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戦うとみぃ

63話。最大の敵現る

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「トミー、約束……ですわよ?」
「え? あ、うん。もちろん!」

 ティファリーゼが覗いていることに気が付き、恐れ戦いているタイミングで、アイリスは上目遣いでそんなことをいってくる。

 約束は守るから。絶対守るから。だから一回離れよう?

「これは手付けですわ」

 アイリスはそっと目を閉じ、ゆっくりと俺の顔へと近付いてくる。

 待って、受け入れたいよ? 受け入れたいけどちょっと待って!

 ティファリーゼが「あらあらぁ」みたいな顔をしてるから!
 目を見開いてわざとらしく両手を口元に持っていってるから!

 そのせいで扉を抑えてた手が離れてめっちゃ扉開いてるからぁああ!

 アイリスとティファリーゼの顔を交互に見ている俺が面白いのか、ティファリーゼは「やっちゃいなよ」と言わんばかりのジェスチャーを送ってくる。

 セカンド以降なら最悪ティファリーゼに見られても仕方ないと割り切れるが、ファーストくらいは二人きりでしっぽり済ませたい。

 でもこれ、受け入れたらティファリーゼに覗かれたことをあとから知ったアイリスがガチギレ。
 避けたら避けたことに対してアイリスガチギレ。

 なにこの前門の虎後門の狼みたいな現状……

 俺の口がもっと上手ければ言いくるめられるかもしれないが、俺程度の口じゃ余計怒らせるだけだし……どうしよう?

 そう言っている間にもアイリスの顔は徐々に近付いてきている。超可愛い。

 ちなみにこの間約二秒。これ以上時間的猶予は存在しない。

 その瞬間、俺の頭に天啓が舞い降りた。
 この策ならこの場の危険を回避すると同時にハイパーイケメンタイムに突入することが出来る。

 迷う時間は無い、俺は早速行動へと移した。

「アイリス!」

 迫り来るアイリスの唇を間一髪で回避、強く抱きしめる。

「ひゃっ!?」

「ひゃっ!?」だって! 可愛すぎる! 無理! 今すぐ押し倒したい!

「どどどどうしましたの? もしかして……嫌でしたの?」

 アイリスの声はだんだんとか細くなり、悲しそうな雰囲気をビンビンに感じてしまう。

「アイリス、そういうのは……俺からしたいな」
「トミー……わかりましたわ。男の矜持というやつですわね?」

 ちょっと違うけど……まぁそういうことにしておこう。

「まぁ……そんな感じかな?」
「そうですわね。わたくしから求めるなんて……はしたない行為でしたわ」

 そんなことないよ。そういうはしたなさはウェルカムだよ!

 っと、そんなことを考えている場合ではない。
 俺はアイリスを胸に抱き、ティファリーゼへと強い視線を送る。
 それと同時に、口パクで「ノックして入ってこい」と伝えると、ティファリーゼは理解したのか笑顔で頷いた。

 よかった、これで安心――

「チューしないの?」

 ティファリーゼ……お前、何やってるだ!?

「あばばばば……」

 そんなティファリーゼのあんまりなセリフを聞いて、ずっと覗かれていたことを察したアイリスは耳の先まで真っ赤にしている。
 全身の力も抜けてしまったようで、先程まで俺の胸の辺りにあったアイリスの頭が今では腹の辺りまでズリ下がってしまっている。

 いけない、それ以上はいけない。
 もっとはしたないことになっちゃう。

 慌ててアイリスの両脇に腕を突っ込み、これ以上アイリスがズリ下がってしまうのをなんとか阻止、ギリギリのタイミングで俺の尊厳は守られたのだった……



 ◇◆

「ティファ……何時から見ていましたの?」
「えっとね、トミーが『好きです』って言う少し前かな?」
「全部……聞かれてますわ……」

 アイリスはなんとか立ち上がり、ティファリーゼを部屋に招き入れて三人分のお茶を淹れ直したが、そこで力尽きてテーブルに突っ伏してしまった。

「良かったじゃない。トミーくんも素直になれたのね」
「それはティファリーゼのお陰かな、ありがとう」
「どういたしまして」
「なんでそこ普通に会話できますの!?」

 なんでって言われても……それはそれ、これはこれと言いますか……
 一応これでも分別ある大人なもので。

「アイリスちゃんも念願叶って良かったじゃない!」
「もう……喋らないでくださいまし……」

 その後しばらくティファリーゼの祝福は続いたが、アイリスは全く反応しない。

「もう……寝ますわ……」

 それだけ言い残してアイリスは隣の部屋へと戻っていってしまった。

「俺も、寝ようかな」
「アイリスちゃんと?」
「一人でだよ!」

 一体何を言い出すんだこの淫乱エルフ!

「わかってるわよ、そんなに怒らないの」
「誰のせいだよ」
「さぁね? じゃああたしもお昼ご飯食べてもう一眠りしようかしら」

 グッとティファリーゼが伸びをする。
 薄い胸が突き出されるが、やはりなんのエロスも感じない。

「食事なら一応買ってきたのがあるよ」
「それはしまっておいて。あたしにとっては食事も情報収集なのよ」
「そっか、分かった」

「じゃあねー」と気怠そうに手を振りながら、ティファリーゼも退室した。

「……寝るか」

 思いのほか疲れていたのか、ベッドに横になるとすぐに深い眠りに落ちていった。
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