3 / 8
第3話 「勇者様、冒険者はじめます」
しおりを挟む
「それじゃあ剣の構え方見せて」
「初手はこの構えだ」
グレイルは刀身を下に向けた状態で剣の柄(グリップ)を右手で握り、両手を正面に構えた。
逆手持ちか⋯⋯
腰の捻りを加えたアッパーで顎下にまず一撃与えるのね。
格闘術を取り入れた流派か⋯⋯勇者っていうよりはまるで暗殺者(アサシン)のようね。
「もういいか?この構えでジッとしているのはつらいんだが」
「そうね。傷口開いちゃうといけないわ」
「あなたにあった剣のイメージがだいたい掴めた」
「今のでか?」
「そうよ」
さっそく鉛筆を手に取って紙にイメージを書きはじめる。
「その人のクセ次第で合うグリップの形状が異なるのよ。グレイルの場合は刀身に向かって細くなるタイプがいいわ。
三日月形にした方がもっと手に馴染むわね」
「グリップひとつとってもいろいろ形があるんだな」
「あなたの持っていた剣は騎士団によく使われるタイプだったからシンプルなのしか使ったことないのね。
騎士団の場合は数を必要とするからたくさん作りやすいシンプルな形状にするのよ。騎士団は使い手ひとりひとりのこだわりより
安く頭数を揃えることを優先されるから」
「所詮は使い捨ての駒ってわけだ」
「勇者を使い捨てにする王国はないって思いたいけど。あなたの剣をみてたらゾッとするわ」
「勇者だろうと騎士だろうとましてや冒険者だろうと存外、戦士の扱いなんてそんなものだ」
「私はそんなつまらない鍛治師になるつもりはないから。とりあえず刃渡りは60cmってところね」
「おいおい短くないか?」
「リハビリにはちょうどいい大きさよ。おそらくくっついた肉がひっぱられて以前の太刀筋にならないから
このくらいの大きさで慣らしていくしかないわ」
「こんなわずかな時間でよく見てるんだな」
「鍛治師の基本よ」
『いいかライナ。武器というのは使い手の側になって作るんだ』
『扱う人間がグリップを握った瞬間、しっくりくると思えるものがいい武器と言えるんだよ』
『だからまずは扱う人間をよく見ることだ』
鍛治師は見て覚えろっていっていたお父さんが唯一教えてくれたことだ。
「それじゃあ部屋に戻ってゆっくり横になっているよ」
「ちょっと、靴紐、また解けてるじゃない」
「またかすまない」
「いいから、その椅子に座って私が治すから」
屈んでグレイルの靴に触れるとびっくりするほど紐がダルダルで力が入っていない。
おまけに通す穴もズレている。
「ねぇ、グレイル。グレイルは自分の指先に力が入らないことが自覚できないほど愚かじゃないでいしょ」
何度言っても聞かないグレイルの顔を下から睨みつけてやった。
それなのにグレイルは顔を顔を赤くして視線を天井の方に向けている。
「ねぇ、ちょっと聞いているの!」
”⁉︎”
しまった胸だ⁉︎ 男に上から覗かれてしまった⋯⋯恥ずかしい。
「今度、抜糸するとき必ず痛くしてやるから覚えてなさいッ!」
「痛いのは勘弁してほしいな」
一目散に自分の部屋に戻って久しぶりにチェストの引き出しを開けてみる。
うーん、なんか他に服はないかな。
火の粉で穴が空いちゃうからあまりかわいい服とか着たくないんだよなぁ。
袖があると暑いし。
こうなったら母親の⋯⋯ダメだ。
あの人、スカートにはスリット入ってるし、露出度高めのイヤらしい服ばかりだからなぁ。
『伯母さんの服、個性的だったもんねぇ。ライナも似たのかな?』
ってトーレもニヤニヤしてたな。
「おのれッ!」
よし、こうなったら⋯⋯
***
昼下がりーー
グレイルが寝ているお父さんの部屋に作ったお粥を持っていく。
ドアをノックして開けると、グレイルはめずらしくベッドの上でおとなしく寝ている。
やっぱり無理してたんだ。
グレイルからははやくドラゴン討伐に戻らないとっていう焦りを感じる。
「お粥作って来たわよ」
「もう食事の時間か。いつも悪いね」
「傷に効く薬草も入ってるんだから、今度は苦くても残さずちゃんと食べて」
「ハハ⋯⋯この苦さはもう少しなんとかならないかな」
「ダメ」
グレイルは痛みを堪えながらゆっくりと状態を起こす。
「イタタ⋯⋯相変わらず手厳しいなライナは」
グレイルは見上げるように私を見やると驚いた声をあげる。
「どうしたんだライナ! その格好」
「何ってケープよ」
「髪でも切るのか?」
「鉄を打つとき以外はこの格好することに決めたのよ。イヤらしい視線を感じるから」
「不可抗力なんだから勘弁してほしいな⋯⋯まさか外に行ってもその格好でいるつもりなのか⋯⋯」
「もちろん」
「それだと冷たい視線が飛んでこないか?」
「うう⋯⋯」
手厳しいのはどっちよ。
恥ずかしくて顔が赤くなるじゃない⋯⋯
***
グレイルがグランツ・ファクトリーにやって来てから1週間が経過。
こうやって2人分の洗濯物を干すことにもだいぶ慣れてきた。
グレイルはあれだけの大ケガだったのに驚くくらいの回復力で、もう木剣を握って素振りをはじめている。
だけど、あいつの抜糸をするのはひと苦労だった。
まったくあまりにも暴れるからベッドの上に羽交締めにさせた挙句、馬乗りにならきゃいけなかったじゃない⋯⋯
「ちょっと暴れないでッ!」
「痛い!痛い!ライナ、もう少し丁寧にやってくれッ!」
「ものすごく丁寧にやってるわよ! 失礼ね。男ならこれぐらい我慢して!」
なんでドラゴンに切り裂かれた傷はやせ我慢できたのに私の抜糸は耐えられないのよ。
「ほら、最後の1本。フンッ!」
「イターイッ!」
「あッ 血が出てきた」
「ライナッ!」
『それで、それでーー』
冒険者ギルドーー
「ライナって積極的だったのねー」
まさかトーレにここまであそばれるなんて⋯⋯
「それでそのときの勇者様はどんな顔してたの?」
「フンッ、トーレ。私だってバカじゃないさ。アイツが鼻の下を伸ばさないように
ケツを顔に向けて糸を抜いてやったわ」
「あらまぁ⋯⋯ライナ、いきなりそんな大胆ね」
⁉︎ ちょっとなにその反応?
『ライナ、息ができない。どいてくれ!』
『グレイルが騒ぐからでしょ! おとなしくして』
思い出したらまた変な汗が出てきた。
「トーレもうそんな顔で私を見ないで」
自分がとんでもなく恥ずかしいことをしてたんだと察した。
「あわわわ⋯⋯」
「あらら狼狽えちゃって。それでライナ、事情はわかったから、はい」
トーレはカウンターにカードを置く。
「グレイル様の登録書よ。勇者様といえどもうちでははじめての登録だから初級冒険者扱いよ」
「リハビリが目的なんだからそれで構わないよ」
「クエストは希望通り、ホーンラビッドの駆除よ」
ホーンラビッドーー
額に一本角が生えたうさぎ型のモンスターだ。
この時期は繁殖期で田畑を荒らしたり、家畜を襲ったりするから農家からの駆除依頼が殺到する。
発情したオスはとくに危険で人に襲いかかることがあるから要注意だ。
「ところでライナ、その格好はなに? 胸に防具にようなもの身につけてるけど。
しかも鉄で頑丈そうね。なんのつもり? 冒険者になるつもり」
「これは貞操を守るためというか⋯⋯」
「それはモンスターから身を守るものよ」
「いや、男だってモンスターといいますか」
「いつまでそんなこと言っているの。男と同棲をはじめたと思って安心したと思ったら、おかしな方向に進んで!
今度一緒に服買いに行くわよ!」
「わ、私はこれで」
トーレの目が開く前にと受付に並んでいる冒険者たちを掻き分けて冒険者ギルドを飛び出した。
***
「おまたせ」
冒険者ギルドの外で待たせていたグレイルに駆け寄る。
「もう登録が完了したのか。すまない手を煩わせた」
「なにを今さら」
本人曰く、冒険者の間では顔が知られているからと中にも入らず、
ホロを頭から被って顔を隠している。
騒ぎになるといけないからだそうだ。
ほどなくして依頼主の牧場にたどり着いた。
「うじゃうじゃといるな」
ホーンラビッドは草むらに身を隠しているが額の角が顔を出しているため、居どころは見つけやすい。
間抜けだが、あの角が一番厄介だ。
猛毒が入っていてかすり傷でも処置が遅れたら死に至る。
「こいつはいっぱいるなぁ」
「そうなのか?」
「何組かのパーティーが駆除を引き受けたけど、ここのは凶暴すぎてみんな途中リタイアしたそうよ。
だからほぼ手付かずで3週間で3倍にまで増えちゃったって。この数は私でもみたことないよ。
あとメスも産後はかなり凶暴になっているからこりゃかなりだな」
「本当にこのモンスターが初心者向けなのか?」
「相手してみたらわかるわよ」
ホーンラビッドの特徴は素早さと跳躍力。
一回のジャンプの高さは2mを超える。
そこら繰り出される前歯を使った攻撃。
これで何人もの冒険者が首を裂かれて命を落としたわ。
しかも賢いから背後といった人間の資格ばかり狙って襲いかかってくる。
動きもランダムで攻撃パターンの予測は不可能。それも数匹まとまって襲ってくる。
「なるほどな。動体視力、観察力、そして適応力が求められる。確かに初心者が鍛えるには打ってつけだ」
そういうとグレイルの目つきが変わる。
私の作った剣を手に構えるとひと呼吸。そして一瞬だった。
3匹同時に襲いかかってきたホーンラビッドをたった一太刀で仕留めた。
「すごい⋯⋯」
「どうだったかな」
うわっドヤ顔。
「グレイルが本当に勇者なのかもって少し思いはじめたくらいかな」
「まだ信じてもらえてなかったんだね」
「じゃあこの調子で続けましょう」
***
太陽が沈みはじめたのを合図に私たちは1日目の駆除を切り上げた。
「20匹か上々、上々。換金もしたし、ホーンラビッドも3匹わけてもらったし、今日はうさぎ肉のシチューにするね」
「ライナ、モンスターも捌けるのか?」
「もちろん。山の中で生活してんだから当然。狩猟で捕まえた鳥とか鹿とか自分で捌けないとお肉食べれないでしょ」
「相変わらずたくましいな」
「待って。いま捌くから」
まずはホーンラビットの角を切り落としてと。
これを1発で切り落とせないと、ラビッドの身体に毒が回って、今度は毒抜きが必要になっちゃうからここは一気に⋯⋯
“ザク”
よし、綺麗に落とせた。
そしたら今度は尻尾の辺りから頭にかけて一気に皮を剥ぐ。
そしたらお腹を割いて内臓を取り出す。
あとはこのまま血抜きすれば下処理は完成ね。
「グレイルはどうだったの? 自分の回復具合」
「まだ4割ってところだ」
あれだけすごくて4割なんだ⋯⋯
「あの素早い動き⋯⋯おかげでドラゴンの尻尾を想定した有意義なトレーニングになったよ」
「だったら狙いどおり」
なーんてね。本当は身体を慣らすのが最初の目的だったんだけどね。
4割か⋯⋯
万全の身体になったらやっぱ、ドラゴン討伐だって、グレイルはすぐここを出ていっちゃうのかな⋯⋯
さびしいーー
⁉︎
さびしい? この私が! 孤独を愛するこの私が⁉︎
いかん、いかん、私は疲れてるんだ。
きっと⋯⋯
「初手はこの構えだ」
グレイルは刀身を下に向けた状態で剣の柄(グリップ)を右手で握り、両手を正面に構えた。
逆手持ちか⋯⋯
腰の捻りを加えたアッパーで顎下にまず一撃与えるのね。
格闘術を取り入れた流派か⋯⋯勇者っていうよりはまるで暗殺者(アサシン)のようね。
「もういいか?この構えでジッとしているのはつらいんだが」
「そうね。傷口開いちゃうといけないわ」
「あなたにあった剣のイメージがだいたい掴めた」
「今のでか?」
「そうよ」
さっそく鉛筆を手に取って紙にイメージを書きはじめる。
「その人のクセ次第で合うグリップの形状が異なるのよ。グレイルの場合は刀身に向かって細くなるタイプがいいわ。
三日月形にした方がもっと手に馴染むわね」
「グリップひとつとってもいろいろ形があるんだな」
「あなたの持っていた剣は騎士団によく使われるタイプだったからシンプルなのしか使ったことないのね。
騎士団の場合は数を必要とするからたくさん作りやすいシンプルな形状にするのよ。騎士団は使い手ひとりひとりのこだわりより
安く頭数を揃えることを優先されるから」
「所詮は使い捨ての駒ってわけだ」
「勇者を使い捨てにする王国はないって思いたいけど。あなたの剣をみてたらゾッとするわ」
「勇者だろうと騎士だろうとましてや冒険者だろうと存外、戦士の扱いなんてそんなものだ」
「私はそんなつまらない鍛治師になるつもりはないから。とりあえず刃渡りは60cmってところね」
「おいおい短くないか?」
「リハビリにはちょうどいい大きさよ。おそらくくっついた肉がひっぱられて以前の太刀筋にならないから
このくらいの大きさで慣らしていくしかないわ」
「こんなわずかな時間でよく見てるんだな」
「鍛治師の基本よ」
『いいかライナ。武器というのは使い手の側になって作るんだ』
『扱う人間がグリップを握った瞬間、しっくりくると思えるものがいい武器と言えるんだよ』
『だからまずは扱う人間をよく見ることだ』
鍛治師は見て覚えろっていっていたお父さんが唯一教えてくれたことだ。
「それじゃあ部屋に戻ってゆっくり横になっているよ」
「ちょっと、靴紐、また解けてるじゃない」
「またかすまない」
「いいから、その椅子に座って私が治すから」
屈んでグレイルの靴に触れるとびっくりするほど紐がダルダルで力が入っていない。
おまけに通す穴もズレている。
「ねぇ、グレイル。グレイルは自分の指先に力が入らないことが自覚できないほど愚かじゃないでいしょ」
何度言っても聞かないグレイルの顔を下から睨みつけてやった。
それなのにグレイルは顔を顔を赤くして視線を天井の方に向けている。
「ねぇ、ちょっと聞いているの!」
”⁉︎”
しまった胸だ⁉︎ 男に上から覗かれてしまった⋯⋯恥ずかしい。
「今度、抜糸するとき必ず痛くしてやるから覚えてなさいッ!」
「痛いのは勘弁してほしいな」
一目散に自分の部屋に戻って久しぶりにチェストの引き出しを開けてみる。
うーん、なんか他に服はないかな。
火の粉で穴が空いちゃうからあまりかわいい服とか着たくないんだよなぁ。
袖があると暑いし。
こうなったら母親の⋯⋯ダメだ。
あの人、スカートにはスリット入ってるし、露出度高めのイヤらしい服ばかりだからなぁ。
『伯母さんの服、個性的だったもんねぇ。ライナも似たのかな?』
ってトーレもニヤニヤしてたな。
「おのれッ!」
よし、こうなったら⋯⋯
***
昼下がりーー
グレイルが寝ているお父さんの部屋に作ったお粥を持っていく。
ドアをノックして開けると、グレイルはめずらしくベッドの上でおとなしく寝ている。
やっぱり無理してたんだ。
グレイルからははやくドラゴン討伐に戻らないとっていう焦りを感じる。
「お粥作って来たわよ」
「もう食事の時間か。いつも悪いね」
「傷に効く薬草も入ってるんだから、今度は苦くても残さずちゃんと食べて」
「ハハ⋯⋯この苦さはもう少しなんとかならないかな」
「ダメ」
グレイルは痛みを堪えながらゆっくりと状態を起こす。
「イタタ⋯⋯相変わらず手厳しいなライナは」
グレイルは見上げるように私を見やると驚いた声をあげる。
「どうしたんだライナ! その格好」
「何ってケープよ」
「髪でも切るのか?」
「鉄を打つとき以外はこの格好することに決めたのよ。イヤらしい視線を感じるから」
「不可抗力なんだから勘弁してほしいな⋯⋯まさか外に行ってもその格好でいるつもりなのか⋯⋯」
「もちろん」
「それだと冷たい視線が飛んでこないか?」
「うう⋯⋯」
手厳しいのはどっちよ。
恥ずかしくて顔が赤くなるじゃない⋯⋯
***
グレイルがグランツ・ファクトリーにやって来てから1週間が経過。
こうやって2人分の洗濯物を干すことにもだいぶ慣れてきた。
グレイルはあれだけの大ケガだったのに驚くくらいの回復力で、もう木剣を握って素振りをはじめている。
だけど、あいつの抜糸をするのはひと苦労だった。
まったくあまりにも暴れるからベッドの上に羽交締めにさせた挙句、馬乗りにならきゃいけなかったじゃない⋯⋯
「ちょっと暴れないでッ!」
「痛い!痛い!ライナ、もう少し丁寧にやってくれッ!」
「ものすごく丁寧にやってるわよ! 失礼ね。男ならこれぐらい我慢して!」
なんでドラゴンに切り裂かれた傷はやせ我慢できたのに私の抜糸は耐えられないのよ。
「ほら、最後の1本。フンッ!」
「イターイッ!」
「あッ 血が出てきた」
「ライナッ!」
『それで、それでーー』
冒険者ギルドーー
「ライナって積極的だったのねー」
まさかトーレにここまであそばれるなんて⋯⋯
「それでそのときの勇者様はどんな顔してたの?」
「フンッ、トーレ。私だってバカじゃないさ。アイツが鼻の下を伸ばさないように
ケツを顔に向けて糸を抜いてやったわ」
「あらまぁ⋯⋯ライナ、いきなりそんな大胆ね」
⁉︎ ちょっとなにその反応?
『ライナ、息ができない。どいてくれ!』
『グレイルが騒ぐからでしょ! おとなしくして』
思い出したらまた変な汗が出てきた。
「トーレもうそんな顔で私を見ないで」
自分がとんでもなく恥ずかしいことをしてたんだと察した。
「あわわわ⋯⋯」
「あらら狼狽えちゃって。それでライナ、事情はわかったから、はい」
トーレはカウンターにカードを置く。
「グレイル様の登録書よ。勇者様といえどもうちでははじめての登録だから初級冒険者扱いよ」
「リハビリが目的なんだからそれで構わないよ」
「クエストは希望通り、ホーンラビッドの駆除よ」
ホーンラビッドーー
額に一本角が生えたうさぎ型のモンスターだ。
この時期は繁殖期で田畑を荒らしたり、家畜を襲ったりするから農家からの駆除依頼が殺到する。
発情したオスはとくに危険で人に襲いかかることがあるから要注意だ。
「ところでライナ、その格好はなに? 胸に防具にようなもの身につけてるけど。
しかも鉄で頑丈そうね。なんのつもり? 冒険者になるつもり」
「これは貞操を守るためというか⋯⋯」
「それはモンスターから身を守るものよ」
「いや、男だってモンスターといいますか」
「いつまでそんなこと言っているの。男と同棲をはじめたと思って安心したと思ったら、おかしな方向に進んで!
今度一緒に服買いに行くわよ!」
「わ、私はこれで」
トーレの目が開く前にと受付に並んでいる冒険者たちを掻き分けて冒険者ギルドを飛び出した。
***
「おまたせ」
冒険者ギルドの外で待たせていたグレイルに駆け寄る。
「もう登録が完了したのか。すまない手を煩わせた」
「なにを今さら」
本人曰く、冒険者の間では顔が知られているからと中にも入らず、
ホロを頭から被って顔を隠している。
騒ぎになるといけないからだそうだ。
ほどなくして依頼主の牧場にたどり着いた。
「うじゃうじゃといるな」
ホーンラビッドは草むらに身を隠しているが額の角が顔を出しているため、居どころは見つけやすい。
間抜けだが、あの角が一番厄介だ。
猛毒が入っていてかすり傷でも処置が遅れたら死に至る。
「こいつはいっぱいるなぁ」
「そうなのか?」
「何組かのパーティーが駆除を引き受けたけど、ここのは凶暴すぎてみんな途中リタイアしたそうよ。
だからほぼ手付かずで3週間で3倍にまで増えちゃったって。この数は私でもみたことないよ。
あとメスも産後はかなり凶暴になっているからこりゃかなりだな」
「本当にこのモンスターが初心者向けなのか?」
「相手してみたらわかるわよ」
ホーンラビッドの特徴は素早さと跳躍力。
一回のジャンプの高さは2mを超える。
そこら繰り出される前歯を使った攻撃。
これで何人もの冒険者が首を裂かれて命を落としたわ。
しかも賢いから背後といった人間の資格ばかり狙って襲いかかってくる。
動きもランダムで攻撃パターンの予測は不可能。それも数匹まとまって襲ってくる。
「なるほどな。動体視力、観察力、そして適応力が求められる。確かに初心者が鍛えるには打ってつけだ」
そういうとグレイルの目つきが変わる。
私の作った剣を手に構えるとひと呼吸。そして一瞬だった。
3匹同時に襲いかかってきたホーンラビッドをたった一太刀で仕留めた。
「すごい⋯⋯」
「どうだったかな」
うわっドヤ顔。
「グレイルが本当に勇者なのかもって少し思いはじめたくらいかな」
「まだ信じてもらえてなかったんだね」
「じゃあこの調子で続けましょう」
***
太陽が沈みはじめたのを合図に私たちは1日目の駆除を切り上げた。
「20匹か上々、上々。換金もしたし、ホーンラビッドも3匹わけてもらったし、今日はうさぎ肉のシチューにするね」
「ライナ、モンスターも捌けるのか?」
「もちろん。山の中で生活してんだから当然。狩猟で捕まえた鳥とか鹿とか自分で捌けないとお肉食べれないでしょ」
「相変わらずたくましいな」
「待って。いま捌くから」
まずはホーンラビットの角を切り落としてと。
これを1発で切り落とせないと、ラビッドの身体に毒が回って、今度は毒抜きが必要になっちゃうからここは一気に⋯⋯
“ザク”
よし、綺麗に落とせた。
そしたら今度は尻尾の辺りから頭にかけて一気に皮を剥ぐ。
そしたらお腹を割いて内臓を取り出す。
あとはこのまま血抜きすれば下処理は完成ね。
「グレイルはどうだったの? 自分の回復具合」
「まだ4割ってところだ」
あれだけすごくて4割なんだ⋯⋯
「あの素早い動き⋯⋯おかげでドラゴンの尻尾を想定した有意義なトレーニングになったよ」
「だったら狙いどおり」
なーんてね。本当は身体を慣らすのが最初の目的だったんだけどね。
4割か⋯⋯
万全の身体になったらやっぱ、ドラゴン討伐だって、グレイルはすぐここを出ていっちゃうのかな⋯⋯
さびしいーー
⁉︎
さびしい? この私が! 孤独を愛するこの私が⁉︎
いかん、いかん、私は疲れてるんだ。
きっと⋯⋯
2
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説

喋ることができなくなった行き遅れ令嬢ですが、幸せです。
加藤ラスク
恋愛
セシル = マクラグレンは昔とある事件のせいで喋ることができなくなっていた。今は王室内事務局で働いており、真面目で誠実だと評判だ。しかし後輩のラーラからは、行き遅れ令嬢などと嫌味を言われる日々。
そんなセシルの密かな喜びは、今大人気のイケメン騎士団長クレイグ = エヴェレストに会えること。クレイグはなぜか毎日事務局に顔を出し、要件がある時は必ずセシルを指名していた。そんなある日、重要な書類が紛失する事件が起きて……


この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。


できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです
新条 カイ
恋愛
ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。
それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?
将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!?
婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。
■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…)
■■
【完結】「聖女として召喚された女子高生、イケメン王子に散々利用されて捨てられる。傷心の彼女を拾ってくれたのは心優しい木こりでした」
まほりろ
恋愛
聖女として召喚された女子高生は、王子との結婚を餌に修行と瘴気の浄化作業に青春の全てを捧げる。
だが瘴気の浄化作業が終わると王子は彼女をあっさりと捨て、若い女に乗
り換えた。
「この世界じゃ十九歳を過ぎて独り身の女は行き遅れなんだよ!」
聖女は「青春返せーー!」と叫ぶがあとの祭り……。
そんな彼女を哀れんだ神が彼女を元の世界に戻したのだが……。
「神様登場遅すぎ! 余計なことしないでよ!」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※他サイトにも投稿しています。
※カクヨム版やpixiv版とは多少ラストが違います。
※小説家になろう版にラスト部分を加筆した物です。
※二章に王子と自称神様へのざまぁがあります。
※二章はアルファポリス先行投稿です!
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※小説家になろうにて、2022/12/14、異世界転生/転移・恋愛・日間ランキング2位まで上がりました! ありがとうございます!
※感想で続編を望む声を頂いたので、続編の投稿を始めました!2022/12/17
※アルファポリス、12/15総合98位、12/15恋愛65位、12/13女性向けホット36位まで上がりました。ありがとうございました。

女嫌いな辺境伯と歴史狂いの子爵令嬢の、どうしようもなくマイペースな婚姻
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「友好と借金の形に、辺境伯家に嫁いでくれ」
行き遅れの私・マリーリーフに、突然婚約話が持ち上がった。
相手は女嫌いに社交嫌いな若き辺境伯。子爵令嬢の私にはまたとない好条件ではあるけど、相手の人柄が心配……と普通は思うでしょう。
でも私はそんな事より、嫁げば他に時間を取られて大好きな歴史研究に没頭できない事の方が問題!
それでも互いの領地の友好と借金の形として仕方がなく嫁いだ先で、「家の事には何も手出し・口出しするな」と言われて……。
え、「何もしなくていい」?!
じゃあ私、今まで通り、歴史研究してていいの?!
こうして始まる結婚(ただの同居)生活が、普通なわけはなく……?
どうやらプライベートな時間はずっと剣を振っていたい旦那様と、ずっと歴史に浸っていたい私。
二人が歩み寄る日は、来るのか。
得意分野が文と武でかけ離れている二人だけど、マイペース過ぎるところは、どこか似ている?
意外とお似合いなのかもしれません。笑
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる