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街の中のとみぃ
15話。キマイラ
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「これは……」
破られた門から街に入り目にした光景はまさに地獄のようであった。
崩れかけの建物、濁りきった川、漂う血臭……
壁の内側には大量の魔物が跋扈していた。
「気付かれたようですわ」
一応、門の影から覗き込んでいたのだが、この程度では魔物の目や鼻は誤魔化せず、数体の魔物がこちらに寄ってきていた。
「どうします? 逃げます?」
今ならまだ逃げ切れるだろう。そう思い提案したのだが、アイリスさんは首を横に振った。
「無理ですわね。先程からヒシヒシと悪意を感じておりますの。大物がわたくしたちを狙っていますわね」
アイリスさんの話によると、本来魔物というのはそこまで悪意のあるものではないらしい。本能のままに行動するのだと。
それなのに強大な悪意を感じるということは魔物ではない。現状を見るに魔物を統べる存在が居るということのようだ。
「それって……」
「悪魔ですわ」
魔族、と言いかけたがどうやら違うらしい。
言わなくてよかった。
「悪魔は魔物を率いて人間や動物を襲いますの。散らばらずにこの壁の中に居るということは、また生き残りが居るか、悪魔の探知範囲内にはわたくしたちしか居ないということですわ」
「つまり逃げても追いかけてくる?」
「その可能性が非常に高いですわね」
ならここに来る前に離れていたら……いや、アイリスさんが悪意を感知した時点でそれも無理な話だったのかもね。
「生き残るためには?」
「討伐。もしくは悪魔が現世に顕現出来る時間を超えるまで何とか耐えることですわ」
「その時間は?」
「階級によって変わりますわ。詳しくは覚えていませんの……」
いつ帰るか分からない悪魔の攻撃を凌ぎ続けるのは無理があるか……
なら討伐しかないな。
「階級については?」
「下から騎士級、男爵級、子爵級、伯爵級、侯爵級、公爵級、王と言われておりますわ。これだけの規模の街を滅ぼせるほどの魔物を従えていることを考えるとおそらく子爵級以上の悪魔が居るはずですわ」
子爵級……下から三番目だけど、勝てるのかな?
「どれくらい強いの?」
「冒険者ランクに当てはめると男爵級でSランク相当ですわ……子爵以上となると……」
大森林で戦っていた魔物がB~Cランク、時折Aランクって言ってたな……
その魔物を鎧袖一触で倒していたアイリスさんが真っ青になっているのはそれが原因か。
最低でもSランク以上……ヤバいな、ピンと来ない。
これは全速力で森に帰って、森の動物たちを囮にしてお帰り頂けるまで逃げ続けた方がいいんじゃ……いや、森の近くの村とか集落、そこから大きな街に狙いを向けられたら……
あれ? 割と国単位滅亡の危機?
「言い伝えによると、子爵級の悪魔で精兵1万人に、伯爵級で5万人に匹敵するそうですわ……せっかくクソ王子と別れられたのにここまでですわね……」
アイリスさん半分諦めてる……
しかし精兵1万人とか5万人か……それはなかなか……ワンチャンあるんじゃない?
「ねぇアイリスさん」
「なんですの? トミーが囮になってわたくしを逃がしてくれますの?」
いや、まぁ別にそれでもいいんだけど……
「俺って10万の兵に囲まれたとしても勝てるって言われたんですけど、悪魔に勝てますかね?」
「はい? 誰に言われたんですの?」
「聖竜さんに」
俺が軽く答えると、アイリスさんはポカンと口を開けて固まってしまった。
虫入っちゃうよ?
「聖竜さんって……あの伝説の聖竜ですの?」
「この世界の伝説とか知らないですけど、全身が白銀に輝いてる聖竜さんですね」
他にも聖竜さんが居るのなら人違いならぬ竜違いかもしれない。
「……分かりましたわ」
俯いていたアイリスさんの顔が前を向いた。
「やってやりますわ! トミー、魔物は極力わたくしが倒します。だから貴方は……」
「悪魔にぶちかませばいいんですね。任せてください」
ゴッツイのぶちかましますよ!
「じゃあ行きますわよ! 悪魔はおそらく街の中心辺りにいると思いますわ! トミー! わたくしに着いてきなさい!」
「ういっす!」
マジックバックからロングソードを取り出して、アイリスさんは駆け出した。
「道を……開けなさいッ!」
アイリスさんから放たれた風の刃が魔物たちを斬り裂く。
ここら辺に居る魔物は大森林の魔物よりも弱いようで、アイリスさんはいとも容易く魔物たちを倒して突き進む。
「おっと!」
倒壊している建物の影から飛び出してくる魔物は俺の担当、この程度の魔物であれば『秘技、聖拳突き』を繰り出すまでもない。
「止まって!」
前方を走るアイリスさんの鋭い声。
100メートル程先には獅子の頭にヤギの身体、蛇の尾を持つ魔術が俺たちを待ち構えていた。
「キマイラですわね……Aランクでも上位の魔物ですわ」
アイリスさんは冷や汗を流しながら手に持つ剣を構えるが、そんな悲壮な覚悟は必要無いよ?
「俺がやるよ。アイリスさんは周りの雑魚を抑えてて」
あの魔獣……キマイラは大森林で戦ったことあるからね。
所詮ちょっとデカくてすばしっこい猫みたいなやつだったよ。
キマイラは俺を獲物と定めたようで、立ち上がり雄叫びを上げて俺へと突進してくる。
まっすぐ突っ込んできてくれるのなら有難い。
前に戦った時は木々を利用して立体的な動きをして翻弄してきたから殴るのに苦労した。
「秘技、聖拳突き!」
まっすぐ来るのならまっすぐ行けばいい。
右拳に光の魔力を纏わせた一撃をキマイラの顔面に叩き込んだ。
「……信じられませんわ」
アイリスさんの呟きとともにキマイラの体が黒いモヤへと変わり、赤黒い魔石を残して消えていった。
破られた門から街に入り目にした光景はまさに地獄のようであった。
崩れかけの建物、濁りきった川、漂う血臭……
壁の内側には大量の魔物が跋扈していた。
「気付かれたようですわ」
一応、門の影から覗き込んでいたのだが、この程度では魔物の目や鼻は誤魔化せず、数体の魔物がこちらに寄ってきていた。
「どうします? 逃げます?」
今ならまだ逃げ切れるだろう。そう思い提案したのだが、アイリスさんは首を横に振った。
「無理ですわね。先程からヒシヒシと悪意を感じておりますの。大物がわたくしたちを狙っていますわね」
アイリスさんの話によると、本来魔物というのはそこまで悪意のあるものではないらしい。本能のままに行動するのだと。
それなのに強大な悪意を感じるということは魔物ではない。現状を見るに魔物を統べる存在が居るということのようだ。
「それって……」
「悪魔ですわ」
魔族、と言いかけたがどうやら違うらしい。
言わなくてよかった。
「悪魔は魔物を率いて人間や動物を襲いますの。散らばらずにこの壁の中に居るということは、また生き残りが居るか、悪魔の探知範囲内にはわたくしたちしか居ないということですわ」
「つまり逃げても追いかけてくる?」
「その可能性が非常に高いですわね」
ならここに来る前に離れていたら……いや、アイリスさんが悪意を感知した時点でそれも無理な話だったのかもね。
「生き残るためには?」
「討伐。もしくは悪魔が現世に顕現出来る時間を超えるまで何とか耐えることですわ」
「その時間は?」
「階級によって変わりますわ。詳しくは覚えていませんの……」
いつ帰るか分からない悪魔の攻撃を凌ぎ続けるのは無理があるか……
なら討伐しかないな。
「階級については?」
「下から騎士級、男爵級、子爵級、伯爵級、侯爵級、公爵級、王と言われておりますわ。これだけの規模の街を滅ぼせるほどの魔物を従えていることを考えるとおそらく子爵級以上の悪魔が居るはずですわ」
子爵級……下から三番目だけど、勝てるのかな?
「どれくらい強いの?」
「冒険者ランクに当てはめると男爵級でSランク相当ですわ……子爵以上となると……」
大森林で戦っていた魔物がB~Cランク、時折Aランクって言ってたな……
その魔物を鎧袖一触で倒していたアイリスさんが真っ青になっているのはそれが原因か。
最低でもSランク以上……ヤバいな、ピンと来ない。
これは全速力で森に帰って、森の動物たちを囮にしてお帰り頂けるまで逃げ続けた方がいいんじゃ……いや、森の近くの村とか集落、そこから大きな街に狙いを向けられたら……
あれ? 割と国単位滅亡の危機?
「言い伝えによると、子爵級の悪魔で精兵1万人に、伯爵級で5万人に匹敵するそうですわ……せっかくクソ王子と別れられたのにここまでですわね……」
アイリスさん半分諦めてる……
しかし精兵1万人とか5万人か……それはなかなか……ワンチャンあるんじゃない?
「ねぇアイリスさん」
「なんですの? トミーが囮になってわたくしを逃がしてくれますの?」
いや、まぁ別にそれでもいいんだけど……
「俺って10万の兵に囲まれたとしても勝てるって言われたんですけど、悪魔に勝てますかね?」
「はい? 誰に言われたんですの?」
「聖竜さんに」
俺が軽く答えると、アイリスさんはポカンと口を開けて固まってしまった。
虫入っちゃうよ?
「聖竜さんって……あの伝説の聖竜ですの?」
「この世界の伝説とか知らないですけど、全身が白銀に輝いてる聖竜さんですね」
他にも聖竜さんが居るのなら人違いならぬ竜違いかもしれない。
「……分かりましたわ」
俯いていたアイリスさんの顔が前を向いた。
「やってやりますわ! トミー、魔物は極力わたくしが倒します。だから貴方は……」
「悪魔にぶちかませばいいんですね。任せてください」
ゴッツイのぶちかましますよ!
「じゃあ行きますわよ! 悪魔はおそらく街の中心辺りにいると思いますわ! トミー! わたくしに着いてきなさい!」
「ういっす!」
マジックバックからロングソードを取り出して、アイリスさんは駆け出した。
「道を……開けなさいッ!」
アイリスさんから放たれた風の刃が魔物たちを斬り裂く。
ここら辺に居る魔物は大森林の魔物よりも弱いようで、アイリスさんはいとも容易く魔物たちを倒して突き進む。
「おっと!」
倒壊している建物の影から飛び出してくる魔物は俺の担当、この程度の魔物であれば『秘技、聖拳突き』を繰り出すまでもない。
「止まって!」
前方を走るアイリスさんの鋭い声。
100メートル程先には獅子の頭にヤギの身体、蛇の尾を持つ魔術が俺たちを待ち構えていた。
「キマイラですわね……Aランクでも上位の魔物ですわ」
アイリスさんは冷や汗を流しながら手に持つ剣を構えるが、そんな悲壮な覚悟は必要無いよ?
「俺がやるよ。アイリスさんは周りの雑魚を抑えてて」
あの魔獣……キマイラは大森林で戦ったことあるからね。
所詮ちょっとデカくてすばしっこい猫みたいなやつだったよ。
キマイラは俺を獲物と定めたようで、立ち上がり雄叫びを上げて俺へと突進してくる。
まっすぐ突っ込んできてくれるのなら有難い。
前に戦った時は木々を利用して立体的な動きをして翻弄してきたから殴るのに苦労した。
「秘技、聖拳突き!」
まっすぐ来るのならまっすぐ行けばいい。
右拳に光の魔力を纏わせた一撃をキマイラの顔面に叩き込んだ。
「……信じられませんわ」
アイリスさんの呟きとともにキマイラの体が黒いモヤへと変わり、赤黒い魔石を残して消えていった。
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