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第3話「強いられたスローライフ」
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ウォルトレーン辺境伯領主屋敷に向かう一行ーー
「ハハハッ殺されると思って防具なんてつけていたの」
ドーラ様があっけらかんと笑う。
「しかも私たちがラドフォルン家に対する仕返しであなたを使用人としてこき使うと。
それでその格好⋯⋯馬車の中で笑いを堪えるの必死だったのよ」
「姉さんならいびり倒しそうな顔してるもんな。イテッ」
辺境伯様の頭の上に拳骨が落ちた。
「だったらいっそのこと。首だけお父様のところにお返ししましょうか」
「ッ⁉︎」
「ドーラ。悪ふざけが過ぎますよ」
「はーい」
覚悟はしていたけど、はっきり言われるとドキッとする。
「シャルロット様。ウォルトレーン家がラドフォルン家を怨んでいるということはありませんよ」
“怨んでいない”パオロ様の思いがけない言葉に頭が混乱をはじめる。
「どうして?」
「こんなにも資源が豊富で領民が明るく過ごせる領地を与えてくださったのですから。
怨みではなく感謝ですよ」
「感謝⋯⋯」
まさかそのような言葉を頂戴するとは。
にわかに信じがたい。
だけど同時に収穫祭を楽しむ領民たちの顔が頭を駆け巡る。
改易が決定した当時、父クラウス・ラドフォルンの判断に味方貴族や王国民からも批判の声が上がり、
怒ったウォルトレーン家の家臣が屋敷を襲撃するという噂が絶えなかった。
17年がたった今でもウォルトレーン家の襲撃に備えて屋敷の厳重な警備が続いている。
「ラドフォルン家の人間としてなんだか救われた気持ちになります」
「俺たちは戦争に飢えた戦闘民族⋯⋯それって王国民はいまだウォルトレーン家に対して野蛮だというイメージが抜けてないってことだろ」
レンリ辺境伯の言葉に3人は口を閉ざす。
「⋯⋯」
否定はできない。
「すみません」
「なぜ謝る?」
「もう着きましたわよ」
ドーラ様の案内で執務室のような部屋に通された。
「椅子に掛けてお待ちください」
まるで領主が座るような机と椅子だ。
するとパオロ様が「お待たせしました」と、高く積み上げた書物を両手に抱えて入ってきた。
「シャルロット様」と、パオロ様は机の上に書物を乗せる。
「パオロ様これは?」
「帳簿です」
「帳簿⁉︎ 」
「ウォルトレーン領の過去17年間の財政状況が記されています」
帳簿は領地の重要機密。
使用人として働くフリをしながら書庫に忍び込んで確認したかったもの。
「シャルロット様、ウォルトレーン領に来てこれが見たかったんでしょ」
ドーラ様が不敵な顔で私を見ている。
「あなたがここへ来た理由はウォルトレーン家が王国に反旗を翻すための戦(いくさ)支度を整えているんではないかという疑惑を
調べに。そうでしょ。だったらお気の済むまで調べなさい。私とあなたの間で下手な腹の探り合いはなしよ」
隠しごとは無駄なようね。
「そうです。最初のおもてなしには意表を突かれましたが、私を欺くことは容易ではありませんよ。必ず暴いて見せます」
私は父から領地経営に関する知識を叩き込まれた。
帳簿の数字を見ればその領地の領民がどのような暮らしをしていて、現在どのような経営状態にあるか読み解くことができる。
数字は嘘をつかない。
目に映る領地、領民の姿がすべてが正しいとは限らない。
だから数字はその領地の本当の姿を見せてくれる。
いざとなれば、ひ弱そうなパオロ様を人質にして逃げればいい。
ページを1枚1枚慎重にめくって数字の動きを目で追う。
改易から3年目で農産物の収穫高増えている。
それに伴って出生率も増加⋯⋯領地としては良い傾向だ。
だけど⋯⋯
「パオロ様、わずかですが記載されている外貨はどうやって獲得されているのですか?」
「かつてラドフォルン家を震え上がらせたウォルトレーン最強の精鋭部隊、その兵(つわもの)たちです。
畑仕事に馴染めない彼らに他国で冒険者稼業をしてもらって、そこで得た報酬の一部を仕送りしてもらっているんです」
自衛のための兵士は50人、内乱終結以降、王国が定めた平和条約で軍備防衛費は収入の3割までと定められているが
敗戦したウォルトレーン家の場合は1割までと厳しい制限が与えられている。
たしかに数字上は条約を満たしている。
大きな支出もなく、大量に武器を買ったような形跡はない。
「いかがでしたか?」
「なるほど。このままだとウォルトレーン家は28年後に破綻しますね」
「「正解」」
「だから最初に私たちが帳簿を見せた理由がわかったでしょ。さっきはからかってごめんね」
「人口増加が著しいのに外貨が少ない。この狭い領地だけで作れるものだけで地産地消を繰り返し、領地内だけで経済を回すのにも限界がある。
今の子供達が大きくなって雇用を確保できなければ、人材は流出、今度は一転して老人だけが残り、人口も生産力も落ちて、財政は赤字、ついには首が回らなくなって破綻」
「そう。だから戦争をしている場合じゃないの。これで信じてもらえたかしら」
「ウォルトレーン家の主な収入は王国から出るわずかな交付金です」
「食べ物がたくさん取れることは飢えに困らずいいことだけど、お金に変えられないと今度は生活が維持できないのよ」
「だけどなぜ私なのですか」
「シャルロット様のお父様が私たちに仰ったのです。必要なことはすべて娘に叩き込んだ。
領地経営に困っていることがあれば、シャルロットにすべて相談しろ。きっとお知恵を貸してくださると」
お父様は非情な方。だから意味もなく娘を間者(スパイ)にしたりしない。きっとどこかに秘密があるはず。
そう。私は何か大事なものを見落としている。
“⁉︎”
「そういえばレンリ様は!」
「ああ。客人が来ているから中庭の方よ」
「失礼します」
執務室を飛び出してすぐに窓からレンリ辺境伯の姿が見えたので急いで階段を駆けおりる。
外に出るとレンリ辺境伯は10歳くらいの少年から白い布に包まれた物を手渡されていた。外に出るとレンリ辺境伯は10歳くらいの少年から白い布に包まれた物を受け取っていた。
「今度のはよく斬れるよ」
布から一瞬顔をのぞかせたのは煌めく刃だった。
「ありがとよリック。試すのが楽しみだ」
武器⋯⋯あれで私の首を? まさか。
それよりあの少年を追いかけないと。
おそらくこの領内に鍛冶屋がある。
そうか武器は買っているんじゃなくて作っているんだ。
「待って少年!」
「今日やって来た変な格好のお姉さん」
「変な格好は余計よ。ところで君のお家、鍛冶屋さんでしょ」
「うん」
「お姉さんに見せてくれる?」
「いいよ。じゃあついて来なよ」
少年に案内されて歩くこと20分ーー
リック少年は「あそこだよ」と、煙突から煙がモクモクと出ている小さな小屋を指差した。
中に入ると、農耕用の鍬(くわ)や鎌がたくさん並んでいる。
「作っているのってこれだけ?」
「そうだよ。畑を耕すのに必要な道具だからね。あとは料理するための包丁かな」
「包丁⋯⋯」
“⁉︎”
そうか。さっきレンリ様が受け取っていたのは包丁か⋯⋯
焦ってとんでもない勘違いを⋯⋯恥ずかしい。
リック少年に別れを告げて小屋を後にした。
帰り道の山道、私は違和感を覚える
「靴の痕が木が生い茂った道のない斜面の方に伸びて消えている」
ふたたびハッとする。
靴の跡を追って生い茂った木の枝をどかすとそこには道が隠されていた。
「あった!」
道を駆け上がり、開けた場所に出ると、そこには麦畑が広がっていた。
「ここって⋯⋯」
隠し里だ。
麦や米を王国からの徴収から免れるために隠して耕作する田畑。
なるほど兵糧を蓄えるにはちょうどいい。
しかも奥手の方にはレンガ造りの大きな建物がある。
「あれがお父様の言っていた人目のつかないところに建てられた建物」
武器庫になっているに違いない。
『キャッ!』
しまった。高揚するあまり踏み外して土手から落ちてしまった。
「痛い⋯⋯」
挫いてしまったようだ。
「何をやっているんだ。うろちょろばっかしてるからこういうことになるんだ」
「⁉︎ 辺境伯様⋯⋯イッ」
「痛いんだろ。ちょっと待ってろ俺が抱えて引き上げてやる」
「ちょ、ちょっと」
いきなりお姫様抱っこって⋯⋯
「なんか急に静かになったな。お前」
「は、はずかしくって⋯⋯」
「は?」
「あと、お、お前はやめてください。辺境伯様」
「じゃあなんて言えばいい」
「シャ、シャルロットでお願いします」
「俺もレンリでいい。だけど“様”はつけろよ」
「なんかずるいです!」
「シャルロット、あの建物の中が見たいんだろ連れてってやる」
レンリ様は私を抱えたままレンガ造りの建物へとやって来ました。
「おろすぞ」
「はい。イッ⋯⋯」
自分で立っただけでこんなに痛むなんて。
「開けてやった。見てみろ」
「寒い⋯⋯ ⁉︎ ここってーー」
たくさんの樽が横になって並べられている。
「ワインを寝かせるための貯蔵庫だ」
「ワイン⁉︎」
「親父の趣味がきっかけだけど唯一残してくれた遺産だ。本当は領主になんかなりたくねぇんだ」
「レンリ様がですか」
「このワインを出せるレストランを開いて、切り盛りするシェフになりたいんだ。
リックがさっき持って来たのは俺のマイ包丁」
「ほ、ほうちょう⋯⋯」
「刃を研いでもらっただけなのに。勘違いしたお嬢さんが屋敷から飛び出していくから
あとをつけてたんだ。的外れなあんたの行動が面白くて、ついつい道を隠してイタズラしちまった」
「じゃあ、ここって隠し里じゃないの⁉︎」
「この領地全体が隠し里みたいなものだろ。隠す必要なんてはじめからない」
「ひどい!ケガまでしてバッカみたい」
「こっちは退屈しなかったけどな」
「だけどレンリ様が辺境伯じゃなかったら領民は困るでしょ」
「親父を煮詰めて悪いところだけを搾り取ったようなうちの姉さんが1番ここの領主に向いているのさ」
「妙に納得⋯⋯」
「そうだろ。だけど正直言ってここの領民は戦場こそが自分の生きる道って思っているヤツらばっかだった。
だから戦争より平和な世の中を生き抜くってのはよっぽど大変なんだ。シャルロットのお父上は俺たちに
平和という罰を与えた」
「平和という罰⋯⋯」
「おかげでもがき苦しんでる。だから俺は感謝じゃなくて怨むぜ。ぜってぇこの世をおもしろく生き抜いてやる」
「ハハハッ殺されると思って防具なんてつけていたの」
ドーラ様があっけらかんと笑う。
「しかも私たちがラドフォルン家に対する仕返しであなたを使用人としてこき使うと。
それでその格好⋯⋯馬車の中で笑いを堪えるの必死だったのよ」
「姉さんならいびり倒しそうな顔してるもんな。イテッ」
辺境伯様の頭の上に拳骨が落ちた。
「だったらいっそのこと。首だけお父様のところにお返ししましょうか」
「ッ⁉︎」
「ドーラ。悪ふざけが過ぎますよ」
「はーい」
覚悟はしていたけど、はっきり言われるとドキッとする。
「シャルロット様。ウォルトレーン家がラドフォルン家を怨んでいるということはありませんよ」
“怨んでいない”パオロ様の思いがけない言葉に頭が混乱をはじめる。
「どうして?」
「こんなにも資源が豊富で領民が明るく過ごせる領地を与えてくださったのですから。
怨みではなく感謝ですよ」
「感謝⋯⋯」
まさかそのような言葉を頂戴するとは。
にわかに信じがたい。
だけど同時に収穫祭を楽しむ領民たちの顔が頭を駆け巡る。
改易が決定した当時、父クラウス・ラドフォルンの判断に味方貴族や王国民からも批判の声が上がり、
怒ったウォルトレーン家の家臣が屋敷を襲撃するという噂が絶えなかった。
17年がたった今でもウォルトレーン家の襲撃に備えて屋敷の厳重な警備が続いている。
「ラドフォルン家の人間としてなんだか救われた気持ちになります」
「俺たちは戦争に飢えた戦闘民族⋯⋯それって王国民はいまだウォルトレーン家に対して野蛮だというイメージが抜けてないってことだろ」
レンリ辺境伯の言葉に3人は口を閉ざす。
「⋯⋯」
否定はできない。
「すみません」
「なぜ謝る?」
「もう着きましたわよ」
ドーラ様の案内で執務室のような部屋に通された。
「椅子に掛けてお待ちください」
まるで領主が座るような机と椅子だ。
するとパオロ様が「お待たせしました」と、高く積み上げた書物を両手に抱えて入ってきた。
「シャルロット様」と、パオロ様は机の上に書物を乗せる。
「パオロ様これは?」
「帳簿です」
「帳簿⁉︎ 」
「ウォルトレーン領の過去17年間の財政状況が記されています」
帳簿は領地の重要機密。
使用人として働くフリをしながら書庫に忍び込んで確認したかったもの。
「シャルロット様、ウォルトレーン領に来てこれが見たかったんでしょ」
ドーラ様が不敵な顔で私を見ている。
「あなたがここへ来た理由はウォルトレーン家が王国に反旗を翻すための戦(いくさ)支度を整えているんではないかという疑惑を
調べに。そうでしょ。だったらお気の済むまで調べなさい。私とあなたの間で下手な腹の探り合いはなしよ」
隠しごとは無駄なようね。
「そうです。最初のおもてなしには意表を突かれましたが、私を欺くことは容易ではありませんよ。必ず暴いて見せます」
私は父から領地経営に関する知識を叩き込まれた。
帳簿の数字を見ればその領地の領民がどのような暮らしをしていて、現在どのような経営状態にあるか読み解くことができる。
数字は嘘をつかない。
目に映る領地、領民の姿がすべてが正しいとは限らない。
だから数字はその領地の本当の姿を見せてくれる。
いざとなれば、ひ弱そうなパオロ様を人質にして逃げればいい。
ページを1枚1枚慎重にめくって数字の動きを目で追う。
改易から3年目で農産物の収穫高増えている。
それに伴って出生率も増加⋯⋯領地としては良い傾向だ。
だけど⋯⋯
「パオロ様、わずかですが記載されている外貨はどうやって獲得されているのですか?」
「かつてラドフォルン家を震え上がらせたウォルトレーン最強の精鋭部隊、その兵(つわもの)たちです。
畑仕事に馴染めない彼らに他国で冒険者稼業をしてもらって、そこで得た報酬の一部を仕送りしてもらっているんです」
自衛のための兵士は50人、内乱終結以降、王国が定めた平和条約で軍備防衛費は収入の3割までと定められているが
敗戦したウォルトレーン家の場合は1割までと厳しい制限が与えられている。
たしかに数字上は条約を満たしている。
大きな支出もなく、大量に武器を買ったような形跡はない。
「いかがでしたか?」
「なるほど。このままだとウォルトレーン家は28年後に破綻しますね」
「「正解」」
「だから最初に私たちが帳簿を見せた理由がわかったでしょ。さっきはからかってごめんね」
「人口増加が著しいのに外貨が少ない。この狭い領地だけで作れるものだけで地産地消を繰り返し、領地内だけで経済を回すのにも限界がある。
今の子供達が大きくなって雇用を確保できなければ、人材は流出、今度は一転して老人だけが残り、人口も生産力も落ちて、財政は赤字、ついには首が回らなくなって破綻」
「そう。だから戦争をしている場合じゃないの。これで信じてもらえたかしら」
「ウォルトレーン家の主な収入は王国から出るわずかな交付金です」
「食べ物がたくさん取れることは飢えに困らずいいことだけど、お金に変えられないと今度は生活が維持できないのよ」
「だけどなぜ私なのですか」
「シャルロット様のお父様が私たちに仰ったのです。必要なことはすべて娘に叩き込んだ。
領地経営に困っていることがあれば、シャルロットにすべて相談しろ。きっとお知恵を貸してくださると」
お父様は非情な方。だから意味もなく娘を間者(スパイ)にしたりしない。きっとどこかに秘密があるはず。
そう。私は何か大事なものを見落としている。
“⁉︎”
「そういえばレンリ様は!」
「ああ。客人が来ているから中庭の方よ」
「失礼します」
執務室を飛び出してすぐに窓からレンリ辺境伯の姿が見えたので急いで階段を駆けおりる。
外に出るとレンリ辺境伯は10歳くらいの少年から白い布に包まれた物を手渡されていた。外に出るとレンリ辺境伯は10歳くらいの少年から白い布に包まれた物を受け取っていた。
「今度のはよく斬れるよ」
布から一瞬顔をのぞかせたのは煌めく刃だった。
「ありがとよリック。試すのが楽しみだ」
武器⋯⋯あれで私の首を? まさか。
それよりあの少年を追いかけないと。
おそらくこの領内に鍛冶屋がある。
そうか武器は買っているんじゃなくて作っているんだ。
「待って少年!」
「今日やって来た変な格好のお姉さん」
「変な格好は余計よ。ところで君のお家、鍛冶屋さんでしょ」
「うん」
「お姉さんに見せてくれる?」
「いいよ。じゃあついて来なよ」
少年に案内されて歩くこと20分ーー
リック少年は「あそこだよ」と、煙突から煙がモクモクと出ている小さな小屋を指差した。
中に入ると、農耕用の鍬(くわ)や鎌がたくさん並んでいる。
「作っているのってこれだけ?」
「そうだよ。畑を耕すのに必要な道具だからね。あとは料理するための包丁かな」
「包丁⋯⋯」
“⁉︎”
そうか。さっきレンリ様が受け取っていたのは包丁か⋯⋯
焦ってとんでもない勘違いを⋯⋯恥ずかしい。
リック少年に別れを告げて小屋を後にした。
帰り道の山道、私は違和感を覚える
「靴の痕が木が生い茂った道のない斜面の方に伸びて消えている」
ふたたびハッとする。
靴の跡を追って生い茂った木の枝をどかすとそこには道が隠されていた。
「あった!」
道を駆け上がり、開けた場所に出ると、そこには麦畑が広がっていた。
「ここって⋯⋯」
隠し里だ。
麦や米を王国からの徴収から免れるために隠して耕作する田畑。
なるほど兵糧を蓄えるにはちょうどいい。
しかも奥手の方にはレンガ造りの大きな建物がある。
「あれがお父様の言っていた人目のつかないところに建てられた建物」
武器庫になっているに違いない。
『キャッ!』
しまった。高揚するあまり踏み外して土手から落ちてしまった。
「痛い⋯⋯」
挫いてしまったようだ。
「何をやっているんだ。うろちょろばっかしてるからこういうことになるんだ」
「⁉︎ 辺境伯様⋯⋯イッ」
「痛いんだろ。ちょっと待ってろ俺が抱えて引き上げてやる」
「ちょ、ちょっと」
いきなりお姫様抱っこって⋯⋯
「なんか急に静かになったな。お前」
「は、はずかしくって⋯⋯」
「は?」
「あと、お、お前はやめてください。辺境伯様」
「じゃあなんて言えばいい」
「シャ、シャルロットでお願いします」
「俺もレンリでいい。だけど“様”はつけろよ」
「なんかずるいです!」
「シャルロット、あの建物の中が見たいんだろ連れてってやる」
レンリ様は私を抱えたままレンガ造りの建物へとやって来ました。
「おろすぞ」
「はい。イッ⋯⋯」
自分で立っただけでこんなに痛むなんて。
「開けてやった。見てみろ」
「寒い⋯⋯ ⁉︎ ここってーー」
たくさんの樽が横になって並べられている。
「ワインを寝かせるための貯蔵庫だ」
「ワイン⁉︎」
「親父の趣味がきっかけだけど唯一残してくれた遺産だ。本当は領主になんかなりたくねぇんだ」
「レンリ様がですか」
「このワインを出せるレストランを開いて、切り盛りするシェフになりたいんだ。
リックがさっき持って来たのは俺のマイ包丁」
「ほ、ほうちょう⋯⋯」
「刃を研いでもらっただけなのに。勘違いしたお嬢さんが屋敷から飛び出していくから
あとをつけてたんだ。的外れなあんたの行動が面白くて、ついつい道を隠してイタズラしちまった」
「じゃあ、ここって隠し里じゃないの⁉︎」
「この領地全体が隠し里みたいなものだろ。隠す必要なんてはじめからない」
「ひどい!ケガまでしてバッカみたい」
「こっちは退屈しなかったけどな」
「だけどレンリ様が辺境伯じゃなかったら領民は困るでしょ」
「親父を煮詰めて悪いところだけを搾り取ったようなうちの姉さんが1番ここの領主に向いているのさ」
「妙に納得⋯⋯」
「そうだろ。だけど正直言ってここの領民は戦場こそが自分の生きる道って思っているヤツらばっかだった。
だから戦争より平和な世の中を生き抜くってのはよっぽど大変なんだ。シャルロットのお父上は俺たちに
平和という罰を与えた」
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ユリナはバラノン伯爵家の長女であり、公爵子息のブリックス・オメルダと婚約していた。しかし、ブリックスは身勝手な理由で彼女に婚約破棄を言い渡す。さらに、元から妹ばかり可愛がっていた両親にも愛想を尽かされ、家から追放されてしまう。ユリナは全てを失いショックを受けるが、直後に聖女としての力に目覚める。そして、神殿の神職たちだけでなく、王家からも丁重に扱われる。さらに、お祈りをするだけでたんまりと給料をもらえるチート職業、それが聖女。さらに、イケメン王子のレオルドに見初められて求愛を受ける。どん底から一転、一気に幸せを掴み取った。その事実を知った元婚約者と元家族は……
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