上 下
57 / 85
戦うとみぃ

55話。アイリスの願い

しおりを挟む
 神託を受けてから6日目の朝、いよいよ明日が決戦であり、被害を最小限に抑えるための最後の会議が行われるので早めに起きてスマホで時間を確認すると、通知が寝ている間に通知が一件入っていた。

「通知……神託アプリ?」

 今回の騎士級悪魔を倒した次の神託でも下ったのだろうか? なら次はどこだろう、近くなら有難いと思いながらアプリを開くと、完全に予想とは違う内容が記されていた。

「……マジ?」

 これはレトフに到着してから今日までの会議が全て無駄になる内容だ。
 みんな必死で頭を捻ってアイデアを出したり、組み分けや道具の支給を行っていた。

 当然俺たちもどこに悪魔が現れても急行出来るように街中を歩き回って道を覚えた。

 それらが全て……

「明日16時15分、レトフの東2キロ地点、草原の真ん中って……」

 そこまで細かくわかるなら最初から言って欲しかった。

 時間と出現地点がここまで詳細に分かるのなら今までの準備は一体何のために……

 唖然として画面を見ていると、下の方にURLのようなものも添付されている。
 とりあえずタップして開いてみると、地図アプリが連動して開き、悪魔の出現地点にピンが立って表示された。

「周囲数キロに村や集落は無しでしたか」

 これなら避難誘導も必要無さそうだ。
 今日まで準備に奔走してくれていた閣僚の方々には申し訳ない。

「あー……早めに報告した方が……いいよね……」

 決して俺は悪くないはずなのだが、大変に心苦しい。
 昨日会った軍務局長なんて目の下にでかいクマを作っていたし、財務局長は予算組みに頭を抱えていた。

 それが無駄でしたって伝えるのは……

「まぁ、俺たちが勝てば被害は出ないってことで許してもらおう」

 俺は悪くない。悪いのはここまで詳細に分かることを教えてくれなかった女神様だ。
 これだけ詳細にわかるのなら大掛かりな準備は不要なのだから……



 ◇◆


 それからしばらく項垂れていたが、アイリスが起こしに来たのでその事を伝え、朝食を食べてから三人で会議に参加するため登城する。

「……つまり我々の出番は無いと?」
「えっと……平たく言えばそうなります……すみません……」

 会議の場でこの事を報告すると、軍務局長は目を見開いて俺に問うてきた。
 その顔があまりに怖かったので声が震えてしまいそうになるが、なんとか堪えて返答する。

「そう……か。いや、いいんだ。民に被害が出る可能性が低くなるならそれが一番いいんだ」
「備えあれば憂いなしとも言いますからな。今回はたまたま街の外に出現するというだけのこと、街の中に出現する可能性もあったことだし、我々のやったことは全て無駄というわけでもないでしょう」

 脱力してしまっている軍務局長の肩を財務局長が優しく叩く。

 そうだよね。今回たまたま街の外だってだけの話で、次も街の外に出現する保証はどこにも無いのだから、毎回準備はしてもらう必要がある。
 これは必要なことなのだ。

 結局、出現地点で俺たちが迎え撃ち、レトフの兵と上位の冒険者が遠巻きに囲んで万が一にも取り逃さないようにする、ということで話は決まったのでこの日はあっという間に会議は解散となった。

 早めに会議が終わったので、王城から戻る途中の店で軽く昼食を摂り、宿へと戻った。

「さて、明日なんだけど、悪魔が現れると同時に【クリエイトトラック】ぶち込んで終わりにする感じでいいかな?」

 街中だと周りの被害を考えて自重しようと思っていたのだが、草原なら気にする必要はない。
 悪魔討伐RTA走者として、悪魔出現から2秒以内の討伐を目標に提案してみると、ティファリーゼは頷いていたがアイリスは頷かなかった。

「それなのですがトミー、ティファ、相談がありますの」

 アイリスは真剣な面持ちで俺とティファリーゼの顔を交互に見る。

「どしたん? 話聞こか?」
「なんでそんな変な言い方するの? 普通に聞くわよ?」

 SNSで見たもので。

「力を試してみたいんですの。今回の戦い、わたくし一人で戦ってみたいのですわ」
「一人でって、アイリスちゃん本気?」
「本気ですわ」

 やばい、ちょっとふざけたのが心底申し訳なくなるくらいガチな顔してる。

「一人で勝てるの?」
「勝ちますわ。騎士級如き一人で倒せませんと……わたくしにトミーの仲間でいる資格はありませんわ」
「そんなことないよ」

 悪魔を倒せないと俺の仲間だと言えないなんてハードル高すぎない?

「そんなことありますわ。トミーは一人で伯爵級の悪魔を倒した。ならその仲間であるわたくしも騎士級くらい倒せませんと胸を張って仲間だとは言えませんわ!」

 どうしよう、ちょっと納得しかけた俺がいる。
 俺としてはただ一緒に居てくれるだけで十分なのだけれど、アイリスはそうでは無いみたいだ。

「トミーくん、どうする?」
「どうすると言われても……」

 急にこんなことを言い出すなんて……どうしたのだろうか?
 今までそんな素振り見せたこと無かったのに。

「わたくしは……トミーに認められたい。必要とされたいんですの」

 そう言ってアイリスは一瞬迷うように視線を逸らしたが一度目を閉じ、覚悟と決意に満ちた瞳で俺をじっと見つめ、自分の心の内を話し始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

処理中です...