転生して間もなく乙女ゲーで言うところの悪役令嬢を拾いました。不憫に思い手を差し伸べたらいつの間にか尻に敷かれていました。誰か助けて……

愛飢男

文字の大きさ
上 下
54 / 85
戦うとみぃ

52話。錬金術

しおりを挟む
 それから大急ぎでアイリスから鎧を取り外す作業が行われ、休む間もなく続いて俺に鎧を取り付ける作業が開始された。

 早く行こうよとツッコみたい気持ちもあるのだが、それよりもこの白銀の全身鎧を身につけたい気持ちが強かったりするので甘んじて受け入れる。

「やっぱりトミーにも大きいですわね」
「そうだね。それでもなんとか形にはなってるかな? なってればいいな」

 15分ほど掛けて俺への鎧の着付けが行われ、完了すると同時に俺の目の前に大きな姿見が設置された。

「おお……かっこ……良くねぇな」
「そう? あたしにはよく似合ってるように……ぷふぅ!」

 俺の隣に立って一緒に姿見を覗き込んでいたティファリーゼは、俺を褒めるかの様なセリフを言いかけ、最後まで言いきれずに吹き出した。

 失礼なエルフである。
 自分なんて鎧どころか服すらまともに着れないのになんで俺の事笑ってるんだよ。

「トミー、似合っていませんわ」
「知ってる」

 そもそもどんなにカッコイイ装備であってもサイズが合わなければ似合う似合わない以前の問題である。

 そもそも論でイケメンではない俺がサイズの合わない鎧を着て似合うはずがないのである。

「これくらいならすぐですね。使徒様、このまま動かないでくださいね」

 錬金術師が鎧に手を触れ、魔力を高める。

 すると鎧が輝き、徐々に小さくなっていく。

「おお……」

 俺の口から感嘆の声が漏れ出る。

 鎧は光り輝きながら収縮していき、数分もしないうちに俺の体にピッタリなサイズまで縮んでしまった。

「おお……ピッタリ」
「それなら似合いますわよ」
「そうね、笑いたいけど笑えないくらいには似合ってるわよ」

 アイリスとティファリーゼから賞賛の声が投げかけられる。
 ティファリーゼのセリフにはなんかトゲがあったような気がするけど気にしない。

 俺は鎧から視線を外して姿見へと向ける。

「ふぉぉぉ……カッコイイ……」

 我ながら語彙力の無さに落ち込みそうになるが、本当にそれ以外の言葉が出てこない。

 ちなみにカッコイイのは鎧であって俺ではない。そこは間違えてはいけない。

 腕を上げてみたり、体を捻ってみたり、足を上げてみたり……
 体の様々な部位を動かして着心地を確かめる。

 どこにも引っかかるところは無くとても動きやすかった。

「アイリス! 写真撮って!」

 鎧を着るために脱いでおいた作業着のポケットからスマホを取り出しカメラを起動してアイリスに手渡す。

「これ、なんですの?」
「この丸いのを対象に向けて、画面のこの丸いところを押すと……」

 カシャっとシャッターが切られ、画面にはこちらを向いて立っているティファリーゼの姿が写し取られていた。

「写真って言ってね、めちゃくちゃ綺麗な絵みたいな感じ? というかこの世界写真無いの?」
「聞いた事ありませんわね」

 今まで多くの転生者が居たようだし、写真くらい伝わっているかと思っていたけどどうやら伝わっていなかったようだ。

 まぁ、俺が伝えられるのかと聞かれると無理なんだけどね。
 写真の原理とか知らんし。

「これでトミーを写せばいいんですの?」
「お願いします!」

 アイリスは俺から数歩離れてカメラを俺へと向ける。

「はい、チーズ」
「絶対写真のこと知ってるよね!?」

 俺のツッコミも虚しく、カシャっというシャッター音が響いた。

「これでいいんですの?」

 スマホの画面を俺に向けて見せてくるので覗き込む。
 画面にはカッコイイ鎧を着たカッコよくない俺がドヤ顔で写っている。

「うーん……なにか足りない……」
「そうですわね。なんだか物足りませんわね」

 二人で画面を眺めていると、不意に後ろからティファリーゼが話しかけてくる。

「剣じゃない? せっかく鎧を着てるんだから、剣も構えないと」
「なるほど、確かに……」
「盲点でしたわ……」

 ティファリーゼの言葉に衝撃を受け、アイリスはマジックバックから愛用の長剣を取り出して俺へと差し出してくる。

「まずは腰に」
「こう?」

 ベルトを巻いて腰に剣を差す。

「右手を柄頭に……そうですわ。それから足をもっとこう……」

 アイリスの指示に従い、いくつかのポーズを取る。

「いいですわいいですわ! そうそう、もっと視線をこちらに! さぁ、そろそろ剣も抜いちゃいましょう!」

 なんだろう、開いちゃいけない扉開いちゃった気がする……

「ア、アイリス? そろそろ……」
「はっ!? わたくしとしたことが一体何を……」

 恥ずかしそうに返されたスマホを受け取り、画面を確認すると……

「一体何枚撮ったの……」
「いえ……気が付けば……」

 画像フォルダが俺の写真でいっぱいになっていました。

「使徒様、そろそろ……」
「あ、はい」

 錬金術師に促され、鎧を脱ぐ。
 そういえば錬金術師の手にある金属って鎧から削り出したミスリルなのかな?
 あれ、なにかに使うのかな?

「はい」

 脱いだパーツを順番にティファリーゼへと手渡す。
 ティファリーゼはそれを秘書や女性店員に手渡して次々とアイリスに装着していく。

「何とか動けますわ」
「今回はギリギリ顔出てるね」

 なんとか鼻の上だけが鎧から出ているアイリスが面白かったので写真を一枚。あとで見せてからかってやろう。

「なんだかトミー臭いですわね……」
「俺臭いって何!? 俺ってそんなに臭うかな?」

 慌てて自分の腕の臭いを嗅いでみるが、自分ではわからない。

 もしかして、俺が気付けないだけで加齢臭が酷かったり?
 いや、この体はまだ10代、加齢臭なんてまだ遠い未来のはず……

「えっと……嫌な思いさせちゃったかな、ごめんね?」
「……別に嫌ではありませんわ」

 アイリスはまるでモグラ叩きのモグラのごとく、鎧の中へと顔を潜らせてしまった。

 俺臭いんでしょ? なんで俺臭い鎧の中に自ら入って行ったの?

「では調整してしまいますね」

 俺たちのやり取りを華麗にスルーして、先程と同じように錬金術師は鎧に手を触れて魔力を高めはじめた。

 先程と全く同じ光景が繰り返され、数分でピッタリサイズの鎧を身に纏ったアイリスが姿を現した。

 美しい……

 某ドラゴンをしばく有名RPGで勇者が装備する伝説の鎧の如く輝かしい鎧を身に纏った絶世の美女アイリス、これはシャッター連打不可避。
 存在自体が輝いて見える。
 動画も撮っておこう。これはバズる。 

 しかし撮りながら思う。
 これ、写真より絵の方がエモくない?

 俺に絵心が無いことが悔やまれる。
 こんなことなら美術の授業真面目に受けておくんだった。

「アイリスちゃんすごい似合ってるよ! 綺麗!」

 これにはティファリーゼも手放しで褒め称えている。
 その気持ち、わかるよ。

「めちゃくちゃ似合ってる」

 俺も素直に思ったことを口にする。

 俺とティファリーゼの褒め言葉に頬を赤く染めるアイリスがとてつもなく尊い。

「あ、ありがとうございます……わ」
「ホントよく似合ってるよー! 姫騎士より聖騎士の方がいいんじゃない?」
「聖騎士か……俺は聖騎士より戦乙女の方がしっくり来ると思うけど」
「戦乙女! それ、イイ!」

 以前俺が思っていた聖騎士にピッタリだとティファリーゼが騒いでいたが、この姿を見れば聖騎士より戦乙女だと思う。

 強く気高く美しく敵を屠るアイリスの姿が目に浮かぶ。

「いいね! これからは『姫騎士』より『戦乙女』の名前で売っていこう! ボッターさんはどう思う?」
「『戦乙女ヴァルキリー』ですか、いいと思いますよ」

 俺は思ったことを口にしただけなのだが、何故かティファリーゼとボッター氏は乗り気なようだ。
 これからは姫騎士ではなく戦乙女として名前を広めていく気満々だ。

 君たちさ、それはいいんだけど……

 白銀の鎧を身に纏った戦乙女の横に並び立つのは作業着を着用したフツメンだよ?
 めっちゃシュールじゃない? 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

原産地が同じでも結果が違ったお話

よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。 視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。

ざまぁされるための努力とかしたくない

こうやさい
ファンタジー
 ある日あたしは自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生している事に気付いた。  けどなんか環境違いすぎるんだけど?  例のごとく深く考えないで下さい。ゲーム転生系で前世の記憶が戻った理由自体が強制力とかってあんまなくね? って思いつきから書いただけなので。けど知らないだけであるんだろうな。  作中で「身近な物で代用できますよってその身近がすでにないじゃん的な~」とありますが『俺の知識チートが始まらない』の方が書いたのは後です。これから連想して書きました。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。  恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。  中古でもノーパソ買えるだけの値段するやんと思っただろうけど、ノーパソの場合は妥協しての機種だけど、BlackBerryは使ってみたかった機種なので(後で「こんなの使えない」とぶん投げる可能性はあるにしろ)。それに電話機は壊れなくても後二年も経たないうちに強制的に買い換え決まってたので、最低限の覚悟はしてたわけで……もうちょっと壊れるのが遅かったらそれに手をつけてた可能性はあるけど。それにタブレットの調子も最近悪いのでガラケー買ってそっちも別に買い換える可能性を考えると、妥協ノーパソより有意義かなと。妥協して惰性で使い続けるの苦痛だからね。  ……ちなみにパソの調子ですが……なんか無意識に「もう嫌だ」とエンドレスでつぶやいてたらしいくらいの速度です。これだって10動くっていわれてるの買ってハードディスクとか取り替えてもらったりしたんだけどなぁ。

過程をすっ飛ばすことにしました

こうやさい
ファンタジー
 ある日、前世の乙女ゲームの中に悪役令嬢として転生したことに気づいたけど、ここどう考えても生活しづらい。  どうせざまぁされて追放されるわけだし、過程すっ飛ばしてもよくね?  そのいろいろが重要なんだろうと思いつつそれもすっ飛ばしました(爆)。  深く考えないでください。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...