転生して間もなく乙女ゲーで言うところの悪役令嬢を拾いました。不憫に思い手を差し伸べたらいつの間にか尻に敷かれていました。誰か助けて……

愛飢男

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旅するとみぃ

44話。みんなでお買い物

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「ようこそボッター商会へ。本日は何をお求めでしょうか?」
「まずは服を。その後に日用品や調度品をお願いしますわ」
「かしこまりました。ではこちらへ」

 ボッター商会にたどり着いた俺たちを出迎えてくれた店員さんに案内され、まずは衣類コーナーへと足を運ぶ。

 ボッター商会では既製品の販売はあまり行っておらず、オーダーメイドでの販売が主だそうで、言葉通り並んでいる衣類はあまり数は多くなかった。

 俺がそれらを眺めていると、アイリスは自分やシルフィエッタに合いそうなサイズのものを片っ端から手に取り、体に当てて確認していく。

「これとこれとこれ、あとそれも貰いますわ」
「ありがとうございます」

 選んだ何着かの服を店員に手渡し、アイリスはこちらへ目を向けた。

「選びませんの?」
「ああ、選ぶよ」

 アイリスは買い物が長そうだと思っていたのに次々に即決していく姿に唖然としていたなんて言えない。

 アイリスから目を逸らして俺は男性用の衣服の並んでいる棚の前へと移動した。

 ふむ、アイリスが選んでいるのを見ていたから分かってはいたが、服のデザインはほぼ統一されている。
 ゆえにデザインではなくサイズのみ選べばいいようだ。

 そりゃあアイリスも即決するわけだね。

「えっと、俺のサイズに合いそうなのは……」

 そんなにたくさんあるでもないので選ぶのは簡単だ。

 サイズの合いそうなシャツを3枚、ズボンを2本選んで店員に手渡す。

「先に会計をお願いしますわ」
「かしこまりました」

 アイリスはマジックバックからお金の入った袋を取りだして中身を改めることも無く店員に渡す。
 袋を受け取った店員も慣れたように受け取り、失礼しますと一度頭を下げてから奥へと引っ込んで行ってしまった。

「いいの?」
「何がですの?」

 金額も聞いていないのに袋ごと丸投げしたことと、そもそも俺が払うつもりだったのにそれについて構わないのかと聞いてみたのだが、当のアイリスは何を聞かれているのか分かっていないようだ。

 それを説明すると、ようやく意図を理解したのか「ああ」と声を漏らした。

「ここは上流階級の者が買い物をするお店ですの。本来なら店の者を呼び付けるのですが、来店した場合ああいう支払い方は当たり前ですわ。寧ろ自分でお金を数えて支払っていると侮られますわね」
「そうなんだ……」

 日本にいた頃に社長と買い物したことあるけど、金額とか気にせず「カードで」って言ってカードを渡していたのと同じなのかな?

 俺なんて庶民だからそんな買い方恐ろしくてしたことないよ。
 めっちゃ金額気にしてたよ。

「それと支払いですが、これからガンガン稼ぐでしょうし別に構いませんわよ」
「稼ぐの?」
「冒険者としての活動もするつもりですもの。それに、わたくしが大森林で採取しておいたものを売ればひと財産ですわ」

 どうやらアイリスは俺の知らない間に大森林生活をしている時に色々と採取してマジックバックに仕舞っていたそうだ。

 俺はそんな事していない。
 なぜならどの草が売れるかとか知らないし興味もなかったからである。

 ……普通その辺に生えていた草とか葉っぱとか売れるって知らなければ拾わないよね?

「そういう訳でお金には困っておりませんの。だからお気になさらず」
「とは言えなぁ……」

 おっさんとして、若い女の子に奢ってもらうのはどうかと思う。
 おっさんは若い子に貢いでナンボでしょ?

「まぁ、この後買うものは俺が出すよ」
「男の矜恃というやつてますの?」
「間違っては無いけど、より正確にはおっさんのだね」

 アイリスは笑ってくれたが、シルフィエッタは意味がわからないのかキョトンとしている。
 シルフィエッタにはまだ俺の境遇は話していないので仕方ないだろう。

「お兄ちゃんはおじさんじゃないですよ?」
「外見はね。帰ったら教えてあげるよ」

 これから一緒に暮らしていくのだから教えるべきだろう。
 黒髪という点で異世界人だと気付いている可能性はあるが、年齢のことまでは絶対に予想できないだろうし。

「お待たせ致しました」
「ありがとう。すぐに着替えても構わないかしら?」
「どうぞ。奥の試着室をご利用下さい」

 店員は衣類コーナーの隅にある試着室を指し示す。

「ではシルフィ、トミー、着替えますわよ」
「はい!」
「俺も?」

 俺は今ブルゾンは脱いでいるので黒いTシャツと作業ズボン、別にそこまで浮いてなくない?

「いいから」
「はい」

 まぁ断る理由も無いし言われた通り着替える。
 同じ店で同じような服を購入したので三人お揃いのような感じになってしまった。

 まぁ街を歩く人たちも似たりよったりな服だからお揃いもクソもないんだけどね。

「シルフィエッタ、よく似合ってるよ」
「えへへ、ありがとうございます!」

 今までボロボロになった服を着ていたシルフィエッタも綺麗な服を着て、髪型も綺麗に整えられているのを見るとどこかのお嬢さんのようだ。

 ちなみに、シルフィエッタの首輪はボッター氏に外してもらっている。

 そもそも契約魔法で縛っているので、本来首輪は必要無いのだ。
 アレは一目で奴隷だと見分けるためだけに嵌めているらしい。
 外すことに条件が無いのならそりゃさっさと外すよね。

「さぁ、次は日用品ですわ! 行きますわよ!」
「はーい!」

 アイリスの号令にシルフィエッタが元気よく返事をする。
 俺たちが引き取った時の生気のない顔からすれば大きな変化である。

 これからはもっと笑顔にしてやって、その笑顔を守らなければならない。

「お兄ちゃん?」
「今行くよ」

 シルフィエッタの小さな手に引かれて日用品売り場へと足を進めた。
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