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戦うとみぃ
57話。アイリスの戦い
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時刻は16時を少し過ぎた頃、俺たちは悪魔出現予定地へと訪れていた。
アイリス一人が予定地点の目の前に立ち、俺とティファリーゼは少し離れた位置で見守る。
さらに数百メートル離れて出現地点を囲うように数百人の兵士や冒険者が万が一俺たちが敗北しても対応できるように構えている。
「アイリス、あと10分。準備はいい?」
「大丈夫ですわ」
さすがアイリスだ。
ここに来るまでの移動中、ガチガチに緊張して震えていたのに今となってはほどよく全身の力は抜け、凛と構えている。
「あと5分」
「アイリスちゃん、頑張ってね」
ギリギリまで近くに居たが、本来ティファリーゼは後衛である。
アイリスに一声かけてから本来の立ち位置まで下がり、弓を構える。
「あと3分」
「トミー、お願いがあるんですの」
「何?」
お願い? なんだろう。
「悪魔を倒せたら……ご褒美が欲しいんですの」
ご褒美? 何か欲しいものでもあるのかな?
「俺に買えるものならいいよ」
「高価なものではありませんの。それこそ銅貨1枚も必要ありませんわ」
銅貨1枚も必要ない? 一体なんなのだろうか……
まぁ、それでアイリスのやる気に繋がるなら否は無い。
「わかった。いいよ」
「言質を取りましたわ」
言質って……
「何それ怖い……あと30秒」
「すぅー……ふぅーっ……」
アイリスは一度大きく深呼吸をして、腰に提げた剣を抜く。
全身に魔力を纏ったのだろう、剣と鎧の輝きが増していく。
「15秒」
アイリスが剣を構え、前方を睨みつけた瞬間、ピシリという嫌な音と共にアイリスの前方数メートル地点の空間にヒビが入った。
「……ゼロ!」
「деЭееЬЧЯзЭШ」
16時15分、空間を斬り裂いて一体の騎士級の悪魔が姿を現した。
◇◆
一応、何かあった際に飛び出せるように腰を落として身体能力強化の魔法を発動させる。
「ЙЕНБМНМЙОЁКК」
「うるさ……」
現れた騎士級の悪魔は、ファトスの時の伯爵級と同じく聞き取れない声を出し続けている。
以前騎士級の悪魔の肌の色は灰色だと聞いていたのだが、この悪魔の色は灰色というよりメタリックだ。メタリックグレーだ。
俺や俺より少し上くらいの世代のおじさんが新車を買う時に選びがちな色をしている。
頭ひとつに腕と足は二本ずつ、シルエットだけ見れば背の高い痩せた人間のようなシルエットなのだが、その顔には何も無く、二本の腕は肘から先が剣のような刃になっていた。
「口ないのにどうやって声出してるんだろう……それに伯爵級の時にも思ったけど、あんな体でどうやって日常生活を送っているのだろうか……」
そもそもこいつ鼻も無いんだけど、どうやって呼吸してるの? エラ呼吸なの?
「トミー、うるさいですわ。気が散りますから黙って見ていてくださいまし」
「ごめんなさい」
どうやら声に出ていたようだ。
これだからトラック運転手はいけない。独り言が癖になってしまっている。
忙しくて寝る時間が取れない時はラジオと会話してたりするから仕方ないね。
「っと……始まった」
目の前でアイリスと悪魔が対峙しているのだ。余計なことを考えている暇は無い。
意識を切りかえて見つめていると、アイリスから大量の魔力が放たれる。
放たれた魔力は大量の光の矢へと変化し、変化したそばから次々と悪魔に向けて射出される。
「ЙИМБЙМИИ」
悪魔はその剣のような両腕を振り回して光の矢を弾くが、それだけで防げるような生優しい数では無い。
「まだまだですわ!」
再びアイリスから魔力が吹き上がり、今度は矢の形ではなく無数の光の粒へと魔力が変化していき、周囲を眩く照らし出す。
「【ホーリーレイン】」
アイリスがキーワードを唱えると同時、光の粒は一斉に空へと舞い上がり、雨のように悪魔に向けて降り注いだ。
「МДЕВЁБДМС」
それを受けた悪魔は、苦しむような素振りを見せた。
あの光の粒ひとつひとつに込められた魔力は先程の光の矢の数十分の一程度だろう。
しかし、数の桁が違う。
数百の光の矢をギリギリで凌いでいた悪魔だが、数千、数万の光の粒には対応が追いつかない。
「МНИИЗРИИРЗЗ」
「今!」
アイリスの持つミスリルコーティングされた長剣の輝きが増していく。
今まで溜めに溜めた力を一気に解放するように、アイリスは鋭い一歩を踏み出した。
「はぁぁぁああああ!」
アイリスの剣が上段へと振り上げられる。
周囲に舞う光の粒がアイリスの剣へと引き寄せられていく。
「【秘技、ホーリーブレイク】!! ですわ!!」
一閃。まさに光と形容するに相応しい一撃。
聖竜さんとの特訓やあれやこれやで相当に強化されている俺の目て見えるか見えないかの鋭い一振りだった。
その剣は違えることなく正確に悪魔の首を捉え、なんの抵抗もなく刎ね飛ばした。
グラりと悪魔の体が揺れ、倒れる。
刎ね飛ばされた首が地面に落ちると同時、悪魔の体は黒いモヤへと変わりこの世界から消滅した。
「完! 全! 勝! 利! ですわ!」
悪魔の完全消滅を確認したアイリスは、剣を高らかに掲げ、勝鬨を上げた。
その姿は英雄伝説のワンシーンのようであり、俺の少ない語彙力では戦場に咲いた一輪の花としか例えられない。
そんな自信に満ちた笑顔を浮かべるアイリスに声をかけることも出来ず、俺はただただ見惚れることしか出来ないのであった。
アイリス一人が予定地点の目の前に立ち、俺とティファリーゼは少し離れた位置で見守る。
さらに数百メートル離れて出現地点を囲うように数百人の兵士や冒険者が万が一俺たちが敗北しても対応できるように構えている。
「アイリス、あと10分。準備はいい?」
「大丈夫ですわ」
さすがアイリスだ。
ここに来るまでの移動中、ガチガチに緊張して震えていたのに今となってはほどよく全身の力は抜け、凛と構えている。
「あと5分」
「アイリスちゃん、頑張ってね」
ギリギリまで近くに居たが、本来ティファリーゼは後衛である。
アイリスに一声かけてから本来の立ち位置まで下がり、弓を構える。
「あと3分」
「トミー、お願いがあるんですの」
「何?」
お願い? なんだろう。
「悪魔を倒せたら……ご褒美が欲しいんですの」
ご褒美? 何か欲しいものでもあるのかな?
「俺に買えるものならいいよ」
「高価なものではありませんの。それこそ銅貨1枚も必要ありませんわ」
銅貨1枚も必要ない? 一体なんなのだろうか……
まぁ、それでアイリスのやる気に繋がるなら否は無い。
「わかった。いいよ」
「言質を取りましたわ」
言質って……
「何それ怖い……あと30秒」
「すぅー……ふぅーっ……」
アイリスは一度大きく深呼吸をして、腰に提げた剣を抜く。
全身に魔力を纏ったのだろう、剣と鎧の輝きが増していく。
「15秒」
アイリスが剣を構え、前方を睨みつけた瞬間、ピシリという嫌な音と共にアイリスの前方数メートル地点の空間にヒビが入った。
「……ゼロ!」
「деЭееЬЧЯзЭШ」
16時15分、空間を斬り裂いて一体の騎士級の悪魔が姿を現した。
◇◆
一応、何かあった際に飛び出せるように腰を落として身体能力強化の魔法を発動させる。
「ЙЕНБМНМЙОЁКК」
「うるさ……」
現れた騎士級の悪魔は、ファトスの時の伯爵級と同じく聞き取れない声を出し続けている。
以前騎士級の悪魔の肌の色は灰色だと聞いていたのだが、この悪魔の色は灰色というよりメタリックだ。メタリックグレーだ。
俺や俺より少し上くらいの世代のおじさんが新車を買う時に選びがちな色をしている。
頭ひとつに腕と足は二本ずつ、シルエットだけ見れば背の高い痩せた人間のようなシルエットなのだが、その顔には何も無く、二本の腕は肘から先が剣のような刃になっていた。
「口ないのにどうやって声出してるんだろう……それに伯爵級の時にも思ったけど、あんな体でどうやって日常生活を送っているのだろうか……」
そもそもこいつ鼻も無いんだけど、どうやって呼吸してるの? エラ呼吸なの?
「トミー、うるさいですわ。気が散りますから黙って見ていてくださいまし」
「ごめんなさい」
どうやら声に出ていたようだ。
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忙しくて寝る時間が取れない時はラジオと会話してたりするから仕方ないね。
「っと……始まった」
目の前でアイリスと悪魔が対峙しているのだ。余計なことを考えている暇は無い。
意識を切りかえて見つめていると、アイリスから大量の魔力が放たれる。
放たれた魔力は大量の光の矢へと変化し、変化したそばから次々と悪魔に向けて射出される。
「ЙИМБЙМИИ」
悪魔はその剣のような両腕を振り回して光の矢を弾くが、それだけで防げるような生優しい数では無い。
「まだまだですわ!」
再びアイリスから魔力が吹き上がり、今度は矢の形ではなく無数の光の粒へと魔力が変化していき、周囲を眩く照らし出す。
「【ホーリーレイン】」
アイリスがキーワードを唱えると同時、光の粒は一斉に空へと舞い上がり、雨のように悪魔に向けて降り注いだ。
「МДЕВЁБДМС」
それを受けた悪魔は、苦しむような素振りを見せた。
あの光の粒ひとつひとつに込められた魔力は先程の光の矢の数十分の一程度だろう。
しかし、数の桁が違う。
数百の光の矢をギリギリで凌いでいた悪魔だが、数千、数万の光の粒には対応が追いつかない。
「МНИИЗРИИРЗЗ」
「今!」
アイリスの持つミスリルコーティングされた長剣の輝きが増していく。
今まで溜めに溜めた力を一気に解放するように、アイリスは鋭い一歩を踏み出した。
「はぁぁぁああああ!」
アイリスの剣が上段へと振り上げられる。
周囲に舞う光の粒がアイリスの剣へと引き寄せられていく。
「【秘技、ホーリーブレイク】!! ですわ!!」
一閃。まさに光と形容するに相応しい一撃。
聖竜さんとの特訓やあれやこれやで相当に強化されている俺の目て見えるか見えないかの鋭い一振りだった。
その剣は違えることなく正確に悪魔の首を捉え、なんの抵抗もなく刎ね飛ばした。
グラりと悪魔の体が揺れ、倒れる。
刎ね飛ばされた首が地面に落ちると同時、悪魔の体は黒いモヤへと変わりこの世界から消滅した。
「完! 全! 勝! 利! ですわ!」
悪魔の完全消滅を確認したアイリスは、剣を高らかに掲げ、勝鬨を上げた。
その姿は英雄伝説のワンシーンのようであり、俺の少ない語彙力では戦場に咲いた一輪の花としか例えられない。
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