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敵国に嫁いだ幼き姫は異世界から来た男子高校生に溺愛されて幸せでした

第86話「鷲御門凌凱」

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鷲御門君の握っている剣が金色に輝いた。

『エクスカリバー!』

「む! 傷が回復しているだと⁉︎」

『ウルティメイズスラッシュ!』

オオカミ男の着ている軍服が裂けて血が吹き出す。
鷲御門君の攻撃がついにオオカミ男にダメージを与えた。
「ようやくやり合えるようになったな。将軍! これが俺の望んでいた戦いだ」
2人は拳と剣をぶつけ合う。
あきらかに鷲御門君の動きがこれまでと変わった。
闘志もみなぎっている。
攻撃の威力や速さは私の目から見てもあのオオカミ男の攻撃を上回っているのが分かる。
なのにどうして⋯⋯
それでもまだオオカミ男とは互角だというの。
不安が胸を締め付けてくる。
となりにいるニュアルちゃんも目に涙を溜めて鷲御門君の戦いを見つめている。
やはり鷲御門君が依然、ピンチなことには変わりない。
「ハハハッ。楽しいぞ将軍。だけど貴様の本気はこんなものではないはず。
もっと俺を熱くさせろ!」
「くっ」
「さっきから何をためらっている。拳を交えている俺にはわかる」
「⋯⋯」
「貴様の剣には迷いがある。なによりいびつだ。まるで誰かの剣を模倣しなければいけないと囚われている。
その迷いが貴様の繰り出す剣を遅くしているのだ」
オオカミ男は鷲御門君が振るった一撃を弾き返して、放った拳が鷲御門君の腹部を貫く。

「鷲御門君!」
「鷲御門!」

「見せてみろ。誰かではないお前の剣を」
「うぅ⋯⋯」
「さぁ、このまま無様にやられる将軍ではないはずだ。さもなくばここにいる全員の命はーー」
「ーーうおおお!」
キーンと音を立てて走った光が鷲御門君の腹部に刺さったオオカミ男の腕を胴体から切り離した。
「何?」
そして鷲御門君が振り下ろした渾身の一撃がオオカミ男の胸部を切り裂いた。
その一瞬、オオカミ男の姿がなぜか鷲御門君に見えた。

「あれは凌凱よ⋯⋯」
「え?」
「凌凱を壮吾が斬ったのよ。壮吾自身は気づいてなかったけど壮吾はすでに凌凱を越えている。
私は気づいていた。なのに私は気づいていない振りをつづけてきた」
そう言って崩れ落ちそうになる紡木さんの身体を慌てて支えた。
「紡木さん! しっかりして」

***
紡木美桜視点
そのことに私自身が気がついたのは、陽宝院に生徒会長選挙の出馬を譲ったときのことだ。
壮吾の判断は賢明だった。
そのことを私の口からはおじ様に申し上げることはできなかった。
そして私は壮吾を冷たく突き放して事実から目を逸らした。

『アレはウソ。凌凱なら陽宝院君が頭を下げたことで動じなかった。アレは壮吾の判断』

もし凌凱だったら陽宝院と争って禍根を残していた。
壮吾がおじ様に語った言い訳は建前であっても間違いではなかった。
この異世界でジェネラル・ワシミカドが陽宝院を押さえる役目を果たしていなかったら今ごろこの世界は混沌の中。 
私たちも早々に殺されていたのかもしれない。
それに⋯⋯

***
「壮吾がこの異世界でしてきたことはどれも人を幸せにすることばかりだったものーー」
「⁉︎」
紡木さんが涙混じりに微笑んだ表情を私に向ける。
彼女が私にそんな顔を見せるなんてはじめてのことだ。
「だってそうでしょ? ジェネラル・ワシミカドが先頭に立って皇国をまとめてきたこの半年間は
街中に活気があって笑顔が溢れていた。人々の心まで豊かになっていた。
そんなこと陽宝院はもちろん本当の凌凱にさえできなかった。
つらいことを乗り越えながら他人の痛みを理解してきた壮吾だからこそできたこと。
中学のときからずっとそうだった。壮吾が与えてくれるものには必ず気遣いがある」

たしかに⋯⋯鷲御門君は皇都を区画整理するときもインフラは使う人たちのことを考えてつくるようにと官僚たち命令していた。
気になるところがあれば自ら地図に筆を入れて書き加えていた。

「壮吾自身は今も凌凱を越えたなんて思っていないかもしれない。
それでも凌凱から解き放たれた壮吾は強い」

『俺は俺自身を殺した!』

そう叫んだ鷲御門君の全身が黄金に輝く。

「こしゃくな!」

おののくオオカミ男に向かって、突き抜けるように飛び出した鷲御門君は、
剣を背中の方に振りかぶってから一気に振り下ろした。
渾身の一撃が斜めにオオカミ男の首から腕にかけて一太刀で切り落とした。
そしてバラバラになったオオカミ男の身体が転がる。
それと同時に鷲御門君が膝から崩れ落ちたーー

「鷲御門ーッ」
「壮吾!」
「鷲御門君!」

鷲御門君は私たちが駆け寄ってくるとゆっくりと顔を上げた。
「美桜⋯⋯」
「壮吾!」
「すまない⋯⋯父さんと美桜が守ってきた鷲御門凌凱という存在を
俺は壊してしまった。許せ」
「いいの。いいのよ壮吾。壮吾はがんばった。壮吾はすごい。
壮吾がいなかったら私たちだってこの異世界で生きていくことなんてできなかった。
本当は恨んでたんでしょ? 私のこと。壮吾からバスケを奪い、人生まで奪った。
私が壮吾を鷲御門家の当主に相応しくないとおじ様に報告していたら壮吾は間柴壮吾でいられたのに⋯⋯」
「感謝している」
「⁉︎ ーー」
「美桜のおかげで俺は高校生になることができた。それに母さんの生活も楽になったと聞いた。
“鷲御門凌凱”でいられた俺は”楽しかった“」
「壮吾⋯⋯ 椿、何やっているのはやく壮吾にヒールを!」
「はい!」
「よせ。手遅れだ。椿は他のケガ人の手当てに⋯⋯」
「何言っているの壮吾!」
「俺の身体のことは俺がよくわかっている。
こと切れる前に美桜に恩を返したい」
そう言って鷲御門君は紡木さんの動かなくなった右腕にそっと手を乗せた。
「俺の力を分ける。すぐに動かせるようになるはずだ」
「壮吾⋯⋯ダメ⋯⋯」
「美桜⋯⋯最期のお願いだ。もう少しやわらかい表情をしてやってくれないか。
目つきがこわいから椿が怯えている」
「何よそれ⋯⋯」
紡木さんが笑った。
「女王陛下⋯⋯」
「そなたが本当のそなただったんだな。ソウゴよ」
「陛下、自由に飛び回れるようになった空は如何ですか?広いでしょ」
「そうじゃが⋯⋯そなたが側におらん。空は自由に飛べてもさびしい」
「ニュアル、春には学校ができる。ディフェクタリーキャッスルにつくった駅から電車に乗って通い、
同じ歳の友達とたわいもない話をしたり、スポーツをしたり、ときにはムダに思えるようなことをしながら
時間を過ごすんだ。それが金塊や宝石にも代えがたい大切な宝物になるはずだ」
「鷲御門⋯⋯」
「美桜や月野木のように同じ歳の男の子ともっとーー」
「鷲御門!鷲御門!」
「壮吾!」

ジェネラル・ワシミカドは静かに息を引き取った。

つづく











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