転生して間もなく乙女ゲーで言うところの悪役令嬢を拾いました。不憫に思い手を差し伸べたらいつの間にか尻に敷かれていました。誰か助けて……

愛飢男

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旅するとみぃ

36話。アイリス、酔う

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 急いで朝食を食べ終え、アイリスと再度合流した後に国王様に軽く出発の挨拶をして俺たちはセドカンを出発した。

「結構適当な対応だったけど、あんなのて大丈夫なの?」

 王女様に「恥を知れ」とか言ってたよね?

「ええ。小国家の王族と大国ファミマトの公爵家では後者の方が圧倒的に力がありますの。なのでそこまで気を使う相手ではありませんわね」

 公爵家だけに後者……ダメだ、これは絶対口に出しちゃダメだ。
 想像しただけでさぶいぼが出た。

 そういや接しやすくて忘れがちだけど、アイリスって本来なら俺とは口も聞けない存在なんだよね。
 あまりふざけないようにしておこうかな。

「じゃあ昨日のと同じバイクでいい?」

 話しているうちにある程度街からも離れられたので、一応確認してみる。
 同じバイクであれば、キーワード設定してあるので一瞬で創り出せる。

「ばいくもいいのですが、もう少しその……揺れない乗り物はありませんの? 振り落とされそうで怖いのですわ」
「ふむ……」

 それもそうか。
 慣れない速度であれだけ揺れたらそりゃ怖いよね。
 俺だってケツと腰が痛くなったんだし。

「だったらバギー? いや、オフロード繋がりでオフロード車がいいかな?」

 顎に手を当て考える。
 悪路を走るのならキャタピラもアリかもしれない。いや、アリだろう。アリでしかない。

 でもキャタピラってかっこいいけどあんまり速いイメージは無いなぁ……

「だったらアレかなぁ」

 以前会社の同僚に自慢されたでっかいオフロード車にしよう。
 アレなら自慢され過ぎたせいで細部までイメージ出来る。

 方針は定まったのでイメージを固める。
 駆動方式はトラックやバイクを創造した時と同じものを使えばいいので外観だけをイメージする簡単なお仕事だ。

 なお、ライトは光魔法、エアコンは風魔法、ウォッシャー液は水魔法で代用するものとする。

「よし」

 イメージも固まったので、必要となる魔力を集めて一気に放出、【物質創造】を発動させる。

「完璧!」

 俺から放たれた魔力が物質へと変換され、嫌になるほど自慢された同僚のオフロード車が目の前に創造された。

 先日創ったオフロードバイクには付いてなかったナンバープレートまで完備されていた。

「これはなんですの?」
「オフロード車って言ってね、道無き道を走る車って感じ。これなら落ちることは無いからね」

 車から落ちたら大したもんですよ。

「くるま……」
「馬の要らない馬車みたいなもんだよ」

 まずは助手席のドアを開けてアイリスを乗り込ませる。
 半ドアにならないようにしっかりとドアを閉めてから運転席へと回って俺も乗り込む。

「アイリス、左肩のところにあるこれ引っ張ってみて」
「これですの?」

 出発前にキチンとシートベルトをしてもらう。
 してないと多分えらいこっちゃなるから忘れてはいけない。

「シートベルトよし! 左右よし! 前方よし! 出発します!」

 散々自慢されてきたが、俺自身オフロード車の運転はしたことが無い。
 初めて運転する車故に若干高めなテンションで指差し確認をしっかりしてからゆっくりとアクセルを踏み込んだ。



 ◇◆


「き……気持ち悪いですわ」
「それはいけない」

 出発しておよそ2時間、サドアを遠目に見ながら通り過ぎ、もう2時間も走ればセターンに到着するだろうと思われるくらいの辺りでアイリスが体調不良を訴えてきた。
 間違いなく車酔いだろう。めっちゃ揺れたし。

 吐かれても困るので、適当な場所で停車、アイリスを降ろしていい感じの木の根元に座らせる。

「どう? 吐く?」
「淑女は吐きませんわ……うっぷ」
「大丈夫? 吐いたら楽になるよ?」

 背中を撫でながら風魔法を発動、いい感じの風を起こしてアイリスに向けて吹かせる。

 30分ほどそうしていると、顔色もだんだん良くなり、吐き気も治まってきたようだ。

「ふぅ、もう大丈夫ですわ」
「それは良かった」

 結局吐かずに耐えきったな。絶対吐いた方が楽になると思うんだけど。

「それじゃ……乗ってく?」

 俺の創造したオフロード車はこのままだとあと30分ほどで魔力に還元されてしまう。
 なので乗って移動するなら早めに魔力の追加投入をして延長しなければならない。
 一度還元されて再度創造するよりも、魔力の追加投入て制限時間を延長した方がコスパがいいのだ。

「いえ、もう結構ですわ……」
「そう? セターンまではまだ距離あるんでしょ?」
「そうですわね」
「また酔っちゃうか……ならバイクで行く?」

 酔い止めとか持ってないしね。
 あ、もしかして回復魔法使えば治る?

「いえ、ばいくもちょっと……」
「そうなの?」
「ええ。申し訳ありませんが、少し歩きたい気分ですわ」
「それならいいんだけど……」

 大丈夫かな?

「これが『酔う』というものですのね。わたくし始めてですわ」

 どうやらこの世界にも「馬車酔い」というものはあるらしい。
 アイリスは馬車酔いもしたことがないそうなので始めての経験だそうだ。

「大丈夫ならいいんだけどね。疲れたらすぐに言ってね。無理はいけない」
「わかりましたわ」

 多少覚束無い足取りのアイリスに合わせてゆっくりと街道を進んでいく。
 歩いているうちに酔いも覚めてきたらしく、顔色も随分と良くなってきた。

「トミー、あそこ……」
「ん? 馬車が襲われてるね」

 完全に酔いも覚めたようだが、オフロード車にトラウマが出来たのか乗車を拒否、今日は歩いて移動すると言うので歩いていると、街道から少し離れた位置で馬車が襲われているのを発見した。

「あれは……グレーウルフの群れのようですわね。早く助けないと危険ですわ」
「了解、なら急ごうか。ちなみにグレーウルフって魔物?」
「単体ならEランクの魔物ですわ」

 魔物か、なら「聖拳突き」で一発だな。
 聖属性の一撃に昇華するなら濃縮5倍以上で練り上げないといけないと言われているし、助けるついでに実戦訓練としておこうか。

 魔力を操り身体能力強化を発動、一瞬で最高速度に達するよう踏み込んで駆け出す。

「まだまだですわね!」
「なぬ!?」

 一拍遅れて同じように身体能力強化を使って駆け出したアイリスが俺を追い越して前に出る。
 注意して見てみると、風属性の魔法を使って追い風を起こしているようだ。

「なるほど、そんな使い方が……」

 俺も追い風をと思ったが、同じことをしても再び追い越すことは出来ないだろう。
 なら他の手を考えるしかない。

「加速……爆発……ニトロ……」

 これだ!

 魔力を操り足の裏で爆発を起こす。
 爆発の勢いを利用して加速すれば……

「あーれー!?」

 文字通り爆発的な加速をすることには成功した。
 しかし思い付きでやるものでは無かったようで、制御を失い俺の体は中空に放り出されてしまった。

「グルゥ?」

 ズザザッとヘッドスライディングの要領で着地したのはグレイウルフの目の前。
 顔を上げるとヨダレを垂らしているグレイウルフとバッチリ目が合ってしまった。

「あっ……」

 俺と目が合ったグレイウルフは大きく口を開ける。
 頭から丸かじりコース一直線である。

「トミー!」

 背後からアイリスの声、同時に光の矢が放たれ俺の目の前で大口を開けるグレイウルフの口内へと突き刺さり黒いモヤへと姿を変えた。
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