転生して間もなく乙女ゲーで言うところの悪役令嬢を拾いました。不憫に思い手を差し伸べたらいつの間にか尻に敷かれていました。誰か助けて……

愛飢男

文字の大きさ
上 下
39 / 85
旅するとみぃ

38話。ボッター商会

しおりを挟む
 冒険者三人の治療を終え、未だ目覚めないボッター商会の人にも回復魔法を掛けながらとりあえず自己紹介を済ませた。

 最初に俺たちに声を掛けてきた戦士風の男はエリオットと名乗り、軽戦士なのだそうだ。
 魔法使いっぽい男は見た目通り魔法使いで、名前はクリスト。
 弓使いの女性がシェイミーで、重装備な女性がサシャと言うそうだ。

 彼らはDランクの冒険者で、気絶しているボッター商会の男……次期ボッター商会会頭クリー・ボッター氏の護衛任務の途中らしい。

 エフリを出発して小国家群のエフリに近いいくつかの国を回り、これから帰るという時にグレーウルフの群れに襲われてしまったそうだ。

「トミーさんたちのおかげで命は助かりましたが……依頼は失敗です」

 チームリーダーのエリオットがそう呟くと、彼のパーティメンバーは一様に肩を落とした。

 どうやらこういう依頼を失敗してしまうと、違約金が発生するらしい。

 違約金というのは、依頼成功時に受け取る報酬と同額であり、今回の護衛依頼の場合交易銀板5枚だそうだ。

 これは一般的なエフリ国民五人家族が1ヶ月はいいものを食べられるくらいの金額なのだそうだ。

 例えるなら1ヶ月間牛丼ではなくヒレカツ丼を毎日食べられるくらいかな? 知らんけど。

「違約金は仕方ないのですが、今回の依頼を達成出来ればCランク昇格だったので……」

 幸いなことに違約金を支払うこと自体は可能なのだが、それよりも昇格試験に失敗したことの方が痛いそうだ。

 しかし昇格試験だったのか、試験なら落ち込んでも仕方ないな。
 俺だってノリで受けた運行管理者の試験落ちた時落ち込んだもの。
 悔しかったから次の試験本気で受けて受かってやったけどね。

「Cランクってすごいの?」
「一般的には一人前と言われるのがCランクですわね」

 Cランクがどれほどなのかが分からなかったのでこっそりアイリスに聞いてみると、そんな答えが返ってきた。

「Bランクは一流、Aは超一流、Sは英雄、偉業を為した者ですわ」
「なるほど」
「ですので『デーモンバスターズ』にはSランクこそ相応しいのですわ」
「ああ……うん」

 俺としては悪魔退治以外積極的に働く気は無いからCランクで充分なんですけどね。

「う……ん?」

 そんなことを話していると、ようやくボッター商会の方が目を覚ましたようだ。

「ここは?」
「ボッターさん! 良かった!」

 体を起こしたボッター商会の方に魔法使いクリストが駆け寄りわボッター氏の腕を掴み立ち上がらせた。

「ありがとう。ところでクリストさん、グレーウルフは?」
「この方たちが助けてくれました。我々の傷もこの方たちが……」

 クリストに紹介してもらい、軽く自己紹介を行う。
「デーモンバスターズ」とは名乗らない。なぜなら恥ずかしいから。

「助けて頂き感謝の言葉もありません。私はクリー・ボッター。エフリでしがない商人をしております」

 クリー・ボッターか、なんか魔法使いっぽい名前だけど商人さんなのね。

 それはいいんだけど、どう見ても悪徳商人って感じの人なんだよなぁ……
 名前的にもなんか悪いことして稼いでそうなイメージ。

「ボッターさん、すみませんでした。自分たちの力不足です」

 エリオットはボッター氏に深く頭を下げる。
 依頼に失敗してしまったのだから謝罪は当然必要だよね。

「あれだけの数のグレーウルフに襲われたのです。皆さんの力不足と言うより私の運が無かったのですよ」
「しかし……」
「まぁ、失敗は失敗として処理させて頂きますが……生き残れたのでこれ以上は言わないでおきましょう」

 これから叱責が始まるのかと思ってみていたが、俺の予想は外れたようだ。
 むしろ叱責されてしかるべきとも思うのだが、俺が口を出すことでもないので黙っておこう。

「それより、商品は無事なのですか?」
「はい、それは大丈夫だと思います」
「思いますですか……確認しないといけませんね」

 少し失礼しますと頭を下げてボッター氏は馬車の中へと乗り込んだ。

 エリオットたちは気まずげに馬車を見つめながらコソコソと話し合っている。

 なんか独り立ちして初めての運行で事故った後輩みたいな雰囲気だな。

「お待たせしました、商品は無事のようです」

 馬車の中を確認していたボッター氏が降りてきてエリオットたちに商品の無事を告げる。
 それを聞いた彼らは安心したように安堵の息を吐いた。

「そういえば何積んでるの?」

 運転手の性か、一言二言交わした相手が何を積んでいるのか、どこに行くのかが気になったので聞いてみた。

 ポーションなどはボッター氏のマジックバックに入っているとの事だが、ボッター商会が他に何を取り扱っているのか気にもなっていたのだ。

 なにか見たことの無い面白いものがあればいいな。

「おや、興味がおありですかな?」

 今までもずっと商人らしいほほ笑みを浮かべていたボッター氏の笑みがさらに深くなる。
 胡散臭い。実に胡散臭い。

「まぁ興味はあるよ」

 この世界に来て既に一年以上が経過しているが、その大半を森で過ごした。
 ファトスでは買い物なんて出来る状態ではなかったし、セドカンでは本屋と露店を軽く見て回ったくらい。
  だからどんな物が売っていて相場がいくらくらいなのかも知らないのだ。

 正直ボッター氏がなにを商っているのか興味はある。

「かしこまりました。気に入った商品があれば遠慮なくお申し付けください。今回のお礼として差し上げますので」
「いや別に――」
「ではご覧下さい!」

 正直見たいだけで買うつもりは特に無かったのだが、くれるというなら貰ってもいいのかな?

 そんなことを考えながらボッター氏が馬車後部の幌を開けるのを見ていたのだが……

「は?」

 開かれた幌から見えたのは、首輪を付けられ力なく座り込む若い女性たちの姿であった。

「いかがでしょうかトミー様、こちらが我がボッター商会最大の目玉商品である『奴隷』でございます」
「え……マジで?」

 一般的な商品が見たいと思ったらまさかの奴隷。
 正直どう反応したらいいのか分からなかった。

 いやぁ……人身売買はちょっと……
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...