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森の中のとみぃ

9話。共同生活の始まり

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 スープを飲んで体が温まったからなのか、アイリスさんはウトウトし始めた。

 日が落ちると肌寒い。
 俺はアイリスさんを洞窟内に運び、寝かせて作業服を彼女にかける。

 それから森で薪になりそうな枝を拾って来て焚き火を起こす。
 一酸化炭素中毒にならないよう先程よりしっかりと隙間を拵えた壁も作ったのでこれで寒くないだろう。

「……俺が寒い」

 公爵令嬢なんて高位の人と同じ洞窟で一晩明かすのはよろしくないと思い外に出ているが、これは間違えたかもしれない。

 この洞窟は小さい。せいぜい幅、奥行ともに5メートル程度だろう。

 そんなところに寝かされて、目が覚めると目の前に俺が居る……
 そりゃあ公爵令嬢様からすれば不快でしょ?

「とはいえこの状況は俺が不快……不快というか寒いし無理。ムリムリカタツムリ」

 前言? ナニソレ? 俺は何も言ってないよ?

 壁に手を当てて俺1人通れるだけの隙間を開いて中に入る。
 ちゃんと閉じてから奥で眠るアイリスさんを抱き上げて入口側へ。
 こうしておけば強いアピールしてたアイリスさんなら最悪驚いても壁をぶち破って逃げれるでしょ。

「む……」

 焚き火が弱くなっていたので追加で拾ってきた薪を投入、これでしばらくは消えないかな?

 よし、俺も寝よう。
 その場で横になり、ゆっくりと目を閉じた。


 ◇◆

「むにゃむにゃ……もう食べられない……とでも思ったか? バカめ、今までのは前菜だ!」

 翌朝、聖竜さんと戦っていたような夢を見たが、スッキリと目覚めて横を見てみると、アイリスさんはまだ気持ちよさそうに寝息を立てていた。

 まだ寝ているとは余程疲れが溜まっていたのだろう。

「まぁこの方が都合はいいな。とりあえず朝食の支度でも……」
「何が都合がよろしいんですの?」
「ふあ!?」

 危うい「どっこいショータイム」とおっさん臭い掛け声を出しそうになったのを堪えて立ち上がっていると、急に話しかけられたので変な声が出てしまった。

「おはようございますわ」
「あ、はい。おはようございます……」

 なんだろう、何も悪いことしてないはずなのに、なんだかものすごく悪いことをした気持ちになってしまうな。

「それで、何が都合がよろしいんですの?」
「いえ、寝てる間に朝食の支度を済ませてしまおうかなぁと」
「ということはわたくしが起きていると何か不都合がおありですの?」
「よく考えたらおありじゃないです。別に寝てても起きてても関係無かったです」
「ですわよね。もしかしたら寝ているわたくしになにかするつもりなのかと怯えてしまいましたわ」
「しませんよ!」

 何が面白いのかアイリスさんはくすくす笑っているが、冗談じゃない!
 寝ている10代(推定)女子になにかするようなおっさんと思われるのは心外である。

 俺はおっさんでも節度ある綺麗なおっさんなのだ。

「ふふ、冗談ですわ。トミーさんがなにかするなら昨日のうちにしているでしょう? その方が楽ですもの」
「なるほど」

 たしかに。

「それよりもわたくし、お花を摘みに行きたいので入口の壁を開いて頂いても?」
「すぐ開けます」

 慌てて壁に手を触れて壁を土に還すと、アイリスさんは立ち上がり、物凄い早歩きで木陰へと入っていった。

 あの様子を見るにちょっと前には起きてたんだな。
 そこまで我慢してたなら起こしてくれて良かったのに。

「とりあえず飯作ろうかな」

 洞窟の外に出て昨日作ったかまどに薪を放り込んで着火、さらに昨日作ったのと同じような土鍋を土魔法で作成して水魔法で満たして火にかける。

 鍋は洗うの面倒くさくて食後に土に還しちゃったんだよね。

 昨日と同じようなスープを作っていると、少しだけ恥ずかしそうな顔をしてアイリスさんが戻ってきた。

 そんな顔を見ているとドキドキしちゃうから辞めて欲しい。

「も、戻りましたわ」
「はい。おかえりなさい」

 アイリスさんは俺の正面に座り、鍋の中を覗き込んだ。

「すみません、昨日とほぼ同じです」
「あ、いえ、文句があるわけではありませんの。わたくし、料理をしているのを見るのは初めてでして……はしたないですわね、ごめんなさい」

 覗き込んだのは無意識だったのか、バツの悪そうな顔で謝罪されてしまった。

「いえ、そういうことならお気になさらず……興味があるならやってみます?」

 混ぜるだけだけど。

「よろしいんですの?」
「よろしいですの」

 あ、やべ、移っちゃった。

「どうぞ」

 なんでもありませんよという表情を作り、【物質創造】で創った木製お玉を手渡す。

「ありがとう。それで、どうすればいいんですの?」
「こぼれない程度に混ぜていてもらえれば大丈夫です」

 具材とかはもう投入してるからね。あとはいい感じに煮えれば完成なのだ。

 そろそろ完成しそうなので、【物質創造】で皿とスプーンを創っていると、アイリスさんがその光景も興味深そうに見つめていた。

「どうかしました?」
「トミーさん、それってわたくしにも使えますの?」

 それって【物質創造】のことかな?
 使い方というか、先入観を捨てれば使えるとは思うけど……

「練習すれば出来ると思いますよ」
「教えて頂きたいですわ。対価は……」

 アイリスさんは難しい顔で自分のカバンを見つめてからもう一度俺の方に顔を向けた。

「手持ちはあまりありませんの……それでよろしければ……」
「ふむ」

 別に教えるのは構わない。
 対価も別にいらないんだけど、あの覚悟ガン決まりな顔を見る限り受け取らないといけないっぽいな。

 それなら……

「構いませんよ。お金は要りません」
「そんな!」
「その代わり、この世界の常識を教えて貰えませんか?」

 俺の元教官はその辺教えてくれなかったからね。お金より常識が欲しい。

「そんなことでよろしいんですの?」
「ええ。常識を知らないことにはお金を頂いても価値がわかりませんので。なのでお金より常識が欲しいです」

 本心だから嘘ついてないことはわかるよね?
 常識さえ知れればお金は稼げる……よね?

「わかりましたわ。なんでも聞いてくださいまし」
「じゃあそういうことで……場所はここでいいですか? それともどこかに移動します?」
「そうですわね……トミーさんはこの先どうするおつもりですの?」
「俺は……とりあえず人里に行きたかったくらいですかね? そこで暮らしながら常識を学ぼうと思っていましたが、アイリスさんが教えてくれるのなら俺は特に予定はないです」

 街で生活しながら覚えるよりもここでアイリスさんから教われるならその方が楽だし。

「そうでしたの。わかりました、ではここでお互いある程度教えあってからまた相談しましょう」
「了解です。じゃあこれからしばらくよろしくお願いします」
「こちらこそ」

 お互い軽く会釈をして契約成立、上手くやっていけそうだ。

 その時、ジュワッと音がした。
 慌てて鍋に目をやると、煮えすぎてスープが吹き出してしまっていた。

「ああああ! スープが!」
「すみません! すみません! わたくしとしたことが申し訳ありません!」

 ……おそらく多分きっと上手くやっていけるはずだ!
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