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月野木天音とプリミティスプライムの伝説

第88話「口にすることができなくなった言葉」

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「東堂みてるか? お前が死んでからいろいろが変わっちまったんだぜ」

俺たちがはじめたときはたった4人しかいなかったウィギレスも今じゃ3万人規模の軍隊だ。
それも驚くなよ。俺が将軍だ。
鷲御門に代わるジェネラル・トウサカとして、偉そうに馬にまたがりながら
敬礼する隊士たちの顔を眺めている。

お前が見ていたら馬鹿にするように笑うだろうな⋯⋯

かつて広大な領土と強大な軍事力で名声を誇ったフェンリファルト皇国も
僅かな軍勢で皇都とその周辺の領土数キロを残すのみとなった。
この立場になってはじめてわかった。
陽宝院と鷲御門が背負ってた重責を。
それを知らずに俺たちはどれだけ能天気にあの2人に頼りきりになっていたのか⋯⋯
今更になって実感しているぜ。

だから俺ががんばって魔王軍から取り返すしかねぇよな。

「いいか! ナユタが魔王軍幹部のリザードマン率いる軍勢1万をたったひとりで撃破した。
この好機を逃すわけにはいかない。このまま正面を突っ切って魔王クライム・ディオールがいる陣に斬り込む!
怖じ気づいているヤツはいねぇよな?」


「「「「「「「おおおおおお!」」」」」」」

「国城! ここにいる隊士全員の能力強化だ! メンタルをMAXに引きあげろ!」
「はッ!」
俺含めて隊士たち全員の身体が緑色のオーラに包まれた。
「行くぜッ!」
馬を全速力に走らせながら死体がゴロゴロ転がる荒野を駆け抜ける。 
あらためて考えるとこの人数をひとりで倒したナユタはやっぱりすげぇ。
東堂もそう思うだろ?
ナユタ、お前がつくってくれたチャンス、決して無駄にはしない。

見えたぜ。

「全員、銃を構えろ!」

丘の上に立っている魔王クライム・ディオール。
護衛も置かず、ひとりでのこのこと戦場にあらわれるなんて余裕じゃねぇか。
だけど教えてやるぜ。そいつは余裕なんかじゃなくて慢心だってことをな。

「撃てぇ!」

銃声が連続で鳴り響く。
どれだけ卑怯だと言われても構わない。
1対100だろうが1000だろうが、持てる力、全てでお前を倒す。
それだけお前を倒すことが簡単じゃないとわかっているからだ。
ファンタルスフレイムの頃からそうだ。
やりこみ過ぎて周りがひくぐらい強くなっちまう。
まったくチート過ぎるんだよ。
それで周りが弱過ぎると退屈そうな顔をする。
今のお前もそうだろハルトッ!
ぜってぇその仮面を剥いでぶん殴ってやる。
東堂の分も。

「⁉︎」

あれだけの銃撃を喰らっても無傷だなんて恐れ入るぜ魔王様⋯⋯

『ライルの大砲』

「何ッ⁉︎」

魔王の反撃だ。
いったいどうなっていやがる。
数えるのが面倒なほど大砲が空に浮かびあがってくる。

『撃て』

空からの砲撃で後方の隊士たちがまたひとりまたひとりと吹き飛ばされていく。

「怯むな。吹き飛ばされたくなかったらもっと走れッ!」

連続する爆発の中を全速力で駆け抜ける。
爆煙から抜け出ると、あれだけいた隊士が5人しか残っていない。

「ッ⁉︎」

しまった! 
流れ弾が俺の鼻先にーー

目が包むほどの眩ゆい閃光に“ドッーン”という衝撃が俺を飲み込む。


ーー

『ハルトーッ!』

「背中に雷太鼓、服が破れて露わになった上半身にはタトゥー、そして金髪に逆立った髪。
フェーズ2か。絶望に目覚めたのだな。東坂」

雷(いかずち)から生み出した撥(ばち)を叩いて連続攻撃。

「鳴らせーッ!」

魔王クライム・ディオールに反撃する隙を決して与えてはいけない。
呼吸もやめてひたすら打ち続けろ。
決して止めるな。

『雷轟撃砲(いかずちごうげきほう)』

『迅雷乱狂(じんらいみだれぐるい)』

『轟雷鳴斬(ごうらいめいざん)』

『雷撃号砲(らいげきごうほう)』

止めるな! 止めるな! 止めるな!
たとえ身体がバラバラになっても攻撃を続けろ!
魔王の鎧が砕けるまで止まるな!

「東坂よ。少し前の我ならば今のお前に倒されていた。
それだから余計に気の毒でならない。
今の我にはお前の攻撃などマッサージにもならないのだ」

効いていないだと⁉︎

『セレスカリバー』

剣を取り出した。

おいおい、笑わせるなよ。
俺に渾身の攻撃が全てダメージ0だったとでもいうのかよ。
それでも俺はやめてあげねぇからな。
腕が飛んで、両脚が飛んで、それでも残ったこの片腕でお前を倒す!

『雷撃一槍(らいげきいっそう)』

撥(バチ)を槍に変えた。
届け、魔王の首に!

「ハルト! 死んでいった他のクラスメイトたちがどうでもいいわけじゃないが、
俺は東堂を殺したことを決して許さないッ! 俺はアイツのこと⋯⋯」

***
東堂あかねは同じ少年野球のチームで小学生の頃から一緒に練習をしていた。
東堂が男の子に混じって一緒に野球をやる理由は大好きなお兄ちゃんと野球がしたかったからだそうだ。
その東堂先輩はプロに行くほどのすごいピッチャーで俺も憧れていた。
レギュラーを争っていた頃は東堂の方が背が高くて、打てば俺よりホームラン打つし、
投げれば俺より防御率高くて、正直悔しい思いをしていていた。
そんな東堂は中学になると少年野球をやめた。
結局、東堂に一度も勝てないままだった。
皮肉なhことに俺の芽は中学になって一気に伸びた。
今の俺なら体格的にも勝てるのは当然だが、決着をつけたいという気持ちがずっとくすぶっていた。
そして東堂も中学になって身体つきも変わって、正直いい女になっていた。
少年野球をやっていた頃はそんなことなかったのに、東堂を見るたびなぜか顔が紅くなった。
俺は東堂に勝ちたくてがむしゃらに野球の練習してきたことを話した。
それは東堂も同じだと言っていた。

『はじめはお兄さんちゃんと一緒に野球して遊びたいだったけど、気づいたら東坂に勝ちたくて野球をやってた』

東堂のこの言葉にはじめて気づかされた。
俺の中でくすぶっていた気持ちは性差や年齢の影響で東堂とフェアな真剣勝負ができなくなったことを悔やんでいたわけじゃない。
いつしか野球より東堂と一緒にいることが楽しかった。
これからもこの先も離れず一緒にいたい。

「その気持ちを言葉で口にする前に東堂はいなくなってしまった!
ハルト、お前が憎いぜ。お前が俺たちになんの怨みがあって手を出すのか知らないが
俺はお前を許さない。ハルトも俺と同じ言葉を口にできないようにしてやる。
これで怨みっこなしだ」
「そうかーー」
魔王が繰り出した斬撃が俺の首を胴から切り離した⋯⋯
「これで東堂の前で口にすることができるぞ。東坂ーー」

「⋯⋯」

つづく

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