転生して間もなく乙女ゲーで言うところの悪役令嬢を拾いました。不憫に思い手を差し伸べたらいつの間にか尻に敷かれていました。誰か助けて……

愛飢男

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森の中のとみぃ

14話。小国家郡到着

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「そろそろ国境は超えたと思いますわ」
「じゃあ森から出てみましょうか」
「何時まで敬語なんですの?」

 アイリスさんの疑問を華麗にスルーして、森の出口を目指して歩き出す。
 当然アイリスさんの可愛らしいわがままのお姫様抱っこは継続中である。

 途中、現れる魔物はアイリスさんが風の魔法で斬り捨てているので俺はアイリスさんを抱えて歩くだけの簡単なお仕事である。
 運ぶことにかけて俺の右に出るものはいないよ?

「人一人抱えて森の中を歩くのは簡単なお仕事とは思えませんが」
「なんで心の声にツッコミ入れるんですか?」

 そう言ってクスクス笑うアイリスさん、とても上機嫌である。

「森の外に出ましたね。降りますか?」
「森の外に出ましたわね。降りません」

 降りませんかそうですか。
 ならこのまま運搬しますね。

「わかりました。このまままっすぐ行けばいいですか?」
「わかっちゃうんですのね。たまには拒否してもいいんですのよ?」
「別にこのくらいなら苦になりませんので」

 感覚的に40キロあるかないかくらいだろう。日本にいた頃の俺ならキツかっただろうが、今は問題無い。
 聖竜さん、今初めてあのスパルタに感謝しています。

 そのままの状態で数時間歩くと、踏み慣らされた道のようなものが見えてきた。
 森を出てからは一度も魔物にも野生動物にも出会っていない。やはり森は凄い。

「ファミマトやセブイレン、ロソンなどの大国や経済大国のエフリは街道も舗装されておりますが小国家郡はほとんど舗装されておりませんわ」
「道ってお金かかりますもんね。維持も大変だし」

 日本の高速道路だって建設に多大な時間がかかり、毎日どこかしらで維持管理工事が行われているのだ。
 如何に科学ではなく魔法で成り立っているこの世界といえど……いや魔法で道くらい整えろよ。

「おそらくトミーは異世界人の皆様が考えることを考えているのでしょうね。お答えしますわ、魔法はそこまで万能ではありませんの」
「なんでちょいちょい心の声に返事するんですか?」

 アイリスさんに問いかけるが、彼女は俺の腕の中で楽しそうに笑っていて答えてくれない。
 俺はそんなに分かりやすいのだろうか?

 これはそのうち俺は一声も発さずに会話が成り立つようになるのではなかろうかと考えながら道に沿って歩いていると、遠目に街壁のようなものが見えてきた。

「アイリスさん、あそこかな?」
「そうですわね。そろそろ人に見られるかもしれないので歩きますわ」
「見られるのは恥ずかしいんですね」

 アイリスさんを降ろして並んで歩く。

「それであの街はなんて街なんですか?」
「確か『ファトス』ですわ。小国家郡で最も南にある国ですわね」
「ファトスか、どんな街なんだろ?」
「知りませんわ」

 知らないの?

「あそこに見える山でファミマトとは物理的に隔てられていますの。なのでファミマトとはほとんど交流がありませんの」
「なるほど」
「行き来するためにはわたくしたちのように大森林を抜けるか、あの山を超えるか……もしくは大きく北へ回って小国家郡を抜けてエフリを経由してになりますわね」

 聞いている感じ、どのルートも大変そうだ。

「そういえば、小国家郡では面白いことが起こると聞いたことがありますわ」
「面白いことですか?」

 なんでだろう。

「まず小国家郡の規模ですが、文字通りひとつひとつの国は小さいですわ」

 小国家郡の国の規模としては大きな街一つや二つと、その周辺の農村くらいらしい。
 それは小国家じゃなくて都市国家じゃないのかと思うのだけど、黙っておこう。
 俺が間違ってる可能性の方が高いし。

「当然小さな農村はどこかの国に属していることは分かりますわよね?」
「さすがにそれくらいはわかります」

 いくらこの世界初心者な俺でもそれくらいはわかるよ。

「では続けますね。国境付近にある小さな農村というのは、その時の情勢によって所属がコロコロ変わりますの」
「そうなんですか?」
「ええ。例えばここファトスはセドカンという国と国境を接しています。ファトス側にある農村にセドカンが兵を出せばその村は戦わずにファトスからセドカンに所属を変えますわね」
「そんなアッサリでいいんですか?」

 それって裏切りとか離反とかってやつじゃないの?
 そんなことしたらファトス側から見せしめに攻め込まれるんじゃ?

「ファトスが兵を出せば今度はアッサリファトス所属に戻りますわ」
「ええ……」

 そんなのでいいのか?

「つまり国境線があやふやというお話ですわね。それで、その結果どうなるのかというお話ですけれど」

 どうなるのだろう?

「お互いの国があの村はあっちの所属だと思い込んでしまい、結局所属の分からない村がいくつもあるそうですわ」
「どうしてそうなるの……」

 しかしこれが面白い話?
 貴族という統治者側のアイリスさんからすれば決して面白い話ではないと思うんだけど。

「そのような状況ですので、その村に徴税官はどちらからも来ませんの。徴税官が来ないということは税を納める必要が無いということですわね」
「それは……そうなる……のかな?」

 納税は国民の義務です。
 あ、どっちの国民でも無いと思われているのか。

「本来税として納める作物を近くの街に売りに行けば……国所属の農村よりも豊かな生活が送れるそうですわ」
「そりゃそうなりますよね」

 脱税だもの。
 しかし何故徴税する側のアイリスさんがこの話を……

「つまり国の庇護が無くても案外なんとでもなるというお話ですわ。だからわたくしもなんとかなりますわ」
「え? そんなオチ?」

 結局……何の話だっけ?

「わたくしが何を言いたいのかと言いますと、国の庇護から外れたわたくしに対して敬語や敬称は必要無いということを……あら?」

 話している途中、アイリスさんがなにかに気がついたようだ。
 気になって視線を追うと、先程遠目に見えた街の方を見ている。

「なにかありました?」
「いえ……気の所為かもしれません。ですが、少し急ぎましょう」

 もう一度街の方を見てみるが、特に何かが見える訳では無い。

 アイリスさんは怪訝そうな顔をして進む足を早めたので、遅れないようについていく。

 それからおよそ一時間、街に到着する直前になってようやく俺も気が付いた。

街の周囲を覆う壁の出入口である門が破られている。

「アイリスさん、これって……」
「やはり……ですわね」

 辿り着いた俺たちの目の前に広がっていたのは、破壊された街の姿だった。
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