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王妃セレスローレンーーーセレスは音を立てることをなくカップをソーサーに置くと微笑みを絶やさずに控えてるメイドにルートアの紅茶を準備させる。
ふわりと来る香りに驚いた。目の前に注がれたベリーの香りはセレスのお気に入りのアンドリア産アンベリーの甘い紅茶だろう。嗅ぎ慣れた香りに背筋がスッと伸びる。瞳をわざとらしくぱちぱちさせて、
「なんだか不思議な香りですね、なんの香りでしょう?」
と、知らないふりをする。懐かしんではいけない。
セレスの微笑みは微動だにしない。
出された紅茶は、セレスやルートアのお気に入りの紅茶で、普段からは飲まず、家族と過ごす時に振る舞われる特別な紅茶だった。よりによってなんで今出されたのかと困惑する。
以前母が「美味しいものは大切な人と飲むことによって更に美味しくなるのですよ」と秘密を話すような声色で教えてくれたのを思い出す。
王女が帰ってきたとは、まさか正体がバレたのじゃないかと身構える。普段と変わらない呼び出し方に安堵していたが、本当は…?
「これは我が国の名産アンベリーを使用した紅茶ですのよ。アンベリーを乾燥させて煮出すと甘いコクが出て、爽やかなベリーの香りがしますの。貴方にも気に入ってもらえるのではないかしら。」
セレスがどうぞ、と促す。カップに手を伸ばす手が僅かに震えた。バレてはいけない。絶対に。
ソーサーからカップを浮かせる。カチャリと小さな音を立てた。音を立てずに茶器を持つことはもちろんできる。しかし、平民のルートアが礼儀作法を身につけているとは思えない。だから、わざと音を立てる。
コクリと一口飲むと、
「うっ・・・」
渋い。とんでもなく渋い。渋さと甘さが相まってすごく不味かった。しかし、平民であろうが、敬愛すべき王妃の前で出されたものを吐き出すなど到底出来ない、となんとか飲み込む。カップに余った紅茶はもう飲めそうにない。
恨めしそうにカップの中の液体を眺めていると、
「ふ…ふふふ…!あら、貴方がこちらに来るのが遅かったから、お茶が渋くなってしまいましたわね」
静かにくすくす笑うと、イタズラっぽくそう言うセレス。少し悲しそうに見えたのは気のせいだろうか。
王族に仕えるメイドが初歩的なミスをするわけがない。この渋い紅茶はセレスの指示だろうことは目に見えていた。しかし、指摘することもできず、ただ下げられていくカップたちを眺めていることしかできなかった。
渋くはあったがなぜこの茶葉を出したのか、セレスの真意が図れない。国中に広まっている王女の帰還の話といい、謎が多すぎる。
新しい紅茶ーーーアンドリア産のフレッシュな茶葉が使用された紅茶ーーーを目の前に出してくれたメイドが部屋から退出すると、セレスは柔和な表情に真剣みを持たせた。
「さて、本題に入りましょう」
空気が変わった。ルートアになってから何度も感じた肌がピリつくほどの圧巻。さて、今回の無理難題はなんだろうと身構える。
「貴方はこれから王女として過ごしなさい」
ふわりと来る香りに驚いた。目の前に注がれたベリーの香りはセレスのお気に入りのアンドリア産アンベリーの甘い紅茶だろう。嗅ぎ慣れた香りに背筋がスッと伸びる。瞳をわざとらしくぱちぱちさせて、
「なんだか不思議な香りですね、なんの香りでしょう?」
と、知らないふりをする。懐かしんではいけない。
セレスの微笑みは微動だにしない。
出された紅茶は、セレスやルートアのお気に入りの紅茶で、普段からは飲まず、家族と過ごす時に振る舞われる特別な紅茶だった。よりによってなんで今出されたのかと困惑する。
以前母が「美味しいものは大切な人と飲むことによって更に美味しくなるのですよ」と秘密を話すような声色で教えてくれたのを思い出す。
王女が帰ってきたとは、まさか正体がバレたのじゃないかと身構える。普段と変わらない呼び出し方に安堵していたが、本当は…?
「これは我が国の名産アンベリーを使用した紅茶ですのよ。アンベリーを乾燥させて煮出すと甘いコクが出て、爽やかなベリーの香りがしますの。貴方にも気に入ってもらえるのではないかしら。」
セレスがどうぞ、と促す。カップに手を伸ばす手が僅かに震えた。バレてはいけない。絶対に。
ソーサーからカップを浮かせる。カチャリと小さな音を立てた。音を立てずに茶器を持つことはもちろんできる。しかし、平民のルートアが礼儀作法を身につけているとは思えない。だから、わざと音を立てる。
コクリと一口飲むと、
「うっ・・・」
渋い。とんでもなく渋い。渋さと甘さが相まってすごく不味かった。しかし、平民であろうが、敬愛すべき王妃の前で出されたものを吐き出すなど到底出来ない、となんとか飲み込む。カップに余った紅茶はもう飲めそうにない。
恨めしそうにカップの中の液体を眺めていると、
「ふ…ふふふ…!あら、貴方がこちらに来るのが遅かったから、お茶が渋くなってしまいましたわね」
静かにくすくす笑うと、イタズラっぽくそう言うセレス。少し悲しそうに見えたのは気のせいだろうか。
王族に仕えるメイドが初歩的なミスをするわけがない。この渋い紅茶はセレスの指示だろうことは目に見えていた。しかし、指摘することもできず、ただ下げられていくカップたちを眺めていることしかできなかった。
渋くはあったがなぜこの茶葉を出したのか、セレスの真意が図れない。国中に広まっている王女の帰還の話といい、謎が多すぎる。
新しい紅茶ーーーアンドリア産のフレッシュな茶葉が使用された紅茶ーーーを目の前に出してくれたメイドが部屋から退出すると、セレスは柔和な表情に真剣みを持たせた。
「さて、本題に入りましょう」
空気が変わった。ルートアになってから何度も感じた肌がピリつくほどの圧巻。さて、今回の無理難題はなんだろうと身構える。
「貴方はこれから王女として過ごしなさい」
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