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第11話 隠れ家
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「いえ、この任務…エレナは攫われてください」
「……は?」
副団長の放った言葉に耳を疑い、エレナ隊長は拍子抜けしたような声を出した。
「エレナ隊長がいないと指揮をする人がいません」
俺とシャノンさんだけでは不安がある。対人の任務は初めてだし、シャノンさんは戦闘向きではない。
「そこは問題ありません。私が同行して指揮をとります」
副団長が戦闘へ出るのを見るのは初めてだ。どんな戦い方をするのだろう。
「攫われるのはシャノンでもいい?」
「え…。僕…?」
シャノンさんも小柄だがエレナ隊長ほどではない。急に矛先を向けられたシャノンさんは困惑している。
攫われるの嫌なんだろうな..。
「既にエレナに合わせた服を用意しています」
副団長が出したのは村人よりも質素な布だけの服だった。どことなく前回の任務で会った色なしの少女と似たような服装だ。その服を見た彼女が一瞬、顔を歪ませたような気がした。
「昨晩、遅くまで作ってよかったです。さあ、着替えてきてください」
まさかのお手製…。
着替えた彼女の姿はとても貧相に見えた。布だけというのもだが、出ている腕や足があまりにも細い事が余計にそう感じさせる。
彼女の体の小ささに服がぴったりなのは聞かない方がいいのだろうか…。
「エレナは村唯一の出入口でわざと攫われてください」
副団長に念を押され、作戦を伝えられながら俺達は出発したのだった。
◇
ハオ村に着くと、副団長は村の人に少しの間外部の人間を入れないように指示を出した。その間、エレナ隊長は靴を脱ぎ捨て裸足になると自身の体と髪に土をつけ始める。
「エレナ隊長! な、何をしてるんですか!?」
彼女の綺麗な髪が汚れていく。
「親に捨てられ路頭に迷った子供っていう設定らしい。身綺麗だったらおかしい」
「それはそうですけど…」
勿体無いような気がしてしまう。
「エレナ、準備はいいですか?」
帰って来た副団長に促され、エレナ隊長はわざわざ目ににつく場所で横になる。その近くの茂みに俺達は身を潜めた。
「……本当に…来ますか..?」
シャノンさんが不安そうに呟く。ここで待ってから相当経つ。日も傾き始めた。彼がそう思う気持ちもわかる。
「静かにしてください。……来ます」
副団長に言われ、静かにする。僅かに馬のひづめの音と車輪の音がする。音は次第に大きくなり、それがエレナ隊長の所で停止した。馬に乗った髭の生えた男が荷台に向かって声をかける。すると荷台から背の低い太った男が降りて、彼女を抱え運ぶ。
「助けてー」
攫われた時の合図として声を出すよう言われていたけど、これは…。
「誰かー。助けてー」
棒読みだ…。
隣にいる副団長は眉間に手をあてため息をつく。口だけで全く抵抗しない彼女の手首を縄で縛り荷台へ入れた。
「その餓鬼で最後にする! 戻るぞ!」
髭男の声で太った男は自身も荷台に乗る。その後、エレナ隊長を乗せた馬車はゆっくりと動き出した。
「ここからは体力勝負です。ついて来てください」
荷台に乗っているエレナ隊長が定期的に落とすナイフを辿って見つからないよう後を追った。馬だと気付かれる可能性を考慮して走るという選択だ。体力ある方だと思っていたが普段は剣を持って走らない分、すごく体力をもっていかれる。しかも今日の剣は思い。馬車が少しずつ遠のいていく…。
「…ミカエルさん…大丈夫..ですか?」
速度が落ちていく俺に気付いてシャノンさんが声をかけてくれる。彼も大きな鞄を抱えているのに息が上がっていない。
すごいな。俺も頑張らないと。
「大……丈夫です」
足腰は悲鳴をあげている。でもここで止まるわけにはいかない。目印にしているエレナ隊長のナイフもしばらくしたら消えてしまう。頬を伝う汗を拭い、馬車を追った。
◇
「ハァ。ハァ」
ようやく隠れ家に着いた。それは人気のない森の中、隠れるようにあった。見張りは痩せ細った男だけ。俺は息を整える。エレナ隊長と子供達は小屋の中だろう。
「シャノン・ヴァレンタイン。ミカエル・トレント。準備はいいですか?」
副団長は自身の剣に手をかける。
「は…はい」
シャノンさんも短剣を両手で握りしめる、緊張しているのだろう。
「初めに見張りの男を捕縛します。シャノン・ヴァレンタイン。縄は持っていますか?」
シャノンさんは鞄から縄を取り出す。
「私が見張りを気絶させるので、縄で縛ってください」
「は…はい。わかり……ました..」
「後ろから不意をつきましょう。シャノン・ヴァレンタイン。ミカエル・トレント。ついてきてください」
副団長を先頭に見張りの死角を移動して後ろに回り込む。呑気に焚き火で暖をとる見張りに近づく。あともう少しの距離の時だった。
「おい! 侵入者だ!」
気付かれた!?
男が声を荒げ、立ち上がる。振り返る前に気絶させようと副団長が飛び込むが、かわされてしまう。
見てもないのにかわした! そういうギフトなのか?
「応戦します!」
この言葉で剣を抜く。同時に小屋の扉が勢いよく開く。中からエレナ隊長を攫った髭男と太った男、頭に布を巻いた男と短髪の女性が出てきた。
「グンデ! “商品”が逃げないように見張っとけ!」
「あいさ!」
グンデと呼ばれた太った男は小屋へと戻っていった。”商品”とは子供達の事だろう。そっちはエレナ隊長が守ってるから大丈夫。問題は俺達の方だ。副団長は見張りに苦戦しているし、シャノンさんは戦いに向いてない。つまりこの状況…俺だけで対処しなければならない。
「シャノン・ヴァレンタインは女性の相手を! ミカエル・トレントは髭の男と頭に布を巻いた男の相手をお願いします! くれぐれも殺さないように気をつけてください!」
副団長の指示で俺は髭男達に向けて剣を構えた。
◇
「誰かー。助けてー」
合図になるよう声出せって言われたけど、絶対見えてると思う。男に手首を縛られ、担がれる。
「なんかこの子抵抗しないなあ。楽でいいけど」
抵抗したら勝つから。私が。荷台に降ろされる。子供がたくさんいる。
「ひっ」
そんな怯えなくても。全員の死角になる場所に座り、短剣で静かに床に穴を開ける。あとはナイフを出して落とせばいい。
皆はちゃんとついてきてるかな。副団長は人のいない朝晩に鍛練をしてる。シャノンはあの重い鞄持っていつも走ってるから大丈夫。問題はミカエル。レイモンドから渡された剣、重かった。…あれ何の意味があるんだろう。途中で倒れてないといいけど。
そんな事を考えていたら、馬車が止まった。
「おい。餓鬼ども降ろせ」
髭男が顔を出した途端、子供が一斉に泣く。子供からしたら怖い顔だろう。子供は泣いたままそれぞれ男達に運ばれていく。私は頭に布を巻いた男に運ばれる。やけに丁寧に抱きあげられる。更に手足につけた土も自分の服で拭いてくれる。
「可哀想に。俺が幸せになれる家族見つけてやるからな」
その言葉で嫌でもわかってしまう。自分と同じなのだと。おまけに騙されている。不幸な子供に家族を見つけるとか言われてんのかな。実際は良くて奴隷、悪くて人体実験。行き先も大体予想がつく。
小屋の中にある奥の部屋で降ろされる。子供が予想より多い。子供達は皆で集まっていた。色なしの少年を除いて。
「色なしはこっち来んな!」
そういう事。別に問題ないけど。
出入口に近い所で座る。皆が来たらすぐわかるし、守る事もできる。
「ん?」
手首を縛る縄をナイフで切っていると、隣に色なしの少年が座った。
「お姉ちゃん、怖くない? 大丈夫?」
自分の方が震えてるのに。他人の心配か。
「怖くない」
縄が切れた。
「じゃあ僕が守ってあげるね」
いや、私が守る側なんだけど。子供は会話が通じない。困る。
「おい! 侵入者だ!」
来た。私も動こう。
立とうとすると腕を掴まれる。
「どこへ行くの? 危ないよ」
「私は君達を助けに来た。ここにいて。必ず守るから」
手を振りほどいて扉を開ける。目の前には太った男。
「なんだお前!? どうやって…」
殺すのは駄目って言われた。
「どけて」
剣を出して男との距離を詰めた。
これ片付けて早く皆と合流しよう。
「……は?」
副団長の放った言葉に耳を疑い、エレナ隊長は拍子抜けしたような声を出した。
「エレナ隊長がいないと指揮をする人がいません」
俺とシャノンさんだけでは不安がある。対人の任務は初めてだし、シャノンさんは戦闘向きではない。
「そこは問題ありません。私が同行して指揮をとります」
副団長が戦闘へ出るのを見るのは初めてだ。どんな戦い方をするのだろう。
「攫われるのはシャノンでもいい?」
「え…。僕…?」
シャノンさんも小柄だがエレナ隊長ほどではない。急に矛先を向けられたシャノンさんは困惑している。
攫われるの嫌なんだろうな..。
「既にエレナに合わせた服を用意しています」
副団長が出したのは村人よりも質素な布だけの服だった。どことなく前回の任務で会った色なしの少女と似たような服装だ。その服を見た彼女が一瞬、顔を歪ませたような気がした。
「昨晩、遅くまで作ってよかったです。さあ、着替えてきてください」
まさかのお手製…。
着替えた彼女の姿はとても貧相に見えた。布だけというのもだが、出ている腕や足があまりにも細い事が余計にそう感じさせる。
彼女の体の小ささに服がぴったりなのは聞かない方がいいのだろうか…。
「エレナは村唯一の出入口でわざと攫われてください」
副団長に念を押され、作戦を伝えられながら俺達は出発したのだった。
◇
ハオ村に着くと、副団長は村の人に少しの間外部の人間を入れないように指示を出した。その間、エレナ隊長は靴を脱ぎ捨て裸足になると自身の体と髪に土をつけ始める。
「エレナ隊長! な、何をしてるんですか!?」
彼女の綺麗な髪が汚れていく。
「親に捨てられ路頭に迷った子供っていう設定らしい。身綺麗だったらおかしい」
「それはそうですけど…」
勿体無いような気がしてしまう。
「エレナ、準備はいいですか?」
帰って来た副団長に促され、エレナ隊長はわざわざ目ににつく場所で横になる。その近くの茂みに俺達は身を潜めた。
「……本当に…来ますか..?」
シャノンさんが不安そうに呟く。ここで待ってから相当経つ。日も傾き始めた。彼がそう思う気持ちもわかる。
「静かにしてください。……来ます」
副団長に言われ、静かにする。僅かに馬のひづめの音と車輪の音がする。音は次第に大きくなり、それがエレナ隊長の所で停止した。馬に乗った髭の生えた男が荷台に向かって声をかける。すると荷台から背の低い太った男が降りて、彼女を抱え運ぶ。
「助けてー」
攫われた時の合図として声を出すよう言われていたけど、これは…。
「誰かー。助けてー」
棒読みだ…。
隣にいる副団長は眉間に手をあてため息をつく。口だけで全く抵抗しない彼女の手首を縄で縛り荷台へ入れた。
「その餓鬼で最後にする! 戻るぞ!」
髭男の声で太った男は自身も荷台に乗る。その後、エレナ隊長を乗せた馬車はゆっくりと動き出した。
「ここからは体力勝負です。ついて来てください」
荷台に乗っているエレナ隊長が定期的に落とすナイフを辿って見つからないよう後を追った。馬だと気付かれる可能性を考慮して走るという選択だ。体力ある方だと思っていたが普段は剣を持って走らない分、すごく体力をもっていかれる。しかも今日の剣は思い。馬車が少しずつ遠のいていく…。
「…ミカエルさん…大丈夫..ですか?」
速度が落ちていく俺に気付いてシャノンさんが声をかけてくれる。彼も大きな鞄を抱えているのに息が上がっていない。
すごいな。俺も頑張らないと。
「大……丈夫です」
足腰は悲鳴をあげている。でもここで止まるわけにはいかない。目印にしているエレナ隊長のナイフもしばらくしたら消えてしまう。頬を伝う汗を拭い、馬車を追った。
◇
「ハァ。ハァ」
ようやく隠れ家に着いた。それは人気のない森の中、隠れるようにあった。見張りは痩せ細った男だけ。俺は息を整える。エレナ隊長と子供達は小屋の中だろう。
「シャノン・ヴァレンタイン。ミカエル・トレント。準備はいいですか?」
副団長は自身の剣に手をかける。
「は…はい」
シャノンさんも短剣を両手で握りしめる、緊張しているのだろう。
「初めに見張りの男を捕縛します。シャノン・ヴァレンタイン。縄は持っていますか?」
シャノンさんは鞄から縄を取り出す。
「私が見張りを気絶させるので、縄で縛ってください」
「は…はい。わかり……ました..」
「後ろから不意をつきましょう。シャノン・ヴァレンタイン。ミカエル・トレント。ついてきてください」
副団長を先頭に見張りの死角を移動して後ろに回り込む。呑気に焚き火で暖をとる見張りに近づく。あともう少しの距離の時だった。
「おい! 侵入者だ!」
気付かれた!?
男が声を荒げ、立ち上がる。振り返る前に気絶させようと副団長が飛び込むが、かわされてしまう。
見てもないのにかわした! そういうギフトなのか?
「応戦します!」
この言葉で剣を抜く。同時に小屋の扉が勢いよく開く。中からエレナ隊長を攫った髭男と太った男、頭に布を巻いた男と短髪の女性が出てきた。
「グンデ! “商品”が逃げないように見張っとけ!」
「あいさ!」
グンデと呼ばれた太った男は小屋へと戻っていった。”商品”とは子供達の事だろう。そっちはエレナ隊長が守ってるから大丈夫。問題は俺達の方だ。副団長は見張りに苦戦しているし、シャノンさんは戦いに向いてない。つまりこの状況…俺だけで対処しなければならない。
「シャノン・ヴァレンタインは女性の相手を! ミカエル・トレントは髭の男と頭に布を巻いた男の相手をお願いします! くれぐれも殺さないように気をつけてください!」
副団長の指示で俺は髭男達に向けて剣を構えた。
◇
「誰かー。助けてー」
合図になるよう声出せって言われたけど、絶対見えてると思う。男に手首を縛られ、担がれる。
「なんかこの子抵抗しないなあ。楽でいいけど」
抵抗したら勝つから。私が。荷台に降ろされる。子供がたくさんいる。
「ひっ」
そんな怯えなくても。全員の死角になる場所に座り、短剣で静かに床に穴を開ける。あとはナイフを出して落とせばいい。
皆はちゃんとついてきてるかな。副団長は人のいない朝晩に鍛練をしてる。シャノンはあの重い鞄持っていつも走ってるから大丈夫。問題はミカエル。レイモンドから渡された剣、重かった。…あれ何の意味があるんだろう。途中で倒れてないといいけど。
そんな事を考えていたら、馬車が止まった。
「おい。餓鬼ども降ろせ」
髭男が顔を出した途端、子供が一斉に泣く。子供からしたら怖い顔だろう。子供は泣いたままそれぞれ男達に運ばれていく。私は頭に布を巻いた男に運ばれる。やけに丁寧に抱きあげられる。更に手足につけた土も自分の服で拭いてくれる。
「可哀想に。俺が幸せになれる家族見つけてやるからな」
その言葉で嫌でもわかってしまう。自分と同じなのだと。おまけに騙されている。不幸な子供に家族を見つけるとか言われてんのかな。実際は良くて奴隷、悪くて人体実験。行き先も大体予想がつく。
小屋の中にある奥の部屋で降ろされる。子供が予想より多い。子供達は皆で集まっていた。色なしの少年を除いて。
「色なしはこっち来んな!」
そういう事。別に問題ないけど。
出入口に近い所で座る。皆が来たらすぐわかるし、守る事もできる。
「ん?」
手首を縛る縄をナイフで切っていると、隣に色なしの少年が座った。
「お姉ちゃん、怖くない? 大丈夫?」
自分の方が震えてるのに。他人の心配か。
「怖くない」
縄が切れた。
「じゃあ僕が守ってあげるね」
いや、私が守る側なんだけど。子供は会話が通じない。困る。
「おい! 侵入者だ!」
来た。私も動こう。
立とうとすると腕を掴まれる。
「どこへ行くの? 危ないよ」
「私は君達を助けに来た。ここにいて。必ず守るから」
手を振りほどいて扉を開ける。目の前には太った男。
「なんだお前!? どうやって…」
殺すのは駄目って言われた。
「どけて」
剣を出して男との距離を詰めた。
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