55 / 100
右条晴人とクライム・ディオールの伝説
第52話「皇帝陛下」
しおりを挟む2016. 6. 26
********************************************
学園の東。そこには学園が所有する広い闘技場がある。
「ティア様ぁっ。そろそろお時間ですよぉぉっ」
そう声を張り上げて叫ぶシルは、観覧席にいた。
闘技場では十数人の黒装束を纏った十代後半から二十代前半の男女が荒い息をしながらティアを囲んでいる。
十二歳を目前に控え、大人へと成長を始めたすらりと伸びた手足。今は動きやすいように制服の上衣を脱いでシンプルな上衣一枚になっているティア。
学園では下ろしている長い少々癖のある髪は一つに束ねられ、好戦的な瞳と、不敵に笑う口元が魅力的だった。
シルの言葉を受けて、ティアは戦闘態勢を取り、前屈みになっていた体を起こす。
「もう一時間も経ったの? あと三十分追加しようかな」
この後、一時間後に高学部の卒業式がある。小学部の代表メンバーであるティアはこれに出席し、更に小学部の代表として祝辞を述べなくてはならないのだ。
「ダメですよ。ギリギリになってしまいますからっ」
「どうにかしてよ」
「どうにかって……どっちをどうする意味で言っていますかっ⁉︎」
午前中と、一時間前にあった中学部の卒業式でも壇上に上がったティアは、いいかげんストレスが溜まっていた。
ヒュースリー伯爵令嬢のティアラールとして振る舞うのは、やはりティアにとっては窮屈なのだ。
「当然、式をどうにかするんだよ」
その時、キルシュとアデルの気配を感じた。
「ティアっ! 打ち合わせの時間だぞっ」
「シルさんに無茶言っちゃダメだよ~」
観覧席から顔を覗かせたキルシュとアデルがそんな注意をする。
これにティアは顔を歪ませ、肩を落とす。
「ちぇっ、お迎えまで来ちゃったか……仕方ない。今日はこれで解散」
「「「はっ。ご指導、ありがとうございましたっ!」」」
一斉にティアを取り囲んでいた黒装束の者達が深く頭を下げた。
ティアは一つ頷いてキルシュ達のいる観覧席の方へと歩み寄っていく。そして、飛び上がると同時に風を纏うと、二メール程ある観覧席と闘技場を隔てる壁を飛び越えた。
「この忙しい時に、何をしてるんだ」
「あの人達って、クィーグの?」
「うん。修練生の人達。卒業式で人もいないから、今日はここで訓練らしくて。非常時に直ぐに呼べるしって事みたい」
クィーグの学園担当は今日の卒業式の為に特別な警備体制を取っている。
貴族の子息が殆どという事で、当然、卒業生達の保護者は貴族だ。
そんな貴族達が多く出入りする今日は、学園の警備を任せられているクィーグの一族としては力が入る。
保護者達が連れている護衛達に仕事をさせる機会など作るものかと万全の体制を敷いていた。
そして、万が一人手が必要となれば、いつでも呼び出せる場所として、闘技場で修練生達を待機させているのだ。
「だからって、なんでティアが訓練つけてんの?」
「そうだ。こんな時になに本気出しているんだ」
「ええ~っと……」
二人に責められ、ティアは目をそらす。その視線の先にシルが駆けてきていた。
「ティア様。お召し物を」
「ありがと」
シルはティアが脱いだ制服を持って来たのだ。
「ちょっとティアっ、ここで脱いだの?」
「うん? そうだけど?」
ティアはシルやキルシュを気にする事なくズボンも変えようとしている。恥じらいもなにもあったものではない。
しかし、そこは抜かりないようだ。
「ご心配は無用です」
そう言ってシルは、どこから取り出したのか大きな薄い布をティアの頭から被せる。
その布は広がって、ティアの体に触れる前にふわりと浮き上がり、まるで四角く長い箱でもそこにあるように形どる。これによってティアの着替えは人目に晒される事はない。
「どうやってるの?」
あまりにも不思議な光景に、アデルが問いかける。
「これも魔術なのですが……我ら一族の秘術ですのでお教えできません」
「へぇ……便利だね」
「秘術……こういうことを想定してのか?」
「どのような主の要望にも応えられるよう精進しておりますので」
「もう、ティアの思うがままだな……」
「……お疲れ様です……」
有能な一族のお陰で、ティアの自由度が増しているという事実には目を瞑る事にするアデルとキルシュだ。
************************************************
舞台裏のお話。
ウル「見つかりましたか?」
サクヤ「ううん……アデルちゃんとキルシュくんに任せて来たわ……」
ウル「間に合わせるんでしょうけど、心配ですからね」
サクヤ「そうなのよね……イマイチ信用できないっていうのか……」
ウル「授業もサボりませんけどね」
サクヤ「あれでまだ模範生だもの……」
ウル「要領が良いんでしょう」
サクヤ「それはあるわね。それに、あの子は最後の締め方を知ってるわ」
ウル「さすがは、元王女です……」
サクヤ「あら。ようやく認めたの?」
ウル「はぁ……ただ、女神である事は認めたくありません」
サクヤ「うん……それは分かる」
ウル「この世に救いなどないのでしょうか……」
サクヤ「……ウルって、断罪の女神の話、小ちゃい時から好きだったものね……」
ウル「はいっ。ですから、例え天使が認めても、私は認めませんっ」
サクヤ「まぁ、がんばってイメージを守ってやってよ……」
ウル「清く、正しく、そして慈悲深い。それが女神サティア様ですっ」
サクヤ「あぁ~……それはティアとは違うわね……」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
憧れは大切に。
大きくなったティアちゃん。
奔放に育っています。
周りがティアちゃんの要望に応えてしまうのは良くない傾向かもしれません。
ストッパー役は常につけておく必要があるでしょう。
アデルとキルシュに期待です。
では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎
********************************************
学園の東。そこには学園が所有する広い闘技場がある。
「ティア様ぁっ。そろそろお時間ですよぉぉっ」
そう声を張り上げて叫ぶシルは、観覧席にいた。
闘技場では十数人の黒装束を纏った十代後半から二十代前半の男女が荒い息をしながらティアを囲んでいる。
十二歳を目前に控え、大人へと成長を始めたすらりと伸びた手足。今は動きやすいように制服の上衣を脱いでシンプルな上衣一枚になっているティア。
学園では下ろしている長い少々癖のある髪は一つに束ねられ、好戦的な瞳と、不敵に笑う口元が魅力的だった。
シルの言葉を受けて、ティアは戦闘態勢を取り、前屈みになっていた体を起こす。
「もう一時間も経ったの? あと三十分追加しようかな」
この後、一時間後に高学部の卒業式がある。小学部の代表メンバーであるティアはこれに出席し、更に小学部の代表として祝辞を述べなくてはならないのだ。
「ダメですよ。ギリギリになってしまいますからっ」
「どうにかしてよ」
「どうにかって……どっちをどうする意味で言っていますかっ⁉︎」
午前中と、一時間前にあった中学部の卒業式でも壇上に上がったティアは、いいかげんストレスが溜まっていた。
ヒュースリー伯爵令嬢のティアラールとして振る舞うのは、やはりティアにとっては窮屈なのだ。
「当然、式をどうにかするんだよ」
その時、キルシュとアデルの気配を感じた。
「ティアっ! 打ち合わせの時間だぞっ」
「シルさんに無茶言っちゃダメだよ~」
観覧席から顔を覗かせたキルシュとアデルがそんな注意をする。
これにティアは顔を歪ませ、肩を落とす。
「ちぇっ、お迎えまで来ちゃったか……仕方ない。今日はこれで解散」
「「「はっ。ご指導、ありがとうございましたっ!」」」
一斉にティアを取り囲んでいた黒装束の者達が深く頭を下げた。
ティアは一つ頷いてキルシュ達のいる観覧席の方へと歩み寄っていく。そして、飛び上がると同時に風を纏うと、二メール程ある観覧席と闘技場を隔てる壁を飛び越えた。
「この忙しい時に、何をしてるんだ」
「あの人達って、クィーグの?」
「うん。修練生の人達。卒業式で人もいないから、今日はここで訓練らしくて。非常時に直ぐに呼べるしって事みたい」
クィーグの学園担当は今日の卒業式の為に特別な警備体制を取っている。
貴族の子息が殆どという事で、当然、卒業生達の保護者は貴族だ。
そんな貴族達が多く出入りする今日は、学園の警備を任せられているクィーグの一族としては力が入る。
保護者達が連れている護衛達に仕事をさせる機会など作るものかと万全の体制を敷いていた。
そして、万が一人手が必要となれば、いつでも呼び出せる場所として、闘技場で修練生達を待機させているのだ。
「だからって、なんでティアが訓練つけてんの?」
「そうだ。こんな時になに本気出しているんだ」
「ええ~っと……」
二人に責められ、ティアは目をそらす。その視線の先にシルが駆けてきていた。
「ティア様。お召し物を」
「ありがと」
シルはティアが脱いだ制服を持って来たのだ。
「ちょっとティアっ、ここで脱いだの?」
「うん? そうだけど?」
ティアはシルやキルシュを気にする事なくズボンも変えようとしている。恥じらいもなにもあったものではない。
しかし、そこは抜かりないようだ。
「ご心配は無用です」
そう言ってシルは、どこから取り出したのか大きな薄い布をティアの頭から被せる。
その布は広がって、ティアの体に触れる前にふわりと浮き上がり、まるで四角く長い箱でもそこにあるように形どる。これによってティアの着替えは人目に晒される事はない。
「どうやってるの?」
あまりにも不思議な光景に、アデルが問いかける。
「これも魔術なのですが……我ら一族の秘術ですのでお教えできません」
「へぇ……便利だね」
「秘術……こういうことを想定してのか?」
「どのような主の要望にも応えられるよう精進しておりますので」
「もう、ティアの思うがままだな……」
「……お疲れ様です……」
有能な一族のお陰で、ティアの自由度が増しているという事実には目を瞑る事にするアデルとキルシュだ。
************************************************
舞台裏のお話。
ウル「見つかりましたか?」
サクヤ「ううん……アデルちゃんとキルシュくんに任せて来たわ……」
ウル「間に合わせるんでしょうけど、心配ですからね」
サクヤ「そうなのよね……イマイチ信用できないっていうのか……」
ウル「授業もサボりませんけどね」
サクヤ「あれでまだ模範生だもの……」
ウル「要領が良いんでしょう」
サクヤ「それはあるわね。それに、あの子は最後の締め方を知ってるわ」
ウル「さすがは、元王女です……」
サクヤ「あら。ようやく認めたの?」
ウル「はぁ……ただ、女神である事は認めたくありません」
サクヤ「うん……それは分かる」
ウル「この世に救いなどないのでしょうか……」
サクヤ「……ウルって、断罪の女神の話、小ちゃい時から好きだったものね……」
ウル「はいっ。ですから、例え天使が認めても、私は認めませんっ」
サクヤ「まぁ、がんばってイメージを守ってやってよ……」
ウル「清く、正しく、そして慈悲深い。それが女神サティア様ですっ」
サクヤ「あぁ~……それはティアとは違うわね……」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
憧れは大切に。
大きくなったティアちゃん。
奔放に育っています。
周りがティアちゃんの要望に応えてしまうのは良くない傾向かもしれません。
ストッパー役は常につけておく必要があるでしょう。
アデルとキルシュに期待です。
では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。

俺の畑は魔境じゃありませんので~Fランクスキル「手加減」を使ったら最強二人が押しかけてきた~
うみ
ファンタジー
「俺は畑を耕したいだけなんだ!」
冒険者稼業でお金をためて、いざ憧れの一軒家で畑を耕そうとしたらとんでもないことになった。
あれやこれやあって、最強の二人が俺の家に住み着くことになってしまったんだよ。
見た目こそ愛らしい少女と凛とした女の子なんだけど……人って強けりゃいいってもんじゃないんだ。
雑草を抜くのを手伝うといった魔族の少女は、
「いくよー。開け地獄の門。アルティメット・フレア」
と土地ごと灼熱の大地に変えようとしやがる。
一方で、女騎士も似たようなもんだ。
「オーバードライブマジック。全ての闇よ滅せ。ホーリースラッシュ」
こっちはこっちで何もかもを消滅させ更地に変えようとするし!
使えないと思っていたFランクスキル「手加減」で彼女達の力を相殺できるからいいものの……一歩間違えれば俺の農地(予定)は人外魔境になってしまう。
もう一度言う、俺は最強やら名誉なんかには一切興味がない。
ただ、畑を耕し、収穫したいだけなんだ!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる