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戦うとみぃ
55話。アイリスの願い
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神託を受けてから6日目の朝、いよいよ明日が決戦であり、被害を最小限に抑えるための最後の会議が行われるので早めに起きてスマホで時間を確認すると、通知が寝ている間に通知が一件入っていた。
「通知……神託アプリ?」
今回の騎士級悪魔を倒した次の神託でも下ったのだろうか? なら次はどこだろう、近くなら有難いと思いながらアプリを開くと、完全に予想とは違う内容が記されていた。
「……マジ?」
これはレトフに到着してから今日までの会議が全て無駄になる内容だ。
みんな必死で頭を捻ってアイデアを出したり、組み分けや道具の支給を行っていた。
当然俺たちもどこに悪魔が現れても急行出来るように街中を歩き回って道を覚えた。
それらが全て……
「明日16時15分、レトフの東2キロ地点、草原の真ん中って……」
そこまで細かくわかるなら最初から言って欲しかった。
時間と出現地点がここまで詳細に分かるのなら今までの準備は一体何のために……
唖然として画面を見ていると、下の方にURLのようなものも添付されている。
とりあえずタップして開いてみると、地図アプリが連動して開き、悪魔の出現地点にピンが立って表示された。
「周囲数キロに村や集落は無しでしたか」
これなら避難誘導も必要無さそうだ。
今日まで準備に奔走してくれていた閣僚の方々には申し訳ない。
「あー……早めに報告した方が……いいよね……」
決して俺は悪くないはずなのだが、大変に心苦しい。
昨日会った軍務局長なんて目の下にでかいクマを作っていたし、財務局長は予算組みに頭を抱えていた。
それが無駄でしたって伝えるのは……
「まぁ、俺たちが勝てば被害は出ないってことで許してもらおう」
俺は悪くない。悪いのはここまで詳細に分かることを教えてくれなかった女神様だ。
これだけ詳細にわかるのなら大掛かりな準備は不要なのだから……
◇◆
それからしばらく項垂れていたが、アイリスが起こしに来たのでその事を伝え、朝食を食べてから三人で会議に参加するため登城する。
「……つまり我々の出番は無いと?」
「えっと……平たく言えばそうなります……すみません……」
会議の場でこの事を報告すると、軍務局長は目を見開いて俺に問うてきた。
その顔があまりに怖かったので声が震えてしまいそうになるが、なんとか堪えて返答する。
「そう……か。いや、いいんだ。民に被害が出る可能性が低くなるならそれが一番いいんだ」
「備えあれば憂いなしとも言いますからな。今回はたまたま街の外に出現するというだけのこと、街の中に出現する可能性もあったことだし、我々のやったことは全て無駄というわけでもないでしょう」
脱力してしまっている軍務局長の肩を財務局長が優しく叩く。
そうだよね。今回たまたま街の外だってだけの話で、次も街の外に出現する保証はどこにも無いのだから、毎回準備はしてもらう必要がある。
これは必要なことなのだ。
結局、出現地点で俺たちが迎え撃ち、レトフの兵と上位の冒険者が遠巻きに囲んで万が一にも取り逃さないようにする、ということで話は決まったのでこの日はあっという間に会議は解散となった。
早めに会議が終わったので、王城から戻る途中の店で軽く昼食を摂り、宿へと戻った。
「さて、明日なんだけど、悪魔が現れると同時に【クリエイトトラック】ぶち込んで終わりにする感じでいいかな?」
街中だと周りの被害を考えて自重しようと思っていたのだが、草原なら気にする必要はない。
悪魔討伐RTA走者として、悪魔出現から2秒以内の討伐を目標に提案してみると、ティファリーゼは頷いていたがアイリスは頷かなかった。
「それなのですがトミー、ティファ、相談がありますの」
アイリスは真剣な面持ちで俺とティファリーゼの顔を交互に見る。
「どしたん? 話聞こか?」
「なんでそんな変な言い方するの? 普通に聞くわよ?」
SNSで見たもので。
「力を試してみたいんですの。今回の戦い、わたくし一人で戦ってみたいのですわ」
「一人でって、アイリスちゃん本気?」
「本気ですわ」
やばい、ちょっとふざけたのが心底申し訳なくなるくらいガチな顔してる。
「一人で勝てるの?」
「勝ちますわ。騎士級如き一人で倒せませんと……わたくしにトミーの仲間でいる資格はありませんわ」
「そんなことないよ」
悪魔を倒せないと俺の仲間だと言えないなんてハードル高すぎない?
「そんなことありますわ。トミーは一人で伯爵級の悪魔を倒した。ならその仲間であるわたくしも騎士級くらい倒せませんと胸を張って仲間だとは言えませんわ!」
どうしよう、ちょっと納得しかけた俺がいる。
俺としてはただ一緒に居てくれるだけで十分なのだけれど、アイリスはそうでは無いみたいだ。
「トミーくん、どうする?」
「どうすると言われても……」
急にこんなことを言い出すなんて……どうしたのだろうか?
今までそんな素振り見せたこと無かったのに。
「わたくしは……トミーに認められたい。必要とされたいんですの」
そう言ってアイリスは一瞬迷うように視線を逸らしたが一度目を閉じ、覚悟と決意に満ちた瞳で俺をじっと見つめ、自分の心の内を話し始めた。
「通知……神託アプリ?」
今回の騎士級悪魔を倒した次の神託でも下ったのだろうか? なら次はどこだろう、近くなら有難いと思いながらアプリを開くと、完全に予想とは違う内容が記されていた。
「……マジ?」
これはレトフに到着してから今日までの会議が全て無駄になる内容だ。
みんな必死で頭を捻ってアイデアを出したり、組み分けや道具の支給を行っていた。
当然俺たちもどこに悪魔が現れても急行出来るように街中を歩き回って道を覚えた。
それらが全て……
「明日16時15分、レトフの東2キロ地点、草原の真ん中って……」
そこまで細かくわかるなら最初から言って欲しかった。
時間と出現地点がここまで詳細に分かるのなら今までの準備は一体何のために……
唖然として画面を見ていると、下の方にURLのようなものも添付されている。
とりあえずタップして開いてみると、地図アプリが連動して開き、悪魔の出現地点にピンが立って表示された。
「周囲数キロに村や集落は無しでしたか」
これなら避難誘導も必要無さそうだ。
今日まで準備に奔走してくれていた閣僚の方々には申し訳ない。
「あー……早めに報告した方が……いいよね……」
決して俺は悪くないはずなのだが、大変に心苦しい。
昨日会った軍務局長なんて目の下にでかいクマを作っていたし、財務局長は予算組みに頭を抱えていた。
それが無駄でしたって伝えるのは……
「まぁ、俺たちが勝てば被害は出ないってことで許してもらおう」
俺は悪くない。悪いのはここまで詳細に分かることを教えてくれなかった女神様だ。
これだけ詳細にわかるのなら大掛かりな準備は不要なのだから……
◇◆
それからしばらく項垂れていたが、アイリスが起こしに来たのでその事を伝え、朝食を食べてから三人で会議に参加するため登城する。
「……つまり我々の出番は無いと?」
「えっと……平たく言えばそうなります……すみません……」
会議の場でこの事を報告すると、軍務局長は目を見開いて俺に問うてきた。
その顔があまりに怖かったので声が震えてしまいそうになるが、なんとか堪えて返答する。
「そう……か。いや、いいんだ。民に被害が出る可能性が低くなるならそれが一番いいんだ」
「備えあれば憂いなしとも言いますからな。今回はたまたま街の外に出現するというだけのこと、街の中に出現する可能性もあったことだし、我々のやったことは全て無駄というわけでもないでしょう」
脱力してしまっている軍務局長の肩を財務局長が優しく叩く。
そうだよね。今回たまたま街の外だってだけの話で、次も街の外に出現する保証はどこにも無いのだから、毎回準備はしてもらう必要がある。
これは必要なことなのだ。
結局、出現地点で俺たちが迎え撃ち、レトフの兵と上位の冒険者が遠巻きに囲んで万が一にも取り逃さないようにする、ということで話は決まったのでこの日はあっという間に会議は解散となった。
早めに会議が終わったので、王城から戻る途中の店で軽く昼食を摂り、宿へと戻った。
「さて、明日なんだけど、悪魔が現れると同時に【クリエイトトラック】ぶち込んで終わりにする感じでいいかな?」
街中だと周りの被害を考えて自重しようと思っていたのだが、草原なら気にする必要はない。
悪魔討伐RTA走者として、悪魔出現から2秒以内の討伐を目標に提案してみると、ティファリーゼは頷いていたがアイリスは頷かなかった。
「それなのですがトミー、ティファ、相談がありますの」
アイリスは真剣な面持ちで俺とティファリーゼの顔を交互に見る。
「どしたん? 話聞こか?」
「なんでそんな変な言い方するの? 普通に聞くわよ?」
SNSで見たもので。
「力を試してみたいんですの。今回の戦い、わたくし一人で戦ってみたいのですわ」
「一人でって、アイリスちゃん本気?」
「本気ですわ」
やばい、ちょっとふざけたのが心底申し訳なくなるくらいガチな顔してる。
「一人で勝てるの?」
「勝ちますわ。騎士級如き一人で倒せませんと……わたくしにトミーの仲間でいる資格はありませんわ」
「そんなことないよ」
悪魔を倒せないと俺の仲間だと言えないなんてハードル高すぎない?
「そんなことありますわ。トミーは一人で伯爵級の悪魔を倒した。ならその仲間であるわたくしも騎士級くらい倒せませんと胸を張って仲間だとは言えませんわ!」
どうしよう、ちょっと納得しかけた俺がいる。
俺としてはただ一緒に居てくれるだけで十分なのだけれど、アイリスはそうでは無いみたいだ。
「トミーくん、どうする?」
「どうすると言われても……」
急にこんなことを言い出すなんて……どうしたのだろうか?
今までそんな素振り見せたこと無かったのに。
「わたくしは……トミーに認められたい。必要とされたいんですの」
そう言ってアイリスは一瞬迷うように視線を逸らしたが一度目を閉じ、覚悟と決意に満ちた瞳で俺をじっと見つめ、自分の心の内を話し始めた。
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