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街の中のとみぃ
16話。悪魔
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キマイラとの激闘を終え、俺たちは更に街の中心部へと足を進める。
奥に行けば行くほど敵が強くなる……というゲーム的なシステムは無いようで、変わらずアイリスさん無双が展開されていた。
「アイリスさん、大丈夫?」
「まだまだ余裕……と言いたいところですが、正直そろそろ魔力が尽きそうですわね」
街に足を踏み入れてここまでに既に100を超える魔物を屠っているのだ。無理もない。
むしろ未だその表情には闘争心が伺える。すごい人だ。
「問題ありません。わたくし魔法より剣の方が得意ですの」
「マジでか」
これだけの数の魔物を屠っておいて魔法より剣の方が得意とは……
自信に満ちたその顔からは嘘をついている風には見えない。
「それより……居ましたわ」
アイリスさんの視線の先には緑色の肌をした身長3メートル程の化け物が立っていた。
頭の左右にはぶっとい角、腕は4本、その指先には鋭い爪……
あんな体で普段どうやって生活してるんだろうね?
「肌の色は緑、伯爵級ですわね……」
つい数秒前の自信に満ちた顔はどこへやら、アイリスさんの顔は血の気が引いて青くなっている。
「アイリスさん」
「な、なんですの?」
「ビビっちゃいました?」
「なッ!?」
「アイリスさんの家って公爵家ですよね? 公爵家なのに伯爵にビビっちゃいました?」
「トミー……貴方……ッ!」
青ざめていたアイリスさんの顔に徐々に赤みがさしてきた。
どうやら目論見通り、恐れよりも怒りの方が強くなってきたようだ。
まぁ公爵だろうが伯爵だろうが種族とか意味合いが全く違うんだからビビっちゃったとして何も恥ずかしくないと思うけどね。
少しの間真っ赤になってプルプルしていたが、アイリスさんは一度大きく息を吐いて俺に問いかけてくる。
「勝てますの?」
「勝てると思いますよ。そこまでの圧も感じませんし」
「圧を感じないって……凄まじいプレッシャーを放っていますわよ?」
「そうですかね? こんなんバトルモードの聖竜さんの圧と比べたら屁みたいなもんですよ」
「屁って……お下品ですわよ」
クスクスと笑うアイリスさん。
守りたいこの笑顔。どうやら俺にも父性というものがあったらしい。
「そうだ、伯爵を見てビビっちゃった公爵令嬢様にはこれを貸してあけますね」
「よろしいんですの?」
作業服の上着を脱いでアイリスさんに着せる。
うん、ぶかぶかだ。なんかエロい。
「それ着てたら怖くないでしょ?」
「そうですわね。もう……怖くありませんわ」
このままでは剣も持てなさそうだったので袖を捲ってやってからアイリスさんの頭をポンと撫でる。
「じゃあ雑魚はお任せします。怪我をしないよう気を付けてくださいね」
「ええ。トミーの服を着ていますもの。怪我なんてするはずありませんわ。それより……」
アイリスさんは俺の右手を掴み、上目遣いに見上げてくる。
「……ご武運を」
それだけ言って魔物の集団へと向き直り、駆けて行った。
……うぉぉおおお! やったるでぇぇえええ! フルボッコじゃぁぁあああ!!
駆け出したアイリスさんの背を見送り、俺も湧き上がるテンションのままに伯爵級悪魔に向けて全力でダッシュする。
「ХЧЩдιμПдКФПμ」
「うるせぇ! 黙れ!」
悪魔は俺の方を向いて口を開いたが、何を言っているのかさっぱり意味がわからない。
聞いていると頭が痛くなりそうなので黙って欲しい。
「μдιЙЩ『Ч』」
「うるさいっつってんだろ! 秘技、聖拳突き! 濃縮2倍!」
全身を魔力で強化、右拳に光属性の魔力を纏わせる。
伯爵級悪魔を相手にするということで、普段魔物に対して使うのよりも凝縮して濃縮した魔力だ。
「えんやこーらの……どっこいしょー!!」
踏み込み、腰の回転、腕の引き、さらにインパクトの瞬間に肩、肘、手首を連動させて内側に抉り込むように……打つべし!
俺の拳は吸い込まれるように悪魔の腹部へと命中、そのまま数メートル吹き飛ばした。
「ЧдμХιЧμКμμХ!」
「あれ? あんまり効いてない?」
悪魔はしっかりと両足で着地、4本の腕を広げて威嚇してくる。
膝も震えてないし、あまりダメージは入っていないのかもしれない。
「秘技、聖拳突き。足バージョン濃縮3倍!」
濃縮2倍でダメなら3倍で。
さらに威力を高めるために拳ではなく足に魔力を纏わせ助走をつけたドロップキックを放つ。
俺の蹴りは悪魔の胸を打ち、さらに数メートル吹き飛ばすことには成功したが、やはりダメージが通った様子は無い。
ふむ、これはよろしくないな。
「μдμμμ『『ιιХ』ЙФФЩ』」
今度はこちらの番だと言わんばかりに襲いかかってきた悪魔の攻撃を捌きつつ、時折カウンターで聖拳突きを放つが痛がる様子は無い。
それより4本も腕があるから捌くのが大変に面倒臭い。たまに掠って痛いし。
というか掠るだけで皮膚裂けるんだけど?
痛い、まじ痛い。
こっちは思い切り殴りつけてもそこまでダメージ通らないのに……そうだ!
「殴ってダメなら刺せばいい」
【物質創造】でナイフを創り突き刺そうと試みるが、悪魔の皮膚に触れた瞬間に折れてしまった。
どうやら刺さらないらしい。
「ЩФЙХιμдКЧП」
「うるさい! 黙れ! 鬱陶しい! 濃縮3倍!!」
4本の腕を器用に使って俺の逃げ場を無くそうと動く悪魔。
あまりに鬱陶しいので聖拳突き濃縮3倍で思い切り吹き飛ばす。
「ふぅ……殴ってもダメ、刺してもダメ、魔法はそもそも当たる気がしない……そもそも魔法ぶつけるより殴った方が強い……」
このままでは負けもしないが勝てもしない。
自分の持つ手札を改めて見直すが、思いのほか少ないことにちょっとだけ泣きそうになる。
「こうなりゃ奥の手だな」
聖竜さんにすら傷を付けた俺の奥の手……
ついに切り札を切る時が来たようだ。
残った魔力の大半をぶち込む伸るか反るかの大博打、男は度胸、やってなれないことは無い!
俺は気合いを入れるために大きく息を吸い込んだ。
「【クリエイト】……」
奥に行けば行くほど敵が強くなる……というゲーム的なシステムは無いようで、変わらずアイリスさん無双が展開されていた。
「アイリスさん、大丈夫?」
「まだまだ余裕……と言いたいところですが、正直そろそろ魔力が尽きそうですわね」
街に足を踏み入れてここまでに既に100を超える魔物を屠っているのだ。無理もない。
むしろ未だその表情には闘争心が伺える。すごい人だ。
「問題ありません。わたくし魔法より剣の方が得意ですの」
「マジでか」
これだけの数の魔物を屠っておいて魔法より剣の方が得意とは……
自信に満ちたその顔からは嘘をついている風には見えない。
「それより……居ましたわ」
アイリスさんの視線の先には緑色の肌をした身長3メートル程の化け物が立っていた。
頭の左右にはぶっとい角、腕は4本、その指先には鋭い爪……
あんな体で普段どうやって生活してるんだろうね?
「肌の色は緑、伯爵級ですわね……」
つい数秒前の自信に満ちた顔はどこへやら、アイリスさんの顔は血の気が引いて青くなっている。
「アイリスさん」
「な、なんですの?」
「ビビっちゃいました?」
「なッ!?」
「アイリスさんの家って公爵家ですよね? 公爵家なのに伯爵にビビっちゃいました?」
「トミー……貴方……ッ!」
青ざめていたアイリスさんの顔に徐々に赤みがさしてきた。
どうやら目論見通り、恐れよりも怒りの方が強くなってきたようだ。
まぁ公爵だろうが伯爵だろうが種族とか意味合いが全く違うんだからビビっちゃったとして何も恥ずかしくないと思うけどね。
少しの間真っ赤になってプルプルしていたが、アイリスさんは一度大きく息を吐いて俺に問いかけてくる。
「勝てますの?」
「勝てると思いますよ。そこまでの圧も感じませんし」
「圧を感じないって……凄まじいプレッシャーを放っていますわよ?」
「そうですかね? こんなんバトルモードの聖竜さんの圧と比べたら屁みたいなもんですよ」
「屁って……お下品ですわよ」
クスクスと笑うアイリスさん。
守りたいこの笑顔。どうやら俺にも父性というものがあったらしい。
「そうだ、伯爵を見てビビっちゃった公爵令嬢様にはこれを貸してあけますね」
「よろしいんですの?」
作業服の上着を脱いでアイリスさんに着せる。
うん、ぶかぶかだ。なんかエロい。
「それ着てたら怖くないでしょ?」
「そうですわね。もう……怖くありませんわ」
このままでは剣も持てなさそうだったので袖を捲ってやってからアイリスさんの頭をポンと撫でる。
「じゃあ雑魚はお任せします。怪我をしないよう気を付けてくださいね」
「ええ。トミーの服を着ていますもの。怪我なんてするはずありませんわ。それより……」
アイリスさんは俺の右手を掴み、上目遣いに見上げてくる。
「……ご武運を」
それだけ言って魔物の集団へと向き直り、駆けて行った。
……うぉぉおおお! やったるでぇぇえええ! フルボッコじゃぁぁあああ!!
駆け出したアイリスさんの背を見送り、俺も湧き上がるテンションのままに伯爵級悪魔に向けて全力でダッシュする。
「ХЧЩдιμПдКФПμ」
「うるせぇ! 黙れ!」
悪魔は俺の方を向いて口を開いたが、何を言っているのかさっぱり意味がわからない。
聞いていると頭が痛くなりそうなので黙って欲しい。
「μдιЙЩ『Ч』」
「うるさいっつってんだろ! 秘技、聖拳突き! 濃縮2倍!」
全身を魔力で強化、右拳に光属性の魔力を纏わせる。
伯爵級悪魔を相手にするということで、普段魔物に対して使うのよりも凝縮して濃縮した魔力だ。
「えんやこーらの……どっこいしょー!!」
踏み込み、腰の回転、腕の引き、さらにインパクトの瞬間に肩、肘、手首を連動させて内側に抉り込むように……打つべし!
俺の拳は吸い込まれるように悪魔の腹部へと命中、そのまま数メートル吹き飛ばした。
「ЧдμХιЧμКμμХ!」
「あれ? あんまり効いてない?」
悪魔はしっかりと両足で着地、4本の腕を広げて威嚇してくる。
膝も震えてないし、あまりダメージは入っていないのかもしれない。
「秘技、聖拳突き。足バージョン濃縮3倍!」
濃縮2倍でダメなら3倍で。
さらに威力を高めるために拳ではなく足に魔力を纏わせ助走をつけたドロップキックを放つ。
俺の蹴りは悪魔の胸を打ち、さらに数メートル吹き飛ばすことには成功したが、やはりダメージが通った様子は無い。
ふむ、これはよろしくないな。
「μдμμμ『『ιιХ』ЙФФЩ』」
今度はこちらの番だと言わんばかりに襲いかかってきた悪魔の攻撃を捌きつつ、時折カウンターで聖拳突きを放つが痛がる様子は無い。
それより4本も腕があるから捌くのが大変に面倒臭い。たまに掠って痛いし。
というか掠るだけで皮膚裂けるんだけど?
痛い、まじ痛い。
こっちは思い切り殴りつけてもそこまでダメージ通らないのに……そうだ!
「殴ってダメなら刺せばいい」
【物質創造】でナイフを創り突き刺そうと試みるが、悪魔の皮膚に触れた瞬間に折れてしまった。
どうやら刺さらないらしい。
「ЩФЙХιμдКЧП」
「うるさい! 黙れ! 鬱陶しい! 濃縮3倍!!」
4本の腕を器用に使って俺の逃げ場を無くそうと動く悪魔。
あまりに鬱陶しいので聖拳突き濃縮3倍で思い切り吹き飛ばす。
「ふぅ……殴ってもダメ、刺してもダメ、魔法はそもそも当たる気がしない……そもそも魔法ぶつけるより殴った方が強い……」
このままでは負けもしないが勝てもしない。
自分の持つ手札を改めて見直すが、思いのほか少ないことにちょっとだけ泣きそうになる。
「こうなりゃ奥の手だな」
聖竜さんにすら傷を付けた俺の奥の手……
ついに切り札を切る時が来たようだ。
残った魔力の大半をぶち込む伸るか反るかの大博打、男は度胸、やってなれないことは無い!
俺は気合いを入れるために大きく息を吸い込んだ。
「【クリエイト】……」
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