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魔王降臨
第77話「異世界の破壊者」
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『何これ、もしかして手こずっている系⋯⋯だっる』
そう言って吉備津瑠美花さんが気だるそうにやって来る。
私は彼女のことがどこか苦手だ。
吉備津さんはクラスメイトたちと群れることを嫌っていて
教室では物憂げな顔でひとり机に突っ伏していた印象だ。
学校の行事にも非協力的で学園祭の準備がはじまるとよく姿を消していた。
そんな彼女にも”一緒に手伝って“と声をかけてみていた。
だけど返ってくるのは『興味がない』とそっけない返事ばかり。
いつしか彼女の周りにたいする無関心さに違和感を覚えるようになっていた。
さすがの私も無理強いはよそうと諦めた。
とくに印象に残っているのが下校途中のできごと。
私はあかねと捨てられている子ネコが死んでいるのを発見した。
痩せこけて力尽きた子ネコの姿に私たちは心を痛めた。
そこへたまたま通りかかった吉備津さんが無表情のまま『あ、死んでるキモ⋯⋯』
と、こぼして過ぎ去っていった。
彼女にたいする違和感が決定的になった。
「また月野木さん? 邪魔なんですけど」
そう言って吉備津さんは右手を翳す。
異世界に来てから徳永君たちと接するようになって少しは変わったのかなって思ったけど
決定的に何かが私たちと違う⋯⋯
徳永君たちにそそのかされるがままダークエルフの里を滅ぼしたという噂も聞いた。
どうしてそんなことが平然と⋯⋯
そうか! 人への興味だ。
興味がないからためらいもなく命を⋯⋯
吉備津さんの能力が発動するとガルードさんの下に大きな魔法陣が浮かび上がり、さらにはいくつもの魔法陣が
ガルードさんを囲むように発現する。
ガルードさんが一歩踏み出すと、魔法陣からビームが放たれる。
彼女の能力の特徴は攻撃範囲の広さにある。
大きなガルードさんをも全方向から全体攻撃ができるのだ。
「私の能力は”マップ破壊“ 対象を破壊するまで止まらない」
その発言のとおり、ガルードさんへの攻撃が一向に止む気配はない。
少しでも身体をピクリとさせれば魔法陣が反応して勝手に攻撃する。
その光景はまるで特撮映画の怪獣が自衛隊から集中砲火を浴びせられているシーンのようだ。
激しい爆発の連続によってガルードさんの姿が見えなくなる。
外れたビームが周囲の建物に被弾して火の手があがる。
私とリルフィンさんは周囲の熱と立ち込めた煙で息をするのが苦しくなってきている。
すると、球体状の透明なバリアが私とリルフィンさんを包み込んでふわふわと宙に浮かびはじめた。
煙が晴れるとガルードさんは従来よりもさらに大きく、よりドラゴンらしい姿に変貌を遂げて現れた。
「あれはあの頃のガルード!」
リルフィンさんは驚く。
「じゃあネルフェネスさんの魔法が解けて⋯⋯」
「ガルード本来の力で戦えるわ」
ガルードさんは大きな翼を羽ばたかせながら徐々にその巨体を宙に浮かせていく。
そして翼が巻き起こした風が周囲の炎を吹き消した。
「おもしろいじゃん」
吉備津さんはすぐさま魔法陣をフライングボードにして乗っかりガルードさんを追いかける。
「破壊するまでは逃してあげない」
吉備津さんが珍しく本気だ。
ガルードさんは飛んでくるビームを空中で旋回しながらかわしていく。
そして口の中で球体状に収束させた魔力の塊をこめて吉備津さんに迫る。
ガルードさんはダムをつくったときの光線を放つつもりだ。
もしリルフィンさんが話していたような威力があるなら吉備津さんはひとたまりもない。
「吉備津さんもうやめて! これ以上戦ったら吉備津さんが死んでしまう!」
「は? 意味わかんないし。どう見ても勝ってるの私じゃん」
吉備津さんも今度は正面に魔法陣を展開させて対抗する構えだ。
「マジしぶといからさっさと倒されて」
1匹と1人が同時に放った光線は真正面から衝突する。
だけど威力はガルードさんの方が優っている。
「ヤバッ!」
吉備津さんの表情にも焦りの色が出る。
皮肉にも感情を灯した彼女の顔を見るのはこれがはじめてだ。
その瞬間、彼女は光に飲み込まれる。
しかしガルードさんもライフル銃で撃たれた方の翼が黒く炭となって崩れていく。
バランスを失ったガルードさんはそのまま地上へ落下。
「ガルード!」
リルフィンさんがガルードさんの名前を叫んだ。
「吉備津さん⁉︎」
ハッとした私は慌てて彼女の姿を探す。
すると吉備津さんも私と同じ透明な球体に入って空中を漂っている。
「良かった⋯⋯」
だけどこの球体のバリアはいったい⋯⋯
⁉︎ 地上を見やると杏樹ちゃんがこちらに手を振っている。
どうやらこの球体は親衛隊の菊池さんと南里さんの能力のようだ。
吉備津さんも無事でなんとか胸をなでおろす。
だけど、ガルードさんは全身に回った毒によって消滅しかけている。
もう身体の半分以上は細胞の破壊が進んでいる。
変わり果てたガルードさんの姿にリルフィンさんは球体の中で泣き崩れている。
ごめんなさい⋯⋯リルフィンさんあのときのようにガルードさんの顔を優しく抱きしめさせてあげることはできない。
残念だけどガルードさんはもう⋯⋯
「命拾いしましたね。るみかさん」
「?」
振り向くと体育座りをする吉備津さんが小さく杏樹ちゃんにお礼を言った。
「⋯⋯ありがとう」
「聞・こ・え・な・い」
「ありがとう!」
「よーくできました」
吉備津さんが照れている。
あんな顔もできるんだとなんだか少し安心した。
恥ずかしさのあまりかすぐさま膝で顔を覆い隠してしまった。
ーー
再び怪獣のような鳴き声が響いた。
「今度は何⁉︎」
振り向くともう意識が無いはずのガルードさんが再び起き上がろうとしている。
息を引き取ったはずなのになぜ?
「⁉︎」
もしかしてドラゴンゾンビ⁉︎
「そんな⋯⋯もうやめてガルードさん。戦いは終わったの! もう静かに眠って」
身体の半分以上はもう腐っている。
これ以上苦しい思いをするガルードさんを見たくない。
それはリルフィンさんも同じだ。
「ガルード! ニュアルはシャルユの血を引いた娘でしょ! そのニュアルの家来たちに
仕留められたんだからあんたも本望でしょ! それでも死に切れないなら。私がトドメを刺す!」
リルフィンさんはガルードさんに向けて弓矢を構えた。
「36年前からこうなる運命だったんだよ。私たちは」
リルフィンさんは涙を流しながら矢から手を離そうとした瞬間一筋の光がガルードさんの首を横切る。
そして静かに胴から切り離された首が地面に落ちた。
“ズシン”と、音を立てて胴体は地面に倒れた。
舞い上がった土煙から現れたのは魔王クライム・デイオールだ。
「これでよかったんだな。リルフィン」
「ありがとうございます。魔王様⋯⋯」
リルフィンさんは泣きながら魔王クライムに感謝しているけど私は魔王を睨み続けた。
悔しいんだ。予見された悲劇は回避することができたはずなのに⋯⋯
私は力が無くて何もできない私自身と力があるのに何もしなかったハルト君を許すことができない。
「月野木⋯⋯」
魔王が私に何かをいいかけようとした瞬間、光の矢が飛んできて彼の身体を突き飛ばした。
「ハルト君!」
振り向くと陽宝院君がイリスちゃんを髪の毛から片手で鷲掴みにした状態で引きずりながらやってくる。
そして立ち止まるとイリスちゃんを私たちに向かって投げつける。
「イリスちゃん!」
地面に叩きつけられたイリスちゃんの顔や腕には殴られたような痣がたくさんできている。
「イリス様!」
「リルフィンさんすぐにヒーリングを」
「分かってるわ」
「陽宝院君どうして!」
「その子は刃物を手にして月野木君が油断していたところを襲おうとしていたんだ。
だからお仕置きが必要だった。その子には手当てをすることも慈悲をかける必要もないよ」
「だからってこんな小さな子を痛めつけるなんて」
「亜人は獣と同じだったんだよ。人に害を成すなら殺処分も当然。僕たちがいた世界じゃ平然と行われてきたじゃないか」
「亜人は私たちと同じ人間よ!」
陽宝院君に危険を察したゴーレムのロックガードさんとガーゴイルのアウス3兄弟が私の目の前に立って盾となってくれる。
『月野木君から離れたまえ化け物ども!』
瞬間移動のような速さで飛び込んできた陽宝院君。
陽宝院君が手にした“ライジングアーチェリー”にロックガードさんとアウス3兄弟は瞬く間に斬られてしまった。
「いやああ!」
倒れたロックガードさんに手を伸ばそうとする私を陽宝院君が肩を掴んで力づくで抱き寄せる。
「僕はもう君を離さないよ。僕は月野木天音君を愛しているんだから」
「⁉︎」
つづく
そう言って吉備津瑠美花さんが気だるそうにやって来る。
私は彼女のことがどこか苦手だ。
吉備津さんはクラスメイトたちと群れることを嫌っていて
教室では物憂げな顔でひとり机に突っ伏していた印象だ。
学校の行事にも非協力的で学園祭の準備がはじまるとよく姿を消していた。
そんな彼女にも”一緒に手伝って“と声をかけてみていた。
だけど返ってくるのは『興味がない』とそっけない返事ばかり。
いつしか彼女の周りにたいする無関心さに違和感を覚えるようになっていた。
さすがの私も無理強いはよそうと諦めた。
とくに印象に残っているのが下校途中のできごと。
私はあかねと捨てられている子ネコが死んでいるのを発見した。
痩せこけて力尽きた子ネコの姿に私たちは心を痛めた。
そこへたまたま通りかかった吉備津さんが無表情のまま『あ、死んでるキモ⋯⋯』
と、こぼして過ぎ去っていった。
彼女にたいする違和感が決定的になった。
「また月野木さん? 邪魔なんですけど」
そう言って吉備津さんは右手を翳す。
異世界に来てから徳永君たちと接するようになって少しは変わったのかなって思ったけど
決定的に何かが私たちと違う⋯⋯
徳永君たちにそそのかされるがままダークエルフの里を滅ぼしたという噂も聞いた。
どうしてそんなことが平然と⋯⋯
そうか! 人への興味だ。
興味がないからためらいもなく命を⋯⋯
吉備津さんの能力が発動するとガルードさんの下に大きな魔法陣が浮かび上がり、さらにはいくつもの魔法陣が
ガルードさんを囲むように発現する。
ガルードさんが一歩踏み出すと、魔法陣からビームが放たれる。
彼女の能力の特徴は攻撃範囲の広さにある。
大きなガルードさんをも全方向から全体攻撃ができるのだ。
「私の能力は”マップ破壊“ 対象を破壊するまで止まらない」
その発言のとおり、ガルードさんへの攻撃が一向に止む気配はない。
少しでも身体をピクリとさせれば魔法陣が反応して勝手に攻撃する。
その光景はまるで特撮映画の怪獣が自衛隊から集中砲火を浴びせられているシーンのようだ。
激しい爆発の連続によってガルードさんの姿が見えなくなる。
外れたビームが周囲の建物に被弾して火の手があがる。
私とリルフィンさんは周囲の熱と立ち込めた煙で息をするのが苦しくなってきている。
すると、球体状の透明なバリアが私とリルフィンさんを包み込んでふわふわと宙に浮かびはじめた。
煙が晴れるとガルードさんは従来よりもさらに大きく、よりドラゴンらしい姿に変貌を遂げて現れた。
「あれはあの頃のガルード!」
リルフィンさんは驚く。
「じゃあネルフェネスさんの魔法が解けて⋯⋯」
「ガルード本来の力で戦えるわ」
ガルードさんは大きな翼を羽ばたかせながら徐々にその巨体を宙に浮かせていく。
そして翼が巻き起こした風が周囲の炎を吹き消した。
「おもしろいじゃん」
吉備津さんはすぐさま魔法陣をフライングボードにして乗っかりガルードさんを追いかける。
「破壊するまでは逃してあげない」
吉備津さんが珍しく本気だ。
ガルードさんは飛んでくるビームを空中で旋回しながらかわしていく。
そして口の中で球体状に収束させた魔力の塊をこめて吉備津さんに迫る。
ガルードさんはダムをつくったときの光線を放つつもりだ。
もしリルフィンさんが話していたような威力があるなら吉備津さんはひとたまりもない。
「吉備津さんもうやめて! これ以上戦ったら吉備津さんが死んでしまう!」
「は? 意味わかんないし。どう見ても勝ってるの私じゃん」
吉備津さんも今度は正面に魔法陣を展開させて対抗する構えだ。
「マジしぶといからさっさと倒されて」
1匹と1人が同時に放った光線は真正面から衝突する。
だけど威力はガルードさんの方が優っている。
「ヤバッ!」
吉備津さんの表情にも焦りの色が出る。
皮肉にも感情を灯した彼女の顔を見るのはこれがはじめてだ。
その瞬間、彼女は光に飲み込まれる。
しかしガルードさんもライフル銃で撃たれた方の翼が黒く炭となって崩れていく。
バランスを失ったガルードさんはそのまま地上へ落下。
「ガルード!」
リルフィンさんがガルードさんの名前を叫んだ。
「吉備津さん⁉︎」
ハッとした私は慌てて彼女の姿を探す。
すると吉備津さんも私と同じ透明な球体に入って空中を漂っている。
「良かった⋯⋯」
だけどこの球体のバリアはいったい⋯⋯
⁉︎ 地上を見やると杏樹ちゃんがこちらに手を振っている。
どうやらこの球体は親衛隊の菊池さんと南里さんの能力のようだ。
吉備津さんも無事でなんとか胸をなでおろす。
だけど、ガルードさんは全身に回った毒によって消滅しかけている。
もう身体の半分以上は細胞の破壊が進んでいる。
変わり果てたガルードさんの姿にリルフィンさんは球体の中で泣き崩れている。
ごめんなさい⋯⋯リルフィンさんあのときのようにガルードさんの顔を優しく抱きしめさせてあげることはできない。
残念だけどガルードさんはもう⋯⋯
「命拾いしましたね。るみかさん」
「?」
振り向くと体育座りをする吉備津さんが小さく杏樹ちゃんにお礼を言った。
「⋯⋯ありがとう」
「聞・こ・え・な・い」
「ありがとう!」
「よーくできました」
吉備津さんが照れている。
あんな顔もできるんだとなんだか少し安心した。
恥ずかしさのあまりかすぐさま膝で顔を覆い隠してしまった。
ーー
再び怪獣のような鳴き声が響いた。
「今度は何⁉︎」
振り向くともう意識が無いはずのガルードさんが再び起き上がろうとしている。
息を引き取ったはずなのになぜ?
「⁉︎」
もしかしてドラゴンゾンビ⁉︎
「そんな⋯⋯もうやめてガルードさん。戦いは終わったの! もう静かに眠って」
身体の半分以上はもう腐っている。
これ以上苦しい思いをするガルードさんを見たくない。
それはリルフィンさんも同じだ。
「ガルード! ニュアルはシャルユの血を引いた娘でしょ! そのニュアルの家来たちに
仕留められたんだからあんたも本望でしょ! それでも死に切れないなら。私がトドメを刺す!」
リルフィンさんはガルードさんに向けて弓矢を構えた。
「36年前からこうなる運命だったんだよ。私たちは」
リルフィンさんは涙を流しながら矢から手を離そうとした瞬間一筋の光がガルードさんの首を横切る。
そして静かに胴から切り離された首が地面に落ちた。
“ズシン”と、音を立てて胴体は地面に倒れた。
舞い上がった土煙から現れたのは魔王クライム・デイオールだ。
「これでよかったんだな。リルフィン」
「ありがとうございます。魔王様⋯⋯」
リルフィンさんは泣きながら魔王クライムに感謝しているけど私は魔王を睨み続けた。
悔しいんだ。予見された悲劇は回避することができたはずなのに⋯⋯
私は力が無くて何もできない私自身と力があるのに何もしなかったハルト君を許すことができない。
「月野木⋯⋯」
魔王が私に何かをいいかけようとした瞬間、光の矢が飛んできて彼の身体を突き飛ばした。
「ハルト君!」
振り向くと陽宝院君がイリスちゃんを髪の毛から片手で鷲掴みにした状態で引きずりながらやってくる。
そして立ち止まるとイリスちゃんを私たちに向かって投げつける。
「イリスちゃん!」
地面に叩きつけられたイリスちゃんの顔や腕には殴られたような痣がたくさんできている。
「イリス様!」
「リルフィンさんすぐにヒーリングを」
「分かってるわ」
「陽宝院君どうして!」
「その子は刃物を手にして月野木君が油断していたところを襲おうとしていたんだ。
だからお仕置きが必要だった。その子には手当てをすることも慈悲をかける必要もないよ」
「だからってこんな小さな子を痛めつけるなんて」
「亜人は獣と同じだったんだよ。人に害を成すなら殺処分も当然。僕たちがいた世界じゃ平然と行われてきたじゃないか」
「亜人は私たちと同じ人間よ!」
陽宝院君に危険を察したゴーレムのロックガードさんとガーゴイルのアウス3兄弟が私の目の前に立って盾となってくれる。
『月野木君から離れたまえ化け物ども!』
瞬間移動のような速さで飛び込んできた陽宝院君。
陽宝院君が手にした“ライジングアーチェリー”にロックガードさんとアウス3兄弟は瞬く間に斬られてしまった。
「いやああ!」
倒れたロックガードさんに手を伸ばそうとする私を陽宝院君が肩を掴んで力づくで抱き寄せる。
「僕はもう君を離さないよ。僕は月野木天音君を愛しているんだから」
「⁉︎」
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