転生して間もなく乙女ゲーで言うところの悪役令嬢を拾いました。不憫に思い手を差し伸べたらいつの間にか尻に敷かれていました。誰か助けて……

愛飢男

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旅するとみぃ

30話。セドカン

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【物質創造】で創りだしたバイクで街道という名のでこぼこ道を走ること二時間と少し、いくつかの村を通り過ぎてファトスとあまり変わらない規模の街が見えてきた。

「あれ、もう見えてきたよ? 早くない?」

 バインバイン跳ねるので、舌を噛まないよう気を付けながらアイリスに質問してみる。

「ばいくが! 速すぎるん! ですの!」

 バウンドに合わせ、舌を噛まない話し方をマスターしたアイリスが答えてくれた。

 乗り始めてしばらくはバランスは崩すし舌は噛むし散々だった。
 しかし何度かバランスを崩し、舌を噛むとコツを掴んだらしく、慣れてからのアイリスは完璧だった。
 今では重心移動も完璧だ。さすが完璧令嬢!

「街も見えて! 来ましたので! ここからは! 歩き! ます! わよ!」
「了解」

 バイクを止め、魔力に還元する。
 使用魔力は……体感的に一割くらいかな?
 これくらいなら移動手段として使えそうだな。

【クリエイトオフロードバイク】でキーワード設定しておこう。
 これで毎回イメージせずとも言葉と魔力で再現できる。

「どうだった?」
「速すぎますわ! なんですかあの速さは!?」

 おっと、お気に召さなかったのかな?

「大体、ファトスからセドカンまでは馬車で二日近くかかりますのよ?! なんでこんなに早く到着しているの!?」
「そういう乗り物だから」

 ふむ、ほぼ真っ直ぐの街道を平均時速40キロくらいで走ってたはずだから、ファトスからここまでで大体80キロくらい?
 馬車で二日近くかかるって言ってるし、つまり馬車は一日で40キロ~50キロ進める計算なわけだな。

 だから時速計算すると……えっと……うんと……よし、俺が走る方が速い! 人としてどうかと思うけど俺の方が速い!

「まぁ早く到着するに越したことはないでしょ?」
「それはそうですけど……」

 時短出来ることは時短していかなきゃ。タイムイズマネーだよ。

「んじゃ行こうか」
「待ってくださいまし」

 街に向かって歩き出そうとすると、シャツの裾を掴まれた。

「どうしたの?」
「腰が抜けて歩けませんわ」
「おい嘘だろ」

 結局アイリスをおぶって移動することになってしまった。
 背中に当たるアレは……心頭滅却すれば火もまた涼し、心の中でうろ覚えの般若心経を唱えながら街の入り口へと足を進める。

「ごめんくださーい」

 一時間ほど歩いて街の門へ到着、他に誰も居なかったので門番に声を掛ける。

「この街に何の用で……怪我人か?」

 門番はおそらくお決まりの挨拶をしようとしたのだろうが、俺に背負われているアイリスを見て心配そうな顔をする。
 多分優しい人だ。

「いえ、怪我人じゃないです。甘えてるだけです」
「ちょっとトミー!」

 背中から何やら非難の声が聞こえてきたが、一時間も背負っているのだからこれは甘えでしょうよ。
 立てるなら自分で歩きなさい。

 まぁそれをアイリスに対して強く言えない俺も俺なんだけどさ。

「怪我人でないのなら良かった……のか?」
「そういうことで。街に入りたいのですが、いいですか?」
「ああ、街に入るなら一人大銅貨2枚だが……冒険者なら割引があるが冒険者か?」

 へぇ、冒険者だと割引があるのか。

「冒険者じゃないです。代わりにこんなものを持ってます」

 背負っていたアイリスを降ろして、鞄からファトスの国王様に貰った通行許可証を提示する。

「これは……ファトス王直筆の許可証!?」
「ですです」

 ここにたどり着くまでの間にアイリスから聞いたのだが、通行許可証にもいくつかのランクがあり、俺が貰った許可証は俺が何かやらかした場合全ての責任をファトス王が取るという最上級のものだそうだ。

 大盤振る舞いが過ぎる。一体なぜファトス王は俺の事をそこまで信用したのだろうか。

「すぐに王城へ使いを出します。迎えの馬車が到着するまでこちらでお待ちいただけますでしょうか?」
「使い? 迎え?」

 使い……はまぁわかる。アポ無し訪問は失礼だからね。
 しかし迎えはいらないよ?

「わかりました。よろしくお願いしますわ」
「ありがとうございます。ではこちらへ……」
「少々お待ちになって。トミー、書状を」

アイリスに促されたので鞄からファトス王に貰った書状を取り出す。

「お預かり致します」

アイリスに確認すると、渡すように目で合図してきたので門番に書状を手渡した。

「確かに。では改めてご案内致します」

 別の兵士に書状を渡してから改めて案内されたのは、門の近くにある喫茶店のような店であった。

「迎えの馬車が到着するまでの間、こちらでお待ちください。支払いはこちらで持ちますので、どうぞお好きなものを」
「お心遣い感謝致しますわ」
「勿体なきお言葉。では失礼致します」

 門番は綺麗に一礼して店を出て行った。

「歩いて行った方が早くない?」
「有り得ませんわね。この申し出を断るのは失礼に当たりますわ」
「そういうものなの?」
「そういうものですわ」

 ふーん、遠慮しちゃダメってことかな?

 適当に注文して時間を潰していると、迎えがやってきたので馬車に乗り込み王城へと移動する。

 ファトス王直筆の許可証を持っているというのは相当のようで、王城に到着するとそのまま謁見の間へと案内された。

「トミー、作法はわかりますの?」
「わかるわけがございません」

 適当なところまで進んでから跪いて「面を上げよ」と言われたら顔を上げる。

 俺が知ってるのはこれくらい。

「ですわよね……本来なら一応無礼になりますが今回はわたくしが対応致しますわ」
「おなしゃす」

 ほら、やっぱりリーダーはアイリスの方がいいと思うよ。

 門番よりも数段立派な装備を身に付けた騎士は俺たちの作戦会議が終わるのを見計らってから小さく扉を叩いた。

「我らが友好国、ファトス国を救いし救国の英雄! 『女神の使徒』トミー・センリ殿! 『姫騎士』アイリス・フォン・イルドラース殿! 御到着!」

 騎士が扉を叩いて数秒、中から俺たちを紹介する声が聞こえてきた。

 マジで勘弁して欲しい。救国の英雄とか大袈裟過ぎるでしょ……

 非常に森に帰りたい気分になってしまったが、無常にも扉が開かれてしまったので俺とアイリスは謁見の間へと足を踏み入れた。
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