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右条晴人とクライム・ディオールの伝説

第50話「アームズ族の巫女」

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アマネとかいうマヌケ顔の女が知りたいというから話してやる。
私たちアームズ族は主人(あるじ)を得ると武器に変身できる、この世界でも稀な種族。
アームズ族にはこんな言い伝えがある。
“主人(あるじ)が優れた人物であったならばやがて聖剣級の宝具になれる”
アームズ族にとって宝具に転生することはとても名誉なこと。
ずっと昔、英雄クライムの武器だった巫女メフィリスは宝具ニョルニルとして生まれ変わって、クライムと一緒に世界を救った。
メフィリスは私の憧れ。生まれつき体が弱かった私は、よく近所の男の子たちからからかわれていた。
泣きそうになるたびに、私もいつかメフィリスのような強い武器になって、英雄と一緒に世界を救う宝具になるんだと我慢していた。
アームズ族の子供は10歳になると長老から洗礼の儀式を受けて自分がどのタイプの武器に変身できるのか占ってもらえる。
村にとって儀式はお祭り。
メフィリスの像がある村の広場には大勢の人たちが集まってきてとても賑やかになる。
村の人たちは子供たちがどんな武器になるのかとても楽しみにしている。
「刃の武器!」
「射撃の武器!」
「盾の武器!」
長老が占った答えを言うたびに拍手や太鼓を鳴らして大喜びする。
私をからかっている男の子たちも、次々に長老から武器の名前を言われて村の人たちから喜んでもらっている。

ーーいよいよ私の番がやってきた。

胸のドキドキの音が大きくなる。
メフィリスの像の前に椅子が置かれていて、儀式はそれに座って受ける。
村の人たちは貧弱な私を見るなり応援する声が小さくなった。
さっきまで賑やかだったのがウソのように急に静かになって私を見つめる。
椅子に座ると、後ろからメフィリスに見守られているような不思議な感じがした。
呪文を唱えながら近づいてくる長老の顔がとても恐い。
泣き出しそうになったけど、“がんばれ”と見守るお父さんとお母さんを見つけてすぐに怖くなくなった。
それにメフィリスも見てくれている。
長老の大きな手が私の頭の上に乗っかって緑色の優しい光が私を包み込んだ。
「フムフム」と、呪文を唱え続ける長老は髪がくしゃくしゃになるほどの強さで私の頭を撫で回してきた。
「痛い」
「我慢するんじゃ。フムフム、フムフム⋯⋯」
占っていた長老が突然、カッと目を大きく見開いた。
「なんと⁉︎ この子は⋯⋯」
驚きのあまり後退りした長老はゴクリと息を呑んで続ける。
「⋯⋯鎚(つい)の武器じゃ!この子は鎚(つい)の武器じゃ!」
長老の言葉に村の人たちは大きな声で叫んだ。
男の子たちも目を丸くしている。
お母さんは、お父さんに抱きしめられながら嬉しそうな顔で泣いている。
“鎚(つい)の武器”それはメフィリスが変身した英雄クライムの武器と同じ。
「私がメフィリスと同じ鎚(つい)の武器⋯⋯」
嬉しかった。思わず椅子から飛び上がりそうになるくらい。
そんな暖かかった日のことを思い出しながら目を覚ますとなぜか道の真ん中で倒れていた。
頭がもうろうとしていてはっきりと思い出せない。
「⁉︎」
パチパチと聞こえてきた音にハッとさせられる。
振り向くと私の住んでいた家や村が燃え盛る炎に包まれていた。

盗賊たちだ。

思い出した。
村を守るために盗賊と戦ったお父さんたちは背中から斬られたあと、
首を鷲掴みにされながらむりやり武器の姿にされた。

お父さんーー
お母さんーー
そして優しかった村の人たちの笑顔が頭の中でいっぱいになる。

「お父さん! お母さん! どこ?どこにいるの?」
走って村の広場まで探しに行くとそこには武器の姿のまま、まるで墓標のようにして
地面に突き刺さっている村の人たちがいた。

「お父さん!」
「お母さん!」

並んでいる2本の剣に向かって何度も呼びかけた。
だけど返事を返してくれない。
「戻ってきて」と、声を掛け続けていると背後から忍び寄ってきた影が私の首を鷲掴みにした。
「ああ⋯⋯」
闇が私を飲み込んだ。黒く染まっていく視界に禍々しい”槌“の姿が浮かんでくる。

***
再び目を覚ますと盗賊のアジトに囚われていた。
縛られているわけでもないのに体が思うように動かない。
しかも私の下敷きになっているのは武器の姿のまま死んでしまった村の人たち。
村を襲った盗賊たちは目の前でお酒を飲みながらはしゃいでいる。
「アームズ族は殺してから武器にすると使い物にならないんだな。見ろこの剣折れちまっている」
「こっちのは刃こぼれがひどい」
「ディノス様、よかったんですか?」
「構わんさ。全て炉の中入れて溶かすからな。知っているか? アームズ族の体から取れた鉄を使って打った剣は、世界を支配する最強の剣になると聞く。
出来上がれば帝国は安泰。世界はフェンリファルトのものだ」
高笑いをあげるこの男がおそらく盗賊たちの頭目。
盗賊たちは砂埃で薄汚れた格好をしているのに、ひとりだけ金色の刺繍が入った高そうな服を着ている。
「大変です! 冒険者どもが乗り込んできました」
「何? おのれネルフェネスめ。嗅ぎまわっていると聞いていたがこのようなときに。お前たち! 手に入れた武器を急いで馬車に詰め込め!」
「「「はっ」」」

***
村の人たちと一緒に私も暗闇の中へと放り投げられた。
さっきの話が本当なら私は溶かされてしまう。
なぜだろう? ⋯⋯涙が止まらない。
メフィリスと同じ鎚(つい)の武器だと言われた。
私の体が弱いせいで心配そうな顔ばかりしていたお父さんとお母さんがはじめて喜んでくれた。
なのにまだメフィリスのような強い武器になれていない。
それにまだ英雄クライムのような主人(あるじ)に出会えていない。
「だから⋯⋯誰かここから出して。私を鎚(つい)の武器にして⋯⋯」

「ぎゃあああ!」

さっき私を放り投げた男の叫び声だ。
するとカーテンが開くように光が差し込んできた。
光の先でお兄さんくらいの男の人が驚いた顔で私を見つめている。
黒い髪に、黒い瞳、見たことのない種族だ。


***
黒ずくめの男の人は私を抱えて走った。
「ルーリオ! シルカ!見てくれ!」
盗賊と戦っている青い服の男の人とポニーテールの女がキョトンとした顔で私を見る。
2人ともこの黒ずくめの男の人と同じくらいのお兄さんとお姉さんだ。
「ハルト、どうしたのその子?」
「よくわからないけどハンマーが女の子になったんだ!」
「それってまさかアームズ族⁉︎」
「なんだよそれ?」
「持ち主になると伝説級の武器に変身してくれる種族だよ。ハルト」
「てことはこいつら」
ポニーテールの女が盗賊たちを睨んだ。
「気づいたか」
頭目の男がニヤリと笑う。
「気をつけてハルト。こいつら相当な手練れよ。ただの盗賊とは思えない」
「俺たちも乗り込んできた冒険者がこんなガキだとは思わなかったぜ。ハハハハハッ」
「ディノス様、せっかくだから戦利品を試しましょうか?」
「そうだな」
盗賊たちが取り出したのは盾と弓矢と剣の3つ。どれも生きているアームズ族だ。
「なんだよあの武器。強さがビシビシと伝わってくるぜ」
「ちょっと⁉︎ これってむやみに仕掛けられないんじゃない?」
「どうするハルト⋯⋯」
「何かクリティカルが決まる攻撃が出せないと有利に立てないな⋯⋯そうだ! 」
黒ずくめの男の人は私の方を向いて「名前を教えてくれないか?」と聞いてくる。
「⋯⋯私はイリス」
「そうか。俺はハルトだ。頼みがある俺たちのために武器になってくれ」
不思議だ。このハルトという人物が私が想像する英雄クライムの姿と重なって見えてくる。
「⋯⋯想像してほしい。私は槌(つい)の武器」
「ん?⋯⋯」
「ハルト、これって持ち主が想像した武器の形になれるってことじゃないか?」
「槌(つい)? そうか打撃系の武器か!」
ハルトが持つたくさんの想像が私に流れ込んでくる。
「イメージするんだ。強い武器、強い武器⋯⋯“ファンタルスフレイム“に出てきたような強い武器⋯⋯」
ハルトが「そうだ」と閃いた瞬間、ハルトの強い想像が私を飲み込んだ。
「できた! 打撃系最強”メイス“だ」
「「おお」」
「でかい⋯⋯」
「くッ⋯⋯だが、貴様らのようなガキがアームズ族の武器を使いこなせるわけがない!おとなしく武器を捨てろ!」
「ディノス様、この盾重くて持ち上がりません!」
「は?」
「俺のもです!この弓硬くて全然引けません」
「何をやっているんだ! こうなったら私の剣で⋯⋯⁉︎ なぜだ! なぜ鞘から抜けない」
頭目の男が剣を抜くのに必死になっているうちに、ハルトは私を担いだままジャンプして男の目の前に迫った。
「なッ⁉︎」
ハルトは高く飛んだ状態で私を横に振り払う。
真横から、次第に男の顔が潰れていって砕けた瞬間これがハルトと私、2人のはじめての共同作業だった。

***
「もう! 2人の馴れ初めを聞いているんじゃないの! もっと大事なことあるでしょ! どうしてハルト君の髪が白くなったのか?とか」
「アマネ、うるさい」
「はぁ?」
地上ではクライム・ディオールがイリスと月野木天音が落ちた裂け目を見下ろしていた。
「やれやれ、どこに行ったかと思えばイリス。こんなところにいたのか。
しかも月野木に余計なことを。まぁいい。そろそろ頃合いだ」
クライムは広げた手のひらに小さい紋章を発現させてその中からロープを垂らす。
「そんなに知りたかったら見せてやる。俺が見てきた絶望を」
あかんべーして反抗するイリスに天音がムキになっていると
2人の目の前に一本のロープが垂れてくる。
「なにこれ?」
と、天音が手に取り見上げると、地上から落下してくる紋章が天音とイリスの頭上に落ちる。

「⁉︎」

つづく
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