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森の中のとみぃ
2話。教官出現
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目を開くと、そこは鬱蒼たる森の中だった。
……なんでやねん。
いきなり街の中に現れたら混乱するだろうから、街の外に送られるのなら理解出来る。
理解出来るけど、せめて草原でしょうよ。
なんで森の中なのよ。
これ、人に出会えるの何時になるのよ?
まずそれまで生きていられるのかしら?
途方に暮れていると、作業服の胸ポケットに入れてあったスマホから着信音が流れ始めた。
電話?
というか俺、スマホ持ってたの?
取り出して画面を確認すると、そこには電話番号は表示されておらず、「女神エルリア」と表示されていた。
「もしもし?」
「富井様、大変申し訳ございません! ミスを隠ぺ……アフターサービスを急ぐあまり説明が不足しておりました!」
絶対隠蔽っていいかけたよね?
やっぱりミスで俺を死なせたことがバレると怒られるんだね。
「今回富井様を森の中に送ったことには理由がございます」
「理由……ですか」
あるんだ。良かった、嫌がらせとかミスじゃなくて。
「はい、富井様の世界のゲームには世界観を理解してもらうためと操作を学ぶためにちゅーとりあるというものがあると聞き及んでおります」
「あー……ありますね」
学生時代はよくやったけど、社会人になってからゲームはほとんどしていない。
言われてみればあったなぁって感じ。
「というわけでちゅーとりあるです! 富井様に世界のこととご自身の力のことについて学んで頂きます!」
「なるほど、わかりました。助かります」
何も分からないまま放り出されるのは困る。
ただ、こっちに送る前に忘れずに教えろよと思わなくもない。
「富井様は今……東の方を向いておられますね。そのまままっすぐお進み下さい」
「わかりました」
森とか砂漠ってまっすぐ進めないんじゃなかったかな?
まぁ女神様が行けと言うのなら行くしかないか……
「あ、ちょっとズレてきてますね。もう少し左……そうです、その方向です」
通話状態のまま進んでいくと、やはり進行方向にズレが生じたらしい。
時折女神様からの指示を受けながら進んでいくと、大きく開けた広場が目に入った。
「見えましたね、そこです。そこに教官が居るハズなのですが……」
「誰も居ませんよ?」
ここまで来るのに1時間以上は歩いたのだが、体に疲れは感じない。
若返った恩恵かな?
「おかしいですね……確かに伝えたのですが……」
女神様が呟いたその瞬間、上空から大気をふるわせる咆哮が聞こえてきた。
「なんか! なんか聞こえましたけど!?」
「ああ、私にも聞こえました。来たようですねぇ」
「いやそんなのほほんと……」
恥ずかしながらあの咆哮を聞いた瞬間、体から力が抜けてへたりこんでしまっていた。
漏らさなかっただけ自分は凄いと思えなくもない。
「では教官も来たようですので、頑張って下さい!」
「頑張れって……」
女神様との通話は、とっくに切れていた。
「いや……え? マジで?」
腰を抜かしたままの姿勢で上空を見上げると、そこにはとんでもなく大きなドラゴンが旋回していた。
「え? ドラゴンなの? 俺の教官ドラゴンなの?」
アレって教官とかじゃなくてラスボスなんじゃ……
グルグルとそんなことを考えているうちにドラゴンは広場へと着陸した。
あれは着地じゃない、着陸だ。
「グルル……」
目が合った。
心臓と玉がヒュン! とした。
これは……無理じゃね?
女神様の言うことだから信じたいけど、よくよく考えたらミスで俺を死なせた張本人、信じてはいけないような気がしてきた。
ドラゴンが口を開く。
ゲームとかでドラゴンといえばブレス、骨も残らないようなブレスで殺されてしまうのだろうか?
いや、もしかしたら頭から丸かじりかもしれん。
どっちにしても痛くないようにお願いしたいです。
「貴方が富井様でお間違いないでしょうか?」
「え?」
「あれ? 違いましたか? 女神様からここに異世界人が現れるから色々教えるよう言われて来たのですが……」
ものすごい丁寧だった。
厳ついドラゴンの顔で、腹に響く重低音で、ものすごく丁寧に話しかけられてしまった。
「いえ、自分がそうです。富井千里と申します」
「良かった、私はこの世界の光を司る聖竜です。しばらくの間よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
「では……まずは戦いましょうか」
「何故!?」
脳筋なの? これだけ丁寧口調なのに見た目通り脳筋なの?
「説明するより慣れていただいた方が早いかと。エルリア様から頂いた才能を開花させるには実戦が一番ですよ」
「習うより慣れろですか……あの、死なないようにだけお願いします……」
「もちろんです。私、こう見えて多くの異世界の方の教官を務めておりますので手加減はお手の物です。ご安心下さい」
「それって……」
「エルリア様は大変におっちょこちょいな御方ですので……」
察した。色々と察してしまった。
「では始めましょうか。まずは好きにかかって来てください」
「わかりました……」
まぁ……うん、慣れているのなら文句はない。聖竜さんから色々と学ぼう。
「知っていますか? 一滴でもドラゴンの血を飲むと三日三晩戦い続けることすら可能になるらしいですよ」
……俺、この特訓が終わったら街に行って今世こそ運命の人と結婚するんだ!
……なんでやねん。
いきなり街の中に現れたら混乱するだろうから、街の外に送られるのなら理解出来る。
理解出来るけど、せめて草原でしょうよ。
なんで森の中なのよ。
これ、人に出会えるの何時になるのよ?
まずそれまで生きていられるのかしら?
途方に暮れていると、作業服の胸ポケットに入れてあったスマホから着信音が流れ始めた。
電話?
というか俺、スマホ持ってたの?
取り出して画面を確認すると、そこには電話番号は表示されておらず、「女神エルリア」と表示されていた。
「もしもし?」
「富井様、大変申し訳ございません! ミスを隠ぺ……アフターサービスを急ぐあまり説明が不足しておりました!」
絶対隠蔽っていいかけたよね?
やっぱりミスで俺を死なせたことがバレると怒られるんだね。
「今回富井様を森の中に送ったことには理由がございます」
「理由……ですか」
あるんだ。良かった、嫌がらせとかミスじゃなくて。
「はい、富井様の世界のゲームには世界観を理解してもらうためと操作を学ぶためにちゅーとりあるというものがあると聞き及んでおります」
「あー……ありますね」
学生時代はよくやったけど、社会人になってからゲームはほとんどしていない。
言われてみればあったなぁって感じ。
「というわけでちゅーとりあるです! 富井様に世界のこととご自身の力のことについて学んで頂きます!」
「なるほど、わかりました。助かります」
何も分からないまま放り出されるのは困る。
ただ、こっちに送る前に忘れずに教えろよと思わなくもない。
「富井様は今……東の方を向いておられますね。そのまままっすぐお進み下さい」
「わかりました」
森とか砂漠ってまっすぐ進めないんじゃなかったかな?
まぁ女神様が行けと言うのなら行くしかないか……
「あ、ちょっとズレてきてますね。もう少し左……そうです、その方向です」
通話状態のまま進んでいくと、やはり進行方向にズレが生じたらしい。
時折女神様からの指示を受けながら進んでいくと、大きく開けた広場が目に入った。
「見えましたね、そこです。そこに教官が居るハズなのですが……」
「誰も居ませんよ?」
ここまで来るのに1時間以上は歩いたのだが、体に疲れは感じない。
若返った恩恵かな?
「おかしいですね……確かに伝えたのですが……」
女神様が呟いたその瞬間、上空から大気をふるわせる咆哮が聞こえてきた。
「なんか! なんか聞こえましたけど!?」
「ああ、私にも聞こえました。来たようですねぇ」
「いやそんなのほほんと……」
恥ずかしながらあの咆哮を聞いた瞬間、体から力が抜けてへたりこんでしまっていた。
漏らさなかっただけ自分は凄いと思えなくもない。
「では教官も来たようですので、頑張って下さい!」
「頑張れって……」
女神様との通話は、とっくに切れていた。
「いや……え? マジで?」
腰を抜かしたままの姿勢で上空を見上げると、そこにはとんでもなく大きなドラゴンが旋回していた。
「え? ドラゴンなの? 俺の教官ドラゴンなの?」
アレって教官とかじゃなくてラスボスなんじゃ……
グルグルとそんなことを考えているうちにドラゴンは広場へと着陸した。
あれは着地じゃない、着陸だ。
「グルル……」
目が合った。
心臓と玉がヒュン! とした。
これは……無理じゃね?
女神様の言うことだから信じたいけど、よくよく考えたらミスで俺を死なせた張本人、信じてはいけないような気がしてきた。
ドラゴンが口を開く。
ゲームとかでドラゴンといえばブレス、骨も残らないようなブレスで殺されてしまうのだろうか?
いや、もしかしたら頭から丸かじりかもしれん。
どっちにしても痛くないようにお願いしたいです。
「貴方が富井様でお間違いないでしょうか?」
「え?」
「あれ? 違いましたか? 女神様からここに異世界人が現れるから色々教えるよう言われて来たのですが……」
ものすごい丁寧だった。
厳ついドラゴンの顔で、腹に響く重低音で、ものすごく丁寧に話しかけられてしまった。
「いえ、自分がそうです。富井千里と申します」
「良かった、私はこの世界の光を司る聖竜です。しばらくの間よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
「では……まずは戦いましょうか」
「何故!?」
脳筋なの? これだけ丁寧口調なのに見た目通り脳筋なの?
「説明するより慣れていただいた方が早いかと。エルリア様から頂いた才能を開花させるには実戦が一番ですよ」
「習うより慣れろですか……あの、死なないようにだけお願いします……」
「もちろんです。私、こう見えて多くの異世界の方の教官を務めておりますので手加減はお手の物です。ご安心下さい」
「それって……」
「エルリア様は大変におっちょこちょいな御方ですので……」
察した。色々と察してしまった。
「では始めましょうか。まずは好きにかかって来てください」
「わかりました……」
まぁ……うん、慣れているのなら文句はない。聖竜さんから色々と学ぼう。
「知っていますか? 一滴でもドラゴンの血を飲むと三日三晩戦い続けることすら可能になるらしいですよ」
……俺、この特訓が終わったら街に行って今世こそ運命の人と結婚するんだ!
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