転生して間もなく乙女ゲーで言うところの悪役令嬢を拾いました。不憫に思い手を差し伸べたらいつの間にか尻に敷かれていました。誰か助けて……

愛飢男

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街の中のとみぃ

21話。聖者様

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 呆ける神官さんをなんとか現実に引き戻して怪我人の治療を再開する。

「欠損患者にはこれを。俺は魔法での治療を行います」
「かしこまりました!」

 インスタントエリクサーを飲ませるのは俺である必要は無い。
 なので大きめの水差しを用意してもらい、そこに水と竜の血を入れてインスタントエリクサーを作り神官に手渡す。

 これで俺は欠損患者以外の重傷者の治療に専念できる。

「もう大丈夫ですよ。【ハイヒール】」

 怪我人に手を翳し、設定したキーワードを唱える。

 翳した掌から柔らかな光が降り注ぎ、あっという間に傷を癒していく。

 ちなみに最初は「大丈夫ですか?」と声を掛けていたのだが、どう見ても大丈夫には見えなかったのでそれは辞めた。
 それからは安心させるために「もう大丈夫」と声を掛けて【ハイヒール】を使うようにした。

 そうして次々に怪我人を癒して回っていると、最初は呻き声や患者に声を掛ける神官の声でうるさかった広間が徐々に静まり返ってきた。

「聖者様だ……」

 誰かがポツリと呟いた。
 その声は、静まり返った広間に響き渡る。

「聖者様」「聖者様だ」「聖者様!」

 その言葉は、次々と患者や神官へと伝播して、皆が口々に俺の事を「聖者様」と呼ぶようになって行く。

 やめろ! 頼むからやめてくれ!

「聖者様、ありがとうごさいます」
「どういたしまして。ただ感謝するなら聖者様はマジでやめろください」

 患者にハイヒールを掛けて治療する度に聖者コールが巻き起こる。

 アイリスさんが「姫騎士」や「完璧令嬢」と呼ばれるのを嫌がる気持ちが少し理解出来てしまった。



 ◇◆


 広間に居た重傷者全員を治療し終わり、建物の外にまで広まってしまった聖者コールを聞きながら唖然としていると、アイリスさんと二人の男性が奥の扉から姿を現した。

 三人は聖者コールに驚いている。

「あ……アイリスさん……」
「トミー、治療は終わりましたの?」
「終わりました。それで……」

 広間の元怪我人や神官は奥から三人が出てきたことでコールを止め、敬虔な信徒のように俺に向けて祈りを捧げ始めた。

 なんだこれ。

「聖者様は大人気ですわね」
「勘弁してください」

 俺の項垂れる姿を見て、アイリスさんは楽しそうに笑った。

「聖者様、この度は本当にありがとうございました。聖者様のおかげで多くの民が救われたこと、心より感謝申し上げます」

 項垂れながらアイリスさんに笑われていると、横からアイリスさんと一緒に奥の部屋から出てきた男性に声を掛けられた。

 そちらを見てみると、質素ながらいい素材を使っていそうな服を着た、少し背の低い小太りの男性がこちらに向けて深々と頭を下げている姿があった。

 少し薄い頭頂部が丸見えで、ほんの少しだけ哀愁を漂わせている。
 苦労してるんだな……

「トミー、こちらはこの国の国王陛下ですわ。その隣に居るのが神官長のセルゲイ様ですわ」

 誰かと思っていると、アイリスさんが紹介してくれた。
 紹介してくれるのは有難いんだけど、国王陛下めっちゃ頭下げてるよ? タイミング間違えてない?

「あの……頭をあげてください……」

 国王なんて偉い人に頭を下げられるなんて、一般市民の俺には荷が重い。
 この人が王様だって聞いた瞬間から胃が痛い。竜の血舐めようかな……

「聖者様、私からもお礼を……聖者様が来てくださったおかげでこの国は救われました。本当にありがとうございました」
「いやほんと……頭上げてください……」

 国王様には頭を上げて貰えたが、入れ替わるように神官長が頭を下げる。

 なんだこれ、本当にやめて欲しい。
 それと割とマジで聖者様もやめて欲しい。

「出来ればその聖者様って言うのも……おっと?」

 二人に頭を上げてもらい、聖者様呼びはやめて欲しいと言いかけた瞬間、世界が揺れた。

「トミー!」

 世界が揺れて立って居られなくなったところをアイリスさんに支えられてなんとか倒れずに持ちこたえることが出来た。

「トミー、大丈夫ですの!?」
「あ、アイリスさん? めっちゃ揺れてるけど大丈夫なの?」
「揺れてる? 何がですの? トミーの体ですの?」

 え? 揺れてない? あれ?

「あれ……目が回る……」

 俺の見ている世界がぐにゃりと歪み、目を開けていられなくなった。
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