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旅するとみぃ

34話。晩餐会

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 城へと戻り、部屋で購入した「タロウ・ヤマダの冒険記」を開く。
 夕食の時間までは読書の時間だ。

「こいつすげぇな」

 読み始めて10分もしないうちについ独り言が漏れてしまった。

 なんでもタロウ氏は18歳で俺と同じように女神エルリア様のミスで死んでしまい、やはり俺と同じく人として最高の才能を貰って転生したらしい。

 ただ、当時は女神様もアフターケアに慣れていなかったのか、俺のように戦い方を指導してくれる教官の存在は無かったらしい。

 この世界の知識も戦闘技術も持たず転生したタロウ氏は、まさかの転生初日に冒険者組合へ向かい登録、その時に先輩冒険者にボコボコにされて聖女と出会ったと書かれていた。

 無鉄砲過ぎるでしょ……

 そこから先は聖女と協力しながら進むいちゃラブラブコメバトルチーレムファンタジー。
 俺が死ぬ前に巷ではやっていたいわゆる「なろう系」を地で行く主人公最強俺TUEEEEな感じで話が進んで行った。

 ハーレムって大変そうだよね。俺は一人でいいよ。
 そもそも俺の場合、ハーレムどころか結婚出来るのかすら怪しいところだ。悪魔を倒したら婚活しよう。

「to be continuedって……続きがあるのか……」

 俺TUEEEEになってきた辺りは適当に斜め読みで読み進め、そこ以外はしっかり目を通してきたが、まさかの続く……

 せっかく虐げられている弱小部族を聖女と共にまとめあげ、これから悪の帝国との戦いが始まるというところで続きは次巻……

 俺TUEEEEは適当に流したけど、面白くなってきたところで続きは次巻、これでは続きが気になって夜しか眠れない。
 これは買うしかない。明日も街に行かなければ……

「使徒様、お食事の用意が出来ました」
「あ、はい。すぐ行きます」

 続きが気になり悶々としていると、夕食の準備ができたとメイドさんが呼びに来てくれた。

 立ち上がり部屋を出ると、同じタイミングで隣の部屋からアイリスも出てきた。

「トミー、どこまで読みましたの?」
「一応最後まで読んだよ。途中は結構流したけど」
「そうですの。それで、どうでした?」
「これからってところで終わっちゃったからね、続きが気になるよ。食後にキチンと読み返して、明日になったら続きを買いに行こうかな」
「そうですか」

 そうですかって……なんか素っ気なくない?

「最終的に現セブイレン帝国初代皇帝になりますわ」
「……え?」

 ネタバレ? ここでまさかのネタバレ?
 嘘だろアイリス、それだけはやっちゃいけないことだろ?

「どうしましたの? 陛下をお待たせする訳にはいきませんし、早く行きますわよ?」
「え……あ、はい……ソウデスネ」

 なんだか釈然としないが、間違ったことを言っているわけでもないので大人しくついて行くことにした。


 ◇◆


 それからロイヤルファミリーと夕食を共にする。
 そこで聞かれたのはやはり悪魔との戦いのことや、ファトスの被害についての話だった。

 そんなことよりタロウ氏の冒険が気になって仕方ない。

「やはり伯爵級ともなると一国ではどうにもできぬか……」
「父上、やはり……」
「うむ……」

 なにやら国王様と王子様で難しそうな会話が始まってしまった。
 巻き込まれたらたまったものではないので、気配を消してひっそりと食事を楽しむことにしよう。

 食べようとすると声がかかるから食べたくても食べれなかったこのお肉が気になって気になって仕方がないのだ。
 好きに食べさせてくれないのなら食事に招待とか辞めて欲しい。

「うま……」

 ナイフとフォークを手に取り、見様見真似で一口サイズに切り分けて口に運ぶと、思わず声が出た。

 ナニコレ美味しい。
 俺のよく食べてたお肉なんか比べ物にならない美味しさ。

 異世界転生物って大抵主人公が食事に不満を持って、現代知識でうんたらかんたらするイメージがあるけど、この世界でそれは俺には出来そうに無いね。
 そういうのは俺より前にこの世界に来た人たちが一通りやってるっぽいし。タロウ氏とかが。
 普通に白ご飯とか味噌汁とかもあるんだもん、俺に出る幕とか無いよね。

「使徒様、使徒様の居た世界のお話を聞かせてください」

 お肉に感動しながら俺に何が出来るのかを考えていると、いつの間にか俺の隣に移動してきていた王女様に声をかけられた。

 余程話が聞きたいのか結構近い。
 変な圧を感じそうだ。

「俺の元いた世界の話ですか?」
「はい、是非お聞きしたいのです。出来れば二人きりで……」

 王女様は俺の左腕にそっと自分の腕を絡めてくる。

 これ知ってる、美人局ってやつだ!

 こんな若くて美人な王女様が俺みたいなおっさんに興味を示すわけが無い。
 若い子が興味を示すのはおっさんではなくおっさんの財布だということは世の摂理なのだ。

 王女様の場合、財布には興味無さそうだから、悪魔を倒した力が欲しいのかな?

「ヒェッ……」

 話すのはいいのだけれど、二人きりは不味いからどう断ろうかと考えていると、王女様が急に変な悲鳴を上げて俺から手を離してくれた。

「王女殿下、未婚女性が婚約者でもない殿方にそのように密着するなんてはしたないですわ。恥を知りなさい?」

 鬼だ。
 鬼がいる。
 今、俺の背後には冷気を漂わせた鬼が鎮座している。そう直感した。

 だけどね鬼さん、これだけは言いたいんだ。

「お前が言うな」

 今年度のお前が言うなオブザイヤーはアイリスさんが受賞することとなりました。おめでとうございます。

 そんなふうに現実逃避をしているうちに、ロイヤルファミリーとの晩餐は無事に終了しており、気が付けば俺は部屋で一人本を読んでいた。

 アレ? いつの間に?
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