【完結】美しい人。

❄️冬は つとめて

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対峙した、白と黒。

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使用人が書類を侯爵家に届けて、踵を返したようにウイリアムは伯爵家に訪れた。

「これは、どう言う事です。伯爵。」
にっこりと、微笑んだ。

勝手知ったる屋敷とばかり、ドカドカと案内も得ずに伯爵がいる書斎までやって来た。
後に執事のロレンスを引き連れて。

右手に伯爵家の使用人、左手に書類を持って伯爵に見せ付けた。書類には
『ナンシーは、啓にはやらない。婚約解消する。』
と、したためてあった。

「そのままの意味ですが。」
伯爵は、はっきり言った。
ウイリアムは、使用人を放して書類を破いた。

「こんな事は、認められない。」
ウイリアムは冷たく低い声で、応える。目が、座っていて怖い。まるで戦に出るような黒色の軍服姿のウイリアム。襟や袖に銀の刺繍が施されて無かったら、礼装と気付かなかっただろう。


「伯爵。ナンシーに、会わせて貰おう。」
「断る。」
伯爵は、断った。

だが、ウイリアムはその言葉を無視して歩き出す。勝手知ったる屋敷の中、ナンシーの部屋の場所も知ってた。

「と、止めろ!! 」
伯爵の言葉に、使用人や兵士が力に尽くで止めに入るが。ウイリアムと執事のロレンスは、なぎ倒しながらナンシーの部屋へと進んだ。

ナンシーの部屋の扉が無いことを不思議に思いながらも、壁を叩いて声を掛けた。

『コンコン』と、壁を叩く。
ウイリアムは、優しい声で語りかける。
「ナンシー、ウイリアムだ。何か、行き違いがあったようだね。」
返事がない。

『コンコン』と、壁を叩く。
優しく、問い掛ける。
「ナンシー、話をしよう。」
返事がない。


「ははっ。」
ウイリアムは、笑った。

『バキッ!! 』

「「「「えっ!? 」」」」
メイドや使用人達は、目を疑った。紳士であるウイリアムが、思いっ切り壁に拳をあてぶち抜いた。
昨日、同じ光景を見たような気がした。


「どうやら、この部屋にはいないようだ。他の部屋をあたろう ロレンス。」
「はい、ウイリアム様。ナンシー様は、ご婦人の部屋におられるのでは。」
ウイリアムの言葉に、執事は進言する。

「ああ、シンシア夫人の部屋か。そうだな。」
淡々と話し、ウイリアムは歩き出す。後に執事も続いた。
止めようとする者を、なぎ倒しながら進む。

「いい加減にしてくれ!! ウイリアム殿!! 」
追い着いてきた伯爵が、妻の部屋の前でウイリアムを止める。
「娘は。ナンシーは、婚約解消を望んでいるのだ。帰ってくれ。」

「ははっ。」
ウイリアムは、笑った。
「婚約解消? 俺が、認めるとでも。」
低い笑いを含んだ声。だが、目は凍えるような冷たいものだった。
「伯爵。俺は、ナンシーを愛しているのです。逃がす積もりは、ありません。」


「う、うそよ!! 」
伯爵の後の部屋の扉が開き、ナンシーが顔を出した。

「ナンシー。」
ウイリアムはナンシーを見咎めると、声を弾ませた。

「ナンシー。婚約解消なんて、嘘だろう。」
優しく、語りかける。

「ああ、そうか。伯爵が、勝手に言ってることなんだね。」
ウイリアムは、頷く。

「俺より、条件のいい相手でも見つかったのかな。その男に、無理矢理嫁がされようとしているんだね。」
ウイリアムは、優しく微笑み頷いた。

「大丈夫。俺は、君の味方だ。伯爵を、今 黙らせるから安心してくれ。」

「「「「黙らせるって!? 」」」」
ウイリアムの言葉に、使用人達。ナンシーは、驚く。

人の話を聞かないで、自分の意思を相手に押し付ける。
紳士だったウイリアムが、まるで誰かに似ていた。
有無を言わさぬ、圧力。
(誰かって、誰? )


金縛りに遭ったような、その場に。静かにウイリアムは、伯爵の首に手を掛け

「オーホホホホッ!! 伯爵を お消しになったら、益々、ナンシーから嫌われますわよ。」
教会の鐘の音のように、その高笑いが屋敷に響き渡った。

「カミーユ!? 」
「カミーユ様。」


流れる白金の髪。真っ白なマーメイドドレス。所々に、金の刺繍が輝く。何よりも、アイスブルーの瞳が、宝石の様に輝いていた。
美しい人は、舞台のクライマックスに現れる 女神の如く降臨した。

「カミーユ、何故此処に? 」
美しい人は、静かにナンシーに近寄ると抱き締めた。

「わたくし達、お友達ですもの。」
ウイリアムとロレンスは、目を見開いた。伯爵も、新たな美しい人物に目を見開く。 そして、部屋から出て来た妻と一緒に、美しい人がウイリアムの件の人物と聞いて改めて驚くのであった。

「ふぁはははははは!! 」
茶色の髪が獅子のたてがみの様に、靡いた。猛獣の叫び声の様な、笑い声が屋敷に響き渡った。

「そうか、カミーユ。お前か、お前がナンシーに『在ることないこと』吹き込んだのは。」
その目は、野獣の様にカミーユを見据える。今まで知っていた紳士とは違うウイリアムが其処にいた。

伯爵家の人々は、ナンシーは驚いた。

「『在ることないこと』? 失礼ですわ。わたくし『在ること在ること』しか、話しませんわ。」
美しい人は、動じることなくコロコロと笑った。

互いに、見詰め合う二人。
いや、睨み合う二人。
白い美しい人と黒いウイリアムは、対峙した。
その二人に愛し合う様な、甘々な雰囲気はなく。

伯爵家の人々とナンシーは。
『あれ? 』と、訳が割らず首を傾げた。
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