転生して間もなく乙女ゲーで言うところの悪役令嬢を拾いました。不憫に思い手を差し伸べたらいつの間にか尻に敷かれていました。誰か助けて……

愛飢男

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森の中のとみぃ

3話。特訓、からの卒業

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 聖竜さんとの特訓が始まってはや半年が経過した。

 聖竜さんとの殴り合いという人間には絶対にやってはいけない過酷な特訓により、俺の肉体は極限まで鍛えられていた。

 聖竜さんを殴り、殴られているうちに自然と魔力で肉体を強化する術を身に付けようで、気が付けば気絶せずに数時間は殴りあっていられるようにもなっている。

 最初は2秒も意識を保っていられなかったことから考えると凄まじい進歩だ。

「女神様謹製の作業服があってよかったですね。その作業服じゃなかったら何回腕や足が無くなっていたことか……女神様に感謝して祈りを捧げてくださいね」
「手加減上手どこいったの?」

 俺の着ている作業服やシャツ、下着も女神エルリア様からのサービスらしく、とても頑丈で破れにくいようだ。
 鉄すらバターのように斬り裂くらしい聖竜さんの爪でも破れなかった。

 衝撃もある程度は吸収? してくれるらしく、そのおかげで今も俺は五体満足でこの場に立てている。

 汚れたりしても魔力を通せば新品同様の状態に戻る不思議機能までついている。
 この機能のおかげで浮浪者や蛮族のような姿にはなっていない。

 あの女神様、ちょくちょくやらかすおっちょこちょいらしいが、アフターサービスについては完璧な模様。おそらく慣れているのだろう。

「さて、体術の方は及第点ですね。これからは魔法の訓練も始めていきましょう」
「魔法! ようやく!」

 作業服を綺麗にするための魔力操作は教えて貰っていたが、魔法に関しては後回しにされていた。

 どうやら魔法を使うのは魔力の他に結構体力も使うそうなので、まずはその基礎体力を鍛えていたのだ。

「さて、魔法とは魔力を用いて想像を具現化する力のことを言います。魔法は大きくわけて2種類。【現象創造】と【物質創造】です」
「現象? 物質?」
「はい。【現象創造】とは傷を癒したり、火や水を生み出したり、土や岩、風を操ってみたり等ですね」

 説明を聞いてみると、例えば火の魔法は手に火の玉を浮かべて投げつけるのではなく直接相手を燃やすらしい。恐ろしいね。

「なら【物質創造】は?」
「【物質創造】は読んで字のごとく、イメージした物質を魔力で生み出すことですね。富井様の着ている作業服も女神様の【物質創造】で生み出された物となりますね」

 へぇ……物質も作れるのか……

「しかし本来【物質創造】で生み出したものは短時間で魔力に還元されて消えてしまいます。世界に定着させるには膨大な魔力が必要となりますね」
「つまりこの作業服は……」
「女神エルリア様自ら創られた物……神器と呼んで差し支えないですね」

 おおぅ……そりゃ大層なものを……

「この世界の生き物の持つ魔力量では物質を定着させることはまず不可能、故に人間の間で【物質創造】の魔法は【錬金魔法】と呼ばれ既にある物質を変化させることにしか使われていません。今では【物質創造】を使う人は居ないかもしれませんね」

 なるほど……

「【物質創造】は込めた魔力の量で効果と継続時間が変わります。極めれば武器を持ち歩かずとも戦う相手に適した武器をその場で創造して戦うことも可能になります」

 それって戦う度に大量に魔力消費しちゃうよね?
 普段は持ち歩いて、強敵と戦う時やたまたま不携帯の時に使うくらいかな?
 俺武器とか使ったことないけど。

「どちらから練習しますか?」
「じゃあ……【現象創造】からで」
「わかりました。ではお手本として富井様を燃やしますので頑張って魔法で消火してみてください」
「どうしてそうなるの!?」

 こうして魔法の特訓も追加され、特訓内容はより過激になっていった……


 ◇◆


 魔法の特訓が開始されてからおよそ半年、聖竜さんと出会って1年が経過した頃、ようやく卒業認定を貰うことが出来た。

「お見事です。【物質創造】でそのような物を創り出すとは……教えることはもう何もございません」

 俺の魔法で少々ダメージを受けた聖竜さんは満足気に頷いている。

 ダメージ量的には擦りむいて血が滲んだくらい。アレの直撃を受けてそれだけしかダメージを受けないとは……
 聖竜さんの防御力に笑うしかない。

 しかし、これで卒業と言われても困るのだ。

「あのぅ……この世界の常識とか何一つ教えて貰ってないんですけど?」
「私、竜なので人間の常識とか知りませんよ?」

 なんてこったい……

「富井様」
「はい!」

 聖竜さんが珍しく真剣な顔でこちらを見ている。
 何を言われるのだろう……

「この世界で富井様に勝てる生き物はそう多くありません。私と同種の竜くらいでしょう。なので胸を張って人間の街に行ってください。何か言われたとしても富井様の方が強いので心配はありません」
「……」

 え、なにそれ?
 腕力至上主義なの? やっぱり脳筋なの?

「いや、腕力で勝っても権力とかそんなんに殺されそう」
「それこそ心配ありません。人間は群れる生き物ですが、例え10万の人間に囲まれても富井様が勝ちます」

 化け物じゃん。

「一騎当千ならぬ一騎当十万ですね」
「意味わかんない」
「ご安心を、そのような状況になったら私が助けに行きますので」
「何一つ安心できない」

 街というか国そのものが滅びそう。下手をすれば人類滅亡。

「富井様は強いので大丈夫です」
「なにその動物的な考え方」
「私、竜ですので」

 それは免罪符じゃない!

「ではそういうことで……これからの富井様のご健勝とご多幸をお祈りしています」
「ちょっと!」

 聖竜さんはふらりと浮き上がり、俺の静止を無視してそのままどこかへ飛び去ってしまった。

 え、これどうすんの?
 せめて人里どっちかくらい教えてもらえないかな……
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