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第3話「令嬢とケダモノ」
しおりを挟むそう、あれは、直斗さんと別れてから体調を崩して、それがきっかけで妊娠していることが解った頃だった。
ちょうどその頃、映画のクランクインを間近に控えていたこともあり、事務所の意向で妊娠のことは公表せずに仕事を続けていたんだけど。
貧血を何度も起こしたりと体調不良を理由に映画の仕事を降板して、それに合わせて妊娠のことも公表した。
でも、直斗さんと別れて間もない時期だったこともあって、彼に迷惑を掛けてしまうのだけは避けたかった。
そんな時、裏で支えてくれていたのが、古くからの友人であり良き理解者でもあった、その時は、まだ助監督をしてた須藤俊一さんだった。
妊娠のことを相談すると、彼は私と結婚して、愛菜もお腹の子供も一緒に支えたいと言ってくれた。
それがきっかけで、大事な友人からいつしか最愛の人へと変わっていた。
それに、妊娠を公表した直後に、俊一さんと自宅マンションでの密会を報じられ、後日雑誌での取材に応じた俊一さんが、子供のこと明言しなかったため、直斗さんとのことはマスコミにも取り上げられることはなかった。
それからは、女優の仕事も休止したこともあり、予想してたほどマスコミに騒がれることもなく、出産まで穏やかな日々を過ごすことができた。
その間も、ずっと彼は傍に居てくれて、愛菜のことも海翔のことも本当の子供のように接してくれていたわ。
でも、海翔が物心つく頃には、彼の腕を見込んで海外から声が掛かって、その頃私も仕事が忙しくて、彼と海外に一緒に行くことなんてできなくて。
結局、一度は別れていたんだけれど、海翔が高校を入学する頃に戻ってきた彼とまた再会を果たした。
まぁ、結局は、愛菜や海翔がちゃんと独り立ちしてからの 再婚にはなってしまったんだけれど……。
今は、時間が掛かってしまった分、俊一さんと一緒に、本当に幸せな穏やかな時間を過ごしている。
***
始めた当初は、私の昔話なんて本にしてどうするの?
そう、思うことしかできないでいた筈だったのに……。
改めて、自分のことをちゃんと見つめ直すことができたお陰で、今の自分が、どんなに恵まれているのかってことに、気づくことができた。
「あなたがとっても聞き上手な方だったから、ついつい余計なことまで長々と話してしまって、ごめんなさいね?」
「いえ、とんでもありません。本に掲載しない素敵なお話しまで聞かせて頂いて……。 ファンにとって、こんなに光栄なことはありません。
今度は、是非、お孫さんがお生まれになってからのお話しも、うかがいたいんですが?」
「あら、そんなことしちゃったら、おばちゃんの役しか来なくなってしまうわ?
私は、何年たっても、現役で行きたいって思っているのよ?」
終始、和やかムードだった雰囲気が、私のツンとした口調によって、一気に緊張感を帯びたピリピリとしたものへと変わってしまった。
彼女も、『しまった』というような表情で固まってしまっている。
私は、直ぐに堪え切れなくなってしまって、
「ふふっ、やだわ……。ちょっと悪戯がすぎちゃったわね?その時は是非、あなたに孫の話を聞いて欲しいわ?」
「ふふっ、はい。喜んで」
あっけなく吹き出すことになってしまい、私の悪戯だったと気付いた彼女と二人、暫くの間、顔を見合わせて笑い合った。
数か月後、昔の嫌な記憶なんて吹き飛んでしまうくらいの、とても素敵なプレゼントが舞い降りることになる。
目に入れても痛くない、
ーー可愛い可愛いプレゼントが……。
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