転生して間もなく乙女ゲーで言うところの悪役令嬢を拾いました。不憫に思い手を差し伸べたらいつの間にか尻に敷かれていました。誰か助けて……

愛飢男

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旅するとみぃ

31話。謁見

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「良くぞ参られた。楽にして欲しい」

 アイリスの半歩後ろを歩き、国王様の座す玉座から10メートル程離れた地点に膝を着くと、すぐに声をかけられた。

 言われた通りに頭を上げると、玉座には40を少し過ぎたくらいに見える眉毛のキリッとしたいかにも仕事の出来る雰囲気の男性が座っていた。

「我らが友好国、ファトスの危機を救ってくれたこと、心より感謝申し上げる」
「身に余るお言葉、恐悦至極に存じますわ」

 国王様の言葉にアイリスが返答する。
 一瞬訝しそうな顔をしたが、国王様は何事も無かったかのように話を続けてくれた。

「ファトスから伯爵級の悪魔が現れたと救援要請を受けた時には恐怖した。ファトスが落ちれば次は我が国だからね」

 なるほど、ファトスの街があのまま堕ちていれば次はファトス周辺の村、その次は……

「さて、それでは今後の予定についてなのだが、まずはゆるりと体を休められるがよろしかろう。ファトス王からの要請については恙無く実行すると約束する」

 要請?

「ありがとう存じます」
「此度の件は世界の危機、協力しない理由がないのだよ」

 セドカンの国王様は穏やかに微笑んでいた。眉毛すごいキリッとしてるけど。最早顔の印象眉毛しか残らないレベルだけど。

「では客間を用意させよう。夕食は共にしたいと考えているのだが、いかがだろうか?」
「もちろん、喜んで」
「ではその時に改めて」

 国王様がそう言うと、謁見は終了となった。
 他にも何か色々と話していたような気もするのだが、国王様の眉毛に意識の7割強を持っていかれていたのであまり覚えていない。

 俺の眉毛は若干垂れていて、よく情けない顔をするなとか、なんかなんとなく頼りないとか言われていたので、あのキリッとした自己主張の強い眉毛には憧れざるを得ない。

 どうやったらあの眉毛を手に入れることが出来るのかと考えているうちに、俺たちの宿泊する客間へと案内されていて、いつの間にかソファにアイリスと向かい合って座っていた。
 目の前には紅茶とクッキーが置かれている。

「トミー、ずっと上の空でしたが、体調悪いんですの?」
「ごめん、ちょっと考え事してた」
「まったく……陛下の前で考え事なんてトミーは大物なのかただのバカなのか判断に苦しみますわ」
「ごめんなさい」

 さすがに失礼過ぎることをした自覚はある。

「どうせ陛下の眉毛に気を取られていたのでしょう? わたくしも油断すれば持っていかれそうでしたわ」
「あの眉毛欲しい」
「トミーには似合いませんわ。トミーは今のままで……」
「ん?」
「なんでもありませんわ!」

 なんだかアイリスがプリプリしている。何か変なこと口走っちゃったかな?

 しかし俺にあの眉毛は似合わないか……

 そうだ、だったらもう少し自己主張弱めの眉毛を【物質創造】で創ってくっつけたら……

 ダメだ、俺の魔力じゃ世界に定着させることはできないからそのうち消えてしまう。
 もし誰かと話している途中に眉毛が霧散して消えてしまったら話している相手を驚かせてしまうな。

「またバカなこと考えていますわね」
「大事なことだよ」

 俺の悩みをバカなことと切り捨てるのはやめて欲しいものだ。

「それは置いておいて、トミーは晩餐の時間までどうしますの?」
「特にやることはないかな。アイリスは?」

 目の前のクッキーをつまみ上げ、口に放り込む。
 うむ、サクサクしてて美味しい。しかもチョコチップクッキー。

 紅茶も一口飲んでみる。
 大変にいい香りがしてとてもお高い紅茶だとは思うけど、俺はコーヒー派だから紅茶のことはよく分からない。

「時間もありますし、街に行ってみようかと。トミーも一緒にどうかしら?」

 ふむ街か、大変に興味がある。
 喫茶店から城まで移動する時に窓から街を見ていたが、もっと身近で人の営みを感じてみたい。

 ド田舎とも言えない森の中で生活していた俺は都会に憧れがあるのだ。行こう。是非行こう。

「行く」
「わかりましたわ。少しよろしくて?」

 アイリスは俺の返答を聞いた後、背後に控えているメイドさんに顔を向けた。

「街に出たいのだけれど、可能かしら?」
「かしこまりました。案内は必要でしょうか?」
「そうね、お願い」

 メイドさんと短くやり取りしてからアイリスは再び俺へと向き直った。

「では行きましょう」


 ◇◆


 特に着替えることも無く、俺とアイリスはメイドさんを伴って街へと繰り出した。
 もちろん部屋の付近を警護していた騎士には一言伝えてある。

「トミー様、アイリス様、どこか行きたいところはありますでしょうか?」
「そうですわね……トミーはどこか行きたいところは?」
「俺はどこでも」

 俺は街を見て、感じてみたいだけなのだ。
 特に行きたいところは無い。

「でしたら冒険者組合に行きましょう。『デーモンバスターズ』冒険者登録ですわ」
「その名前で登録するの?」
「当たり前ですわ!」

 アイリスにはなにか譲れないものがあるのだろう、決して譲らないという気迫を感じる。

 それならまぁ、別にいいか。
 よくよく考えたらパーティ名なんてそんな名乗ることないだろうし、所属する団体名が少しおかしくても気にする必要はない。

 なんなら俺の働いてた会社、愛飢男ロジだったからね?

 なんだよ愛飢男って、バカじゃないの?
 せめて植えろよ。飢えるなよ。

 そんな会社に面接に行った俺もどうかと思うけど、募集条件が良かったんだから仕方ないよね。

 おっと話が逸れた。

「了解、んじゃ冒険者登録しに行こうか」

 こうして、俺たち『デーモンバスターズ』の伝説が始まるのであった。
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