転生して間もなく乙女ゲーで言うところの悪役令嬢を拾いました。不憫に思い手を差し伸べたらいつの間にか尻に敷かれていました。誰か助けて……

愛飢男

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森の中のとみぃ

11話。狩り

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「まぁ冗談は置いておいて、トミーさんはこの世界に来て一年程なのでしょう? どのような訓練をすればそこまで魔法を使いこなせるようになりますの?」

 ですよね。冗談ですよね。うん、知ってた。
 男の俺が聖女になれるわけないじゃん?
 悔しくなんてないんだからね?

「才能と鍛錬時間によるゴリ押しですよ。俺の身体と才能は女神エルリア様直々に与えられたものですので……」
「女神エルリア様から直々に……羨ましいですわね。ところで、ゴリ押しと言いますけど、どれくらいかかりましたの?」
「およそ半年と言ったところですね。半年間毎日22時間訓練させられました」

 あれは過酷だった。
 何度逃げ出そうかと思ったが、逃げても行く宛てなんて無いし、森の中で野垂れ死ぬ未来しか見えなかったし……

 逃がさないために常識を教えてくれないのかと思っていたら常識なんて知らないと言われるし……

「22時間!? いつ寝ていましたの!?」
「知らないんですか? 竜の血を一滴舐めれば魔力体力共に全快するんですよ?」

 24時間戦えますか? ってね。

「一日……22時間……」

 ちなみにこの世界の暦は地球と同じらしい。
 同じにした方が管理が楽とかそんな理由だと思われる。

「まぁそれでも肉体的には回復しても、精神は回復しないので数日に一度数時間の仮眠は取っていましたよ」

 睡眠学習でしたけどね……

「ほえー……竜の血って凄いんですのね」

「ほえー」頂きました!

「俺の教官……聖竜さんが言うには『真なる竜』の血に限るそうです。『紛い物』の竜の血にはそんな効果は無いそうです」
「まるで御伽噺に出てくるエリクサーのようですわね」
「エリクサーですか、聞いた話によると、エリクサーは真なる竜の血を10倍希釈したものらしいですよ」

 つまりエリクサーの原液をそのまま舐めていたわけだ。
 そりゃあんな無茶な特訓が可能になるわけですね。

「ほえー……」

「ほえー」頂きましたッ!
 思ったより簡単に出る、これは一日一ほえーを目標にするべきかもしれない。

「まぁそんな感じですね。やりたくなったら言ってくださいわ協力します」
「流石にやりませんわ……」

 やらないの? 竜の血あるよ?

 実は聖竜さんからもらったこの鞄、中身が入っていたのだ。
 もらった当初は詰め込むことが楽しかったので気にしていなかったのだが、この前肉の在庫チェックをした時に中身を確認していて発覚した。

 血だけではなく爪や牙、鱗なんかも大量に入っていたのだ。

 アイリスさんに聞いてみると、青い顔をしながら俺の持っている聖竜さんの牙の欠片一つで余裕で一生遊んで暮らせると教えてくれた。

 知らぬ間に世界最高の素材をゲットしていたようだ。

 ついでにその時に分かったことだが、聖竜さんのくれたマジックバックの中に入れておけば時間が止まるようで、そのままの状態で保存されるようだ。
 だから肉腐らなかったんだね。気にしてなかった。

 アイリスさんの持っているマジックバックは普通に時間が経過して生物を入れておくと普通に腐るそうなので、やはり竜の素材というのはおかしいらしい。

「コホン……わたくし、地道に努力しますわ」
「わかりました。じゃあ狩りに行ってきますのでその間に水浴びなんかも済ませておいてくださいね」
「わかりましたわ。わたくし、鹿肉が食べたいですわ」
「了解です」

 ここに居ては役に立たないどころか邪魔でしかないのでさっさと狩りに出発、リクエストもあったので鹿を探して森の外縁部を目指して走り出した。

「お、イノシシ発見」

 素人な俺でも動物を見つけることが出来るくらいにはこの森は豊かなようで、2時間もしないうちにイノシシを発見することが出来た。

 都合よくこちらに歩いてくるので、目の前の木の影に隠れて待ち受ける。

 フゴフゴと地面を嗅ぎながら近寄ってくるイノシシを確認しながら右手を手刀の形に構えて風属性の魔力を纏わせる。

 魔法は一通り使えるが、遠距離攻撃はあまり得意ではない
 スっと近付いて殴った方が強くて早いんだもの。

「来た……」

 息を殺して待ち構え、目の前に来たイノシシの首元目掛けて手刀を振り下ろす。

 鋭利な風属性の魔力を纏った手刀は、抵抗なくイノシシの首を斬り裂いた。

「うへぇ……」

 そんなことをすれば当然返り血が酷いことになるわけで……
 水魔法で返り血を洗い流してから作業服に魔力を通して綺麗にしておく。

 流石に美しい公爵令嬢様の前に返り血塗れで戻る訳にもいかないですしね。

「解体解体っと」

 鞄から錬金魔法の練習のために作った石のナイフを取り出して丁寧に処理していく。

 これも聖竜さんから教わったことの一つなのだが、あの竜は俺をどうしたかったのだろうか。

 切り分けた肉と毛皮を鞄に入れて、次の獲物を捜索する。

「鹿……鹿……見つからない」

 結局もう一匹? 一頭? イノシシを仕留めて拠点に戻る。
 鹿は見つけられなかった。
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