【完結】美しい人。

❄️冬は つとめて

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どちらが誤解?

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「ウィル兄様、誰かしら? 」
ソファに座るウイリアムの目を、手で後から覆う。
「カミーユ。遅かったな。」
持っていた新聞をテーブルの上に置き、手で目隠しを取る。スクスクと、笑いながらカミーユは、ウイリアムに後から抱き着いた。
「お友達と、楽しく話して降りましたの。」
「そうか、余りウロウロするなよ。危ない。」
カミーユは、ウイリアムの隣に座る。
「大丈夫ですわ。護衛のカイが、着いててくれますもの。」
ウイリアムは、後を振り向く。扉の前で、カイは恭しく頭を下げた。
「そうか、だが余り遅くはなるなよ。」
「分かってますわ。」
カミーユは、コロコロと鈴の音様に笑った。

目の前に、お茶が差し出される。執事のロレンスは、主人とカミーユに茶を入れて持ってきた。
「ウィル兄様。カミーユは、明日。お友達と、買い物に行きたいのですわ。宜しいかしら? 」
ウイリアムは にっこりと、微笑んだ。
「ああ、言ってくるといい。好きな物を買うといい。」
「さすが、ウィル兄様ですわ。大好き。」
カミーユは、ウイリアムに抱き着いた。ウイリアムは、優しく、カミーユの背を叩いた。


真っ赤に目を張らした娘が帰って来たことに、ヘルシンキ夫妻は驚いた。
「な、何があったの? 」
「まさか、ウイリアム殿に無体なことをされたのか!! 」
「まあ、結婚式前に!? 」
旦那の言葉に、妻は驚愕する。
「男としては、解らんでもないが。しかし、無理矢理とは頂けない。」
「まあ、これは責任を取って貰わないといけませんわ。」
二人は、混乱していた。

「違う、違うの。」
ナンシーは、首を振り顔を覆って叫んだ。
「何もされて無いわ、だって。ウイリアム様は、私の事を愛して無いんですもの。」
娘の言葉に、夫妻は驚愕した。

そう、何もされてない。
思い出せば、ウイリアムは自分に何もしてこなかった。
デートや会話はした。だが、ウイリアムは自分に触れてはこなかった。抱き締められたことも、キスをしたこともない。ましてや、手を繋いだ事もエスコートの時しか無かった。考えて見れば、おかしい。ウイリアムは、一度たりとも自分に触れてきたことは無い。何時も傍で歩いて、会話をするだけ。口先だけで、ただ『愛してる』『好きだ』と、言われただけ。

「ウイリアム様は、私を愛していないの。」
(私は、ただの『お飾り』。いえ、ただの『商品』。)
ナンシーは、泣きじゃくった。
「そんな事は、ない。確かにウイリアム殿は、ナンシーに一目惚れをしたと。」
「どんな事があっても、幸せにして見せますと私達の前で言ってくれたのよ。」
夫妻は手と手を取り合った。

「ウイリアム様は、何も話してくれないの。あの人の事も、仕事の事も!! 」
「仕事のことだと!? 」
「あなた。」
「ああ。」
夫妻は顔を見合わせた。頷き合う。
「ナンシー、ゆっくり話そう。」
「ええ、座って話しましょう。」
夫妻は優しく、自分達の部屋へと娘を招き入れた。

ソファに娘を座らせ、お茶を飲むように促す。
お茶を飲んで落ち着いてきた娘に、父は声を掛けた。
「ウイリアム殿の仕事の事だが。」
「ウイリアム様は、奴隷商をやってるの!! 」
「そうなの? あなた。」
父は固まり、母は夫に速攻で尋ねた。
「いや、いや、いや。そんな事は、していない。ウイリアム殿は、そんな仕事はしていない。」
父は思いっ切り、否定した。
「うそ、うそよ。だって、女の人や男の人を調達していたもの。」
ナンシーは、声を上げた。
「『調達』ではない。『派遣』だ。」
「派遣? 」
ナンシーは、首を傾げた。
「ウイリアム殿は、人員を派遣する会社をやっている。シンシアも知っているだろう。」
「ええ、そうでした。」
妻は、頷いた。
「確かに、色んな処から人員を集める為に『調達』と言う言葉を使うとしても。それは、言葉のあやだ。」

「でも、使えない者は切って捨てるって。」
「それも、何時までも仕事の出来ない者を置いておくことは出来ないと言う意味だ。」
「それは、お父様もやってるわよ。」
夫の言葉に、妻も頷く。

「でも、私を得意先に紹介してお相手をさせるって。」
ナンシーは、再び涙が溢れるばかりに両親を見た。
夫妻は、首を傾げた。
「私も、シンシアを紹介しているが。」
「ええ、私もお得意先の方のお相手をしていますよ。」
ナンシーの目から、涙が溢れた。
「酷い、お父様!! お母様を、人身御供に差し出すなんて!! 」
ナンシーは、父を非難した。

「いや、いや、いや!! 何を言ってんだ!? ナンシー。」
「何を言っているの!? ナンシー。」
夫妻は二人して、声を上げた。
「お相手て、接待よ。」
「そうだ、お客様へのもてなしだ。ナンシーも、もてなしているだろう? 家に来た方を。」
「もてなし。」
ナンシーは、呟いた。

「何か、凄い行き違いがあるようだな。」
「ええ、その様ね。」
夫妻は、頷き合った。

「でも、ウイリアム様は、私を愛してないわ。」
「それは、ウイリアム様から直接聞いたの。」
母の言葉に、ナンシーは頭を振った。
「駄目よ。そう言う事は、直に聞かないと。誤解が、生じるから。」

(でも、あの美しい人は。)

「ウイリアム様を、信じてあげないと。」
「信じたく無いのか? 」
両親の言葉に、ナンシーは頭を振った。
「信じたい。」
(あの優しい、ウイリアム様を。照れて、笑うウイリアム様を。信じたい。)

「彼は、稀に見る好青年だ。」
「ええ、ナンシーの見る彼を信じなさい。」
ナンシーは、両親に諭されるので合った。







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