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魔王降臨

第68話「兄妹」

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”魔王軍に参加したい“

見上げた空に魔王様からのサインが描かれたあの日、俺の心は昂ぶった。
力比べなら村一番の俺が外の世界の奴らと戦ってどこまで渡り合えるか勝負がしてみたい。
そんな衝動に突き動かされた俺は腕自慢の仲間をかき集めて、生まれ育った小さな村を出る決意をした。

「お兄ちゃん」

聞こえてきた妹の声が後ろ髪を引くように村を出発する俺を呼び止めた。
振り返ると妹は憤慨しながらにじり寄ってくる。
「そそっかしいお兄ちゃんが、そんな危ないところに行って本当に大丈夫なの」
「おい⁉︎ みんなの前だ。恥ずかしいだろフィーレ」
同行する仲間たちがクスクスと笑う。
「なぁフィーレ、お前はお兄ちゃんが強いこと知っているだろ」
「強い? いつもそう。そうやって頭じゃなくて筋肉で考えているから、お兄ちゃんは周りのことが見えてないんだよ」
「心配するな。兄ちゃんはむしろ外の世界に行って、どんな強い亜人と出会えるかワクワクしてんだ」
「ほら! 浮ついているじゃない。そんなんだとすぐに痛い目見るよ」
「大丈夫だ。お兄ちゃんは強い」
「さっきからそれしか言ってないじゃない!」
「とにかくフィーレ、小さい弟たちの面倒を頼むぜ」
「それ普段から私の仕事」
俺は機嫌がおさまらない妹の頭の上に手をおいた。
母さんみたいなことを言うクセに頭をなだてやると、すぐもじもじしておとなしくなる。
「やめてよお兄ちゃん⋯⋯恥ずかしい」
いくつになってもかわいい妹だ。
「もう! 気をつけて行って来てね」
見送りながらまだ不安そうな顔をしている妹に、俺はめいっぱい手を振って村を後にした。

***
3日後、他の村のダークエルフとも合流して、ようやく人間が住むハンク領に入った。
「いったん宿を見つけて、今日はゆっくりしよう」
仲間から旅の疲れをとろうと提案があった。
一日も早く魔王様にお会いしたいところだが、ヘトヘトの状態で魔王軍に合流したら
すぐに他種族の亜人たちと手合わせができなくなるからな。
ここは仕方ない。兄ちゃんだって頭を使って考えられるんだ妹よ。
俺は“うんうん”と頷いて、提案に賛同した。
「!」
ふと、ヒヅメの音が俺たちの方に近づいて来ていることに気づいた。
振り返ると、同胞が馬を走らせてこちらに向かってきている。
同胞は俺たちより遅れてダークエルフの郷を出発した。
馬を横付けにして、慌てた様子で俺たちに話しかけてくる。
息も上がって声が掠れているから何を言い出そうとしているのかわからない。
だけど必死なのは伝わってくる。
「とにかく落ち着け。とりあえず俺の水を飲め」
同胞は、差し出した水筒の水を一気に口の中に流し込んだ。
「大変だ。2日前、人間たちにダークエルフの郷が襲われた。
森には火がかけられ、トール、とくにお前の村が壊滅的だ」
「え⁉︎」
「奴らは女、子供を捕らえては連れ去って行った。それが目的なんだろう。
連れ去られた中には、お前の妹がいる」
「⁉︎ フィーレが!」
「人間が亜人を襲うなんてこれまでは考えられなかった。これもウェルス王国が滅んだ影響だ。
不可侵条約なんてあったもんじゃない」
同胞の知らせに村の仲間たちは地面に膝をついて悔しがる。

「魔王様のお言葉はこういうことだったのか⋯⋯」

「人間許すまじ」

これはあとでわかったことだが郷を襲って俺たちの村を焼いたのは
ヘカテル商会という、人間たちからも煙たがられている暗部組織だった。
俺たちダークエルフは人間への憎しみを一気に爆発させた。
そしてその憎しみを抱えたまま魔王軍に参加した。

***
薄汚れたローブを着た獣人の女の子がアヤトを待っている俺の目の前に現れて、
『妹に会わせてやる』と言って、さっきから案内してくれているが、人気のない方にばかり
連れていかれているような気がする⋯⋯
いったいどこへ連れて行く気なんだ?
とりあえず妹のいるところに着くまでの道中、この獣人の女の子に
いかに俺の妹がよくできた妹なのか説明してやった。
おっと魔王様の命令で獣人はケモミミ族に改名したんだった。
「いいか。妹はな村一番の美人で、妹を見た村の男たちはみんな鼻の下を伸ばすから露払いが大変だったんだ」
俺の話を聞いてケモミミ族の子がボソっと口にする。
「さっきからずっと妹の自慢を聞かされている⋯⋯」
「なんか言ったか?」
「なんでもない」
狭くて薄暗い裏路地からようやく抜け出ると、そこは街灯が眩しく照らしつける歓楽街だった。

“亜人街”

「え?」
「亜人が働いて暮らす街だよ」
「亜人の街⋯⋯」
「そう。人間界に出てきた亜人は住むところも働くところもない。心ない人間からは差別される。
だけどここは違う。亜人が働いて活き活きと暮らせる。そんな街」
「本当に亜人だらけだ⋯⋯ウェルス王国の王都にこんなところがあったのか」
「人間たちが暗部と呼んでいる人たちが作ったんだよ」
「暗部が⁉︎ どうして暗部が亜人の街を」
「やさしい人たちなんだよ。人間たちからは煙たがられているけど、
郷を失って難民となった亜人たちに生きていける場所を提供してくれる」
「なあ、どうしてここに妹がいるってわかるんだ? 連れ去られてきた亜人たちはここで何をさせられているんだ?」
「ねぇ、本当に妹は連れ去られたのかな?」
「どういう意味だ?」
「そもそも、人間がダークエルフの郷を襲ったとして、人間にダークエルフを壊滅させることができたのかな?
たとえば火を噴く巨大な魔物が暴れたとか? それをたまたま近くを通りかかった暗部の人たちが生き残ったダークエルフたちを
救ってここまで連れてきてくれたとか考えられないかな?」
「暗部が妹を⋯⋯」
だとしたらフィーレはこの街で幸せに暮らしているーー
なんだか希望が湧いてきたぜ。
「こっちだよ」
そう言って女の子が地下に降りる階段を指差した。

***
階段を降りて突き当たりのドアを開ける。
俺は自然とドアの向こうに楽しく暮らす妹たちの姿を想像していた。

--パチンッ--

指を鳴らす音が聞こえた瞬間、楽しく暮らす妹たちの姿がガラスにヒビが入るようにして砕け散った。
思わず瞬きを繰り返した。
そしてガラスの破片の向こう側から見えてきたのは檻の中で両手首を縛られ吊るされている裸の妹の姿ーー
「フィ、フィーレ⋯⋯どうしてこんなことに」
「お、お兄⋯⋯ちゃん?」
意識がある!

「どうも~トクナガで~す」

「⁉︎」
突然、男の声がして振り返る。
そこにはさっきまで俺を案内してくれていたケモミミ族の女の子の姿はなく、ニヤけ顔の男が立っていた。
「女の子は⋯⋯」
「何? 俺が女の子に見えてました? お兄さんロリコン」
なんだこいつ⋯⋯
「お兄さん、唖然としているね。ハハハッ」
さっきから何が起きてんだ。頭の中がぐるぐると回ってさっぱりだ。
「⁉︎」
鈍痛⋯⋯見やると腹に男の拳がめり込んでいやがる。
「どうもーヘカテル商会の頭(かしら)やっていますヴォルフです」
なんだこのタトゥーの男⋯⋯
にしても呼吸が苦しい。この俺がその場にうずくまらずにはいられないなんて。
どういうことだ? 魔王軍で手合わせしたどの亜人よりも威力があるぞ。
人間のパンチってこんなに重たいのか? 
「ああ。そういえば俺の能力教えてなかったすね~俺の能力は人差し指にある紋章をパチンっと鳴らすと
お兄さんに幻覚を見せることができるんですよ」
「じゃあ⋯⋯あの女の子は君⋯⋯」
「ようやく気づいた。おっそーい」
「俺が見てきた亜人の街⋯⋯あれは言ったいなんだったんだ! あそこで働いていた亜人たちは?」
「あー、アレ? 亜人市場ですよ」
「亜人市場⁉︎」
「お兄さんが見た亜人は素材採りのために解体されていた亜人たちですね」
「⁉︎」
頭の中に本来の光景が過った。
俺は嘔吐せずにはいられなかった。
人間に亜人たちが解体されて体の一部が露店に並べられて売り買いされている。
「あそこはよく冒険者の方々がお求めになられるんですよ」
ヴォルフとかいうタトゥーの男が含み笑いで俺に語る。
「亜人から採れる素材ってすごいんですよ。たとえば人魚の心臓、ちょっと臭みはありますがね食べればたちまちたちまち怪我が治りますよ。
もうそんじょそこらのポーションじゃ手が出なくなります。それにオーガの牙を砕いてすり潰して作った粉末なんて飲めばみるみるうちに筋肉がついて攻撃力が跳ね上がりますよ。
プロテインって言いましたっけ? トクナガさんとそれを売って大儲けしようなんて話していたんですよ。つまり、亜人なんて俺たちにとっちゃレアアイテムの素材なんですわ」
そう言ってタトゥーの男は俺の肩に“ポンッ”と手を置いた。
「そして極めつけの素材は“ダークエルフの血”」
「は⁉︎」
タトゥーの男は檻を開けて吊るされている妹に近寄り取り出したナイフで妹の手首を切りつけた。
「うっ⁉︎」
「フィーレ!」
よく見れば妹の手首には複数の傷跡がある。
傷口から肘の方まで滴る血をタトゥーの男が妹の肌に舌を這わせてなめずりやがる。
タトゥーの男は俺を見てニヤリと笑う。
するとタトゥーの男の全身に紫色のオーラが⋯⋯
「驚きました? 私も発見したときは驚きましたよ。人間がダークエルフの血を飲むと
亜人に匹敵する力が得られる。 そのうち魔力も使えるようになるんじゃないですかねぇ。
とくに若い女のダークエルフの生き血がよく効く。妹さん? でしたっけ。我々も重宝させてもらっていますよ」
「貴様ァーッ!」
「おっと、落ち着いてくださいよ。ですがね、とりすぎには注意なんですよ。この間、駆け出しの冒険者が飲んだら
頭がイカれちまいましてね。まだ駆け出しだと背伸びしすぎちゃうんですかね。錯乱しながら通行人斬っちゃうもんだから
処分に苦労しましたよ」
「それより妹を放せッ!」
「ハハハッ ご冗談を。囚われているのはあなた“も”なんですよ」
ハッとしてタトゥーの男の目線を追った。
見渡すといつのまにか暗部の連中に囲まれていた。
「どうですか? 私の部下たちです。男の生き血は私の趣味ではありませんが、商品としてなら客に充分提供できるので
これからあなたをシメさせていただきます」
髪の毛を鷲掴みにされ寄ってきた男たちは俺を殴る蹴るの好き放題だ。
どいつもこいつも攻撃が重い。
力比べで負けたことがない俺が情けねぇ。
ちくしょう。タトゥーの男のたった一撃でこうも動けなくなるなんて⋯⋯
「恨まないでくださいね。ちょっと活きが良すぎると我々も扱いにくいので」
フィーレ、お前が言ったとおりだな。
「ああ、そうだ。お兄さんの村を焼いたのは、お兄さんをボコっているその人たちじゃなくて
俺の同級生なんだわ。吉備津ちゃん、ちょっとやり過ぎちゃってね。ごめんねぇ。
僕たちとヴォルフさんの研究のためにちょっと協力して欲しかっただけなんだよねぇ。
ハハハッ。だけど俺たちダルウェイルの国王さんから魔物なんて言われてビビられていたから、お兄さんに話した
魔物に滅ぼされたってお話、あながち嘘じゃないよね? それにしても暗部の人たちはやさしい人たちだ。
お兄さんを殺さないでくれるんだから。むしろ僕たちの方が悪者だなぁ。てへッ」
なんなんだコイツ。どうして人の命を奪った話をしてヘラヘラしていられる⋯⋯
魔王様⋯⋯すみません。俺しくじりました。

“周りが見えていない” 

そうか魔王様にもフィーレと同じこと言われてたなぁ。
筋肉じゃなくてちゃんと頭使わなきゃダメだな。
⋯⋯ダメだ。意識が遠くなる。さっきからじっちゃん、ばっちゃんの顔が出てくるし
これが走馬灯ってやつか⋯⋯

“トール”

おいおい、イリスさんの声まで聞こえてきたぞ。
いよいよ、ヤバイなー
「⁉︎」
遅れて大きな衝撃音が俺の耳をつんざいた。
どうやら石積みの壁が崩れ落ちたみたいだ。
これは幻聴でも幻覚でもない。
徐々に意識がはっきりしてきた。
立ち込める土煙の向こう側からイリスさんを先頭に魔王軍の姿が見えたからだ。
「トールお手柄⋯⋯と、言いたいところだけどしくじった?」
「イリスさん、どうしてここに?」
「クライムがつくった魔力“GPS”を使ってトールの位置を把握していた」
「おい、オーガにトロール、リザードマンがいるぞ」
さっきまで俺を殴ってた奴らが魔王軍を見てビビっていやがる。
その様子にタトゥーの男が檄を飛ばした。
「怯むな! 素材祭りじゃねえか」
「なんなんすか。バケモノどもがこぞって仕事の邪魔すか。んでそこのおチビちゃんが
バケモノのボス? ありえねぇー」
「お前、日本人、ドウキュウセイか?」
「へぇー、日本人がわかるんだ。どーも徳永でーす。でっおチビちゃんは何もん?」
「無礼だぞ。イリスさんは魔王幹部だ!」
「あ?」
なぜだイリスさんがすごい顔で睨んできたぞ。
「あッ! 魔王夫人です」
「よし。トクナガ、帰ったらツキノキアマネにそう伝えておけ」
「何を?」
「まぁ、生きて帰ることができたらの話だけど。この魔王軍と戦って」
「は? 生意気なガキ! ヴォルフさんやっちゃって下さいよ」
「トクナガさん、ちょっとすぐにはむずかしそうですね⋯⋯」
さっきの威勢はどこかに吹き飛んで暗部の男たちが魔王軍の攻撃に圧されている。
「トール!」
身動きの取れない俺にエルフのリルフィンさんが駆け寄ってきてくれた。
「ポーションだ。はやくこれを飲んで妹を救出するんだよ」
ポーションの液体が口の中に流し込まれると全身が緑色に発光した。
「ありがとうございます。リルフィンさん。これで動けます」
まだ体がふらつく。それでも妹が入れられている檻の中に入り、
手首を縛り付けている縄を解いた。
そして力なくもたれ掛かってくる妹を抱きしめてやった。
「よかった。よかった。お兄ちゃんだぞ」
「お兄ちゃん⋯⋯」
「フィーレ!」
愛くるしい妹よ。もっと抱きしめてあげる。
「うっ⁉︎ お兄ちゃんくるしいー」
「どうした⁉︎ あのタトゥーの男に何かされたのか?」
「いや、トールのせいでしょ」
「なぜそんな目で見るんですか、イリスさん⋯⋯」
「バカ」

--パチンッ--

まただ⁉︎ またあの指を鳴らす音だ。
「まったく⋯⋯右条の奴も魔物を飼って何が楽しいんだか」
見やるとトクナガとかいうニヤけた男の姿はなく、かわりに見慣れない装束を着た
黒髪の男の子が立っていた。
「魔王の命令だ。今すぐここから引きあげろ。亜人ども」
誰?
「⋯⋯それで魔王様のつもりなのか?」
「この隠キャの姿、まさにどこからどう見てもお前たちが崇拝する魔王だろ」

『⋯⋯』

あー、なんだろう。空気って凍るんだな。はじめて知った。

「オマエ、魔王様チガウ」
「シラナイ」
「ダレダ」
「よく見ろ! 魔王だろ。俺の顔を忘れたのか。低脳ども!」

「その姿じゃ、こいつらにはわからないさ」

⁉︎ 魔王様の声だ。

“パァン”

同時に乾いた音が弾けた。耳がイテェ。
「うあああああっ」
悲鳴をあげてトクナガが床をのたうちまわっている。
よく見れば側にトクナガのと思われる人差し指が転がっている。
「いつのまに⋯⋯」

「認識をアップデートしろ。これが今の俺の姿だ。徳永ーー」

ライルさんが変身したピストルとかいう武器を手にして魔王様が暗がりから姿をあらわした。
「お、お前が右条⋯⋯ウソだろ。こんなはずじゃ」
歩みだした魔王様の靴から“クチャ”というやわらかいものが潰れるような音がした。
「おっと。悪いなお前の指踏んじまった。すまないがぐちゃぐちゃで拾ってあげることもできないわ」
「右条ーッ!あああああーー」
「魔王様、うしろです!」
ヴォルフが背後から魔王様に襲いかかってきている。
「トクナガさんのお返しですよ!」
その瞬間、ヴォルフの首を閃光が横切った。
そして魔王様はセレスさんが変身した日本刀とかいう剣を鞘に収める動作をしている。
鍔が“カチャン”と音を立てると、ヴォルフ首は胴を離れた。
「お前たち、よく聞け。こいつらは皆殺しにしていいが首だけはきれいにとっておけ。
こんな奴らの首でも使い道はある」
「「「「「はッ!」」」」」
人間の悲鳴があちこちから聞こえてきだした。
「さてと、次は徳永だな」
「ひっ! 許してくれ右条⋯⋯俺が悪かった」
今度はみっともなく泣きはじめた。なんなんだこの男は戦士じゃないのか。
「男なら泣かずに堂々と殺されるんすよ」
「トール、いいこと言うな。だけど徳永の首はきれいにとっておく必要ないな」
魔王様は、何かを閃いた様子で手を叩いた。
「トール、今からとっておきの技を教えてやる見ていろ」
魔王様直伝の技、興奮せずにはいられない。
次第に魔王様の脚に魔力が集中して雷のようなものがビリビリしはじめた。
『デビルズキック』
魔王様の回し蹴りがトクナガの顔に直撃ーー
跡形もなく吹き飛んだ。
「どうだ?」
「すごいっす魔王様! 技名を叫ぶんすね」
「そうだ。お前には特撮ヒーローみたいな攻撃がしっくりくるぜ」
「言っている意味はよくわかんないすけど。とにかくカッコいいです。
ありがとうございます!」
このあと俺と魔王様はしばらく直伝の『デビルズキック』の練習に打ち込んだ。
見ていた妹はなぜだか白けた目で見ていたけど。
「お兄ちゃん、単純⋯⋯」

***
川南綾人視点
この日、王宮ーー今の魔王城へと繋がる大通りには大勢の人集りが出来ていた。
そこで衆目を集めていたのは、魔王城に向けて練り歩く魔王軍の隊列だ。
もちろんその列の中にはトールの姿も。そして先頭を行くのは同級生の右条晴人君だ。
雰囲気は変わってしまったけど紛れもなく彼だ。
ゴブリンが構えている槍の先端には暗部の人間の首が掲げられている。
これまで悪事を働いてきたものたちに下された断罪にも関わらず、王都民からは歓声も湧かずどよめきだけが広がっている。
「ティア⋯⋯」
生地となりマントとして僕の鎧の一部となったティアを握りしめた。
「トール。僕の代わりにティアの仇をとってくれて感謝しているよ。右条くんにも。だけどおぞましい」
「川南君もういいでしょ?」
隣で一緒に見ていた乾すずのさんが僕の袖を引っ張る。
「城を取り返すよ。私たち鷲御門派の手で」
「そうだね」
右条君、王都民は決して君を英雄として見ていない。
王都民が君に抱いている感情は支持じゃない。畏怖だ。

つづく





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