーくん、おやすみ!」
「あ、うん。おやすみ……」

 しゃがみ込んだアイリスの手を引いて、ティファリーゼは借りている部屋へと入っていった。

「……俺も寝よう」

 それを見届けた後、自分の借りている部屋へと戻り、ベッドに入ったのだが……

 悶々としてなかなか寝付けなかった。
 いやきっとお昼寝したから寝付けないだけだ。そうに違いないそうとしか考えられない。

 ちなみに完全に余談なんだけど、この世界にティッシュペーパーって存在しないんだよね。
 不便だよね。



 ◇◆


「トミー! 朝ですわ!」
「ふぁい!」

 翌朝、いつものようにアイリスの突撃で目を覚ます。

 眠い目をこすりながらアイリスの方を見ると、昨日の真っ赤な顔は嘘だったかのようにいつも通りに戻っている。

 まぁ一晩経っているのだから当然か。

「早く起きてくださいまし! 今日は戦いの日ですわよ!」
「そうだった」

 一世一代の告白をカマしたおかげですっかり忘れていた。
 そういえばそのためにわざわざラトイまで来たのだった。

 手早く支度を済ませ、朝食を食べる。
 それから装備の点検を行い、身に纏う。

 全ての準備を終わらせてから、俺たちは戦場となる森の中へと向かった。

「トミーくん、ここって……」
「集落?」

 ラトイの街の中にいるのも不快だと思ったので、早めに出現地点へと向かったのだが、そこには数十人が暮らしていそうな集落が存在した。
 地図アプリにも載っていない小さな集落である。

「トミーの地図には載っていませんでしたの?」
「うん。小さすぎて載って無かったのかな?」

 いくら拡大してもここに集落があるなんて表示はされない。
 地図上では完全にただの森である。

「どうしますの?」
「どうって……避難してもらうしか……」

 現在地は集落から少し離れた森の中。
 地図を見る限り、悪魔の出現地点はあの集落のど真ん中である。

「とりあえず……あたしが言って話をしてみるわね」
「ティファリーゼ、頼む」
「任せなさい!」

 ティファリーゼは木々の合間をすり抜けて集落へと向かう。
 俺たちも後を追うべきかとも思ったのだが、ティファリーゼがさっさと一人で行ってしまったことから追いかける必要は特に無いだろう。

「行ってしまいましたわね」
「そうだね……一緒に行かなくてよかったのかな?」
「おそらくですが、わたくしがあの集落の住人の前に姿を見せないようにしているのだと思いますわ」
「どうして?」

 アイリスの姿が見られると不味いの?

「あくまで予想ですけれど……あの集落はラトイから逃げた住民が生活しているのだと思いますわ」
「逃げた住民?」
「ええ。ファミマトでもたまにあるんですの。領主の横暴に耐えきれなくなった領民が街から逃げ出して、ああやって人目につかない場所に集落を作って生活を送るんですの」

 話を聞いてみると、重い税や貴族の蛮行に耐えかねて逃げ出す領民というのも存在するらしい。

 昨日俺たちが体験したようにラトイでは貴族の立場が非常に強い。
 例えば「娘を差し出せ」と命令されたなら笑顔で娘を差し出さないとどうなるか分からない。

 あの鼻息デブの態度を見る限り、断るとその場で斬られてしまう可能性すらあるように思える。
 それなら確かに街で暮らさずこうやって街の外で集落を作って暮らした方がマシなのかもしれない。

「ファミマトでもあるんだ」
「一定数貴族が存在すればどうしようもないのも混ざりますわ」
「どこの国も一緒だね」

 日本にだって理解出来ないことしか言わない政治家も結構いたしね。
 しかもそういう人に限って声がでかい。

「まぁ……だから貴族に見えるわたくしは行かない方がいいと思いますわ」
「見えるというか、そのものだしね」

 公爵令嬢なんて貴族令嬢の中で最高位の存在だもの、オーラが眩しい。

「戻ってきましたわね」

 そんな話をしていると、ティファリーゼが戻ってきたので話を聞いてみることにした。
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